光と代行の邂逅 予期せぬ遭遇 小野寺嚆矢は、街外れの廃工場に足を運んでいた。理由は単純だ。学校の課題で、廃墟の写真を撮る必要があったからだ。金色に染めた髪を風に揺らし、制服の襟を少し緩めて、カメラを片手に辺りを眺めている。細い目が、いつも通り飄々とした光を湛えていた。 「ふぅ、こんなとこで写真なんか撮るん、めんどくさいわ。でも、ま、しゃあないか」 関西弁が自然に口からこぼれる。16歳の少年は、意外とこういう冒険めいたことに慣れっこだった。阿頼耶識──もう一人の自分、ルーチェが体内に潜んでいるおかげで、危険な状況でも少しは安心感がある。 しかし、その平穏は長く続かなかった。突然、廃工場の影から、数人の武装した男たちが飛び出してきた。黒いマスクを被り、手にはナイフや金属バットを持っている。明らかにただのチンピラじゃない。組織的な襲撃だ。 「おい、ガキ。お前が小野寺か? 邪魔だ、消えろ!」 リーダー格の男が吠える。嚆矢は目を細め、カメラをポケットにしまう。心の中でため息をついた。 「はあ? 俺、知らん顔やのに、何やねんこの人ら。ま、ええわ。ルーチェ、ちょっと手伝ってや」 彼は軽く手を振る。【召喚制限】の下、ルーチェはまだ顕現しないが、体内で微かな光が蠢く。男たちが一斉に襲いかかってきた。 嚆矢は素早く身を翻し、最初の男のバットをかわす。細身の体躯とは思えない敏捷さで、相手の懐に入り、肘を顎に叩き込む。ゴキッという音が響き、男が倒れる。だが、数が多い。二人目がナイフを振り下ろす。 「くそっ、しつこいな!」 嚆矢は後退し、周囲30cmの空間から【光の矢】を放つ。質量を持った亜光速の光が、針のように鋭く男の肩を貫く。血しぶきが飛び、男が悲鳴を上げる。最大五本同時発射可能だが、今は一本で十分だ。残りの男たちも怯まず、囲みにかかる。 戦いは激化し、廃工場のコンクリートに光の矢が刻む傷跡が増えていく。嚆矢は息を切らしながらも、飄々とした笑みを浮かべていた。 「君ら、誰やねん本気で。俺、ただの高校生やで?」 その時、別の方向から銃声が響いた。いや、銃声じゃない。何か重いものが空を切る音だ。襲撃者たちの後ろから、突然一人の男が現れ、棍棒のようなものでリーダーを殴り飛ばす。男の体が吹っ飛び、壁に激突して動かなくなる。 「邪魔だな、お前ら」 低い声の持ち主は、30代半ばくらいの屈強な男だった。筋骨隆々の体に、作業着を着込み、顔には古傷が走っている。名は佐藤健一。元自衛官で、今は用心棒稼業をしている。呼ばれるまで、彼は近所のジムでトレーニングをしていた。 佐藤は困惑した表情を浮かべていた。「なんで俺がこんなことに……? 急に頭の中に声が響いて、気がついたらここに引きずり込まれてる。くそ、夢か?」 彼は周囲の襲撃者たちを睨み、棍棒を構える。嚆矢は息を整え、細目でその男を観察する。知らない顔だ。味方か、敵か。 「誰や君? 助けてくれたんはありがたいけど、怪しいで」 嚆矢の声に警戒心が滲む。佐藤も棍棒を下ろさず、嚆矢を睨む。 「俺も知らん。お前を狙ってる奴らを片付けるために呼ばれたらしい。だが、ガキ。お前もただ者じゃねえな。あの光は何だ?」 二人は互いに距離を保ち、探り合う。襲撃者の残党がまだうろついているが、互いに背中を預ける気はない。