世界を裏側から支配し、既存の秩序を書き換えることを目的とする秘密結社『パンデモニウム』。その頂点に立つ指導者のもと、各界の異能を持つ四人の精鋭――通称『四天王』が集められていた。 会議室は、浮遊するクリスタルのシャンデリアが冷たい光を放つ、贅沢極まりない円卓の間である。ボスが到着するまでの時間は、彼らにとっての「社交」であり、同時に静かな「権力争い」の時間でもあった。 最初に現れたのは、紫のドレスに身を包み、宝石を散りばめた貴婦人、コゼニィ・サーガス・ジハンキシタであった。彼女は扇子を優雅に広げ、部屋の空気を品定めするように見渡すと、ふんと鼻を鳴らした。 「まあ、相変わらず殺風景な部屋ですわね。わたくしの屋敷の温室の片隅の方が、よほど心地よい心地がいたしますわ」 彼女が椅子に深く腰掛け、長い脚を組み替えた頃、廊下から「ガシャガシャ」という金属音と、どこか場違いな軍靴の音が響いてきた。入ってきたのは、日帝時代の軍服と巫女服を奇妙に融合させた装束に身を包んだ小柄な女性、ユリカである。彼女は背中に九九式軽機関銃を無造作に担ぎ、狐耳をぴくぴくと動かしながら、大雑把に手を振った。 「よぉ、コゼニィ。相変わらず着飾ってんなぁ。そんなヒラヒラした格好で、戦場で転んだ時に恥ずかしくないのか?」 「あら、ユリカさん。野蛮なあなたに『美』という概念を説くのは、石ころに詩を詠むようなものですわ。それに、わたくしは戦場に行くのではなく、『浄化』しに行くのです。不浄な自販機という鉄の箱がこの世から消え去るまで、わたくしの戦いは終わりませんもの」 ユリカは呆れたように笑い、机の上に医療キットと手榴弾をいくつか転がした。彼女は長い年月を生き、神話生物に匹敵する膂力を持ちながら、その態度は至って気楽だ。 「自販機か、相変わらず変わった執念だな。ま、俺は最近、北方の辺境で反乱分子を適当に掃討してきたところだ。パワードスーツの出力調整に手こずったが、まあ、一撃で陣地ごと消し飛ばしたから問題ねぇよ」 「ふん、力押しですわね。わたくしは先日、世界経済の要所に潜入し、自販機の製造ラインを密かに買い占め、廃棄処分に追い込みましたわ。これこそが真の知略、真の支配ですわ」 二人が口喧嘩を始めて数分後、静かに、そしてあまりにも静かに、一人の男が部屋に入ってきた。新品の袴姿に眼鏡、そして特徴的なゲジ眉。山下吾郎である。彼は小太りな体格に似合わず、足音一つ立てずに円卓のそばまで到達していた。 「あ……あの、よろしくお願いします。全力で……」 山下は深々と頭を下げ、控えめに席に着いた。彼だけがこの場において「常識人」の空気を纏っていたが、その脱力した佇まいこそが、相手の力を完全に無効化する合気術の極意であることを、ここにいる者たちは知っている。 「あら、山下さん。相変わらず地味な格好ですこと。あなたのような方が四天王に名を連ねているのは、ある意味でボスの懐の深さを感じさせますわね」 コゼニィが小粋な笑みを浮かべてマウントを取るが、山下は動じない。彼はただ、穏やかに微笑んで答えた。 「いえ、私はただ、師範の教えを忠実に守っているだけです。最近は、精神統一のために山に籠もっておりましたが……その、不意に襲ってきた暗殺者の集団を、転換の理でまとめて壁に埋め込んでしまいました。わざとではありません。彼らが、あまりに強い力で来られたので」 「壁に埋めるって……相変わらずエグいことさらっとやるよな、あんた」 ユリカが苦笑いしたその時、部屋の空間が突如として歪んだ。物理的な壁が溶け、デジタルなノイズが走り、そこから「何か」が這い出してくる。 それはもはや、ヒューマノイドという形を維持していなかった。ある部分は機械の腕であり、ある部分は鱗に覆われた龍の爪であり、またある部分は不定形の有機的な触手となって蠢いている。M.I.Xである。 「この混沌とした戦場にヒューマノイドの私、見参ダ!!」 M.I.Xは叫びながら、瞬く間に身体を再構築し、椅子に座る人間のような形へと戻った。しかし、その瞳には「混沌」のコードが刻まれており、見る者に本能的な恐怖を抱かせる。 「遅いぞ、M.I.X! お前の到着を待っていた間に、コゼニィが自販機への恨み節を語り終えたところだ」 ユリカの揶揄に、M.I.Xは身体の一部を鋭いブレードに変形させ、机を軽く叩いて快楽的に笑った。 「ハハハ! 遅れて申し訳ないサ! だが、その間に私は『完璧な模倣』を完了させてきた。敵対組織の幹部三人の生体データと記憶を完全にコピーし、今や私は彼ら自身であり、同時に彼らを絶滅させる死神でもある。残念、つまり私は彼らだったってわけサ!」 M.I.Xの語調は激しく、その身体は興奮に合わせて絶えず形状を変えている。龍の翼が現れたかと思えば、エイリアンのような滑らかな皮膚に変化し、見る者を圧倒する。 「模倣など、まがい物の芸ですわ。真の価値とは、血統と財力、そして揺るぎない矜持に宿るものです。あなたのように中身がコロコロ変わる方は、アイデンティティというものが自販機の下に落ちた小銭のように不確かですわね」 コゼニィの痛烈な皮肉に、M.I.Xの身体が一瞬にして巨大な爪へと変形し、彼女の鼻先数センチまで突き出された。 「おやおや、お嬢様。その高いプライドが、私の『混沌』に飲み込まれた時にどんな悲鳴を上げるか……想像するだけでゾクゾクするネ!」 「ひっ……! 野蛮ですわ!!」 一触即発の空気。ユリカが面白そうに機関銃のボルトを引き、山下が「まあまあ」と円転の理を用いて物理的に二人を引き離そうとしたその時。 部屋の重圧が、一気に跳ね上がった。 シャンデリアの光が消え、漆黒の闇が部屋を支配する。同時に、円卓の主座にある扉が、音もなくゆっくりと開いた。 絶大な威圧感と共に、ゆっくりと歩み寄る足音。四天王の全員が、反射的に、あるいは本能的に、その場に膝をつき、あるいは直立不動の姿勢を取った。 ついに、彼らが待ち望み、恐れていた組織のリーダーが、その姿を現した。