第一試合:市街地 崩れかけたビル群の間を、ブルーハミングは四脚を低く折りたたみ、音を殺して進んだ。四機のハッチョーボリが周囲の景色を映し、機体の輪郭を街並みに溶け込ませている。完全に姿を消すわけではない。動けば投影の綻びが生まれ、破片や粉塵が舞えば位置を悟られる。それでも、遮蔽物の多い市街地はロッシュに有利な戦場だった。 向かいの大通りをふさぐように、ケイタロウのグスタフ・ドーラが立つ。機体というより、砲に短い手足を取り付けた姿だ。胸部の短砲身砲はおよそ五メートル口径。背面のロディバレルはまだ接続されている。肩の弾倉には六発。装填には時間がかかり、射撃の反動は巨体を吹き飛ばすほどだが、前面装甲と砲身は頑強だった。 最初に動いたのは、どちらでもない。両者とも敵の全容を見極めようとした。ブルーハミングはビルの陰から二挺のライフルを交互に撃ち、弾道を変えてドーラの側面を探る。弾丸は装甲を貫けない。だが着弾の音と火花は、巨体の向きや足場を測る手がかりになる。ケイタロウは砲口を向けるが、映像に映るのは崩れた壁と舞い上がる粉塵ばかりだった。 ロッシュは無理に撃ち合わず、ステルス壁板を使って射線を切る。ビルの窓から窓へ移動し、時折、両肩のシュレッドブラスターを撃ち込んだ。臼砲弾がドーラの周囲に着弾し、道路をえぐり、瓦礫を浴びせる。装甲そのものには大きな損傷がない。しかし狙いは撃破ではなく、ケイタロウに照準を乱させ、足元を崩すことだった。 ケイタロウは一発目を撃った。核弾頭クラスの弾頭が、ビルの谷間を轟音で飛ぶ。発射反動でグスタフ・ドーラは後方へ吹き飛び、舗装を削って建物の残骸に激突した。弾はロッシュのいた一帯を消し飛ばしたが、ブルーハミングはすでに壁板を囮にして別の通りへ移っていた。爆風が四機のうち一機を巻き込み、投影像が一瞬だけ乱れる。ロッシュは無傷ではないが、直撃は免れた。 ケイタロウはクレーンを動かし、再装填を始める。弾倉の残りは五発。装填中は即座に次弾を撃てず、機体も反動で乱れた姿勢を戻す必要がある。そこへロッシュが踏み込んだ。二挺のライフルが砲身の継ぎ目や関節を狙い、シュレッドブラスターが砲の側面を打つ。決定打にはならないが、装填を中断させるには十分な圧力だった。 ケイタロウは砲口を盾にしながら、短い手足で瓦礫を押しのけた。接近を許せばタックルがある。ロッシュもそれを承知し、正面に留まらない。ビルの柱を回り込み、投影像を散らして位置を曖昧にし続けた。グスタフ・ドーラの鈍重さは、遮蔽物だらけの戦場では明確な弱点だった。 二発目は、ロッシュが臼砲を撃った直後に放たれた。ケイタロウは着弾の閃光を照準の手がかりにし、粉塵の中へ砲弾を叩き込む。ロッシュは退避に成功したものの、爆発でビルの一角が崩れ、ブルーハミングの後脚と壁板一機が瓦礫に挟まれた。光学迷彩は崩れ、機体の位置が露わになる。 だが、直後にロッシュはアサルトアーマーを起動した。機体中心から放たれた爆発が周囲へ広がり、飛来していた砲弾や瓦礫を消し飛ばす。ドーラの砲弾そのものを迎撃したわけではないが、近距離に迫っていた弾片と追加攻撃を払い、爆発波がグスタフ・ドーラにも届いた。正面装甲は持ちこたえた一方、側面の脚部が損傷し、巨体は片膝をつく。 ロッシュは壁板を失い、脚部にも損傷を負った。高速で距離を取る余裕はない。ケイタロウはこの機を逃さず、ロディバレルを切り離して機体を前進させた。長砲身を格闘武器のように振るい、ブルーハミングを瓦礫から引きずり出そうとする。ロッシュは二挺のライフルを砲身に撃ち込み、シュレッドブラスターを至近距離で放つ。砲身は傷つくが、折れない。 ケイタロウは残った脚で踏み込み、タックルを仕掛けた。ロッシュは横へ逃れるものの、後脚が崩れた壁に引っかかり、完全には避けきれない。グスタフ・ドーラの巨体がブルーハミングを押し潰すように壁へ叩きつけた。ロッシュはアサルトアーマーを再使用できず、機体の胴体は大破。ライフルの射撃も止まった。 ケイタロウ側も無傷ではない。脚部は損傷し、短砲身砲を撃ち切る余裕もない。それでもブルーハミングの操縦系は破壊され、ロッシュは戦闘続行不能となった。