第一試合:市街地—ビルと高強度遮蔽 高層ビルの谷間を、風が細く吹き抜けていた。視界は建物に分断され、道路には倒れた標識や車両が散らばっている。遮蔽は多いが、鋼鉄の壁も大質量の剣撃を受ければ安全地帯ではない。 黒鋼刃の操縦席で、ジュリアはビルの角から角へ慎重に視線を移した。危険を先読みし、剣型ビット「解」を不用意に遠くへ放たない。ハイネは前へ出て斬り合う機会を求めていたが、ジュリアの警戒を押し切ることはしなかった。二人は互いを抑え、同時に活かす。四機のビットは機体周囲に散開し、各々が別の角度を取った。 向かいの大通りでは、ジョウゲンが二本の特大剣を構えた。重力相殺の力場が刃の重量を扱える範囲まで軽減している。それでも芯と超硬刃の質量は消えない。振るえば、壁も道路もまとめて砕く威力がある。背部ファンが低く唸り、機体が建物の間を滑るように進んだ。 先に仕掛けたのは黒鋼刃だった。ビット一機がビルの窓列をかすめ、ジョウゲンの右側へ高速で回り込む。ほぼ同時に残る三機も別方向から迫った。ジョウゲンは正面のビットを一撃で弾かず、特大剣の幅を使って進路を塞ぎ、二機目の角度をファンの噴流でずらした。観察した動きから、ビットの推力と連携の要を見極めようとしていた。 だが、ビットは単なる射出兵器ではない。物理耐性に優れた剣刃は剣撃を受け止め、その反動で軌道を変える。黒鋼刃本体は音速推進機L-1で一気に距離を詰めた。鐡の高周波刃が白い剣の側面に走る。硬い刃を一撃で断つことはできなかったが、斬撃は芯を避けて表面を削り、ジョウゲンに防御の向きを強いた。 ジョウゲンはすぐに反撃した。二本の剣を交差させるように振り、黒鋼刃の接近路を潰す。黒鋼刃は安定した姿勢制御で急制動し、ビットを盾のように差し込んだ。重い刃がビットを押し込み、ビルの外壁へ叩きつける。機体への損傷は免れたが、四機の連携は一瞬乱れた。 その一瞬をジョウゲンは逃さない。機体の腕部出力とファンの加速を合わせ、神速の連撃を黒鋼刃の腕部と推進機構へ集中させた。ジュリアの警戒が危険を捉え、ハイネが剣戟の間合いを測る。黒鋼刃は正面から受けず、ビルの陰へ滑り込んだ。刃が角を削り、コンクリート片が雨のように散る。 ハイネは防御一辺倒にはしなかった。二人はビットを回収するのでなく、残る三機を使ってジョウゲンの剣の振り幅を制限し、黒鋼刃を反対側の通りへ走らせた。鐡と解が合体し、「嵌」となる。重い一撃を受け止めるのではなく、ビット推進を機体の加速にも利用して、黒鋼刃はビルの壁面を斜めに駆け上がった。 ジョウゲンは空中へ追いすがり、黒と白の剣を連続して振る。ファンの排熱は効率よく、追撃の勢いも衰えない。しかし高強度の建物群は、追う側にも死角を作った。黒鋼刃は窓枠を蹴って急角度で落下し、合体剣をジョウゲンの剣の芯ではなく、腕部と柄の接合部へ打ち込む。ジョウゲンは片方の剣で受けたものの、もう片方の剣を振り上げる余地を得られなかった。 そこで黒鋼刃の腕部からアサルトアーマーが炸裂した。機体中心から広がった多段拡散爆発が、至近距離の敵弾を消し、ジョウゲンの腕とファンを襲う。建物の間で爆発は逃げ場を失い、剣を保持する腕部に深い損傷を与えた。ジョウゲンは即座に距離を取ったが、損傷した剣の芯と腕では、特大剣の重さを伴う連撃を維持できない。 最後の反撃として、ジョウゲンは残る剣を振り抜いた。黒鋼刃は嵌を分離し、ビットを両側から交差させて刃筋を逸らす。L-1の推力で死角へ滑り込み、鐡を機体の胸部へ突き立てた。高周波の刃が装甲を貫き、ゼンの動力が停止する。ジョウゲンは脱出機構を作動させる間もなく、戦闘不能となった。 第一試合の勝者:チームA 第二試合:砂丘—遮蔽物なし 砂丘はどこまでも連なり、隠れる場所がない。乾いた風が砂を巻き上げ、地表の輪郭を刻々と変えていく。