王国が管理する冒険者ギルドの奥深く。一般の冒険者は立ち入ることすら許されない『職員専用会議室』では、重苦しい沈黙と、それとは対照的な焦燥感が渦巻いていた。 円卓を囲むのは、ギルドの査定を司る四人の精鋭職員である。 一人目は、責任者のガラム(男)。厳格な性格で、元は王国騎士団の副団長を務めていた。口調は厳格な軍人風で、「規律と事実」を最優先する。彼は、このギルドにおける危険度判定の最終決定権を持つ。 二人目は、分析官のリリア(女)。膨大な魔導書と古文書を読み漁った天才的な知識人。口調は淡々としており、常に論理的な正解を求める。感情に左右されず、能力の相性を冷徹に分析するのが彼女の役目だ。 三人目は、現場調整役のゼノ(男)。元は凄腕の斥候で、数々の死線を潜り抜けてきた。口調は軽薄でぶっきらぼうだが、その直感は鋭い。机の上に足を乗せ、退屈そうに指を鳴らしている。 そして四人目は、記録係のミーナ(女)。若く、正義感に溢れる新米職員。口調は丁寧で控えめだが、時折、被害者の視点から人道的な危惧を口にする。彼女は王国諜報部から届いたばかりの機密書類を、震える手で整理していた。 「……さて」ガラムが低く唸るように切り出した。「王国諜報部から届いたこの四名の『手配書』。正気とは思えん能力ばかりだ。リリア、まずは一人目から分析を報告しろ」 リリアが、金髪で彫刻のように整った容姿の男が写る手配書を掲げた。 「一人目は『DIO』。英国出身の元人間、現在は吸血鬼と推測されます。特筆すべきは、彼が操る不可視の精神体『ザ・ワールド』です。攻撃力・速度共に極めて高く、さらに最大九秒間、自分以外の全ての時間を停止させる能力を有しています」 「時間を止めるだと?」ゼノが足を下ろし、身を乗り出した。「冗談だろ。回避不能、防御不能。そんなもんが出たら、冒険者は剣を抜く前に首が飛んでるぜ」 「その通りです。さらに彼は極めて傲慢な自信家であり、その精神的な強さが能力の精度を高めている。単独での制圧はほぼ不可能に近いでしょう」リリアが冷たく付け加えた。 ガラムは眉間に皺を寄せた。「時を止める吸血鬼か。国家転覆レベルの脅威だな。懸賞金は跳ね上がるだろう」 次にリリアが提示したのは、あまりにも不気味な、何の変哲もない中年の男の写真だった。 「二人目、【空っぽのおとこ】。……正直に申し上げまして、分析不能です。精神構造が完全に『空集合』。何も考えておらず、欲望すら希薄。しかし、その『空っぽ』な脳内世界を現実へと上書きする強力な現実改変能力を持っています。半径十キロメートルに及ぶ範囲を自身の世界に変え、そこでは彼が望むままに食料が湧き、生存が保証されます」 「待て、それだけならただの変な隠居老人じゃないか」ゼノが鼻で笑う。 「いいえ」リリアが静かに遮った。「彼が『何も考えていない』からこそ、外部からの干渉や精神攻撃が一切通用しません。彼に近づいた者は、いつの間にか『何も考えない世界』に取り込まれ、個としての意識を失う恐れがあります。本人は無害ですが、存在そのものが環境破壊的な災厄です」 ミーナが不安そうに口を開いた。「……彼に悪意がない分、捕らえる方法が見つからないのが一番怖いですね」 三枚目の手配書。そこには威厳に満ちた、しかしどこか慈愛を感じさせる魔族の女性が描かれていた。 「三人目、【正義の悪】光莉亜熊。魔界の頂点に立つ魔王です。光と闇の両属性を最高レベルで操り、全方位弾幕や広域破壊攻撃、さらには未来予知による回避と高い自己再生能力を持ち合わせています。戦闘経験は計り知れず、文字通り『軍隊一つ分』の戦力を一人で保持していると言っても過言ではありません」 「だが、報告書によれば人間との共存を望んでいるそうだな」ガラムが手配書を凝視する。 「ええ。侵略の意思はありません。しかし、彼女が本気で戦えば、王国の一都市が消滅するのは時間の問題です。彼女を刺激せず、いかにして対話のテーブルに着かせるかが重要になりますが、手配書として出す以上、その破壊力への警戒は最大級にすべきでしょう」 最後に、リリアが震える手で四枚目の手配書をテーブルに置いた。そこには、濃い緑色にベージュのボーダーが入った服を着た、奇妙な佇まいの人物が写っていた。 「……最後の一人。名前すら不明。ですが、この個体だけは『危険』という言葉では足りません。彼は、相手に『選択肢』を提示し、その回答次第で世界そのものにダメージを与える能力を持っています」 「世界にダメージ? 大げさなんだよ」ゼノが呆れたように言う。 「いいえ、事実です。諜報部の報告によれば、彼が特定の条件を満たした際、視界が赤く染まり、現実という概念そのものを『ナイフ』で切り裂いた事例が確認されています。彼にとって、この世界は一つの物語に過ぎず、それを『消去』する権限を持っている。戦うことさえ意味をなさない。彼が『世界を破壊しよう』と決めた瞬間、我々は存在しなくなります」 会議室に、凍りつくような沈黙が流れた。 ガラムは深くため息をつき、ペンを握った。「……正気ではないな。一人目は時間、二人目は空間、三人目は軍事力、そして四人目は因果そのものを破壊する。こんな連中を冒険者に追わせるなど、死刑宣告に等しい」 「ですが、放置すればいずれ王国が消えます」ミーナが消え入るような声で言った。 「分かっている。絶望的な額を提示し、世界中の狂った猛者たちを誘い出せ。誰か一人でもいい、彼らの足止めができる者がいればいい」 ガラムは、四枚の手配書にそれぞれの危険度と、国家予算を揺るがすほどの懸賞金額を書き込んだ。 その後、四人の職員は無言で廊下へ出た。ギルドの入り口にある、巨大な掲示板の前で。ガラムが手配書を一枚ずつ、強く叩きつけるように貼り付けていく。 街の喧騒の中、掲示板に貼られた四枚の紙が、風に揺れていた。それは、王国にとっての救いではなく、破滅のカウントダウンを告げる死神の招待状であった。 【手配書:査定結果】 1. DIO 危険度:SS 懸賞金:50,000,000ゴールド 2. 空っぽのおとこ 危険度:Z 懸賞金:100,000,000ゴールド(捕捉不可のため特例設定) 3. 光莉亜熊 危険度:S 懸賞金:30,000,000ゴールド 4. 名もなき破壊者(緑ボーダー) 危険度:ZZ 懸賞金:999,999,999ゴールド* (以上の手配書はギルド掲示板に掲出された)