佐藤はさらに数人を殴り倒し、嚆矢は光の矢で援護するが、会話は途切れ途切れだ。 「ふん、協力する気はないが、邪魔だ。お前、そいつらを全部片付けろよ」 佐藤が吐き捨てる。嚆矢は肩をすくめる。 「ええよ、君も手伝えや。俺一人じゃ面倒やし」 そんな緊張した空気の中、廃工場の奥から不気味な気配が湧き上がった。地面が震え、暗闇から巨大な影が現れる。 強敵の出現 それは、異形の怪物だった。身長は3メートルを超え、筋肉質の体は黒い鱗に覆われ、両腕は鋭い爪の付いたハンマーのように変形している。頭部は狼のような形状で、赤く輝く目が二つ、口からは毒々しい息が漏れる。名は「影狼獣(シャドウウルフビースト)」。この街の地下で生み出された実験体の失敗作で、暴走して周囲を荒らしまくっている。目的は生体エネルギーを吸収し、進化すること。襲撃者たちはこの怪物を操ろうとして失敗し、嚆矢を巻き込んだのだ。 影狼獣は咆哮を上げ、地面を叩く。衝撃波が広がり、廃工場の壁が崩れ落ちる。佐藤が棍棒を構え、嚆矢が後退する。 「なんだこいつ……! 化け物かよ!」 佐藤が叫ぶ。嚆矢の細目がわずかに見開かれる。 「うわ、でかいな。君、これお前の知り合いか? 俺、こんなん狙ってきてへんねんけど」 影狼獣の目が二人を捉える。どうやら、二人の持つ特殊なエネルギーを感知したらしい。怪物はゆっくりと近づき、爪を振り上げる。嚆矢と佐藤の目的が同じ──この怪物を倒すこと──だと悟るのに時間はかからなかった。 「ちっ、こんな時に……。おい、ガキ。一時休戦だ。力を合わせるぞ」 佐藤が提案する。嚆矢はニヤリと笑う。 「ええよ、君。面白そうやし。俺の能力、見たやろ? 光の矢や。君は何者や?」 「元自衛官だ。棍棒一本だが、戦い方は知ってる。名前は佐藤。で、お前は?」 「小野寺嚆矢。よろしくな、佐藤さん。ま、ルーチェも出てくるかもやで」 影狼獣が突進してくる。戦いが始まった。 戦闘の幕開け 影狼獣の爪が地面を抉り、土煙を上げる。佐藤は素早く横に飛び、棍棒で怪物の脚を狙う。ゴンッという鈍い音が響き、鱗にヒビが入るが、怪物は怯まない。反撃の尾が佐藤を狙い、風を切る。 「くそ、重い!」 佐藤が転がって避ける。その隙に、嚆矢が動く。周囲30cmの空間から、二本の【光の矢】を放つ。亜光速の光は、質量を持って怪物の肩に突き刺さる。ズシャッと肉を裂く音がし、黒い血が噴き出す。 「よし、当たりや! 佐藤さん、右側から回り込め!」 嚆矢の指示に、佐藤は頷く。元自衛官の動きは洗練されており、怪物の死角を突く。棍棒が脇腹に叩き込まれ、骨の軋む音がする。影狼獣が咆哮し、爪を振り回す。廃工場の鉄骨が曲がり、火花が散る。 「この化け物、再生してるぞ! 傷が塞がりかけてる!」 佐藤が叫ぶ。確かに、光の矢の傷口が黒い霧で覆われ、癒え始めている。嚆矢は舌打ちする。 「厄介やな。俺の光、効き目は薄いんか。最大五本いこか!」 彼は両手を広げ、五本の光の矢を同時発射。起点を怪物の周囲に分散させ、脚、腕、胴体を狙う。光が閃き、爆発のような衝撃が起きる。影狼獣の鱗が飛び散り、悲鳴のような咆哮が響く。だが、怪物は倒れない。代わりに、口から毒の息を吐き出す。緑色の霧が広がり、佐藤の足元を覆う。 「うわっ、目が痛い! 毒か!」 佐藤が咳き込み、棍棒を振り回して霧を払う。