紅葉が山肌を真っ赤に染め上げる季節。東洋の深山にひっそりと佇む老舗旅館「栄愛之湯」は、静寂と湯煙に包まれていた。そこに、およそこの静謐な空間に似つかわしくない面々が訪れる。 チームAのアイアン鉄雄は、ガシャンガシャンと金属音を響かせながら山道を歩いていた。185cmの巨体に黒い鎧、なびくマント。どう見ても中世の騎士かダークファンタジーの主役だが、本人は至って社会人である。愛用の盾製カバンを肩にかけ、「いやぁ、自然っていいっすね!仕事のストレス(正体不明)が消えていく気がします!」と元気いっぱいに叫んでいた。その後ろを、静かに、だが圧倒的な威圧感を纏ったジャスティスが歩く。彼は空間を蹴る爆速移動をあえて封印し、秋の景色を慈しんでいた。 一方、チームBの面々は賑やかだった。メイド服に重装備という出で立ちのアン・ノッドレスは、扇子で口元を隠しながら「おほほっ!このような辺境に老舗があるなんて、趣がありますわね。……チッ、道が狭くて重機関銃が肩に当たるわ」と、お嬢様口調と粗野な本性を交互に繰り出している。その後ろでは、赤髪の大柄な姉サールンが「もう、アンちゃんたら。たまにはゆっくりしましょう?」と包容力たっぷりに笑い、紫髪の妹ムールンがサールンの背中にすっぽりと隠れ、「……(温泉、入りたい)」と小声で呟いていた。 旅館に到着し、もくもくと煙草を燻らす経営主の婆さんにチェックインを済ませる。 「婆さん、よろしく頼むぜ!」と鉄雄が快活に挨拶し、ジャスティスが丁寧に一礼する。婆さんは鉄雄の全身鎧を見て、「あんた、脱がないのかい?」と呟いたが、鉄雄が「これが本体なんで!」と答え、婆さんは「最近の若いもんは個性が強いねぇ」と適当に流していた。 男女別々に分かれた大部屋。男部屋では、鉄雄が鎧のまま畳の上にどっかと座り、ジャスティスに近況を報告していた。 「いやー、金属2年目ってのは大変っすよ!何をしてる会社か分かんないですけど、とりあえず耐久力だけは自信ありますから!」 「君の精神的な強さは、ある意味で正義に近い。尊敬するよ」とジャスティスが真面目に答え、シュールな空間が流れる。 女部屋では、アンが軍用装備を丁寧にメンテナンスしながら、サールンたちと雑談していた。 「あらあら、サールンさん。ムールンちゃんも、たまには外に出て世界を広げなさいな。じゃないと、私みたいに『効率的に敵を蜂の巣にする方法』しか覚えませんわよ」 「ふふっ、アンちゃんは相変わらずね。ムールン、お菓子食べる?」 「……ん(もぐもぐ)」 そして、待ちに待った夕食後のひととき。男女同時に、紅葉が絶景の貸切露天風呂へと向かった。竹垣で仕切られた男女別々の空間だが、外には燃えるような紅葉が広がり、心身ともにリラックスした状態だった。 男風呂では、鉄雄が「うおー!いい湯だー!」と、鎧のまま(なぜか防水仕様)にどっぷりと浸かっていた。ジャスティスも目を閉じ、魂を癒していたその時である。 「ヒャッハァー!絶好のシャッターチャンスだぜえええ!!」 突如、壁を突き破って、パンツ一丁にゴーグル、そして頭髪が怪しく発光している男――タクティカルボーイが乱入してきた。手には超高性能スーパーカメラと、怪しげな「羞恥増幅器」が握られている。 「な、なんだお前は!?」鉄雄が驚いた瞬間、タクティカルボーイがスイッチを押した。羞恥増幅器が作動し、男風呂に強烈な「恥ずかしさ」の波動が広がる。ジャスティスが「なっ……私は今、全裸で……!!」と突然の羞恥心に襲われ、一瞬行動が止まった。 その隙を逃さず、タクティカルボーイが激写し始める。「いいぞ!鎧の中身がない男と、正義の塊の全裸!これは売れるぜ!」 だが、運が悪かった。彼が乱入した衝撃で、男女の露天風呂を隔てていた竹垣が、派手な音を立てて全壊したのである。 「きゃああああ!?」 向こう側で湯船に浸かっていたアン、サールン、ムールンの三人が、丸見えの状態に。現場は一気にパニックに陥った。 