遠距離で姿を隠すことはできず、接近するにも、相手の動きを見誤れば逃げ場を失う。 両機は互いを視認できる距離で向き合った。ジョウゲンの二本の特大剣が陽光を反射する。重力相殺の力場によって剣は振れるが、その芯が傷つけば取り回しに支障が出る弱点は変わらない。黒鋼刃は四機のビットを周囲に展開した。砂に足を取られないよう、ジュリアは機体の姿勢と推進量を細かく調整する。ハイネは、開けた地形ならば剣戟の速度を最大限に活かせると見ていた。 ジョウゲンは先に距離を詰めた。背部ファンが砂を爆発的に吹き上げ、ゼンが超音速で一直線に加速する。黒鋼刃は横へ逃れ、ビット二機を交差させる。ジョウゲンは黒剣でその一方を払い、白剣を続けて振った。ビットは物理耐性で破壊を免れたが、大質量の連撃に押し流され、陣形の外へ弾かれる。 黒鋼刃は音速推進で反対側から踏み込み、鐡で黒い剣を打った。高周波刃が剣の表面に火花を散らす。ジョウゲンは刃を引き、すぐさま反転して斬り返した。ファンによる加速と腕部の剣戟が連なり、剣を振るたびに砂丘の頂が削り飛ばされる。黒鋼刃の安定性は衝撃を受け流すが、直撃を重ねれば機体が持たない。 ジュリアの危機察知が、攻撃の連鎖に飲まれる前に退く判断を促した。ハイネはその後退を利用し、四機のビットを別々の高度と角度から送り込む。ジョウゲンは視線を動かさず、それぞれの進路と推力を観察する。経験に基づいて本体の接近路を推測し、剣の一振りでビットを遠ざけながら黒鋼刃の脚部を狙った。 しかし、砂丘ではビットを遮る壁がない。弾き飛ばされた二機も、推力を利用してすぐに戻る。残る二機はジョウゲンの背面へ回り、ファンの周囲をかすめた。堅牢なファンはその程度では壊れず、排熱にも支障は出ない。それでも、ジョウゲンの加速と追撃の軌道は一瞬だけ制約された。 黒鋼刃はその間に鐡と解を合体させた。嵌の大質量にビットの超速推進が加わり、砂を踏み砕いて真正面から突進する。ジョウゲンは二本の剣を交差させ、重撃を受け止めようとした。衝突の瞬間、剣と剣の力が拮抗する。黒鋼刃の機体は音速推進を保ち、姿勢を乱さずに押し込んだ。ジョウゲンの足元から砂が噴き上がり、ゼンは後方へ滑る。 ジョウゲンは横へ飛び、白剣を振って嵌を外へ弾こうとした。黒鋼刃は合体状態に固執せず、即座に分離する。ハイネが五つの刃の連撃へ移り、ジュリアが危険な正面衝突を避けて軌道を整える。ビット二機が白剣を受け、残る二機が黒剣の戻りを妨げる。鐡は一撃ごとにジョウゲンの腕部へ圧力を加えた。 ジョウゲンはなおも連撃を続けた。腕部の出力とファンの推力によって、二本の超大剣を高速で扱う。黒鋼刃は一度、剣の一撃を肩に受け、装甲を大きく損傷した。続く斬撃が脚部をかすめ、機体の機動に揺らぎが生じる。無遮蔽の地形では退路を作れず、ジュリアは正面からの応酬が危険だと判断した。 黒鋼刃は後退するふりをして、ジョウゲンの追撃を誘った。ジョウゲンが加速し、二本の剣で決着を狙う。そこで黒鋼刃はアサルトアーマーを放った。機体中心から広範囲に拡散する爆発が、近距離にあった剣と敵弾を呑み込む。爆発は砂丘の表面を剥ぎ、ジョウゲンの腕部と剣の芯を激しく損傷させた。 ジョウゲンの剣は、芯の損傷によって重力相殺を保てなくなる。片方が沈み、もう片方も連撃の速度を失った。黒鋼刃は残るビットを用いて剣を押さえ、鐡でゼンの胴体を切り裂く。ジョウゲンは最後に腕を動かそうとしたが、機体は応答しなかった。 第二試合の勝者:チームA 第三試合:衛星—低重力 衛星の灰色の平原には、薄い粉塵が静かに浮いていた。低重力下では、一度蹴り出した機体の軌道が長く残る。速さは有利にも不利にもなる。姿勢を崩せば修正には推力を要し、強い斬撃を受けた機体は遠くまで弾き飛ばされる。 