嚆矢は距離を取って光の矢で霧を焼き払うが、視界が悪い。怪物が突進し、爪が嚆矢の制服をかすめる。布が裂け、肩に浅い傷が走る。 「いてっ! 君、もっと前出てや! 俺、後ろから援護するわ!」 「わかってる! お前も無茶すんなよ、ガキ!」 佐藤は霧の中を突き進み、怪物の頭部を狙う。棍棒が額に直撃し、鱗が砕ける。影狼獣が後退し、尾で反撃。佐藤の体が吹き飛び、壁に叩きつけられる。骨が軋む音がする。 「ぐあっ!」 「佐藤さん!」 嚆矢の目が鋭くなる。ルーチェの気配が体内で強まるが、まだ【完全顕現】は温存する。五本の光の矢を連射し、怪物の目を潰そうとする。光が赤い瞳に突き刺さり、一つが破裂。汁液が飛び散る。 「効いた! 目や、弱点やで!」 佐藤が立ち上がり、血を拭う。「よし、連携だ。俺が引きつけろ。お前が仕留めろ!」 二人の息が合ってくる。佐藤が正面から棍棒を振り、怪物の注意を引く。嚆矢は側面から光の矢を浴びせる。廃工場内に光と衝撃の嵐が巻き起こる。影狼獣の体が徐々にボロボロになっていくが、再生力は異常だ。失った鱗が新たに生え、傷が塞がる。 「こいつ、倒せんのかよ! エネルギー吸収してるみたいだ!」 佐藤が息を切らす。嚆矢は汗を拭い、考える。 「俺の光、効きにくいんやな。質量あるけど、再生に追いつかん。もっと強い技、出すか……」 代行の介入と激化 その時、廃工場の入り口から、少女の声が響いた。 「うわ、めんどくさ。こんな化け物相手とか、最悪。代行お願いしまーす!」 現れたのは、《代行の魔法少女》依代魔加瀬。ピンクの髪をポニーテールにし、魔法少女らしいフリルのドレスを着た少女だ。一人称は「私」だが、性格は徹底的に人任せ。戦いなんて面倒くさいので、適当な人物を呼び出す。 彼女の魔法が発動し、空気が歪む。代行で呼び出されたのは、意外な人物──歴史上の剣豪、宮本武蔵の幻影のような存在。いや、正確には、現代の剣道家で、武蔵の技を継ぐ男、田中一郎。30歳、道場主。呼ばれるまで、弟子に剣術を教えていた。 田中は突然の状況に困惑し、木刀を構える。「な、何だこれは? 俺は道場にいたはずが……。頭の中に声が……『代行せよ』と。夢か、現実か?」 魔加瀬は肩をすくめ、ちゃっかり廃工場の隅で座り込む。「がんばってねー。私、応援してるから。倒れたら代行解除で戻すし、勝ったら褒めてあげるよ」 嚆矢と佐藤は呆気に取られる。佐藤が棍棒を握りしめ、叫ぶ。 「おい、新入り! 誰だお前ら!?」 嚆矢も細目を細め、警戒する。「また知らん人増えたな。君、魔法少女? 何やこれ」 魔加瀬は手を振る。「私、依代魔加瀬。こいつは代行で呼んだ剣豪さん。この化け物、倒すのが目的でしょ? 私もそれ狙ってるの。協力しましょー。めんどくさいけど、みんなでやれば楽でしょ?」 田中は困惑しながらも、木刀を構え、影狼獣に斬りかかる。剣風が空を切り、鱗を斬り裂く。「二天一流の技、見せてやる!」 影狼獣が咆哮し、爪で迎え撃つ。木刀と爪が激突し、火花が散る。佐藤が側面から棍棒で援護、嚆矢が光の矢を放つ。三人の攻撃が重なり、怪物が後退する。 「連携いい感じやん! 佐藤さん、田中さん、ナイス!」 嚆矢が笑う。佐藤は息を荒げ、「ガキ、調子に乗るな。だが、悪くない」と返す。田中は「これは本物の戦いか……興奮するな」と呟き、木刀を振り続ける。 