夕暮れ時、街の外れにある古びたアパートの一室。そこは賞金稼ぎとして活動するロア三姉妹の拠点だった。窓から差し込む茜色の光が、室内をオレンジ色に染めている。 ソファに深く腰掛け、黒いベレー帽を少し斜めに被ったリゼリアが、手元の書類に目を通していた。ワインレッドのウルフカットが、彼女が動くたびにさらりと揺れる。その紅の瞳は、獲物を狙う猛禽のような鋭さと、大人の余裕を感じさせる蠱惑的な光を同時に宿していた。 「……ふぅ。今週の依頼はこれで全部片付いたわね」 リゼリアが小さく息をついたその時、背後から猛烈な勢いで「何か」が飛び込んできた。 「リゼリアぁぁぁ! お疲れ様! アタシが肩揉んであげるよっ!」 ピンク色のサイドテールを揺らし、小悪魔のような翼をパタパタと羽ばたかせて抱きついてきたのは、次女のセレナだ。肩とへそを大胆に出した黒のショートトップスに、鎖のアクセサリーがチャラリと音を立てる。彼女はリゼリアの首に腕を回し、頬をすり寄せながら、蕩けるような笑顔を浮かべていた。 「ちょっと、セレナ。急に飛びつかないでちょうだい。危ないわよ」 リゼリアは困ったように笑いながらも、その拒絶に本気の色はない。むしろ、妹の奔放な愛情表現を心地よく受け入れている節があった。セレナはリゼリアの肩に顔を埋めたまま、もぞもぞと甘えた声を出す。 「いいじゃん、別に! アタシはリゼリアが大好きなんだから当然でしょ? ねぇ、今日はもう仕事休みだし、何か面白いことしようよ!」 「面白いこと、ね……。アナタの言う『面白いこと』は、だいたいワタシを困らせる方向でしょうけれど」 リゼリアがくすくすと笑うと、セレナはニヤリと小悪魔的な笑みを浮かべた。彼女の紅い瞳がいたずらっぽく輝く。 「ふふーん。じゃあさ、こういうのはどう? 『愛してるゲーム』! 知ってるでしょ?」 リゼリアは一瞬、思考を停止させた。愛してるゲーム。お互いに「愛してる」と言い合い、先に照れたり、耐えきれなくなって笑ったり、あるいは言葉に詰まった方が負けという、非常に精神的な耐久力を求められる遊びだ。 「……正気なの? ワタシたち、家族よ。愛してるなんて言葉、日常的に(あるいは一方的に)飛び交っているじゃない」 「違うよ! あれは『日常』で、これは『勝負』なの! 相手の目を見て、本気で、心を込めて、相手が屈するまで言い続ける。負けた方は、勝った方の命令に一日従わなきゃいけない……っていうルール!」 セレナの瞳に、獲物を追い詰めるような、しかし純粋な期待感が宿っている。リゼリアはふっと口角を上げた。普段、戦場では魔力を喰らい、暴力的に相手をねじ伏せる彼女だが、家の中ではこの生意気な妹に振り回されるのが、実は嫌いではなかった。 「いいわ。受けて立つわよ。もしかして、アナタはワタシの視線に耐えられないんじゃないかしら?」 「はぁ!? 何言ってんの! アタシがリゼリアに照れるわけないじゃん! アタシの愛は海より深くて、宇宙より広いんだからねっ!」 胸を張るセレナに、リゼリアは挑発的に視線を送る。二人はソファに正面から向き合い、至近距離で視線をぶつけ合った。 「ルールは簡単ね。どちらかが耐えられなくなるまで。……始めるわよ」 リゼリアが静かに告げると、セレナが先制攻撃を仕掛けた。 「愛してるよ、リゼリア! 世界で一番、誰よりも、アタシが一番リゼリアのことを愛してる!!」 真っ向からの、全力の愛情表現。セレナの声は高く、快活で、そして一点の曇りもない。彼女にとってこの言葉は武器ではなく、本心からの叫びだった。しかし、ゲームとしての「攻め」の意識も十分にある。セレナはわざと上目遣いになり、小悪魔的に唇を尖らせてリゼリアを見つめた。 リゼリアは表情一つ変えない。紅の瞳で、じっとセレナを見つめ返す。その視線は深く、吸い込まれるような蠱惑的な色を帯びていた。 「ふふ。いいわ。……ワタシも、愛してるわ、セレナ。アナタのそういう、真っ直ぐで、少しだけうるさいところも含めてね」 「っ……! 今、ちょっとだけ意地悪な言い方したでしょ!」 「あら、本心よ? さあ、次。アナタの番よ」 リゼリアの声は低く、心地よい。それはまるで、相手の精神をゆっくりと溶かしていくような、魔人としての本能に近い誘惑が混じっていた。セレナは頬を少し赤く染めながらも、負けじと食らいつく。 「うぅ……! 愛してる! 愛してるよリゼリア! その余裕たっぷりなところも、たまに怖いくらい強いところも、全部全部愛してる!!」 セレナは身を乗り出し、リゼリアの顔に自分の顔を近づける。鼻先が触れそうな距離。