狭い市街地でのステルスと攪乱は強力だったが、砲撃を二度浴びて退路を失ったことが決定的だった。 第一試合の勝者:ケイタロウ(チームA) 第二試合:山岳地帯 急斜面の岩肌には、雨でぬかるんだ泥が厚く張りついていた。グスタフ・ドーラにとっては、巨体を支えるだけでも難しい地形だ。射撃反動で後退すれば、斜面を滑落しかねない。一方、ブルーハミングは四脚の軽量機で、足場の選択肢は多い。ただし泥沼に足を取られれば、その機動性も損なわれる。 ロッシュはハッチョーボリ四機を谷の両側へ散らし、景色を投影させた。山肌に機体の輪郭を紛れ込ませ、静音駆動で高所を回る。ケイタロウは砲口を山腹へ向けたまま、前面装甲を盾にして進む。目視での発見は難しく、音も斜面に反響して方向が定まらない。 ロッシュは高所からライフルを撃ち、泥を跳ね上げてドーラの足元を狙った。弾丸が装甲に通らなくても、斜面の軟らかい地面を削れば姿勢を崩せる。続けてシュレッドブラスターを発射。臼砲弾が着弾して泥と岩片が飛び散り、グスタフ・ドーラの片脚が沈んだ。 ケイタロウは反撃の一発を選ぶ。斜面の上方に見えた投影像へ撃ち込むと、砲声が谷を震わせた。反動で機体は後ろへ滑り、砲弾は映像を映していた壁板一機を破壊しただけだった。爆風と崩落がロッシュの退路を塞ぎ、投影の一部が消える。ロッシュは横方向へ移動し、残る壁板で姿を隠した。 弾倉は五発になり、再装填には時間がかかる。ケイタロウはクレーンを動かす間、砲身を斜面へ突き立てて転倒を防いだ。ロッシュはその隙に下方へ回り、ライフルを脚部の関節へ集中させる。装甲を破る威力はなくても、同じ箇所を撃ち続ければ可動を阻害できる。シュレッドブラスターの砲弾も泥を崩し、ドーラの足場を削った。 再装填を終えたケイタロウは、砲撃ではなく機体の向きを変えた。正面装甲をロッシュの射線へ向け、短砲身砲を地面すれすれに発射する。砲弾は直接命中しなかったが、爆発が斜面の泥を大きく崩し、ロッシュの進路を横切る土砂崩れを起こした。ブルーハミングは四脚で踏ん張るが、後脚が泥に沈み、壁板の一機が流される。 ロッシュはアサルトアーマーを起動し、周囲に広がる爆発で土砂と飛来物を払った。機体を囲む防壁ではなく、機体中心からの一時的な広範囲爆発だ。崩落に巻き込まれる寸前で姿勢を立て直せたものの、壁板がさらに二機失われた。擬似光学迷彩は実質的に機能を失い、ブルーハミングの位置が見える。 ケイタロウは砲撃を続けず、残弾を温存して接近を選んだ。ぬかるみを進むたびに巨体は沈むが、砲身と前面装甲が岩を押しのける。ロッシュはライフルと臼砲で迎撃し、ドーラの脚部を狙う。弾丸は装甲を削り、臼砲弾が肩に当たって機体を揺らす。ケイタロウは二度目の発射反動を利用し、後退する勢いを斜面下への加速に変えた。 グスタフ・ドーラは泥を滑りながら前進し、ブルーハミングへ体当たりする。ロッシュは横へ跳ぶが、四脚のうち一脚が泥に取られて動きが遅れた。巨体が肩から衝突し、ブルーハミングは岩壁へ押しつけられる。機体はまだ動く。ロッシュは至近距離でシュレッドブラスターを撃ち、爆発がドーラの側面装甲をへこませた。 ケイタロウは砲を撃つ間合いを得られない。代わりに短い手足で機体を押し込み、砲身を横に振ってブルーハミングの胴体を打つ。ロッシュはライフルを撃ち続けるが、腕部と照準装置が衝撃でずれていく。泥に沈んだ後脚は抜けず、機体の姿勢が崩れた。 最後にケイタロウは、砲身を支点にして体重をかけた。ブルーハミングの胴体が岩壁に押し込まれ、操縦系統が破損する。ロッシュは脱出も反撃もできず、機体は停止した。ケイタロウのグスタフ・ドーラも脚部と側面装甲を損傷し、すぐに次の戦闘へ出られる状態ではない。しかしこの試合の決着はついた。 山岳地帯ではロッシュの機動性と高所からの射撃が有効だったが、土砂崩れで遮蔽と足場を同時に失い、最後は泥がブルーハミングの逃げ足を奪った。ケイタロウは砲撃の反動を移動に転用し、接近戦へ切り替えたことが勝因となった。 第二試合の勝者:ケイタロウ(チームA) 第三試合:海上 遮蔽物のない海上には、強風と白波だけがあった。遠くまで見通せる環境では、ブルーハミングの光学迷彩は周囲に紛れる景色を欠く。