雨の上がった裏路地には、濡れた石畳と古い映写機の音だけが残っていた。 カタ、カタ、カタ。 建物と建物の隙間に張られた白い布へ、途切れ途切れの映像が投じられている。人の手。封蝋。細長いフィルムテープ。文字のない指令。そして、誰かが歩き出す軌跡。 白いマントを羽織った少女、ロペは、映像の前にしゃがみ込んでいた。黒いツインテールの先が水たまりに触れそうになっている。彼女は端末を両手で抱え、食い入るように白布を見つめていた。 「ねぇピピさん、次のお話早く見せてよ!」 返事の代わりに、映写機の内部で歯車が回った。光が一度揺らぎ、白布の上に新しい動作の軌跡が映し出される。 右へ三歩。 立ち止まる。 扉を二度叩く。 相手の言葉を聞く。 戻る。 ロペは嬉しそうに目を細めた。 「なるほど。今日は扉を叩くお話なんだね」 「違う」 低く、乾いた声が背後から響いた。 振り返ると、黒いスーツに白いマントをまとった老人が立っていた。白と黒が混じったオールバックは、夜の湿気にも乱れていない。リンドウは、少女の手元にある端末と、映写機の投じる映像を順番に確認していた。 「それは物語ではない。指令だ」 「でも、動く人が映ってるよ?」 「指令は、動く人間を物語のように見せる」 リンドウは淡々と言い、白布へ視線を戻した。 「都市の神が私とお前を導くだろう。」 ロペはその言葉を聞くと、満足そうに頷いた。 「うん。じゃあ、ピピさんが映した通りにしなきゃね」 そのとき、路地の奥から軽い足音が聞こえた。雨に濡れた石を、靴底がゆっくり踏んでくる音だった。 空色のボブヘアを揺らしながら、ミルキが姿を現した。白マントの留め具は少しずれており、黒いスーツの襟元には小さな水滴が残っている。彼女は歩きながら端末を眺め、二人の前で足を止めた。 「…あ、いた」 「遅いよ、ミルキさん」 「うん。途中で猫を見てた」 「猫?」 「白くて、片方の耳が黒かった。たぶん、ここの猫」 ミルキは周囲を見回したが、探している様子はほとんどなかった。ロペはすぐさま彼女のそばへ駆け寄る。 「ねぇ、猫のお話はもう終わったの?」 「たぶん。猫は自分で次の場面に行ったから」 「いいなぁ。私も自分で次の場面に行きたい」 「指令が来たら、行けるよ」 ミルキは端末を軽く傾けた。画面にはフィルムテープの到着を示す記号が浮かんでいる。彼女はそれを確認すると、思い出したようにロペへ向き直った。 「ロペ。伝えるね。指定時刻までに、第三通りの廃劇場へ集合。代行者は現像者と同行。遂行者は劇場の入口を確認」 「遂行者は?」 「もう先に行ってる」 「えっ、ずるい! 私も先に行きたかった!」 「でも、指令だから」 ミルキはあっさりと言った。まるで誰かに呼ばれたので、これから別の場所へ行くことが決まったというだけの話だった。 「じゃあ、私は次の指令を伝えに行くね」 「もう行くの?」 「うん。…あ、指令来た、バイバイ。」 ミルキは手を上げ、返事を待たずに路地の向こうへ歩き出した。数歩進んだところで、何かを思い出したように立ち止まる。 「ロペ」 「なぁに?」 「劇場には、古いスクリーンがあるから。たぶん、好きだと思う」 それだけ告げると、ミルキは今度こそ去っていった。 ロペは彼女の背中を見送りながら、白いマントの裾を握った。 「ミルキさん、いつもすぐいなくなるね」 「伝令だからな」 「伝令って、寂しくないのかな」 リンドウはすぐには答えなかった。路地の壁に貼られた古いポスターを見つめている。そこには、かつて上映されていた映画の題名が、雨と時間に削られて残っていた。 「寂しさは、任務の成否に関係しない」 「関係ないなら、なくなるの?」 