地平線を埋め尽くすほどの大観衆。熱狂と期待に沸く巨大闘技場の中心で、対照的な二人の戦士が対峙していた。 一方は、漆黒のフルプレートアーマーに身を包んだ巨漢。聖骸騎士団団長、ガルガン・バルフレア。身の丈を超える超大型大剣「破岩」を地面に突き立て、不動の山のごとき威圧感を放っている。 対するは、色褪せた黒い着流しを纏った白髪の老人。トージロー。腰に二本の刀を差し、猫のように背を丸めてひょろひょろと歩く。その表情には緊張感など微塵もなく、むしろ退屈そうに欠伸を噛み殺していた。 「いやぁ、お前さん、でっかいねぇ! まるで歩く城壁だ。あーし、こんなに強そうな相手と戦うのは久しぶりで、ちょっと腰が抜けてしまいそうだよ」 トージローがひょうひょうとした口調で語りかける。ガルガンは厳格な面持ちで、兜の奥から鋭い視線を向けた。 「戯言はそこまでだ、老剣士よ。貴殿の身のこなし、ただ者ではないことは分かっている。騎士の誇りにかけ、全力で迎え撃とう」 互いに深く、敬意を込めた礼を交わす。それがこの闘技場の不文律であり、戦士としての矜持であった。合図と共に、静寂が切り裂かれた。 先手に出たのはトージローだ。彼は腰の鈍刀を抜き放ち、地を蹴った。その速度は常人の目には残像にしか見えない。一瞬でガルガンの懐に潜り込み、鋭い斬撃を繰り出す。 「一閃!」 空気を切り裂く鋭い音。しかし、鈍刀の刃はガルガンの胸当てに激突し、激しい火花を散らして弾かれた。ガチィィィン! という金属音が闘技場に響き渡る。 「……ほう? 鈍い刃なのに、この硬さを跳ね返せるとはねぇ」 トージローは空中で身を翻し、軽やかに着地した。ガルガンは眉ひとつ動かさず、重厚な大剣「破岩」をゆっくりと持ち上げる。 「防御こそが騎士の美徳。貴殿の速さは認めるが、私の鎧を抜くには至らぬ」 「あはは、厳しいねぇ。じゃあ、次はどうかな!」 トージローが再び加速する。今度は前後左右から目まぐるしく方向を変え、死角から絶え間なく「一閃」を叩き込む。しかし、ガルガンは最小限の動きで大剣を盾のように使い、すべての攻撃を完璧に弾き飛ばした。鉄と鉄がぶつかり合う高音が連射されるが、ガルガンの鎧には傷ひとつ付かない。 トージローの瞳から、ふざけた色が消えた。彼は悟った。この男の防御力は、自身の「一閃」で攻略できるレベルではない。鈍刀では、どれだけ速く斬っても、ただの鉄板を叩いているのと変わらない。 (おっと、これは想定外だ。お前さん、本当に岩みたいだねぇ) トージローは静かに、もう一本の刀に手をかけた。魔剣【次元斬】。 「さて、お遊びは終わりだ。ここからは、ちょっとだけ『本気』を出させてもらうよ」 トージローが【次元斬】を抜き放った瞬間、空気が凍りついた。彼が横一文字に刀を振るう。それは単なる斬撃ではなかった。空間そのものが、ガラスのようにバリバリと砕け、真っ二つに裂けたのである。 「なっ……!? 空間を斬ったというのか!」 ガルガンが驚愕に目を見開く。防御不能の超威力斬撃。ガルガンは咄嗟に大剣を構えたが、斬撃は鎧を、武器を、そして背後の地面までもが容易く両断した。しかし、ガルガンは直感的に身体を捻り、致命傷こそ免れたものの、衝撃で後方に大きく吹き飛ばされた。 だが、真の恐怖はその後にあった。 裂けた空間が閉じる直前、トージローの姿がふっと消えたのだ。 「消えた……? どこへ行った!」 ガルガンは周囲を警戒し、大剣を構えて全方位に意識を集中させる。しかし、そこには誰もいない。完全な空白。だが、騎士としての本能が告げていた。敵は消えたのではない。すぐそこに「いる」のだと。 異空間の中、トージローは静かに微笑んでいた。外の世界からは見えず、干渉もできない領域。彼はゆっくりと、無防備なガルガンの背後へと近づく。 (さーて、お別れだね、お前さん) トージローが異空間から突き出した。その瞬間、ガルガンの視界の死角から、次元を切り裂く一撃が放たれた。 ズガァァァン!! 必中の【次元斬】。それはガルガンの漆黒の甲冑の接合部を正確に捉え、衝撃波が騎士の巨体を突き抜けた。ガルガンは肺から空気を絞り出され、膝をつく。致命傷は避けたが、鎧は砕け、戦意を喪失させるほどの衝撃が全身を駆け巡った。 トージローがゆっくりと空間から戻り、刀を鞘に収める。「カチリ」という音が、静まり返った闘技場に響いた。 ガルガンは激しく喘ぎながら、ゆっくりと顔を上げた。敗北を悟った男の瞳には、悔しさよりも、相手への純粋な感嘆が宿っていた。 「……完敗だ。私の誇る防御を、その理外の技で打ち破るとは。見事であった、老剣士よ」 ガルガンはよろよろと立ち上がり、膝をついたまま、深く頭を下げた。 トージローは再び、いつもの飄々とした表情に戻り、肩をすくめた。 「いやいや、お前さんの壁、本当に凄かったよ。あーしも冷や汗かいたねぇ。お互い、いい汗かいたんじゃないかい」 トージローは歩み寄り、ガルガンの大きな手をしっかりと握った。強者同士にしか分からない、深い敬意がそこにあった。 観客席からは、地鳴りのような拍手が沸き起こる。勝者は決した。 【勝者:チームA トージロー】