黒鋼刃のL-1は安定した姿勢制御を支え、ビットは高推力で機体の周囲を走った。ジュリアは不用意な大加速を避け、いつでも軌道を変えられる余力を残す。ハイネは視界の広さを活かし、ジョウゲンの剣の届く距離を測った。対するゼンは背部ファンを用いて機体を加速させる。地上でも空中でも機能するファンは、低重力でも十分な推進力を発揮した。 初手では、ジョウゲンが二本の剣を広げ、間合いを支配した。大質量の一撃が当たれば、黒鋼刃は粉塵の海へ吹き飛ばされる。黒鋼刃は四機のビットを前後に配置し、機体を斜めに押し出して剣の軌道を避けた。二本の刃が交差し、灰色の地面に深い溝を刻む。 黒鋼刃は回避の反動でジョウゲンの側面へ回り、鐡を振るった。ジョウゲンは剣の平面を盾にし、衝撃を受け流す。高周波刃が表面を削ったが、特大剣の芯までは届かなかった。続けてジョウゲンが黒剣を返し、黒鋼刃は腕部をかばうように後退する。戦いは、攻め込む一瞬と、押し返される一瞬の連続になった。 ジョウゲンは相手の動きを細かく観察した。ビットが機体の移動補助にも使われること、二人の操縦判断が慎重さと攻勢を両立させることを見抜き、本体が踏み込む時刻を狙う。白剣がビットを押さえ、黒剣が黒鋼刃の進路を塞ぐ。腕部出力を活かした連撃が、肩から脚へと狙いを移した。 ジュリアは攻撃の線を見て、機体を急反転させる。ハイネは反転と同時にビットを切り返し、一本をジョウゲンの腕へ、もう一本を背部ファンの外縁へ向かわせた。頑丈なファンは刃を受けて損傷を免れたが、ジョウゲンは軌道を調整するために推力を変えた。その隙に黒鋼刃は四機のビットを揃え、嵌へと合体させる。 合体剣の重撃は、低重力の長い加速を得て迫った。ジョウゲンは二本の剣を交差して受けたが、衝突の勢いで両機は互いに弾き合う。ゼンは回転しながら後退し、黒鋼刃もまた軌道を逸らされた。黒鋼刃の姿勢制御は早期に回復し、ジュリアは機体の向きを整える。ジョウゲンもファンを使って回転を抑え、経験に裏打ちされた冷静さで再び剣を構えた。 ジョウゲンの反撃は鋭かった。黒剣が黒鋼刃の胴部をかすめ、白剣がビット一機を遠くへ弾く。連続する剣撃は、低重力の空間で逃げ道を塞ぐように広がる。黒鋼刃の装甲にも損傷が重なり、残りのビットも無傷ではない。ジョウゲンの剣は依然として致命的な脅威で、正面からの斬り合いに勝機があるとは限らなかった。 ジュリアとハイネは互いの判断を合わせ、嵌を分離した。ビット三機がジョウゲンの剣へ向かい、鐡は機体本体を伴って大きく回り込む。ジョウゲンはビットを観察し、一機を黒剣で押しのける。だが、ビットは破壊されず、推力を立て直して再び剣に取りついた。物理耐性の高い刃は、ジョウゲンに芯への正確な攻撃を強いる。 その間に黒鋼刃はアサルトアーマーを発動した。機体中心で生じた多段拡散爆発が、近距離を覆い、飛来していた敵弾を消し去る。ジョウゲンは剣で爆発を防ごうとしたが、広がる損傷を完全には避けられなかった。特大剣の芯と腕部が傷み、連撃の精度が落ちる。ファンは頑丈さと排熱性能によって動作を保ったものの、剣を振るう腕は限界に近づいていた。 黒鋼刃は残るビットを機動補助に使って軌道を変え、ジョウゲンの側面から接近した。ジョウゲンは片方の剣を振り、なおも迎撃を試みる。ビットがその刃を受け止め、黒鋼刃は鐡をゼンの肩から胴へ走らせた。高周波の連撃が装甲を断ち、損傷した腕部は剣を支えられなくなる。低重力の平原に、ゼンはゆっくりと倒れ込んだ。 ジョウゲンは最後まで冷静に機体を動かそうとしたが、剣も腕も応えなかった。黒鋼刃は距離を保ち、停止を確認する。戦闘はそこで決着した。 第三試合の勝者:チームA 総合結果 チームAが三試合中三試合に勝利。 総合勝者:チームA【嵌合解離】ジュリア&ハイネ