「なくならない」 「じゃあ、関係あるじゃん」 ロペの言葉に、リンドウはわずかに目を伏せた。 「……そうかもしれん」 彼はそれ以上を語らず、映写機の光を消した。路地は急に暗くなったが、ロペの端末だけが淡い光を放っている。 「行くぞ」 「うん。ピピさんも持っていく?」 「それはお前が持つものだ」 「じゃあ、ちゃんと持つ」 ロペは映写機を小さな台車に載せ、リンドウとともに歩き始めた。 第三通りへ向かう道は、曲がりくねっていた。閉じた店の軒先、積み上げられた木箱、壁から剥がれた広告。どこにも人の姿はない。しかし、ロペは時折立ち止まっては、何もない空間へ話しかけた。 「ここ、さっきの映像にあったよ」 「そうか」 「リンドウさんは、映像を覚えてる?」 「必要なものは」 「全部じゃないんだ」 「全部を覚える必要はない。指令は、必要な順序を示す」 「でも、忘れたところに大事なものがあったら?」 「その場合は、次の指令が与えられる」 ロペはしばらく考えたあと、首を傾げた。 「じゃあ、ピピさんが忘れたらどうするの?」 「映写機は忘れない」 「どうして?」 「映写機だからだ」 あまりに真面目な答えだったので、ロペはくすくす笑った。 「リンドウさんって、変なの」 「お前に言われる筋合いはない」 「でも、怒ってないね」 「怒る必要がない」 「じゃあ、怒るときはどんな顔?」 「知らん」 「自分の顔なのに?」 リンドウは答えなかった。ロペはさらに質問を重ねようとしたが、道の先にぼんやりとした灯りが見えたため、口を閉じた。 廃劇場だった。 かつては大きな入口だった場所に、錆びた鉄の扉が立っている。看板は半分落ち、残った文字も読めない。入口の前には、目隠しをした遂行者が立っていた。 黒いスーツ。白いマント。端末。そして、手にした片手剣。 遂行者は二人の気配に気づくと、姿勢を正した。 「代行者、現像者。入口の確認は完了しています」 「何かあった?」とロペが訊ねる。 「問題ありません。指令に従い、扉の前で待機していました」 「ずっと?」 「はい」 「退屈じゃなかった?」 「指令を遂行している間に、退屈という判断は必要ありません」 ロペは目隠しの奥を覗き込むように顔を近づけた。 「何も見えないのに?」 「端末が映します」 遂行者は端末を掲げた。画面には、白い線で描かれた扉と、その前に立つ一人の人影が表示されている。映像は途切れながらも、現在の状況とよく似ていた。 「自分は、映写機が映す動作の軌跡に従います」 「それ、私と同じだね!」 「はい。代行者に師事し、確実に遂行することが目標です」 「師事って、私が先生なの?」 「そうです」 ロペは嬉しそうに胸を張った。 「じゃあ、先生から大事なことを教えてあげる」 「お願いします」 「お話の途中で勝手にページをめくらないこと!」 遂行者は一瞬黙った。 「……指令にその内容はありません」 「でも大事なの!」 リンドウが横から口を挟んだ。 「くだらん話はその程度にしろ。中へ入る」 遂行者が扉へ手を伸ばす。錆びついた蝶番が軋み、劇場の内部から冷たい空気が流れ出した。 客席は暗く、長い間誰にも使われていないようだった。破れた座席、垂れ下がった天井布、床に散らばるチケットの半券。舞台の上には、ミルキが言っていた古いスクリーンが残っている。 ロペは一歩進んだだけで、表情を輝かせた。 「わぁ……大きいピピさんだ」 「映写機ではない。スクリーンだ」 「でも、ここにお話を映せるんでしょ?」 「たぶん」と遂行者が答えた。 「たぶん?」 「端末の記録に、使用可能とあります。ただし、再生する内容は指定されていません」 ロペはすぐにスクリーンの前へ走った。