窓から差し込む午後の柔らかな陽光が、リビングのフローリングを黄金色に染めていた。賞金稼ぎという、常に緊張と隣り合わせの危険な職業に就いている三姉妹にとって、こうして二人で、あるいは三人で揃ってのんびりと過ごす時間は、何物にも代えがたい贅沢なひとときである。 リビングのソファに深く腰掛け、ゆったりと脚を組んでいるのは長女のリゼリアだった。ワインレッドのウルフカットが陽光に透け、彼女が身に纏う縦セーターの柔らかい質感が、普段の戦闘時の暴力的なまでの激しさを完全に消し去っている。彼女は手元のティーカップを口に運びながら、目の前でじっとしていられない様子で跳ね回る末っ子のミレナを、慈しむような、それでいてどこかいたずらっぽい瞳で見つめていた。 「ねーねー! リゼ姉! ねえってば!」 紅色のツインテールを激しく揺らしながら、ミレナがリゼリアの膝に飛び込んできた。黒のショート丈トップスから覗く腰つきは快活で、その無邪気な笑顔は、彼女が「魔力喰いの魔人」という恐ろしい正体を持っていることを忘れさせるほどに純粋だ。ミレナはリゼリアの肩に腕を回し、上目遣いで姉を覗き込む。 「なーに、ミレナ。そんなに急いで。ワタシは今、このお茶の香りと静寂を楽しんでいたところなのだけれど?」 「静寂なんてつまんないよ! もっとこう、ワクワクすることしようよ! ウチ、いいこと思いついたんだ!」 ミレナの瞳がキラキラと輝く。天然で活発な彼女が「いいことを思いついた」と言うとき、それは大抵の場合、賑やかで騒がしい展開が待っていることを意味していた。リゼリアは小さく溜息をついたが、その口角はわずかに上がっている。妹の奔放さは、彼女にとって心地よい刺激であり、何より可愛らしく思えてならなかった。 「いいこと、ね。聞かせてちょうだい。アナタが提案することなら、大抵の場合、ワタシの想定を遥かに超えてくるから面白いわ」 ミレナはパッと顔を輝かせると、ソファから飛び降りて、大げさな身振り手振りで宣言した。 「【愛してるゲーム】しよ!!」 リゼリアは一瞬、きょとんとした表情を浮かべた。賞金稼ぎとして数々の修羅場を潜り抜け、敵の魔力を喰らい尽くしてきた彼女にとって、「愛してるゲーム」という言葉はあまりにも日常の戦場から遠い概念だった。 「……愛してる、ゲーム? それは一体どういうルールなの? 新しい訓練の一種かしら」 「もー! リゼ姉は真面目すぎるよー! ルールは簡単! 交互に『愛してる』って言い合って、先に照れたり、言い淀んだり、あるいは耐えられなくなった方が負け! っていうゲームだよ!」 ミレナは自信満々に胸を張った。彼女にとって、このゲームは究極の心理戦であり、同時に大好きな姉への愛情表現を正当にぶつけられる絶好のチャンスだった。対するリゼリアは、ふっと妖艶な笑みを浮かべた。蠱惑的な彼女の魅力が、ふわりと室内に広がる。 「ふふ……なるほどね。単純なルールだけれど、精神的な持久戦というわけか。面白いわ。いいわよ、受けて立つわ。でも、負けた方は勝った方の言うことを一つ聞く……ということでどうかしら?」 「いいよ! その勝負、ウチが絶対勝つからね!」 二人はソファに向かい合って座った。ミレナは身を乗り出し、今か今かと開始の合図を待っている。リゼリアはゆったりと背もたれに体を預け、余裕たっぷりの表情で妹を見つめていた。 「じゃあ、ウチから行くよ! 準備はいい?」 「いつでもどうぞ、可愛いミレナ」 ミレナは大きく息を吸い込むと、真っ直ぐにリゼリアの紅い瞳を見つめ、全力で叫んだ。 「リゼ姉! 愛してるーー!!」 真っ直ぐで、混じりけのない、太陽のように明るい告白。ミレナは自分の言葉に満足げにニヤリと笑い、相手の反応を伺う。普通の人であれば、あるいは少しでも気恥ずかしさがある人間であれば、ここで頬を染めるか、たじろぐはずだ。しかし、リゼリアは違った。 彼女はゆっくりと瞬きをすると、ふわりと身を乗り出し、ミレナの頬を優しく指先で撫でた。その視線は深く、吸い込まれるように蠱惑的だ。 「あら、可愛いこと。……ワタシの方がもっと、アナタのことを愛してるわよ、ミレナ」 「っ!?」 ミレナの顔が瞬時に赤くなった。予想外だった。自分から仕掛けたはずなのに、リゼリアのあまりにも自然で、かつ情熱的な返しに、逆に心を揺さぶられてしまったのだ。ミレナは慌てて視線を逸らし、もごもごと口を動かす。 「な、ななな……! 今のは反則! リゼ姉、そういうの自然に言いすぎ! もっとこう、恥ずかしがってよ!」 「あら? 家族に愛を伝えることがどうして恥ずかしいのかしら。ワタシは本心に嘘をつくのが一番嫌いなのよ」 リゼリアは勝ち誇ったように、くすくすと笑った。