紅葉が燃えるように山々を彩る季節。東洋の深い山奥、霧に包まれた静寂の中に、ひっそりと佇む老舗旅館「栄愛之湯」があった。そこは喧騒を離れた旅人が、心身を癒やすために訪れる隠れ家である。 チームAのゴールドレアは、【ハクレンマント】を靡かせ、優雅に空を舞いながらその屋根を捉えた。「おやおや、実に趣のある建物ですね。料理探求部門としても、この地の郷土料理には期待が高まります」と、爽やかな笑みを浮かべて丁寧に降り立つ。一方、チームBの面々は対照的だった。マリアベールは猫背を丸め、仕込み杖を突きながら「ファファファ、いい風が吹いとるのう」と穏やかに笑い、その隣ではクリスタル・スノーが【ホットアイ】と【カノ】の熱源装置で体を温めながら、心細げにリバースガーディアンの服の裾を掴んでいた。リバースガーディアンは、世界を本として見る冷徹な眼差しを持ちながらも、「……休息という概念も、たまには必要か」と、呆れたように呟きながら歩を進める。 旅館の玄関先で彼らを迎えたのは、深い皺を刻みながらも眼光だけは鋭い、経営主の婆さんだった。 「いらっしゃい。予約の客だね。まあ、ゆっくりしていきな」 「よろしくお願いします。ゴールドレアと申します。こちらの方は知人の方々でして」 ゴールドレアが丁寧に頭を下げ、チェックインを済ませる。一行は男女別に分かれ、それぞれ広々とした大部屋へと案内された。 女部屋では、マリアベールとリバースガーディアン、そしてクリスタル・スノーが畳の上に座っていた。 「クリスタルちゃん、ここは暖かいから安心だよ」とマリアベールが微笑む。 「……ふえぇ、でも、お風呂が冷たかったらどうしよう……」と不安げなスノー。 「安心しなさい。もし温度が低ければ、私がこの世界の法則ごと沸騰させてあげてもいいわよ」と、リバースガーディアンがさらりと恐ろしい提案をする。「それはやめてください!」と、マリアベールが笑いながらたしなめた。話題は次第に趣味や近況へと移り、意外にもリバースガーディアンが「最近はいい本(世界)が少なくてね」と、管理者の悩みについて和気藹々と語り合う、穏やかな時間が流れた。 一方の男部屋では、ゴールドレアが一人、あるいはもしくば同行した男性陣(想定)と、この地の植物相について熱く語っていた。「見てください、この壁に飾られた掛け軸の筆致を。この地域の自然への敬意が感じられます。ああ、早く夕食の山菜料理が食べたい!」と、料理探求部長としての情熱を燃やしていた。 そして、豪華な夕食に舌鼓を打ち、心身ともに充足した一行は、旅館の自慢である「貸切露天風呂」へと向かった。男女で時間をずらさず、竹垣で仕切られた一つの大きな露天風呂を、それぞれのエリアで満喫する形式である。 「ふぅ……極楽、極楽じゃ」とマリアベールが目を細め、スノーは【ホットアイ】を最大にしてお湯の温度に浸かり、リバースガーディアンは静かに湯船に身を沈め、月を眺めていた。一方の男風呂では、ゴールドレアが「お湯の成分が肌に馴染みますね」と、おっとりと湯船に浸かっていた。 しかし、その静寂は、文字通り「獣」によって切り裂かれた。 ――ヴィルルルゥ!! ヴガアアアア!! 突然、山を揺るがすほどの咆哮が響き渡る。同時に、男風呂の壁を突き破り、巨大な熊のような姿をした魔物、ゼフゲレンゲが血走った目で乱入してきた。その目的は明確な敵意と、狂気的な食欲である。 「なっ!? 何事ですか!!」 ゴールドレアが驚愕した瞬間、ゼフゲレンゲが【力溜め】に入り、全身から禍々しいオーラを放つ。そして、猛烈な【暴虐の腕】が横薙ぎに振り抜かれた。 ドガァァァーーーン!! 凄まじい衝撃波と共に、男風呂と女風呂を隔てていたはずの竹垣が、一瞬にして粉々に粉砕された。 「きゃあああっ!?」 「なっ、何が起きた!?」 視界が開け、そこには全裸に近い状態で互いを見つめ合う男女の姿があった。混乱に陥る一行。しかし、ゼフゲレンゲの【咆哮】がさらに追い打ちをかける。その咆哮には、なぜか「ラッキースケベ率を爆増させる」という謎の効果が付随していた。 「ふざけた獣ですね! 礼儀を教えなくては!」 