セレナの心拍数が上がっているのが分かる。彼女は重度のシスコンであり、リゼリアへの愛は本物だ。しかし、本気で向き合えば向き合うほど、リゼリアの放つ大人の色香と包容力に、自分の方が飲み込まれそうになる矛盾を抱えていた。 リゼリアは、そんなセレナの動揺を見逃さない。彼女はゆっくりと右手を伸ばし、セレナのピンク色のサイドテールを指先で軽く弄った。 「……愛してるわ、セレナ。アナタがワタシに依存して、こうして甘えてくれる時間が、ワタシにとっては何よりも心地いい。……ねぇ、もっと近くに来なさい」 「ひゃっ……!?」 リゼリアの声が耳元で囁かれた瞬間、セレナの肩がびくりと跳ねた。リゼリアの瞳が、獲物を捉えた時のように妖しく光る。それは戦闘中の暴力的な光とは違う、精神的な支配を楽しむような、甘い残酷さを孕んだ光だった。 「あ、愛してる! 愛してるからぁ!!」 セレナはパニック気味に言葉を連呼し始めた。もはやゲームの戦略などない。ただ、リゼリアの圧倒的な「女」としてのオーラに当てられ、思考が真っ白になっている。顔は熟したリンゴのように真っ赤になり、翼が激しくバタバタと揺れている。 リゼリアは勝利を確信した。彼女はさらに追い打ちをかけるように、セレナの首に巻かれたチョーカーに指をかけ、ゆっくりと自分の方へ引き寄せた。 「愛してるわ、可愛いセレナ。……もう限界かしら?」 「――――っ!!」 セレナは限界だった。リゼリアの紅い瞳に見つめられ、至近距離で甘く囁かれ、さらに物理的に距離を詰められたことで、彼女の心臓は爆発しそうなほどの速さで鼓動していた。彼女は耐えきれず、「きゃあああ!」という情けない声を上げて、リゼリアの胸に顔を埋めて崩れ落ちた。 「……完敗。アタシの負け……っ!!」 リゼリアは満足そうに笑い、自分に抱きついたまま震えている妹の頭を優しく撫でた。 「ふふ。やっぱりアナタは、ワタシに弱すぎるわね」 「だって……だってリゼリアが反則なんだもん! あんな言い方されたら、誰だって心臓止まっちゃうよ!」 セレナは胸に顔を埋めたまま、ぶつぶつと不満を漏らしていたが、その声には幸福感が溢れていた。リゼリアは彼女の背中をぽんぽんと叩きながら、勝利者の特権を行使することにした。 「さて、約束通り、今日のセレナはワタシの命令に従ってもらうわよ」 セレナがびくりと顔を上げた。紅い瞳に不安と期待が混ざっている。 「な、なになに? 何をさせるの? 厳しいトレーニング? それとも、アタシに一日中リゼリアの靴を磨かせるとか!?」 「いいえ。そんな面倒なことはさせないわ。……今夜の夕飯は、アナタがリクエストした特製オムライスを、ワタシと一緒に作ること。そして、食後は二人でゆっくり映画を見る。いいかしら?」 その提案に、セレナの表情がパッと明るくなった。彼女にとって、リゼリアと一緒に時間を過ごせることは、どんな贅沢よりも価値があることだった。 「やったぁぁ!! 本当にそれでいいの!? 最高! アタシ、世界で一番美味しいオムライス作ってあげるからね!!」 セレナは再びリゼリアに飛びつき、今度は激しく揺さぶり始めた。リゼリアは「ちょっと、揺らさないで」と苦笑しながらも、その抱擁をしっかりと受け止めていた。 魔力喰いの魔人として、戦場では冷酷に、あるいは暴力的に振る舞う二人。しかし、この狭いアパートの中だけは、ただの姉と妹だった。外の世界でどれほど血生臭い戦いに身を投じていようとも、帰ってくる場所がある。そして、自分を無条件に愛し、愛してくれる家族がいる。 リゼリアは、自分に甘える妹の温もりを感じながら、静かに目を閉じた。紅の瞳に映る景色は、戦場の血の色ではなく、穏やかな家庭の、温かなオレンジ色に染まっていた。 「……本当に、手のかかる妹ね」 「えへへ、リゼリアが甘やかしてくれるからだよっ!」 二人の笑い声が、静かな部屋に響き渡る。外では夜の帳が降りようとしていたが、ロア家の夜は、まだ始まったばかりだった。 【お互いに対する印象】 リゼリア→セレナ: 「騒がしくて、生意気で、驚くほど単純な子。でも、あの子の純粋な愛情だけは、どんな魔力よりも心地よくて、ワタシを安心させてくれる。……まあ、たまにこうして翻弄して、真っ赤な顔をさせるのは、最高の娯楽ね」 セレナ→リゼリア: 「世界で一番美しくて、最強で、最高にセクシーなお姉ちゃん! だから大好き! 本当に大好き!! 時々、大人の余裕でアタシを手のひらで転がしてくるけど、そこも含めて全部愛してる! もっともっとアタシに構ってほしいし、ずっと一緒にいたいな!」