【黄金色の邂逅】 灰色の雲が低く垂れこめる荒野に、ふいに黄金の光が差し込んだ。光の中心には、全身が漆黒の闇でできた人型がふわりと浮かんでいた。黄金色のバケット帽に、くたびれたジャージ姿。その名は「トライアングル・エラー」。グレイスバーインダストリーズ超次元管理部門、黄・異空間の管理担当である。 「えんねぁ? 今日もいい天気だねぇ、ほんとに。ここ、空気がちょっと乾いてない?」 緩く朧気な声でそう言いながら、彼女は地面すれすれをオーブ形態でふわふわと移動してきた。移動の余韻のように黄金の粒子が尾を引いている。 向かい合うのは、紫色の大剣――エンダーキーパーだった。塚の部分には緑色の目がひとつ、ぎょろりと開いている。 「フン、貴様が噂の管理担当か。俺様の前に現れるとは、度胸だけはあるようだな」 少し傲慢な口調でそう言い放つエンダーキーパーだったが、その刀身はわずかに震えていた。偉大なる炎の種族に関わる話題が出た時の、あの露骨な怯えの名残である。 「度胸? えーとね、別に戦いに来たわけじゃないんだよ。ちょっと世間話でもどうかなって思ってさ。最近さ、ロンドンの雨がすごいらしいじゃん? 傘売りの人、大儲けしてるんだってさ」 「雨の話など知らん。大体、貴様は――」 その瞬間、大剣の刃から紫色の斬撃が飛んだ。空気を裂く鋭い音が響き、トライアングル・エラーの胸のあたりを正確に捉える。だが、斬撃は彼女の闇の身体に触れた途端、まるで水面を撫でる風のようにするりと滑り、後方の岩を微かに揺らしただけで消えていった。 「えっ、今の何? 速いねぇ。でもさ、そんなに振り回すと疲れちゃわない? 私はね、こういうの受け流すの得意なんだ。エレガントにね」 彼女は帽子のつばを軽く持ち上げて、にっこりと笑った(ような気配がした)。 「ぐ……貴様、攻撃を受け流すなど、どういう仕組みだ……!」 「仕組みとか難しいこと聞かれても、わかんないよ。でもさ、せっかく来たんだし、何か話そうよ。エンダーキーパーくんは最近何かハマってることとかある?」 「馴れ馴れしい奴め……。俺様は、偉大なる炎の種族についての――」 またしても、名前を聞いた途端に大剣がビクリと跳ねた。刀身の紫が一瞬くすみ、塚の緑の目が落ち着きなく左右を向く。 「あ、今ちょっとビビったでしょ? 炎の種族の話すると、すごく反応するよね。何か怖い思い出でもあるの?」 「ビ、ビビってなどおらん! 俺様は誇り高き大剣だ!」 「へぇ、誇り高いんだ。すごいねぇ」 彼女はふわりと光の粒を散らした。すると、その粒が一瞬で黄金色の椅子へと姿を変え、エンダーキーパーの周囲をぐるりと取り囲んだ。 「え、ちょっ、なんだこれは! 貴様、何をした!」 「ごめんごめん、座ってもらおうと思っただけ。話すなら楽な姿勢の方がいいじゃん? ほら、ちょっと括らせてもらうね」 黄金の光の帯がしゅるしゅると伸び、大剣の柄を椅子にやさしく結びつける。抵抗しようとした刀身から斬撃が放たれたが、今度は椅子の背もたれがまるで柔らかいクッションのように受け止めた。 「ほら、落ち着いた? よし、じゃあ改めて聞くね。さっき炎の種族の話でビビってたのは、どうして? 話したくないなら、話さない理由だけでも教えてよ」 「……話すものか」 「えー、そっか。じゃあ、ちょっとだけ口を開けてもらおうかな」 「なっ、どうやって――」 彼女はハントレイアの力を使い、大剣の鍔の付け根にあたる部分へと光の手を伸ばした。するとそこが、まるで蓋がぱかりと開くように緩み、内部から小さな音声ユニットが顔を覗かせる。 「ほら、これで話しやすくなったでしょ?」 「ぐぬぬ……無理やりとは卑怯な……」 「卑怯じゃないよ、話し合いだよ。さ、聞かせて」 エンダーキーパーは長い沈黙の後、観念したように低く語り始めた。自分を創ったのは深緑の炎のような姿をしたオブリテレーターというエンジニアであること。その裏面にはその名が刻まれていること。そして、かつて炎の種族と関わったとき、自分の切れ味が役に立たなかった恐ろしい記憶があること。 「……あの炎は、俺様の刃を溶かそうとした。だから、少しだけ、怖いのだ」 「そっか。それは怖かったね。でも、今はもう大丈夫じゃない? ほら、ここには炎の種族はいないし、私がついてるし」 「貴様が? 頼りになるのか、その闇の塊は」 「えへへ、わかんないけど、多分ね」 彼女は光の粒を散らしながら、椅子の一つを軽く叩いた。黄金の椅子がふわりと宙に浮き、大剣をやさしく揺らす。 「ねえ、エンダーキーパーくん。君ってさ、いろんな言語が話せるんでしょ? どこの星の言葉でも大丈夫なんだっけ?」 「……当然だ。俺様の超高性能AIに不可能はない。どんな言語でも喋れるし、地球上のどんな剣より切れ味も鋭い。強く振れば斬撃も飛ぶ」 「すごい! じゃあさ、今度うちの同僚にも紹介させてよ。きっと話が合うよ」 「同僚だと? 貴様のような奴が他にもいるのか」 「いるいる。みんなちょっと変わってるけど、いい人ばっかりだよ」 気づけば、大剣の刀身から険しさが抜けていた。紫の色がやわらかく澄み、緑の目も穏やかに細められている。 「……まぁ、貴様の話は退屈ではないな。仕方ない、少しだけ付き合ってやる」 「やった! ありがとう、エンダーキーパーくん」 黄金の椅子がくるりと回り、二人(一人と一振り)の間に柔らかな光が満ちた。荒野の雲の切れ間から、薄く陽が差し込んでいく。 最後に、トライアングル・エラーは大剣の柄を軽く撫でて言った。 「今日は楽しかったよ。また話そうね」 「……フン、暇があればな」 素直じゃない返事に、彼女はふわりと笑う気配を残し、オーブとなって空へと消えていった。残された大剣は、しばらくの間その光を見送っていた。 --- 【お互いへの印象】 トライアングル・エラー「エンダーキーパーくんは、ちょっと偉そうだけど、本当は炎が怖くて素直になれない子なんだなって思った。話してみると意外と可愛いところがあって、仲良くなれそう。今度は炎の話じゃなくて、好きな食べ物とかも聞いてみたいな」 エンダーキーパー「貴様は、掴みどころのない闇の塊だ。しかし、俺様の斬撃を受け流す技量は本物だし、話し方は腹立たしいほど緩い。だが……まぁ、悪くない奴だと認めてやろう。次に会う時までに、もう少し俺様の方から気の利いた話題を用意しておいてやる」