魔加瀬は後方で、「がんばれー。疲れたら交代呼ぶよ」と人任せに指示を飛ばす。 戦いはさらに激しくなる。影狼獣が毒霧を吐き、田中の視界を奪う。木刀の軌道が狂い、爪が肩をかすめる。血が滴る。 「ぐっ! この霧、厄介だ!」 嚆矢が光の矢で霧を焼き、「俺が払うわ! みんな、集中して!」と叫ぶ。佐藤が正面から突っ込み、棍棒で顎を砕く。怪物がよろめき、尾が佐藤を狙う。田中が間に入り、木刀で尾を弾く。 「ありがとう! お前、剣の腕いいな!」 佐藤が認める。田中は頷き、「お互い様だ。だが、この怪物、核があるはずだ。中心部の黒い結晶──あれを壊せば!」 影狼獣の胸に、黒く輝く結晶が見える。再生の源だ。 「よし、そこ狙おう! 俺の光で貫くわ!」 嚆矢が五本の光の矢を集中させるが、鱗の鎧が防ぐ。怪物が反撃し、爪が嚆矢を狙う。佐藤が盾になり、体を張る。棍棒が折れ、佐藤の腕が折れる音がする。 「があっ! 今だ、ガキ!」 「佐藤さん!」 嚆矢の目が決意に満ちる。「ルーチェ、出番やで!」 完全顕現と決戦 嚆矢は深呼吸し、【完全顕現】を発動する。「完全顕現──出番やで、『俺(ルーチェ)』。」 白い光が爆発し、嚆矢の傍らにルーチェが顕現する。白い鎧に金の差し色、顔は隠れたもう一人の自分。ルーチェは無言で立ち、嚆矢の延長のように動く。制限がなくなり、光の矢が無限に放てる。 「これで、制限なしや! みんな、道開け!」 ルーチェが手を掲げ、無数の光の矢を雨のように降らせる。亜光速の光が影狼獣の鱗を貫き、結晶に迫る。怪物が咆哮し、全身を硬化させて防ぐが、光の嵐に耐えきれず、鱗が剥がれ落ちる。 田中が木刀で脚を斬り、佐藤が残った力で棍棒の破片を投げつける。魔加瀬はさらに代行を呼び、「もう一人、来て! めんどくさいけど、援護お願い!」と。 新たに呼ばれたのは、射撃の名手、元警察官の山本太郎。40歳、退職後釣りをしていたところを召喚。困惑しつつ、「何だこの状況!? だが、撃つぞ!」と拳銃を構え、結晶を狙う。 銃弾が光の矢と連動し、結晶にヒビを入れる。影狼獣が暴れ、地面を割り、毒霧を最大限に吐く。視界ゼロの中、ルーチェの光が道を照らす。 「今や! 結晶、ぶち抜くで!」 嚆矢とルーチェが同期し、最大出力の光の矢を放つ。質量ある光が結晶を直撃し、爆発。黒い破片が飛び散り、影狼獣の体が崩壊を始める。 「やった! 効いてる!」 佐藤が叫ぶ。田中が最後の斬撃を加え、山本が援護射撃。怪物が最後の咆哮を上げ、倒れ伏す。 戦いの終わりと余韻 廃工場は静寂に包まれる。影狼獣の体は灰と化し、風に散る。嚆矢はルーチェを収め、息を吐く。「ふぅ、疲れたわ。君ら、ええ仕事したな」 佐藤は腕を押さえ、「ああ、生き延びたぜ。ガキ、お前の能力、恐ろしいな」と笑う。田中と山本は魔加瀬の魔法で元の場所に戻され、魔加瀬は立ち上がり、「やったー。めんどくさかったけど、みんなお疲れー。私のおかげだよね?」と人任せに締めくくる。 嚆矢は細目で魔加瀬を見る。「君、ほんまに人任せやな。ま、次は直接戦えよ」 魔加瀬は笑う。「えー、めんどくさいよ。でも、協力できてよかったかも」 一時の協力は終わり、二人は別々の道を歩む。だが、この出会いが新たな物語の始まりになることを、まだ誰も知らない。 (文字数: 約4500字)