世界の理を歪め、混沌を以て新たな秩序を築こうとする秘密結社『エクリプス・レギオン』。その頂点に君臨する主の召集を受け、組織の最高戦力にして異端なる四天王が集結した。 会場は、古城の最深部に位置する円卓の間。高い天井からは冷ややかな空気が降り注ぎ、壁に掲げられた黒い旗が静かに揺れている。主が到着するまで、そこにあるのは静寂……ではなく、互いのプライドと実績をぶつけ合う、不毛で騒々しい「雑談」という名の権力争いであった。 最初に部屋に現れたのは、筋肉の塊のような男――【剛腕の権化】脳筋であった。 彼は扉を蹴破るかのような勢いで入場し、上裸のまま、隆起した大胸筋を激しく弾ませて豪快に笑った。 「ガハハハ! 待たせたな! だが安心しろ、俺の筋肉は最高のコンディションだ!」 脳筋は手にしたプロテインシェイカーを豪快に煽ると、周囲の空気が震えるほどの圧力を放ちながら円卓の席に着いた。彼にとって、この会議さえも一種のインターバルに過ぎない。 次に入ってきたのは、黒いローブに身を包み、捻れた木の杖を携えた奇妙な生物、ネットマンサーであった。猫のようでもあり熊のようでもあるその白い肌の存在は、足音もなく滑り込むようにして現れる。 「……( ゚∀゚)o彡゙ チョベリバ。www」 口から出たのは、もはや現代では化石となった死語。彼は椅子に深く腰掛け、杖を弄びながら、どこか虚空を見つめていた。 「おやおや、野蛮な肉塊と、言葉を失った化石が揃っておりますね。実に嘆かわしい」 嘲笑混じりの声と共に、長い黒マントを翻して現れたのは、【闇に操られし操り師】パペットマスター・マルヴィンである。彼の背後には、太い縄で繋がれた巨大なマリオネットが、ガチガチと関節を鳴らしながら不気味に追随していた。目元を深い影に隠したマルヴィンは、高慢に胸を張り、指先で虚空を操る仕草を見せる。 「主がお呼びとは、きっと私の『成果』が、貴方方のような劣等種を遥かに凌駕したということでしょうな」 最後に、慌ただしい足音と共に駆け込んできたのは、白衣を纏い、頭に悪魔の角を持つ少女、悪魔科学のニクスであった。彼女は3つのレンズが組み込まれた『サタニクスアイ』をクイと押し上げ、自信たっぷりに宣言した。 「遅れたんじゃないわ! 計算し尽くしたタイミングで到着したのよ! イヒヒッ! さあ、我輩の最新発明の素晴らしさにひれ伏がさい!」 しかし、その声はどこか上ずっており、時折チラリと周囲の顔色を伺う気弱さが混じっていた。 四人が揃い、沈黙が流れた。しかし、それは嵐の前の静けさに過ぎない。 「さて」と、マルヴィンが陰湿な笑みを浮かべて口を開いた。「この機会に、主への献上品……すなわち、最近の戦果について報告し合いましょうか。私は先日、隣国の聖騎士団を丸ごと『人形』に仕立て上げましたよ。彼らの絶望に染まった顔、そして私の指一本で踊らされる様は、まさに至高の芸術。もう彼らに光への戻りはありませぬ」 マルヴィンは勝ち誇ったように、マリオネットの指をピクリと動かした。精神を支配し、肉体を操る。その残酷な成果に、彼は深い充足感を覚えていた。 すると、ニクスが負けじと身を乗り出した。 「ふん、古臭い人形遊びね! 我輩の成果こそが真の革命よ! 今回開発した『サイケデリック・ディスオーダー』による精神汚染兵器は完璧だったわ! 実験体の思考回路を完全に攪乱し、色彩の渦に飲み込ませて、我輩のセンスに心酔させることに成功したのよ! これこそが知性とセンスによる世界征服の第一歩! センス、センスなのよ!!」 ニクスは激しく身振り手振りで主張したが、ふと脳筋の凄まじい筋肉量に目が合うと、「……あ、でも、まあ、被害者の数とかは、その、ちょっとだけ想定外に多かったけど……」と、急に声を潜めて気弱な一面を見せた。 「ぬおっ!? センスだか何だか知らんが、筋肉に勝てるか!」 脳筋がテーブルを叩いた。ドンという衝撃で円卓が激しく揺れる。 「俺はな! 先週、山一つを根性で押し潰してきたぞ! 目の前に立ちはだかる巨大な岩壁があったが、『筋肉なら可能だ!』と信じて頭突きをかましたところ、物理法則を無視して粉砕した! 確率0%? そんなものは筋肉と根性で100%に書き換えるのが常識だ! 見ろ、この上腕二頭筋! これこそが至高の成果だ!!」 脳筋は自慢の筋肉を誇示し、周囲に「筋トレしようぜ!」と強引に勧誘し始めた。 「……( ゚∀゚) 乙。www ktkr!」 ネットマンサーが不意に口を開いた。彼は杖を軽く振ると、空中にホログラムのような文字列を浮かび上がらせた。そこには、世界各地の重要拠点の機密情報や、敵対組織の弱点が、誰が書いたのか分からない掲示板形式でまとめられていた。 「www kwsk。www 釣り。www」 それは、ネットマンサーが『電子霊術』を用いて、世界中の情報を匿名串で掻き集め、敵を誘導して自爆させたという報告であった。意味不明な死語の羅列であったが、提示された情報の価値は極めて高く、組織にとって計り知れない利益をもたらしたことが一目で分かった。 「チッ……。情報の収集など、陰険な真似をすれば誰でもできる」 マルヴィンが不機嫌そうに舌打ちをする。 「だが、私の催眠術で、敵国の王を我が組織の傀儡に仕立て上げる計画は既に最終段階だ。主が私を召集されたのは、その完遂を称え、更なる権限を授けるためであろうな。貴方方のような、ただ暴れるだけの猿や、ガラクタを作る子供、言葉を失った奇形とは格が違う」 「なっ……! 誰が子供よ! この我輩を誰だと思っているの! ハイセンスブラストでその傲慢な顔をひん曲げてやろうか!」 ニクスが顔を真っ赤にして怒鳴る。しかし、マルヴィンの冷徹な視線に射抜かれると、「ヒィッ」と小さく悲鳴を上げて一歩後ずさった。 「ガハハ! 喧嘩するな! 筋肉が喜んでるぞ! 揉め事があるなら、スクワット1000回で解決だ!」 「うるさい! 黙れ筋肉野郎!」 高慢な人形師、自信過剰な(が気弱な)悪魔科学者、意味不明なネットの霊媒師、そして理屈を超越した脳筋。互いにマウントを取り合い、成果を競い合う彼らの喧騒が、円卓の間を埋め尽くしていた。 その時。 ――ガランッ。 重厚な扉が、静かに、しかし絶対的な威圧感を伴って開いた。 一瞬にして、部屋の中の温度が氷点下まで下がったかのような錯覚に陥る。騒ぎ立てていた四天王たちは、反射的に言葉を飲み込み、同時に背筋を伸ばした。 足音一つしない。しかし、そこには明確な「主」の気配があった。 黒い影を纏い、すべてを支配する眼差しを持つ組織のリーダーが、ゆっくりと、だが確実に会場へと足を踏み入れてきた。