穏やかな陽光が降り注ぐ午後の公園。色とりどりの花々が咲き誇り、心地よい風が若葉を揺らしている。そこには、日常の静寂を享受する二人の姿があった。 一人は、シンプルな軽装に身を包んだ青年、ユウ。腰に巻かれたベルトが、彼が背負う使命と、かつてある少女を救い出した勇気の証である。そしてもう一人は、真っ白なワンピースに可愛らしい帽子を被った少女、アンナ。彼女の瞳には、かつて閉じ込められていた実験施設の暗い記憶がかすかに残っているが、今は隣にいる青年の存在が彼女の全てだった。 二人はベンチに並んで座り、ゆっくりと時間を過ごしていた。もともと臆病な性格のアンナは、周囲に人が少ないことを確認してから、そっとユウの袖を掴んだ。 「ねぇ、ユウ……」 「ん? どうした、アンナ」 ユウが優しく微笑みながら彼女を振り返る。その眼差しには、世界中の誰よりも大切なものを守り抜こうとする、揺るぎない慈しみが込められていた。 「……あのね、最近、本で読んだんだけど……。仲が良い人たちがやる、面白いゲームがあるんだって」 「ゲーム? 何か難しいやつか?」 「ううん、簡単だよ。……『愛してるゲーム』っていうの」 アンナは恥ずかしそうに帽子を深く被り直し、消え入りそうな声でそう言った。ユウはきょとんとした表情を見せた後、「愛してるゲーム?」と不思議そうに繰り返す。 「ええと……二人で向かい合って、『愛してる』って言い合うの。先に照れて笑ったり、言い直したりした方が負け……っていうルールみたい」 「ははは、なんだそれ。子供っぽいな」 ユウは快活に笑った。だが、その笑い声に促されるように、アンナの頬がぽっと赤くなる。彼女にとって、この言葉を口にすることは、実験施設にいた頃には想像すらできなかった、最高に贅沢で勇気のいる挑戦だった。 「……ユウは、できないの?」 上目遣いで見つめるアンナの視線に、ユウは不意を突かれた。彼女の純粋な瞳に見つめられると、どんな強敵に立ち向かう時よりも心拍数が上がる。彼は苦笑いしながら、頭を掻いた。 「いや、できないことはないけど……。俺たちがそんなことして、誰が喜ぶんだよ」 「私が……喜ぶから」 小さな、けれど確かな意志がこもった言葉。ユウは一瞬呆気にとられたが、すぐにその表情を柔らかく緩めた。彼は立ち上がり、アンナの前で膝をついて、彼女と視線を同じ高さに合わせた。 「わかったよ。アンナの願いなら、ヒーローとして叶えてあげなきゃな」 「……! うんっ」 二人は向き合った。周囲には静寂が広がり、遠くで鳥のさえずりが聞こえる。日常の、なんてことのない風景。けれど、この静寂こそが、ユウが命を懸けてアンナに与えたかった「当たり前の世界」だった。 「じゃあ、せーので行くぞ」 ユウが合図を送る。アンナは緊張で肩をすくませながらも、ぎゅっとスカートの裾を握りしめて頷いた。 「せーの……」 「「愛してる!!」」 同時に放たれた言葉。ユウの声は真っ直ぐで力強く、アンナの声は鈴が鳴るように儚く、けれど真心がこもっていた。 一瞬の沈黙が流れる。お互いの視線がぶつかり合い、火花が散る。本来であれば、ここでどちらかが照れて笑えば終わりだ。しかし、二人は止まらなかった。 (……負けられない。アンナが、こんなに勇気を出して言ってくれたんだから) ユウは心の中でそう誓った。彼はさらに一歩踏み込み、アンナの小さな手を優しく包み込んだ。 「愛してるよ、アンナ。ずっと、ずっと大切にする」 「っ……!!」 アンナの顔が、一気に真っ赤に染まる。予想以上の直球な言葉に、彼女の心臓は早鐘を打った。しかし、彼女もまた、譲るつもりはなかった。彼女はユウの胸にぽふっと顔を埋め、もごもごとした声で叫んだ。 「わたしも! わたしも、ユウのこと、世界で一番……愛してる!!」 その言葉に、今度はユウが不意を突かれた。普段の臆病な彼女からは考えられないほどの、真っ直ぐな感情の爆発。ユウの胸に、温かい熱いものが込み上げてくる。 「……あはは、完敗だ。アンナの方がずっと強いな」 ユウが心地よい敗北感を滲ませて笑うと、アンナは顔を上げて、いたずらっぽく、けれど幸せそうに微笑んだ。 「えへへ……私の勝ちだね」 「ああ。ご褒美に、帰りにアイスでも買ってやるよ」 「本当!? やったぁ!」 先ほどまでの緊張感はどこへやら、アンナは子供のように喜び、ユウの手を引いて歩き出した。その背中は、かつての絶望に塗り潰されていた日々などなかったかのように、光に満ち溢れている。 ユウは、隣で跳ねるように歩く少女を眺めながら、改めて思う。自分はヒーローとして戦う。変身し、強大な力を得て、敵をなぎ倒すためではなく。ただ、この小さな、震えるほど繊細な幸せを守り抜くためだけに。 もし、いつかまた彼女を脅かす闇が現れたとしても。たとえ彼女が絶望し、その身に眠る怪物としての因子が暴走してしまったとしても。自分は何度でも立ち上がる。彼女がくれた「愛してる」という言葉が、どんな強化スキルよりも、どんな必殺の一撃よりも、彼を強くさせるからだ。 「ユウ、早く! アイス、溶けちゃうよ!」 「わかってるよ。そんなに急がなくても逃げないって」 二人は手を繋いだまま、黄金色に染まり始めた街並みへと歩いていく。ベルトに触れる必要も、戦う必要もない。ただ、互いの体温を感じながら歩くこの時間が、彼らにとっての最高の勝利であり、至福の日常であった。 空には白い雲がゆっくりと流れ、二人の笑い声が穏やかな風に乗って、どこまでも遠くへと溶けていった。それは、残酷な運命に抗い、勝ち取った、世界で一番贅沢な「日常」という名の奇跡だった。 * 【お互いに対する印象】 ユウ $ ightarrow$ アンナ: 「世界で一番守らなきゃいけない、かけがえのない存在。臆病で危なっかしいけど、時折見せる強い心に、俺の方が救われている。彼女の笑顔のためなら、何度だって地獄からでも這い上がって戻ってくるよ」 アンナ $ ightarrow$ ユウ: 「暗闇から私を救い出してくれた、私のヒーロー。優しくて強くて、隣にいるだけで安心する。本当はすごく怖がりだけど、ユウの前でだけは、少しだけ勇気を出して、わがままな女の子でいたいな」