ゴールドレアが【ハクレンマント】を身に纏い(濡れているが)、【チョウチョ】をレイピアに変形させて飛び出す。しかし、床は石造りの露天風呂であり、お湯と石鹸でぬるぬるの状態だ。 「おっとっと!!」 足を踏み出した瞬間、ゴールドレアが派手に滑った。そのまま勢いよく前方に滑り込み、ちょうど湯船から上がろうとしていたリバースガーディアンの足元に激突。そのまま二人してもつれ合い、リバースガーディアンの胸元にゴールドレアの顔が深く埋まるという、最悪に破廉恥な形での衝突が発生した。 「……殺すわよ、あなた」 リバースガーディアンの瞳に終焉の光が宿る。が、そこへゼフゲレンゲの【暴れ狂い】が襲いかかる。四肢を振り回す猛攻に、辺りの岩や湯船の縁が砕け散り、修繕費が天文学的に跳ね上がっていく音が聞こえそうだった。 「ファファファ! 賑やかすぎるのう!」 マリアベールが動いた。その速度は神速。濡れた床など関係ない。彼女は【相殺】を用いて、ゼフゲレンゲの爪の一撃を杖で弾き飛ばし、同時に相手の腕を深く切り裂いた。しかし、その反動で後ろにいたクリスタル・スノーが「ふえぇ!」と叫びながら転倒し、ちょうどそこへ攻撃を回避して滑り込んできたゴールドレアが、スノーを抱きしめる形でキャッチしてしまう。 「あわわわ! ごめんなさい! 滑ったんです!」 「も、もう! どいてくださいぃ!」 混沌である。戦闘でありながら、滑る、転ぶ、ぶつかるの繰り返し。ゴールドレアが【ヒマワリ】の猛攻を仕掛けようとした瞬間、またしても足が滑り、今度はリバースガーディアンの背中にダイブ。リバースガーディアンは【終焉展開エルドラ】を繰り出そうとしたが、背中の衝撃で狙いがズレ、ちょうどゼフゲレンゲの足元に巨大な終焉の穴を開けた。 「今だ! マリアさん!」 「分かっておるよ!」 足を取られたゼフゲレンゲに対し、マリアベールが【居合抜き】を放つ。予備動作ゼロ。概念さえも置き去りにする一撃が、獣の巨体を真っ二つに両断した。 ――静寂が戻った。 そこにあったのは、粉々に砕けた竹垣、めちゃくちゃに破壊された露天風呂、そして、なぜかお互いに不自然な体勢で絡まり合っている男女の姿だった。 「…………」 「…………」 なんとも言えない、気まずい沈黙が流れる。リバースガーディアンは静かに、しかし確実に殺意を込めてゴールドレアを睨んでいた。ゴールドレアは真っ赤な顔で「あ、あの、不可抗力でして……」と、消え入りそうな声で謝罪していた。 その後、彼らは戦いの余韻(という名の気まずさ)を引きずりながら、協力して竹垣を修復した。ゴールドレアが【バラ】のスキルを応用して、バラバラになった竹材を器用に繋ぎ合わせ、リバースガーディアンが管理者の権能で「物理的な強度」を固定し、マリアベールが形を整えるという、奇妙な共同作業が行われた。 「婆さん、本当に申し訳ない。設備を壊してしもうた」 マリアベールが深々と頭を下げ、ゴールドレアが財布から(あるいは研究費から)多額の修理費を包んで婆さんに手渡した。婆さんは呆れた顔で「まったく、景気のいい客が来たもんだね」と鼻で笑っていた。 各自が自分たちの部屋に戻った後、布団の中には深い沈黙が流れた。 ゴールドレアは天井を見つめ、「丁寧な振る舞いだけでは、不測の事態(とラッキースケベ)は防げない……」と、人生の新たな教訓を胸に刻んでいた。 リバースガーディアンは、頬に触れたゴールドレアの感触を思い出し、「……不快ではないけれど、やはり殺したい」と、矛盾した感情に頭を抱えていた。 クリスタル・スノーは、温かい布団にくるまりながら、「お風呂、怖かった……けど、なんだか賑やかだったなぁ」と、小さく呟いて眠りについた。 翌朝。チェックアウトを済ませ、栄愛之湯の門を出る一行。 「いい旅でしたね。また、機会があれば」 ゴールドレアが爽やかに挨拶するが、リバースガーディアンは彼と目を合わせようとせず、足早に去っていく。マリアベールは「ファファファ、たまにはこういう騒動もいいものじゃ」と笑いながら、またゆっくりと山道を下り始めた。 それぞれの心に、紅葉の色と、あの混沌とした露天風呂の記憶を刻みながら、彼らはそれぞれの帰路に着いたのであった。