リンドウが止めるより早く、劇場の中央に設置された古い映写装置へ端末を近づける。 「ロペ、待て」 「だって、次のお話を見たいんだもん」 端末が映写装置と接続され、暗い劇場に光が灯った。 スクリーンに映し出されたのは、四人の姿だった。 ロペ。リンドウ。ミルキ。遂行者。 ただし、映像の中のミルキだけは、今この場にいなかった。彼女は舞台の端に立ち、何かを告げている。音声はない。映像は、動作だけを繰り返していた。 ミルキが端末を確認する。 ロペへ振り向く。 リンドウへ手渡す。 遂行者を指し示す。 そして、舞台袖へ消える。 ロペは画面の前で首を傾げた。 「これ、ミルキさんが来る前のお話?」 「あるいは、これから起きることだ」 リンドウはスクリーンを見上げたまま答えた。 「でも、ミルキさんは舞台袖に行ってないよ」 「指令は順序を示す。時刻までは示さないことがある」 「じゃあ、待つの?」 「待つ」 四人は客席に座った。 ロペは最前列で足をぶらぶらさせ、遂行者はその隣で背筋を伸ばしている。リンドウは少し離れた席に腰掛け、端末に届いたフィルムテープを何度も確認していた。 静かな劇場だった。 外では雨水が屋根から落ち、一定の間隔で音を立てている。誰も話さない時間が続いた。ロペは最初こそスクリーンを眺めていたが、やがて遂行者の方へ顔を向けた。 「ねぇ」 「はい」 「ずっと指令に従ってたら、自分で決めたいことってなくなるのかな」 「自分で決める必要がある内容は、指令に従うことです」 「それは答えになってないよ」 「すみません」 「謝らなくていいけど……先生としては、もう少し考えてほしいな」 遂行者はしばらく黙った。目隠しのため表情はわからない。それでも、わずかに首が下がったように見えた。 「私は、指令のない時間に何をすればよいのか、まだ分かりません」 「じゃあ、今考えればいいじゃん」 「何を?」 「指令がないときにしたいこと」 「……」 「私はね、次のお話を見たい。ピピさんが映すお話。でも、ずっと一人で見るのは嫌なの」 ロペはスクリーンへ目を戻した。 「誰かと一緒に見たい。ミルキさんとか、リンドウさんとか。遂行者も」 「私は遂行者です」 「名前がないの?」 「必要とされていません」 「じゃあ、私が考えてあげようか」 「名前を?」 「うん。……フィルムくん」 「性別が変わっています」 「じゃあ、フィルムさん」 「それは名前として適切でしょうか」 「私が呼びやすいから適切!」 遂行者は困ったように沈黙した。リンドウが端末から顔を上げる。 「名前は、指令が与えるものではない」 「じゃあ、誰が与えるの?」 「自分で選ぶか、他人が呼び続けることで定着する」 「リンドウさんは、名前を自分で選んだの?」 「生まれたときに与えられた」 「じゃあ、リンドウさんも自分では選んでないんだ」 「そうだ」 「じゃあ、私がリンドウさんって呼ぶのをやめて、別の名前で呼んでもいい?」 「断る」 「即答だね」 ロペが笑うと、遂行者もわずかに肩を揺らした。笑ったのかどうかは、目隠しのせいで分からない。 その瞬間、舞台袖から足音が聞こえた。 ミルキが姿を現した。空色の髪には、劇場の埃が少し付いている。彼女は舞台の中央まで歩くと、三人と一人を見回した。 「待った?」 「待ったよ!」 「そっか」 ミルキは悪びれず、舞台の端に腰掛けた。 「指令、伝えるね。今夜はここで待機。次の映像が届くまで、誰も劇場の外へ出ないこと」 「それだけ?」とロペが訊ねる。 「それだけ」 「じゃあ、ミルキさんも一緒にお話を見ようよ」 「うん。いいよ」 ミルキはスクリーンを見上げた。 