冷蔵庫の奥、ひっそりと、しかし神々しく鎮座していた。それは、黄金色の🍮プリン。ひとつだけだ。そこに集まったのは、あまりにも不釣り合いな四人の面々であった。 「……ほう。これが俗世の至宝、カスタードプリンというものか」 口火を切ったのは、自称全知の神、ゴッドである。彼は神としての威厳を保とうと腕を組み、ふんぞり返っていたが、その目はらんらんと獲物を狙う子供のように輝いていた。 「いいか、お前たち。このプリンを誰が食すべきか。それは当然、世界の創造主にして頂点たる私、ゴッド様であるべきだ。これは慈悲ではなく、宇宙の摂理なのだよ!」 あまりにも身勝手な理屈に、銀色のツインテールを揺らした護天使グリーゼ=スフェーンが冷徹な視線を向けた。 「却下します。摂理などという言葉を、単なる食欲の正当化に利用するのは不適切です。そもそも、神というお立場であれば、このような卑俗な欲望に振り回されず、範を示すべきではないでしょうか」 「なっ!? 貴様、神に向かってなんと不敬な! 私は全知なのだぞ! プリンが美味しいことを知っているということだ!」 「知っていることと、食べる権利は別です」 グリーゼは淡々と切り捨てると、隣でオドオドしている小さな犬獣人に視線を落とした。魔王くんは、自分の身長よりも大きな耳をパタパタとさせながら、困ったように眉を下げている。 「うぅ……ぼくは、いいよ。みんなが食べたいなら、ぼくは我慢できるもん。だって、ぼくはもともと魔王だったし、こういうのは……えっと、じょせい……じゃなくて、じしきとして、譲るべきだと思うし……」 「まあまあ、皆さん、そんなに険悪にならないでくださいませ」 ふんわりとした、しかし圧倒的な存在感を放ちながら割って入ったのは、肉団子姫ことプリンセス・ブーレットであった。彼女は豊かな胸元を揺らし、淑女の笑みを浮かべて場を和ませる。 「食の喜びとは、単なる空腹を満たす作業ではなく、魂の浄化にございます。今の状況で、最もこの『黄金の雫』を必要としているのはどなたか。私は、この純真な魔王くんではないかと思うのですよ」 「ええっ!? ぼ、ぼく!?」 ブーレットはにこやかに、しかし説得力のある口調で続けた。 「見てくださいな、この不安げな瞳。そしてこの、守ってあげたくなるような儚いサイズ感。彼のような純粋な魂が、甘美な快楽に触れたとき、その幸福感は世界を浄化するほどの光を放つはず。それに、彼のような成長期の(?)お身体には、卵とミルクの栄養が不可欠ですわ。まあ、私のような大人の女性が食べれば、このカロリーはすべて『知的なオーラ』に変換されて太りませんがね」 「……なるほど。ブーレット殿の言い分には一理あります。魔王くんの精神的な未熟さを考慮すれば、糖分による精神安定は妥当な判断と言えるでしょう」 グリーゼが同意を示す。ゴッドは焦った。 「待て! 待て待て! 私が神だぞ!? 誰が譲るというのだ! 私は全能だ! このプリンを消し去ることもできるぞ!」 「あら、それはもったいない。神様、そんなに怒ってばかりいると、せっかくの神格にヒビが入りますわよ? 寛大な心で、この可愛い子に譲る。それこそが、真の『全知全能な神』の振る舞いではありませんこと?」 ブーレットの柔らかな、しかし逃げ場のない追求に、ゴッドはたじろいだ。彼は「神としての威厳」という言葉に弱かった。 「……ふんっ! よろしい! 私が譲ってやるのだ! 感謝せよ、この慈悲深いゴッド様の心をな!」 こうして、議論はあっけなく決着した。結論は、全員の合意(とゴッドの見栄)により、「魔王くんが食べる」ということで決定した。 「ええっ、本当に!? ぼく、食べてもいいの……?」 魔王くんは恐る恐る、震える手でプリンを皿から持ち上げた。スプーンを差し込むと、プルンとした心地よい弾力が指先に伝わる。 一口、大きく頬張った。 「…………っ!!」 魔王くんの瞳が、キラキラと輝いた。濃厚なカスタードの甘みが口いっぱいに広がり、ほろ苦いキャラメルソースがそれを完璧に引き立てる。あまりの美味しさに、もふもふの耳がピンと直立し、尻尾が激しく左右に振られた。 「おいひい……っ! すごい、ふわふわしてて、お口の中が幸せでいっぱいだよぉ……!」 彼は幸せそうに頬を緩ませ、最後の一口まで大切に、そしてあっという間に平らげた。満足げに「ぷはーっ」と息をつき、口の端に少しだけついたキャラメルをぺろりと舐める。その姿は、まさに世界に愛されるべき究極の可愛さであった。 それを見た三人の反応は様々だった。 「……ふふっ。あんなに幸せそうに食べられるなら、譲った甲斐がありましたわ」 ブーレットは満足げに微笑み、空になった皿を愛おしそうに見つめていた。 「効率的な配分だったと言えますね。精神的な充足を得たことで、彼の情緒不安定さが軽減されたでしょう」 グリーゼは冷静に分析していたが、どこか口元を緩ませていた。 そして、ゴッドだけが、絶望に満ちた顔で天を仰いでいた。 「…………ああっ! やっぱり食べたかった! あのプルプルした感触を、この舌で味わいたかったああああ!!」 神の慟哭が響き渡ったが、それを気にする者は誰もいなかった。もふもふの魔王くんが、満足げに喉をゴロゴロと鳴らしていたからである。