秋の深まりとともに、東洋の山奥にひっそりと佇む老舗旅館「栄愛之湯」は、燃えるような紅葉に包まれていた。静寂に包まれたこの地に、風変わりな客たちが訪れる。 名森は、空間を微妙に歪ませて最短ルートで山道を登り、呆れた顔で隣を見る。そこには、なぜか黄金の王冠を被った巨大な柴犬、わんちゃん大王が、尻尾を振りながら軽快に歩いていた。「ここが目的地だいおぅ?」と、犬が喋る。名森は深く溜息をつき、「ああ、そうだよ。静かにしてくれよ」と応えた。 一方、チームBの浪速楓花は、重厚な軍用シールドを背負い、軽機関銃を肩に掛けながら、まるで戦地に向かう兵士のような足取りで登っていた。その隣には、金髪の少女、輝光が、✨️柄のワンピースを揺らして無口に歩いている。楓花は生真面目に「輝光ちゃん、疲れてないか? あと少しで温泉だぞ」と声をかけるが、輝光はただ静かに、どこか遠くを見つめていた。 旅館に到着すると、古びているが手入れの行き届いた玄関で、腰の曲がった経営主の婆さんがにこやかに迎えてくれた。 「おや、賑やかなお客さんだねぇ。まあ入りなさい」 チェックインを済ませた一行は、男女別の大部屋へと分かれた。 男部屋では、名森が布団の上に座り、わんちゃん大王が畳を転がっている。「最近の世の中はWAONが便利だいおぅ?」という大王の雑談に、名森は「お前が不正利用してるだけだろうが」とツッコミを入れる。知的で冷徹な名森だが、この奇妙な犬のペースにはいつも巻き込まれていた。 女部屋では、楓花が正座して近況を語っていた。「最近の訓練は激しく、榴弾の威力調整に苦労しております!」と、旅館の部屋でまで軍人並みの気合を見せる楓花。対する輝光は、無口なまま、ただ静かに窓の外の紅葉を眺めていた。楓花は「まあ、たまにはこうしてゆっくりするのも大切だな」と、戦士の顔を緩めて微笑んだ。 そして、待ちに待った夕食後の時間。貸切の露天風呂は、紅葉の錦が水面に映り込む絶景であった。 男湯と女湯は、趣のある太い竹垣によって隔てられていた。名森が「ふぅ……」と湯船に身を沈め、わんちゃん大王が「いい湯だいおぅ?」とプカプカ浮いている。壁の向こうからは、楓花が「ふむ、筋肉の緊張がほぐれるな」と分析的に呟く声と、輝光の静かな吐息が聞こえてくる。至福のひとときだった。 ――だが、その静寂は、絶叫に近い咆哮によって打ち砕かれた。 「ヴィルルルゥーーーッ!!」 突如、男湯の壁を突き破り、巨大な獣、ゼフゲレンデが乱入してきた。理性を失い、ただ破壊と食欲のみに突き動かされた森の蹂虙者が、牙を剥き出しにして咆哮する。その衝撃波は凄まじく、なんと男女を隔てていた竹垣を跡形もなくなぎ倒した。 「なっ……!? 垣根が!!」 名森が驚愕して立ち上がった瞬間、視界が開け、向かいの湯船にいた裸の楓花と輝光が丸見えになった。楓花は顔を真っ赤にして「なっ、ななななな、何事だ!!」と絶叫し、輝光はポカンとした顔でこちらを見ていた。 「敵襲だいおぅ!? 乱入禁止だいおぅ!!」 わんちゃん大王が吠えるが、ゼフゲレンデは止まらない。獣はさらに大きく身を屈め、「力溜め」に入った。空気が振動し、殺気が高まる。 「危ない!」 名森が空間操作で弾丸を生成し、射撃を開始する。しかし、露天風呂という環境が最悪だった。濡れた床で名森の足が滑り、放った弾丸は空間の歪みと相まって、あらぬ方向へ。さらに、ゼフゲレンデの「暴虐の腕」が炸裂した。 ドゴォッ!! 強力な横薙ぎの一撃が名森を直撃し、彼は猛烈な勢いで女湯側へ吹き飛ばされた。運悪く、慌てて身を守ろうとしていた楓花の上に、名森がダイブする形に。 