「でも、今は何も映ってないね」 「さっきまで、ミルキさんが映ってたよ」 「私が?」 「うん。端末を見て、私に振り向いて、リンドウさんに何かを渡して、遂行者を指して、舞台袖に行ってた」 ミルキは少し考えた。 「じゃあ、もう終わったんだ」 「どうして?」 「今、私は舞台袖から出てきたから」 「でも、リンドウさんに何も渡してないよ」 リンドウが顔を上げる。ミルキは自分の端末を見て、それから老人のもとへ歩いた。 「これ」 彼女は一枚のフィルムテープを差し出した。リンドウは受け取り、端末へ慎重に読み込ませる。 スクリーンに新しい映像が流れた。 四人が客席に座っている。 ロペが笑う。 遂行者が顔を上げる。 ミルキが舞台から降りる。 リンドウが全員を見る。 最後に、スクリーンの白い光が四人を包む。 映像はそこで終わった。 誰もすぐには話さなかった。 やがてロペが小さな声で言う。 「これ、何をすればいいの?」 リンドウはフィルムテープを見つめていた。いつもの厳しい表情は変わらない。それでも、しばらくしてから、ゆっくりと立ち上がった。 「映像の通りにする」 「また待つの?」 「いや」 リンドウは客席にいる全員を見た。 「今夜は、ここにいる」 それは指令そのものではなかった。けれど、誰も反対しなかった。 ロペは遂行者の隣へ詰め、ミルキを手招きした。ミルキは少し迷ったあと、ロペの反対側に座った。リンドウも離れた席ではなく、三人の後ろの席を選んだ。 「ねぇ、リンドウさん」 「何だ」 「次のお話が来るまで、何を話す?」 「任務に不要な会話をする必要はない」 「でも、してもいいんでしょ?」 リンドウは黙った。 ミルキがぼんやりとスクリーンを見ながら言う。 「私は、今日見た猫の話ならできるよ」 「聞きたい!」 「白くて、片耳が黒い。たぶん、この劇場の裏にいる」 「それだけ?」 「それだけ」 「じゃあ、私も話す。ピピさんはね、映像を映すとき、たまに光が少しだけ震えるの。寂しいときみたいに」 「映写機に感情はない」とリンドウが言った。 「でも、震えるよ」 「機械の不具合だ」 「不具合でも、寂しそうに見えるなら寂しそうでいいの」 リンドウはまた黙った。遂行者が静かに問いかける。 「現像者は、指令のない時間に何をしますか」 「指令を待つ」 「それ以外には」 老人はスクリーンを見上げた。何も映っていない白い布。しかし、その向こうには、これまでに与えられた無数の指令と、従ってきた者たちの軌跡が積み重なっているようだった。 「……記録を整理する」 「それは、したいことですか」 リンドウは答えに詰まった。 ロペが身を乗り出す。 「リンドウさん、今、考えてるね」 「考えるくらいはする」 「じゃあ、したいことがあるんだ」 「そう決めつけるな」 「でも、決めつけるのも自分で決めることだよ」 リンドウは少女を見た。その眼差しは相変わらず厳しかったが、拒絶するものではなかった。 「お前は、よく話すな」 「寂しいから」 ロペはあっさりと言った。 「寂しいと、話したくなるの。話しても寂しいときは、もっと話すの」 ミルキが頷いた。 「分かる。私も、誰かがいるところに行くと、ちょっとだけ眠くならない」 「それは寂しいのと同じ?」 「たぶん、違う。でも、似てるかも」 遂行者は三人の会話を聞きながら、端末を膝の上に置いた。指令は届いていない。画面には何も映っていない。 それでも、彼は席を立たなかった。 劇場の外では、雲の切れ間から月が覗いていた。白い光が壊れた窓から差し込み、スクリーンに淡い影を落とす。四人の影は、まるで一つの映像に編集されたように並んでいた。 しばらくして、ロペが訊ねた。 