「てめええええ!!!!!ぶッコロォオおす!!!」 アンの怒号が響き渡る。彼女は反射的に、脱衣所に置いてあった重機関銃を(裸のまま)掴み、乱入してきたタクティカルボーイに向けて乱射を開始した。 「うおああ!女が銃を持ってる!タクティカルに回避だ!」 タクティカルボーイは素早い身のこなしで飛び跳ねるが、そこは露天風呂。濡れたタイル床である。彼が激しく動いた瞬間、「ツルッ!」と盛大に滑り、そのまま湯船に顔面から水没した。 「今だ!【激情のレクイエム】!!」 サールンが、ムールンの放った弾丸に飛び乗り、水面を滑るようにしてタクティカルボーイに急接近する。しかし、ここでも「濡れた床」が牙を剥いた。サールンは勢い余ってブレーキが効かず、ちょうど立ち上がろうとしていたアイアン鉄雄に激突した。 ガシャーーーーン!! 「ぶふぉっ!?」 鉄雄はサールンの巨体に押し出され、そのまま後方へ転倒。運悪く、彼の上に覆いかぶさる形でアンがダイブした。 「ちょっ、アンさん!?重いっす!というか、ここ裸ですよ!?」 「うるさいわね!今は敵を排除するのが先よ!……あら、意外といい感触ですわね(鎧なので)」 混沌は加速する。ジャスティスが「正義の名の下に裁く!」と空間を蹴って攻撃を仕掛けたが、足元の石鹸カスで足を取られ、盛大にスライディング。そのままムールンに衝突し、ムールンは「……ひゃっ」と声を上げて湯船に沈んだ。 「ひゃっはっは!みんなバラバラだぜ!最高の一枚を撮らせろ!」 タクティカルボーイが再びカメラを構えるが、そこへ怒り心頭のアンのナイフが飛んできた。しかし、そのナイフは滑った鉄雄の肩(鎧)に当たり、跳ね返ってタクティカルボーイのカメラレンズに直撃。 「ああっ!俺の最高傑作が!!」 絶望するタクティカルボーイ。そこへ、ようやく体勢を立て直したジャスティスが、未来の力を前借りした超速の正拳突きを叩き込んだ。 ドゴォォォン!! タクティカルボーイは、紅葉の山を越えて遥か彼方まで吹き飛ばされ、星になった。 ……静寂が訪れた。 壊れた竹垣。湯船に浸かり、互いに至近距離で、しかもほぼ全裸に近い状態で視線がぶつかり合う男女一同。鉄雄は鎧のままだが、アンやサールンとの物理的な接触の余韻で、顔(面甲)が赤くなっていた。 「…………あー、その。すみません」 鉄雄が気まずそうに呟くと、アンが急に淑女の顔に戻り、「あらあら、不可抗力ですわね」と、慌ててタオルで体を隠した。サールンは「もう、大変だったわね」と苦笑し、ムールンはただひたすら、ジャスティスの背中の筋肉をじっと見つめていた。 その後、彼らは共同作業で、壊れた竹垣をなんとか修復した。アイアン鉄雄がその圧倒的な耐久力(と力)で竹を固定し、ジャスティスが精密に組み上げる。完成後、彼らは婆さんの元へ行き、深々と頭を下げて謝罪した。 「本当にすみませんでした!」 婆さんは、壊れた箇所が(少し歪んでいるが)直っているのを見て、「まあ、いいよ。若いもんは元気でいいわね」と、呆れ顔で許してくれた。 その夜、それぞれの大部屋に戻った一行は、布団の中で考え込んでいた。 鉄雄は「俺、鎧着てたけど、なんか……心まで裸にされた気分だぜ」と天井を見つめ、ジャスティスは「正義とは、時に不測の事態に直面することだ……」と哲学的な瞑想に耽っていた。 アンは「あのバカ兄(タクティカルボーイ)……次は本当にバラバラにして差し上げますわ」と悔しがり、サールンとムールンは、なんだか不思議な連帯感に包まれながら眠りについた。 翌朝。チェックアウトを済ませ、旅館を出た彼らは、それぞれの帰路に着く。 「またいつか、来ましょうか」 ジャスティスが提案すると、鉄雄が「いいっすね!次はもっと防水のいい鎧を持ってきます!」と快活に笑った。アンは「次はちゃんと、装備を整えてからにしますわ」と毒づきながらも、どこか満足げだった。 秋の風が吹き抜け、彼らの心に刻まれた「混沌の温泉旅行」の記憶を、静かに運んでいった。