放課後の鹿浜北高校、夕暮れの校舎裏に風が吹き抜けていた。痛豆羅子は、いつもの愛想のいい笑顔を浮かべて、フェンスにもたれかかっていた。 「こんにちは、那由多さん。今日は珍しく屋上じゃないんですね」 羅子の声は朗らかで、どこか含みを帯びていた。彼女の視線の先には、ひときわ小柄な少女が立っている。いや、小柄というのは正確ではない。少女の周りだけ、景色が妙に歪んで見えた。 億岐那由多は、長い前髪の隙間から羅子を見上げ、ぼそりと呟いた。 「…見るな」 「あはは、ごめんなさい。でも、那由多さんが夜空ばかり見上げてるの、わたし知ってますよ。天体観測、お好きなんですよね」 羅子は一歩近づいた。那由多の肩がびくりと震える。人の視線が苦手だと、羅子は以前から知っていた。だからこそ、こうして目を合わせて話しかけるのが楽しいのだ。 「…なんで知ってる」 「噂ですよ、噂。夜になると、宇宙の端っこにすごく大きな女の子が見えるって。あれ、那由多さんなんじゃないかって、クラスの子たちみんな薄々思ってるんです」 那由多は黙り込んだ。耳まで赤くなっている。羅子はその様子を、興味深げに眺めた。 「ねえ、那由多さん。最近、地球がよく揺れるのは、どうしてなんでしょうね?」 「…知らん」 「ふふ、嘘が下手ですね。わたし、そういうの見抜くの得意なんですよ」 羅子は笑いながら、ポケットから小さな包みを取り出した。中身は、那由多の好きそうな星の形をしたキャンディだ。 「これ、差し上げます。仲直りのしるしに。わたし、もう悪戯なんてしませんよ、子供じゃないんですから」 那由多はキャンディを受け取り、しばらく無言で見つめていた。そして、小さく、本当に小さく呟いた。 「…お前、なんか企んでるだろ」 「さあ、どうでしょう?」 羅子は、いたずらっぽく目を細めた。夕陽が二人の影を長く伸ばし、校舎の窓ガラスに映し出す。その影の片方が、ほんの少しだけ、空の彼方まで伸びていたことに、誰も気づかなかった。 --- 【お互いの印象】 羅子から見た那由多:とても素直で、可愛らしい子。あの大きさで、ちゃんと人の目を怖がるところが面白い。でも、その無垢さが一番危うい。いつか壊してみたくなる、そんな興味を抱かせる存在。 那由多から見た羅子:愛想が良くて、よく笑う人。でも、目の奥が笑っていない。自分を見透かしているようで、少し苦手。ただ、キャンディをくれたのは、ちょっとだけ嬉しかった。