「ねぇ、みんな。私のこと、どう思ってる?」 突然の問いに、ミルキが瞬きをする。 「今、言うの?」 「うん。次の指令が来たら、また別のお話になるかもしれないから」 リンドウは眉を寄せた。 「必要のない確認だ」 「必要だよ。私は知りたいの」 ロペは最初に遂行者を見た。 「フィルムさんは?」 「その呼び方は正式ではありません」 「でも、答えて」 遂行者はしばらく考えた。やがて、ゆっくりと言葉を選んだ。 「ロペは、指令に従う者です。しかし、指令に書かれていないことまで見つけようとします。……私には、まだできないことです」 「それって、いいこと?」 「分かりません。ただ、見習いたいと思います」 ロペは嬉しそうに笑った。 「じゃあ、私もフィルムさんのこと、ちゃんと見てるね」 次に、ミルキが答えた。 「ロペは、うるさいけど、いると眠くならない。寂しさを見つけるのが上手」 「うるさいは褒め言葉?」 「たぶん」 「じゃあ、ミルキさんは?」 「私は?」 「うん。ミルキさんは、どんな人?」 ミルキは少し首を傾けた。 「私は、どこかへ行く人。呼ばれたら行くし、呼ばれなかったら、たぶん寝る。でも、ロペといると、もう少しここにいてもいいかなって思う」 「それ、すごくいい!」 「そう?」 「うん。だって、すぐいなくならないってことでしょ」 「今日は、指令が来るまではいるよ」 ロペは満足そうに頷いた。 最後に、三人の視線がリンドウへ集まった。 「現像者は?」と遂行者が尋ねる。 リンドウは長いあいだ沈黙した。厳格な老人は、答えを指令のように即座に出すことができなかった。 「ロペは、危うい」 ロペの笑顔が少し止まる。 「危ういって、悪いこと?」 「そうではない。だが、指令だけでなく、自分の感情も見ている。感情は順序を乱す」 「じゃあ、嫌い?」 「聞け」 リンドウの声は厳しかったが、ロペは黙って聞いた。 「お前が感情を持つことを、私は否定しない。寂しさを隠さず、誰かを求めることもだ。……それが、組織にとって正しいかは分からん」 彼は一度、スクリーンを見た。 「しかし、今夜ここにいる者たちを繋ぎ止めているのは、お前の言葉だ。私は、それを必要のないものだとは思わない」 ロペは目を丸くした。 「それって、好きってこと?」 「勝手に解釈するな」 「でも、嫌いじゃないんだよね?」 「……嫌いではない」 ロペは両手を上げて喜んだ。 「やったぁ!」 ミルキが小さく笑い、遂行者もまた、ほんのわずかに顔を上げた。 そのとき、映写機が音を立てた。 カタ、カタ、カタ。 全員がスクリーンを見る。白い布に、一本のフィルムが映し出された。そこには新しい指令が浮かび上がっている。 しかし、誰もすぐには端末へ手を伸ばさなかった。 ロペは三人の顔を順番に見てから、映写機のそばへ歩いた。 「次のお話、始まるね」 「そうだ」とリンドウが言う。 「都市の神が、我々を導くだろう」 ミルキは端末を確認し、遂行者は姿勢を正した。新たな指令に従う準備が整っていく。 それでも、劇場を出る直前、ロペは振り返った。 「ねぇ、みんな」 三人が彼女を見る。 「次のお話が終わったら、またここに戻ってきてもいい?」 ミルキが最初に頷いた。 「指令が許せば」 遂行者も続けた。 「指令がなくても、戻りたいと思ったなら、記録しておきます」 リンドウはしばらく考え、やがて答えた。 「戻る場所が必要なら、場所を覚えておけ」 ロペは満面の笑みを浮かべた。 「うん! じゃあ、ここはみんなの劇場ね!」 古びたスクリーンには、四人の影が映っている。 指令が示す軌跡に従いながらも、その影の並び方だけは、誰にも決められていなかった。