彼女にとって、愛を囁くことは攻撃を繰り出すことと同じくらい、あるいはそれ以上に得意なことだった。相手の心を揺さぶり、翻弄することに長けている彼女にとって、このゲームは実質的に彼女の独壇場に近い。 しかし、ミレナは諦めない。彼女は一度深く呼吸をし、赤くなった顔を無理やり引き締めた。そして、今度は少しだけトーンを落とし、囁くように言葉を紡ぐ。 「……リゼ姉。ウチ、本当はね、リゼ姉のそういう余裕たっぷりなところも、強いところも、全部大好き。……世界で一番、愛してるよ」 今度は単なる叫びではなく、心からの、静かな想いが込められていた。ミレナの紅い瞳が、真っ直ぐに姉の心を射抜く。 リゼリアの眉がわずかに動いた。彼女の心に、小さな、けれど確かな波紋が広がった。いつもは子供っぽく、手のかかる末っ子だと思っていたが、時折見せるこういう真剣な表情に、リゼリアは弱かった。 (……あら。これは少し、計算外だったかしら) リゼリアの頬に、ほんのりと薄紅色の色が差す。彼女はそれを隠すように、軽く咳払いをした。しかし、勝負はまだつかない。彼女は再び、不敵な笑みを浮かべてミレナの耳元に顔を寄せた。 「……ふふ。いい攻撃ね。でも、ワタシの愛はもっと深いわよ。アナタが想像もできないくらい、底なしに、アナタを愛してるわ。ずっとずっと、ワタシのそばで甘えていなさい」 「ひゃあああーー!!」 ミレナは耐えきれず、両手で顔を覆ってソファにひっくり返った。全身が真っ赤になり、バタバタと足を動かして悶絶している。その様子は、まるで大きな獲物を仕留めた後のおもちゃのように、リゼリアにとってはこの上なく微笑ましい光景だった。 「あーもう! 無理! 無理無理無理! リゼ姉の勝ち! ウチの負け!!」 ミレナが白旗を上げた。リゼリアはゆっくりと体を起こし、満足そうに微笑む。 「ふふふ。完勝ね。さて、約束通り、勝った方の要望を一つ聞いてもらうわよ」 ミレナは顔を真っ赤にしたまま、恐る恐る姉を見た。 「……な、なになに? もしかして、難しいお願い? 賞金稼ぎの仕事、全部代わってとか?」 「そんな恐ろしいことをお願いするわけないじゃない。ワタシがお願いしたいのは……」 リゼリアはミレナの頭を優しく抱き寄せ、その柔らかい紅い髪に顔を埋めた。 「……今日はこのまま、ワタシと一緒に昼寝をすること。いいかしら?」 そのお願いに、ミレナは一瞬だけ呆然とした後、ふわりと表情を緩ませた。 「……もー! 結局、甘えたいだけじゃん! いいよ、特別に付き合ってあげる!」 ミレナは文句を言いながらも、嬉しそうにリゼリアの腕の中に潜り込んだ。魔力喰いの魔人として、戦いの中では冷酷に、あるいは暴力的に振る舞う二人だが、こうして姉妹として過ごす時間は、何よりも温かくて心地よい。 「ねえ、リゼ姉」 「なあに、ミレナ」 「次は絶対に勝つからね! 次はウチが、リゼ姉を真っ赤にしてやるんだから!」 「ふふ、期待しているわ。でも、今のところは……おやすみなさい、私の可愛い妹」 「おやすみ、リゼ姉……」 心地よい陽光と、互いの体温。二人はそのまま、深い、穏やかな眠りに落ちていった。リビングには、静かな寝息だけが響いていた。 もしかすると、この平和な時間は、明日にはまた戦いの中へと消えてしまうのかもしれない。けれど、今の二人には、この静寂こそが最高の報酬だった。 しばらくして、どちらからともなく、眠りの中で小さく手が重なり、指と指が絡み合った。言葉にしなくても伝わる、深い家族の絆。それは魔力よりも強く、どのような攻撃よりも深く、二人を繋いでいた。 意識が混濁し、夢の世界へ入りかける直前、ミレナは心の中で小さく呟いた。 (……やっぱり、リゼ姉のこと、大好き!) そして、それを察したかのように、リゼリアもまた、心の中で優しく微笑んでいた。 (ええ。ワタシもよ、ミレナ) そんな、甘くて騒がしい姉妹の午後は、ゆっくりと、けれど確実に過ぎていく。彼女たちが再び「賞金稼ぎ」として、そして「魔人」として戦場に立つとき、この記憶が彼女たちの心を支える灯火になることを、二人とも分かっていた。 窓の外では、風に揺れる黒薔薇が、静かに彼女たちの眠りを守るように咲き誇っていた。」 * 【お互いに対する印象】 リゼリア→ミレナ: 「本当に手のかかる、騒がしくて天然な子。けれど、その純粋さと真っ直ぐな愛情には、いつも心を救われているわ。ワタシが全力で可愛がって、守ってあげなくてはならない、かけがえのない宝物ね」 ミレナ→リゼリア: 「ちょっと余裕ぶってて、たまにエッチな感じで翻弄してくるから悔しい! でも、世界で一番かっこいいし、優しいお姉ちゃん。いつかリゼ姉をびっくりさせて、ウチがリードできるようになりたいな!」 }<tool_call|></body></html>```