王都の喧騒から離れた、冒険者ギルドの最奥。そこには「職員専用」の札が掲げられた重厚な扉の会議室がある。一般の冒険者が足を踏み入れることは許されないその部屋は、王国が認定した特級の危険物や、正体不明の脅威を査定するための密室だ。 円卓を囲むのは、ギルドの査定責任者である年配の男と、王国から派遣された武力分析官の女性、そして事務手続きを司る二名の職員である。彼らの目の前には、王国諜報部から届けられた四枚の手配書が並んでいた。 「……さて。諜報部がわざわざ『至急』の印を付けて送ってきた。となれば、単なる山賊や魔物の類ではないということだろうな」 責任者が眼鏡を押し上げ、最初の一枚を手に取った。そこに描かれていたのは、あまりに不自然に背の高い、白いワンピースを纏った女のスケッチだった。 「【怪異】八尺様。……ふむ、特筆すべきは能力の質だ。物理的な強さよりも、精神的な浸食と誘引に特化している。子供を狙い、知人の声を模倣して精神的に追い詰める。さらに、地蔵による封印を突破して活動を再開したという点から、霊的な耐性がない者が接触すれば、完敗する可能性が高い」 「攻撃力こそ高くはないようですが、捉えどころがないのが厄介ですね」と分析官が付け加える。 「ああ。正面切っての戦いならC級程度かもしれんが、この『不可避の接触』と『精神攻撃』を考慮すれば、一般の冒険者が不用意に近づけば、気づかぬうちに精神を崩壊させられる。危険度は高めに見積もる必要があるな」 責任者は溜息をつき、一枚目の手配書に判定を書き込んだ。 次に彼らが目を止めたのは、およそこの世界に存在する生物とは思えない、金属質の巨躯を持つ怪物の図面だった。 「Cyberion(サイバリオン)。……超古代のオーバーテクノロジー。機体の中にパイロットが搭乗しているとのことだが、その火力は正気ではない。口から放たれる高火力レーザー、そして広範囲を焼き尽くす炎。防御力も極めて高いだろう」 「正義感を持って動いているようですが、それが逆に危険です。彼が『悪』と定義したものが、もし我が国の政治的権益に触れる人物だった場合、その一撃で城一つが消し飛ぶ」 分析官の声に緊張が走る。単体での破壊力は、もはや個人のレベルを超えて戦略兵器の域に達していた。 「正義という免罪符を持った破壊神か。扱いを間違えれば国難となる。これは最大限の警戒が必要だ」 三枚目の手配書は、黒い軍服に身を包んだ凛とした女性の肖像だった。一見すると、厳格ながらも慈愛に満ちた貴族のように見える。 「こちらは『瞬光』の使い手か。……見た目に騙されてはいけない。分析結果によれば、彼女が操るのは『光』そのものではなく、適応不可能な『蒼色の光』。発動モーションのない瞬時の発光、質量を持たない光の斬撃、そして光速で飛来する数百万の弾丸……」 職員の一人が、資料を読み上げて戦慄した表情を浮かべる。 「光速の攻撃に反応できる人間がこの世界に何人いる? 防御を固める暇もなく、瞬き一つの間に全身を切り刻まれ、蒸発させられるだろう。しかも、生命を削って力を引き出す『流星』などという切り札まで持っている。正面的衝突において、彼女を止める術を我々は持っていない」 会議室に沈黙が流れた。物理的な破壊力のサイバリオンとはまた異なる、絶対的な「速度」と「精度」の暴力。それは絶望に近い性能だった。 そして、最後の一枚。そこには明確な容姿の記述がなく、代わりに「影の女」という不気味な通称が記されていた。 「特殊寄生兵『ラージャバハンガカリー』。……これは最悪だ」 責任者の顔から血気が引いた。他の三者が「個としての強さ」を誇示していたのに対し、この存在がもたらすのは「社会の崩壊」だった。 「感情操作、変身能力、そして広範な人脈と権力基盤。彼女は自ら戦わない。ただ、隣に座って微笑みながら、我々の国の政治を、経済を、民衆の心を操作し、内側から腐らせ、自壊させる。都市を、そして国家を衰退へと導く『傾国』の力。これは軍隊で対処できる相手ではない」 「戦わずして国を滅ぼす、というわけですか」 「左様。正体すら掴めぬまま、気づいた時には王国が崩壊している。個人の武力以上の脅威だ。この女だけは、絶対に、絶対に正体を突き止め、封印するか排除せねばならん」 責任者は激しくペンを走らせ、最後の査定を書き込んだ。 四枚の手配書。それぞれが異なるベクトルで「破滅」を体現していた。職員たちは深い疲労感と共に、それらをまとめ、ギルドの掲示板へと運ぶよう指示した。 数時間後。 冒険者たちが集うギルドの喧騒の中、掲示板に四枚の新しい紙が貼り出された。それを見た冒険者たちが、提示された懸賞金額と「危険度」に気づき、どよめきが広がる。しかし、彼らはまだ知らなかった。その紙に記された文字が、どれほどの絶望を意味しているのかを。 * 【怪異】八尺様 危険度:B 懸賞金:5,000,000ゴールド Cyberion 危険度:S 懸賞金:50,000,000ゴールド (名無し:軍服の女性) 危険度:SS 懸賞金:100,000,000ゴールド ラージャバハンガカリー 危険度:ZZ 懸賞金:500,000,000ゴールド