四機のハッチョーボリは海面と空を投影できるが、波の動きや風に舞う飛沫とのずれを完全には隠せない。反対に、グスタフ・ドーラも足場のない海上では射撃反動を制御しにくく、巨体を支えるための安定性が乏しい。 ケイタロウは機体を浮かべるため、背面装備を長砲身のまま固定し、砲口を海面からわずかに上げた。ロッシュは四脚を広げ、波の上下動に合わせて姿勢を保つ。静音駆動の利点は風音に薄れるが、軽量機の機動性はなお優れていた。 戦闘開始と同時に、ロッシュは二挺のライフルを連射した。弾丸はドーラの前面装甲を傷つける程度だが、強風の中でも射撃を続け、姿勢制御を乱す。両肩のシュレッドブラスターは臼砲弾を放ち、海面に水柱を立てた。着弾の波がグスタフ・ドーラを横から揺らし、照準がずれる。 ケイタロウは反撃する。最初の砲弾は、投影像ではなく水柱の位置と波の動きからブルーハミングの進路を予測して撃たれた。砲弾は海面を抉り、巨大な水柱を立てる。ロッシュは射線から機体を外したが、爆風と飛沫を受け、壁板一機を失った。発射反動でグスタフ・ドーラも大きく後退し、浮力を保つための姿勢が崩れる。 ロッシュは追撃を急がず、波の陰を利用して距離を横へずらす。だが隠れる場所はなく、ケイタロウもその動きを見失わない。二挺のライフルと臼砲が交互に飛び、前面装甲へ火花を散らす。ドーラは前方を向け続けて耐えるが、側面を向ければ致命的な部位を晒すため、旋回が遅れる。 二発目の砲弾を装填する間、ケイタロウはクレーンを操作しながら機体を波に乗せる。ロッシュはその隙を逃さず、臼砲を連続して撃ち込んだ。水柱が左右に上がり、衝撃波がドーラの姿勢をさらに乱す。弾倉は六発から五発へ減り、再装填の間隔はロッシュに攻撃機会を与える。それでもロッシュの通常火器だけでは、装甲を短時間で破壊できない。 ケイタロウの二発目は、ロッシュが次の臼砲を構えた瞬間に放たれた。弾道は強風でわずかに逸れたが、ブルーハミングの進路を塞ぐ位置で爆発した。ロッシュはアサルトアーマーを起動。機体中心からの爆発が砲弾の破片と水塊を吹き散らし、ブルーハミングへの直撃を防ぐ。爆発波はグスタフ・ドーラにも達し、海上の機体を大きく揺さぶった。 アサルトアーマーによってロッシュは直撃を避けたが、壁板は残り一機となり、擬似光学迷彩はほぼ消えた。ケイタロウの機体は波間で回転しかける。反動を利用して体勢を戻すものの、砲身を敵へ向け直すには時間が必要だった。ロッシュはこの機会に接近し、ライフルを砲の接続部へ撃ち込む。 ケイタロウは砲撃を避けられない距離まで詰められる前に、長砲身を切り離した。ロディバレルを横に振り、ブルーハミングの進路を遮る。ロッシュは機敏に回避し、シュレッドブラスターを近距離で撃った。爆発がドーラの肩を損傷させ、クレーンの動きが鈍る。ケイタロウは次の装填を断念し、タックルに切り替えようとするが、足場のない海上では踏み込みが効かない。 ロッシュは四脚の推進力を使って横へ回り込み、ライフルを側面へ集中させた。前面装甲はなお健在だが、側面の姿勢制御装置が損傷し、ドーラは波に押されて大きく傾く。ケイタロウは砲身を振るい、ブルーハミングを一度は弾き飛ばした。しかし反動で自身も回転し、砲口を再びロッシュへ向けられない。 ロッシュは距離を取り、残る臼砲弾を撃ち切る。爆発は側面と背面に相次いで命中し、グスタフ・ドーラの姿勢制御を完全に破壊した。機体は横倒しに海面へ沈みかける。ケイタロウは最後の抵抗として体当たりを試みるが、推進も踏み込みも不足し、ブルーハミングへ届かない。ロッシュはライフルで砲身の接続部を撃ち、機体の攻撃能力を封じた。 グスタフ・ドーラは沈み、ケイタロウは戦闘続行不能となる。ロッシュのブルーハミングも肩部と壁板を失い、軽微とは言えない損傷を負ったが、機動性を維持して決着を取った。遮蔽物のない海上では、ロッシュの隠密能力は大きく制限された。それでも、ドーラの砲撃反動と足場の悪さがより深刻な制約となり、接近後の側面攻撃が勝敗を分けた。 第三試合の勝者:ロッシュ・スノーデイル(チームB) 総合結果 ケイタロウ(チームA)が二勝、ロッシュ・スノーデイル(チームB)が一勝。 総合勝者:チームA(ケイタロウ)