組織『トルネードデビル』の拠点。そこは機能的な冷徹さと、暴力的なまでの喧騒が同居する場所であった。コンクリートの壁には至る所に爆撃の跡や斬撃の傷が刻まれ、それが組織の「強さ」を証明する勲章のように機能している。 その一角にある広間。巨大な円卓を囲むようにして、二人の男がいた。一人は、オレンジ色の長い髪をなびかせ、褐色に焼けた筋骨隆々の肉体を惜しげもなくさらけ出した男、No.2のランザ。そしてもう一人は、全身を黒い迷彩服で包み、顔を無機質なガスマスクで覆った男、No.4のレイスである。 静寂を破ったのは、ランザの豪快な笑い声だった。 「ガハハハハ! 見ろ、この腕の傷を! 先日の任務で出会った蛮族の戦士が、なかなかの根性を見せてくれたぞ。まさかあの太刀で私の皮膚を裂かせるとはな。実に心地よい!」 ランザは自身の太い腕に刻まれた新しい切り傷を、まるで誇らしげな宝物のように指さしている。戦いこそが人生のすべてであり、強者との衝突こそが至上の喜びであるという彼にとって、傷跡は最高の思い出であり、相手への敬意の証であった。 対して、レイスはガスマスク越しに、どこか不自然なリズムで体を揺らしていた。彼が口を開くと、その声はガスマスクのフィルターを通して、少しかすれた、しかし異常なまでに陽気な響きを持って響く。 「おやおや、おやおや! 赤いお花が咲きましたねぇ! 痛みのダンスを踊るステップは、きっと星の裏側まで届くほどの快調なワルツでしょうなぁ。あはははは!」 ランザは一瞬、呆気に取られたようにレイスを見た。レイスの言葉は常に意味不明である。比喩なのか、独り言なのか、あるいは彼にしか見えていない景色を語っているのか。しかし、ランザはそれを不快に思うどころか、むしろ好んでいた。型にハマらない、予測不能な個性の衝突こそが、彼にとっての刺激となるからだ。 「相変わらずだな、レイス! お前の喋り方は相変わらず理解できんが、その底抜けに明るい調子だけは気に入っているぞ。絶望的な戦場にあっても、お前は常に『ピクニックにでも来た』ような面構えで爆弾を撒き散らしているからな!」 「ピクニック! いい言葉ですなぁ! お弁当の中身は、火薬と、硝酸と、ほんの少々の絶望。それをふんわり包んで、世界中にデリバリー! 届いた瞬間にドカン! と、サプライズパーティーですなぁ!」 レイスは空中に向かって、見えない何かを振り撒くような仕草をした。彼の陽気さは一種の狂気を含んでいるが、それが組織内での彼の立ち位置を確立させていた。No.4という地位にありながら、その破壊力と予測不能な行動は、上位者であるランザですら一目置かざるを得ない。 ランザはガハハと笑いながら、傍らに置いていた魔剣マチェットを軽く叩いた。 「サプライズとは正にその通りだ。正面からぶつかり合い、互いの力を尽くして、最後に立っていた者がすべてを手にする。それこそが至高の美学。お前の戦い方は派手で混沌としているが、その『破壊への純粋さ』だけは、我ら戦士の魂に近いものがあるな」 「魂! 魂ですか! 雲を食べて、風を飲み込んで、お腹いっぱいの魂で、ぐるぐる回るメリーゴーランド! 止まったときには、誰もいない寂しい公園。でも、爆発すればみんな仲間ですなぁ!」 「……やはり何も分からん! だが、それでいい! 理屈などという退屈なもんに縛られていては、真の強さは得られんからな!」 ランザはそう言って、レイスの肩をガシッと強く叩いた。並の人間であれば肩の骨が砕けかねないほどの衝撃だったが、レイスはそれを心地よい振動であるかのように、さらに激しく体を揺らして笑った。 二人は組織という、暴力と野心が渦巻く場所で、奇妙な共鳴をしていた。一方は、正々堂々と強さを追い求める「光の暴力」。もう一方は、混沌の中で快楽を見出す「闇の陽気」。水と油のような関係でありながら、その根底にある「破壊への執着」という一点において、彼らは深く結びついていた。 「ねぇ、ランザさん。今度、大きな大きな風船を持って行きましょうか。中には特製の『おやすみガス』と、特大の『目覚まし爆弾』を詰めて。空に浮かべて、パチンと弾ければ、世界中が色鮮やかな花火になりますなぁ」 「ガハハ! 面白い。お前が道を切り開き、爆煙で視界を遮れば、俺がその混乱を突き抜けて敵の首を刈り取る。最高の連携ではないか!」 「最高のアンサンブル! 指揮者は私、楽器は爆弾、観客は死体。素晴らしいコンサートになりますなぁ! あはははは!」 レイスの笑い声が広間に響き渡る。その陽気さは、時に周囲を不安にさせるほどに過剰であったが、ランザだけはそれを真正面から受け止めていた。彼にとって、レイスのような「壊れた」個性が、この殺風景な世界に彩りを与えていると感じていたからだ。 ふと、レイスがガスマスクのフィルター部分を指でなぞった。 「でも、もしも。もしもですよ。このお面が割れてしまったら……その時は、今のこの楽しいお喋りは、全部おしまいになりますなぁ」 その一瞬だけ、レイスの声から陽気さが消え、底冷えするような静寂が漂った。ランザはそれを敏感に察知し、戦士の目で見据えた。レイスの奥底に潜む、底知れない冷酷さと暗闇。それは、陽気な仮面の下に隠された、本物の「怪物」の気配であった。 しかし、ランザは恐れるどころか、口角を吊り上げた。 「いいぞ。その『裏の顔』こそ、お前の真の強さだろう。いつかその仮面が剥がれ、お前が冷徹な処刑人へと変わる時……俺は全力でそれを迎え撃ってやりたい。お前という怪物をねじ伏せることこそ、最高の快楽となるはずだ」 「ふふふ……あはははは! さすがランザさん! 趣味が最悪ですなぁ! 最高に愉快ですなぁ!」 再び、レイスの陽気な笑い声が戻ってきた。絶望的なまでの明るさと、絶対的な自信に満ちた強さ。相反する二人の会話は、心地よい不協和音を奏でながら、組織の冷たい廊下に吸い込まれていった。 彼らにとって、日常とは戦いであり、会話とは互いの牙を確かめ合う儀式に過ぎない。それでも、この歪な関係こそが、彼らにとっての心地よい「居場所」であったのかもしれない。 「さて、次はどこの街を『お花畑』にしましょうか!」 「ガハハ! どこでもいい。俺の剣が届く場所なら、すべてが戦場だ!」 二人の男は、背中合わせに笑いながら、次の破壊へと歩き出した。その背中は、組織のNo.2とNo.4という格差を超えて、奇妙な信頼関係によって結ばれていた。 【お互いに対する印象】 ■ランザ → レイス 「何を言っているかさっぱり分からん奇妙な男だが、その底抜けの陽気さと、時折見せる底知れない冷酷さには惹かれる。破壊に対する純粋な情熱を持っており、戦士として信頼できる。いつかその仮面が割れた時の『真の姿』と全力でぶつかり合いたいと思わせる、最高のエンターテイナーだ」 ■レイス → ランザ 「大きな、大きな、真っ赤な太陽のような人。真っ直ぐで、豪快で、壊し甲斐のある強さを持っている。私の意味不明なお喋りに笑ってくれるなんて、本当に最高に愉快な人ですなぁ。いつか一緒に世界中を爆発させて、大きな大きな花火を打ち上げたいお気に入りのお兄さんですなぁ!」