空は血のような朱色に染まり、絶え間ない砲撃音が大地を震わせていた。 峻険な崖の上にそびえ立つ白銀の要塞。そこを包囲するのは、最強の剣技を冠する男、【剣聖】葦名一心率いる攻城軍である。城壁の外側には、巨大な投石機と火砲が並び、絶え間なく城壁へと火の雨を降らせている。崩落する石材、舞い上がる土煙、そして絶叫。戦場は地獄の様相を呈していた。 城壁の最上段。そこに立つ男がいた。ディオ・フェンス。白銀の防鎧に身を包み、「記憶の大盾」を静かに地面に突き立てた男は、眼下の混沌を冷徹な眼差しで見つめていた。 「……来ますか」 ディオの声は静かだったが、その精神は研ぎ澄まされていた。彼は知っている。相手はただの武芸者ではない。あらゆる流派を飲み込み、進化し続ける怪物であることを。 その時、城門の前で爆音と共に煙が上がり、一人の男が姿を現した。青い和服に金の兜。その手には大槍が握られている。圧倒的な威圧感。彼こそが、攻城軍の総大将、葦名一心である。 一心は不敵な笑みを浮かべ、天を仰いで叫んだ。 「来い!ディオ・フェンス!!!」 その声は砲撃の轟音をさえ突き抜け、城壁の上のディオに届いた。一心の合図と共に、攻城兵器による最大出力の斉射が開始される。巨大な火球と石礫が城壁を襲うが、ディオは動じない。彼は「記憶の大盾」を前方に掲げた。 「不滅の畏れ」 不可視の壁が展開され、降り注ぐ砲撃の数々が、まるで運命を拒絶するかのように軌道を逸らし、あるいは虚空へと消えていく。しかし、一心はそれを想定していた。彼は大槍を捨て、腰の打刀に持ち替えると、地面を蹴った。 ドォォォン!! 衝撃波と共に、一心は垂直に跳ね上がり、城壁の頂上へと舞い降りた。着地と同時に放たれた一撃。打刀が空気を切り裂き、ディオの盾を強襲する。 ガキィィィィン!! 激しい金属音が鳴り響き、周囲の瓦礫が衝撃で弾け飛ぶ。ディオは一歩も退かなかった。白銀の防鎧が火花を散らし、衝撃を吸収する。 「見事な踏み込みだ。だが、私の盾は揺るがない」 「ほう……。この一撃を正面から受け止めるとはな。面白い」 一心は冷酷に笑う。彼の心眼はすでにディオの構え、呼吸、そして鎧の継ぎ目までをも見抜いていた。一心は即座に戦法を変える。打刀から瞬時に銃へと持ち替え、至近距離から弾丸を連射した。 パァン!パァン!パァン! しかし、ディオの「歴戦の眼」がそれを捉える。最小限の動きで弾丸を回避し、あるいは盾の端で弾き返す。完璧な防御。だが、一心の真骨頂はここからだった。 「【弾き】」 ディオが反撃に転じ、盾の縁で一心を押し出そうとした瞬間、一心はあえて攻撃を誘い、絶妙なタイミングで刀を振るった。カチリ、という鋭い音と共に、ディオの攻撃のベクトルが完全に反転し、衝撃がそのままディオの腕に跳ね返った。 「ぐっ……!」 「迷えば、敗れる。貴殿の守りは堅いが、型に囚われすぎているな」 一心は間を置かず、次なる技を繰り出す。空気が震え、空間そのものが歪む感覚。時空を切り裂く絶技――【龍閃】! 閃光のような斬撃がディオを襲った。回避不能の速度。しかし、ディオは瞬時に「二段防御」を物理遮断形態に切り替えた。記憶の大盾が激しく鳴動し、斬撃を真っ向から受け止める。 ズガガガガァッ!! 盾に深い亀裂が入るほどの威力。だが、ディオの精神は不屈だった。「全ての許容」という強靭な意志が、肉体に走る衝撃を精神力でねじ伏せる。 「……この一撃、記憶した」 ディオが静かに呟く。スキル【目覚めの鼓動】。盾に蓄積された「龍閃」の衝撃と軌道が、光の粒子となって盾に集約されていく。 「【記憶再現・龍閃】!」 今度はディオ側から、先ほどの一心と同じ軌道の斬撃が盾から放たれた。完全なる模倣。一心はそれを心眼で察知し、神速の身のこなしで回避するが、その隙を逃さずディオは盾で押し潰そうと突進した。 「【完全反撃】!」 一心が放とうとした次の一撃を読み切り、その力をそのまま利用して突き飛ばす。もつれ合う二人の最強。城壁の上で、剣聖と守護者の激突が続く。 戦況は膠着していた。一心は戦えば戦うほど、ディオの防御パターンを模倣し、葦名流に取り込んで進化していく。一方のディオも、受ければ受けるほど、一心の攻撃を記憶し、それを最適化した形で跳ね返す。 時間が経過する。城下では攻城軍が次々と城壁を登り始めていた。援軍が到着するまで、あと僅か。ディオに勝ち筋は見えていた。耐え抜けば、勝利は自分たちのものだ。 だが、一心の瞳に宿る光が変わった。 「……いいだろう。貴殿の守護、見事であった。だが、この一撃だけは、記憶などという矮小な器には収まらんぞ」 一心はゆっくりと刀を納刀した。その瞬間、周囲の空気が凍りついたかのような静寂が訪れる。そして、次の瞬間――。 「【奥義:一心】!!」 爆発的な火炎が城壁全域を飲み込んだ。地獄の業火が天を突き、視界を完全に遮る。ディオは咄嗟に「究極防御援天」を発動させた。あらゆる攻撃を受け切り、それを蓄積して解き放つ無敵の態勢。白銀の盾が最大出力で展開され、襲い来る火炎と衝撃を全て飲み込んでいく。 (耐えられる……!あと少し、あと少しで援軍が……!) ディオは歯を食いしばった。盾に蓄積される負のエネルギーが限界に達しようとしている。これを解き放てば、一心を一撃で粉砕できるはずだ。 だが、火炎の渦の中から、音もなく「それ」は現れた。 神速を遥かに超えた連撃。火炎の中を、ただの一筋の線となって一心が舞う。一撃、二撃、十撃……。数えきれないほどの斬撃が、究極防御の壁を叩いた。 ガガガガガガガガッ!! 「何!? 防御を貫いているのか!?」 それは【葦名十文字】。あらゆる防御を完全貫通する神速の居合。究極防御の「壁」ではなく、その「内側」にあるディオの身体を直接斬り裂く一撃。さらに、連撃の最後の一撃が、ディオの心臓へと突き刺さる直前、一心は再び刀を納めた。 カチッ。 静寂。そして、ディオの鎧が、縦に真っ二つに裂けた。 「…………」 ディオは膝をついた。白銀の鎧は砕け散り、記憶の大盾は粉々に砕け飛んでいた。究極の防御を誇った男が、その防御を「前提」とした上で、それを超える速度と貫通力を持つ剣聖に敗れた瞬間だった。 遠くから、援軍の角笛が聞こえてくる。しかし、それはもう意味をなさなかった。城門は既に内側から開かれ、攻城軍が城内に雪崩れ込んでいた。 一心は静かに刀を鞘に収め、敗れた守護者に視線を向けた。 「迷えば、敗れる...」 ディオは血を吐きながらも、小さく笑った。 「……完敗だ。貴殿の技、そしてその執念……見事であった」 夕闇が降りる中、白銀の城は静かに陥落した。 【勝者:チームA(葦名一心)】