王都の喧騒から離れた場所にある冒険者ギルド。その奥深く、重厚な樫の木の扉で仕切られた『職員専用会議室』には、いま張り詰めた空気が漂っていた。 円卓の上に置かれているのは、王国諜報部から極秘に届けられた四枚の手配書。そこには、常識では計り知れない能力を持つ個体や、正体不明の脅威たちの情報が記されていた。 「……さて、始めようか。諜報部の連中がわざわざ『至急』の印を付けて持ってきた。相当に厄介な連中ということだ」 口火を切ったのは、この会議の進行を務めるギルド職員のリーダー、ガレスであった。 【氏名】ガレス 【性別】男 【役職】ギルド査定責任者(主任) 【口調】厳格で理性的。結論を急ぐ傾向にある。 【来歴】元・宮廷騎士団の戦術顧問。数々の魔物討伐を指揮した経験から、個体の危険性を数値化することに長けている。 「責任者、まずはこの少年から見てはどうです? 『月』……名前だけなら可愛らしいが、中身がひどい。死神を従え、名簿に書かれた者の命を刈り取る能力を持っているとされる」 資料を指し示したのは、眼鏡をクイと押し上げた女性職員、エルナである。 【氏名】エルナ 【性別】女 【役職】魔導文献解析官 【口調】冷静沈着で分析的。皮肉屋な一面がある。 【来歴】王立魔導学院を首席で卒業したが、学問よりも『実戦での特異点』に興味を持ち、ギルドの解析官に転身した。 エルナは手配書に記された『月』の能力を読み上げる。高威力の炎魔法『アギダイン』に、広範囲攻撃『マハラギオン』、さらには全快の回復魔法まで使いこなす。しかも、背後に控える『リューク』というペルソナの存在が不気味だ。 「魔法の構成はバランスが良い。だが、決定的なのはその性質だ。死神という概念を操る。正面からの戦いだけでなく、名前さえ知れば殺されるという特異能力……これは厄介だな」 「ふん、聖属性に弱いと書いてあるじゃないか。聖騎士団を当たればいいだけの話だろ」 不機嫌そうに腕を組んでいるのは、大柄な男、ゴードンである。 【氏名】ゴードン 【性別】男 【役職】前線討伐監理官 【口調】粗野で豪快。力こそ正義と信じている。 【来歴】数多の辺境地で魔物と血で血を洗う戦いを生き抜いてきたベテラン。理論よりも経験的な『直感』で危険度を判断する。 「まあ待てゴードン。次を見てくれ。こいつは生理的な恐怖だ」 若手の職員、レオが青ざめた顔で二枚目の手配書を提示した。そこには、不気味にうねる大蛇『ブラックマンバ』の姿が描かれていた。 【氏名】レオ 【性別】男 【役職】新人査定助手 【口調】丁寧だが、不安げで気が弱い。 【来歴】最近採用されたばかりの若手。知識は豊富だが、実戦経験が少なく、魔物の猛毒や凶暴性に過剰に反応しやすい。 「臆病な性格とのことですが……ひとたび逃げ場を失えば、死ぬまで噛みつき、強力な神経毒を注入する。解毒魔法か血清がなければ100%死亡。これは冒険者にとって最悪の相性です。不注意な新人が森に入れば、死体となって見つかることになるでしょう」 「毒か。厄介だが、射程外から撃ち抜けばいい。だが、三枚目のこいつはどうだ? 規模が違いすぎるぞ」 ガレスが三枚目の手配書を広げると、会議室にいた全員が息を呑んだ。『フロラーケン』。植物と海獣の融合体とも言うべきその怪物は、再生力に優れ、百万人に相当する毒をレーザーとして放ち、さらには自己増殖を行うという。 「……正気の沙汰じゃない。一滴で百万人を殺す毒に、瞬時に増殖する種子。これは単なる『個体』ではなく、『災害』だ。もしこれが王都の地下水脈に根を張れば、王国は一夜にして滅びるだろう」 エルナの分析に、ゴードンも珍しく顔を強張らせた。 「ああ、こんなもん一人や二人でどうにかできるレベルじゃねえ。軍隊を動かして、根こそぎ焼き払うしかねえな。危険度は最高クラスだ」 そして最後に、彼らが手に取ったのは、血に飢えた怨念が滲み出る一枚の手配書だった。『ローラン』。 深紅の怪物を纏い、大鎌と棍棒のような腕を持つ男。その瞳には深い後悔と、それを塗りつぶすほどの復讐心が宿っていた。 「形態変化……さらに再生能力に、相手の姿を模倣する能力まで持っている。そして何より、この『Good Bye』という空間を裂く攻撃。防御不能の物理攻撃は、熟練の騎士であっても防ぎようがない」 ガレスが唸る。ローランの能力は、単なる暴力ではなく、相手を絶望に追い込む精神的な圧力と、絶え間ない自己強化を伴っていた。 「怒りに任せて暴走しているようだが、その攻撃力は凄まじい。形態変化のたびに体力を全回復するとなれば、長期戦は絶望的だ。これは……最上位の脅威と言わざるを得ない」 四人の職員は、それぞれの視点から議論を重ねた。魔導的な特異点である『月』、生理的な致死性を持つ『ブラックマンバ』、生態系を破壊する絶望の化身『フロラーケン』、そして個としての最強を体現する復讐者『ローラン』。 「決まりだな。それぞれの危険度と、相応の懸賞金を策定する。諜報部への報告書にまとめろ」 ガレスの指示により、彼らは手配書の右端に、残酷なまでに正確な『格付け』を書き込んだ。 その後、彼らは会議室を出て、ギルドのメインホールへと向かった。そこには、多くの冒険者が集まる巨大な掲示板がある。 ガレスの手によって、四枚の手配書が掲示板の最上段に、ガチャンという鋭い音と共にピンで留められた。 掲示板の前にいた冒険者たちが、次々とその内容に目を見開き、戦慄し、あるいは強欲に目を輝かせ始めた。王国の平穏を脅かす四つの影。それが、公に提示された瞬間であった。 * 【査定結果】 ■月 危険度:A 懸賞金:5,000,000 ゴールド ■ブラックマンバ 危険度:C 懸賞金:800,000 ゴールド ■フロラーケン 危険度:ZZ 懸賞金:100,000,000 ゴールド ■ローラン 危険度:SS 懸賞金:30,000,000 ゴールド