「ぎゃあああ!? 何を脱ぎ捨てて飛び込んでくるんだ貴様ーー!!」 楓花の悲鳴が山々に響き渡る。しかし、混沌はここからだった。ゼフゲレンデの咆哮によって、なぜか現場の「ラッキースケベ率」が異常に上昇していた。 わんちゃん大王が「ワンチャンあるだいおぅ!」と突撃したが、足元の石鹸カスで激しくスリップ。回転しながら楓花と名森に激突し、三人がもつれ合って湯船にドボンと水没した。水中でもつれ合う肢体、互いの肌が触れ合う感覚に、名森は絶望し、楓花は憤怒し、大王はなぜかアへ顔(🙄😛)になっていた。 「この……野蛮な獣め!!」 楓花が水中から飛び出し、近くにあったシールドを(なぜか裸のまま)展開し、全力でゼフゲレンデに殴りかかった。列車の衝突に匹敵する一撃が獣の側頭部にめり込む。しかし、ゼフゲレンデは「暴れ狂い」を発動。四肢を振り回して暴れ回り、旅館の自慢の岩庭を粉砕し、湯船の縁を破壊し、弁償代を天文学的に跳ね上げていく。 「もういい! 全宇宙凍死しろ!」 わんちゃん大王がついに切り札、「ダイオードだいおぅ?」を放った。 「(ギャグを言うぞ……)……なんで犬は、ワンって鳴くと思うだいおぅ? ……ワン(1)から数え始めたからだいおぅ!!」 …………シーン。 あまりにも寒すぎるギャグに、全宇宙が凍結しそうになった。ゼフゲレンデの動きがピタリと止まる。絶対零度のギャグ衝撃に、獣の野生の勘が「これは勝てない」と判断したのか、あるいは単純に寒すぎて思考が停止したのか、ゼフゲレンデはガクガクと震え、そのまま白目を剥いて絶命(気絶)した。 静寂が戻った。しかし、そこにあるのは、全壊した竹垣、破壊された露天風呂、そして全裸で泥と湯にまみれて重なり合っている男女と一匹の柴犬という、地獄のような光景だった。 「………………」 名森と楓花は、互いの距離が近すぎることに気づき、ゆっくりと、本当にゆっくりと離れた。そこには言葉にならない気まずさと、言いようのない気恥ずかしさが漂っていた。 「……片付けよう」 名森が、消え入るような声で言った。 「……ああ。当然だ。この損害、どう責任を取るつもりだ」 楓花は顔を真っ赤にしたまま、怒鳴り声を上げたが、その声には力がなかった。 彼らは協力して、折れた竹垣をなんとか元の位置に戻し、紐で縛り合わせて応急処置を施した。その後、全員で婆さんのもとへ行き、深々と頭を下げて謝罪した。 「すまん……。不可抗力だったんだ」 「ごめんなさいだいおぅ……」 婆さんは、破壊された庭を見て遠い目をした後、「まあ、いいよ。若いもんが元気なのはいいことだねぇ」と、仏のような笑みで許してくれた。 その夜、それぞれの大部屋に戻った彼らは、布団の中で天井を見つめていた。 名森は、楓花の肌の感触と、あの時の絶望的な状況を思い出し、激しく頭を抱えていた。楓花は、軍人としてのプライドが粉々に砕け散った喪失感と、名森の意外な体温について考え込み、布団を頭まで被って悶絶していた。輝光だけは、いつも通り無口に、静かに眠りについた。 翌朝、チェックアウトを済ませた一行は、旅館を後にした。 山道を下る道中、名森はぽつりと呟いた。 「……二度と、あの旅館には行くか」 「同意だ。死んでも行かん」 楓花が鋭く答える。しかし、二人の間には、戦友とも、あるいは共犯者とも呼べる、奇妙な連帯感が生まれていた。 わんちゃん大王が「また行きたいだいおぅ?」と無邪気に笑う中、彼らはそれぞれの帰路についた。心の中に、一生消えないであろう「紅葉と全裸の記憶」を深く刻み込みながら。