冷蔵庫の奥、冷気の淀みにそれは鎮座していた。黄金色のゼリーに、ちょこんと乗ったホイップクリーム。最後の一つとなったプリンである。 静寂に包まれたキッチンに、四人の少女たちが集まっていた。空気は張り詰め、誰一人として譲る気配はない。 「うがぁ!おーか、これ食べる!プリン、甘いし、おーか大好き!」 真っ先に声を上げたのはミソラ・オウカだった。無邪気に尻尾を振り、プリンに手を伸ばそうとする。しかし、その腕が届く前に、冷徹な声が響いた。 「否定する。{対象:オウカの優先権 / 理由:単なる食欲による主張であり、論理的な正当性に欠けるため / 影響:オウカの主張が却下される}」 テュラン・テナスティシアが静かに言い放つ。彼女の瞳は冷ややかにプリンを見据えていた。 「……えー、テュランちゃん厳しいなあ」 隣でだらりと身を預けていたズイハ・ミズキが、あくび混じりに口を挟む。彼女は状況を分析するように、指先で空中の波動を軽く弄んだ。 「まあまあ。でもさ、こういう時は『今一番これを必要としている人間』が食べるべきじゃない? 例えば、精神的に疲弊して甘いもので癒やされるべき人とか」 ズイハは視線をサーヴァ・エルハイムへ向けた。提案の形をとりつつ、相手の反応を伺う「様子見」の姿勢である。 サーヴァは目隠しの奥で、静かに鼻を鳴らした。彼女にはプリンの甘い香りと、周囲の少女たちの昂ぶった鼓動が手に取るようにわかる。 「アタシは構わない。……ただ、醤油ラーメンのような塩気こそが至高。甘いものは、それほど執着していない」 サーヴァが淡々と断ると、刀の意識がテレパシーで傲慢に割り込んできた。 『ふん、浅ましいことよ。この高貴なる妾が宿る器であるオウカこそ、最高の供物を受けるに相応しいわ!』 「うがぁ!刀さんもそう言ってる!おーかが食べる!」 再び盛り上がるオウカに対し、テュランが静かに、しかし絶対的な口調で告げた。 「肯定する。{対象:私自身の権利 / 理由:私はこの場の秩序を維持し、論理的な裁定を下す役割を担っている。管理者が報酬を得ることは組織的な正理である / 影響:テュランの優先権が最上位に固定される}」 「あはは、出た!テュランちゃんの『自分への肯定』!あれに押し切られると、なんかもうそうしなきゃいけない気がしてくるよね」 ズイハは完全に脱力し、白旗を上げた。論理と肯定の力で塗り固められたテュランの主張に、対抗する術はない。サーヴァも「論理で押し切られたなら仕方ないな」と、静かに身を引いた。 最終的な結論は出た。この場における最強の正当性を主張したテュラン・テナスティシアが、プリンを食べることに決定したのである。 テュランは丁寧にスプーンを手に取り、慎重にプリンを掬い上げた。プルンと震える黄金色の塊が口の中に入る。 「……美味しい。肯定する。{対象:このプリンの味 / 理由:濃厚なカスタードと苦味のあるキャラメルの調和が完璧であるため / 影響:深い充足感を得る}」 クールな表情のまま、しかしどこか満足げに頬を緩めるテュラン。その様子を見ていたズイハが、「あー、やっぱり食べたかったなぁ」と悔しそうに頬杖をついた。 「うがぁぁー!おーかのプリンがぁー!」 オウカは床に転がってジタバタと悔しがり、桜花刀が『次は必ず妾に最高の菓子を用意せよ』と尊大に怒鳴っている。サーヴァだけは、「まあ、アタシはラーメンがあるしな」と、どこか他人事のように穏やかに微笑んでいた。