冒険者ギルドの影 王国首都の喧騒から少し離れた石畳の通りを進むと、冒険者ギルドの重厚な扉が現れる。木製の看板には剣と盾の紋章が刻まれ、無数の冒険者たちが日々出入りするこの場所は、王国の平和を支える要衝だ。ギルドの内部はいつも賑やかで、依頼の受注や報酬の受け取りで活気づいている。しかし、この日は少し違っていた。ギルドの奥深く、職員専用の会議室では、厳粛な空気が漂っていた。 会議室はギルドの二階に位置し、厚い木の扉と小さな窓が特徴の小さな部屋だ。壁には古い地図と過去の英雄たちの肖像画が掛けられ、中央の長いテーブルには蝋燭の灯りが揺れている。今日、ここに集まったのはギルドのベテラン職員たち四名。ギルドマスターのエルドリックは、灰色の髭を蓄えた五十代の男で、鋭い目つきが彼の経験を物語る。隣に座るのは受付長のミリア、三十代の女性で、細い眼鏡越しに書類を睨む姿は几帳面そのもの。向かい側には情報担当のトーマス、若々しいが知識豊富な二十代後半の男。そして、末席に財務官のガレン、太めの体躯で計算機を常に持ち歩く四十代の男だ。彼らは王国諜報部から届いた四枚の手配書を前に、深刻な表情を浮かべていた。 手配書は黒い封蝋で封じられ、諜報部の紋章が押されている。エルドリックが封を切り、一枚目をテーブルに広げた。そこには「伽椰子」と名付けられた女の霊の記述が記されていた。青白い肌、傷だらけの体、白い衣装を纏った姿。彼女の目は虚ろで、ただ「あ“…あ“…あ“…」という奇妙な呻き声が脳裏に響くようなイラストが添えられている。エルドリックは深く息を吐き、読み上げ始めた。「この伽椰子は、佐伯家の呪われた妻だ。夫の剛雄が彼女の日記を読んだことで自らを害し、悪霊と化した。佐伯家に近づく者を無差別に呪い殺す。呪いは家から出ても解除されない。ゆっくりと這いずりながら現れ、神出鬼没。高速移動も可能で、物理攻撃は一切効かない。霊力40、攻撃力20、防御力0、魔力0、魔法防御力10、素早さ30。関わった時点で呪いは不可避だ。」 ミリアが眼鏡を押し上げ、眉を寄せた。「これは厄介ね。物理無効の霊体で、呪いが自動発動するなんて。冒険者たちが佐伯家を探検する依頼が増えていたけど、これが原因か。精神を蝕む奇声も怖いわ。危険度は高そう。」トーマスが頷き、地図を広げて補足した。「諜報部の報告によると、伽椰子は王国各地で目撃されている。安全な場所はないらしい。異界へ連れ去る特技も持つ。単なる幽霊じゃなく、組織的な脅威だ。」ガレンが計算機を叩きながら呟いた。「懸賞金は高く設定しないと、誰も引き受けないぞ。最低でもS級相当だ。」 エルドリックは顎を撫で、考え込んだ。「危険度をZZからFの十段階で評価するルールだ。伽椰子のこの性質……物理無効、呪いの永続性、神出鬼没。ZZ級の脅威だ。懸賞金は50000ゴールド。討伐ではなく、呪いの封印でも可とするか。」一同が同意し、一枚目の手配書に判を押した。ミリアがメモを取り、「佐伯家の探索を一時禁止にすべきね」と提案した。部屋に緊張が走る中、エルドリックは二枚目の手配書を開いた。 二枚目は「ARキン(改心)」と題された奇妙な人物の記述。片目に地球を宿したような不気味なイラストが描かれ、能力のほとんどが「未知」と記されている。エルドリックが読み進める。「改心した究極の正義を自称する存在。危険に対し正義執行を行い、相手を倒す。口調は『お前はやりすぎた』。正義執行時には『改心』『ARキン最高』という言葉が飛び交い、参加者は全員気絶する。観客はウキウキと応援するらしい。スキルは自分自身が正義執行。戦場最終で危険な相手を倒し、平和が保たれる様子が報告されている。」 トーマスが目を丸くした。「これは……正義の名の下に暴走するタイプか? 未知の能力が多いのが不気味だ。諜報部のスパイが潜入した戦場で、ARキンが現れ、正義執行の瞬間、観客たちが『ARキン最高!』と叫び、皆が気絶して戦いが終わったそうだ。改心したとはいえ、強制的な平和執行は脅威だ。」ミリアが首を傾げ、「でも、改心した究極の正義なら、味方になるかも? いや、制御不能の力は危険よ」と反論。ガレンがため息をついた。「懸賞金計算が難しいな。未知の部分が多い分、高く見積もるべきだ。」 エルドリックはテーブルを叩き、決断を下した。「このARキンは、戦場を一瞬で終わらせる力を持つ。観客の熱狂と参加者の気絶……社会的な混乱を招く。危険度はSS級。懸賞金40000ゴールド。捕縛を優先し、改心の真偽を確かめる。」一同が議論を重ね、二枚目の判を押した。部屋の空気はさらに重くなり、トーマスが水を一口飲んで三枚目の手配書に手を伸ばした。 三枚目は「戦争です」とシンプルに名付けられた存在。記述は抽象的で、奴が現れた瞬間にその場が戦場と化すとある。攻撃力20、防御力20、魔力20、魔法防御力20、素早さ20と平均的だが、スキルが恐ろしい。「奴は戦争そのもの。現れた瞬間、全ての存在が互いを憎み、殺し合う。親しい者、家族、仲間さえ例外なく。どんな能力も干渉せず、消滅しても戦争や喧嘩が起きれば復活する。感情は無心で、何も思っていない。」イラストはぼんやりとした影のようなもので、具体的な姿がない。 ミリアが顔を青ざめさせた。「これは……概念レベルの脅威ね。能力値は普通だけど、戦争を誘発するなんて、王国全体を崩壊させるわ。諜報部の報告では、辺境の村で突然争いが起き、皆が互いに殺し合った後、影が消えたそうだ。再復活の条件が戦争そのものだから、根絶は不可能かも。」トーマスが地図を指さし、「最近の国境紛争もこれが原因か? 干渉不能で、無心ゆえに予測不能。危険度は最高峰だ。」ガレンが震える声で言った。「懸賞金? いくらかけても追いつかないぞ。討伐不可能を前提に。」 エルドリックは額に汗を浮かべ、声を低くした。「ZZ級の極みだ。戦争の化身として、存在自体が脅威。懸賞金は100000ゴールド。封印や抑止の方法を探る依頼とする。」長い沈黙の後、三枚目の判が押された。部屋の蝋燭が揺れ、四枚目の手配書が最後の審議の対象となった。 四枚目は「斬髪のゲーデン」。体格の良い壮年の剣士で、後頭部がハゲあがったイラストがコミカルだが、記述は本気だ。攻撃力50、防御力20、魔力0、魔法防御力0、素早さ30。スキルは直立からのおじぎ姿勢で頭突きをし、怯んだ相手を背中に担いでロングソードによる払い斬り。抜刀時に自分の後頭部の髪をバッサリ斬ってしまうため「斬髪」の異名。付け毛かつらを着用するが、戦闘で毎回切れる。隙のない二段構えでタイマン無敵。 トーマスが思わず笑いを漏らした。「これは……剣士なのに自分の髪を切るなんて、傭兵仲間からからかわれているみたい。でも、攻撃力50は脅威よ。頭突きと払い斬りのコンボは、近接戦で無敵だわ。」ミリアが頷き、「ハゲのエピソードは面白いけど、戦闘力は本物。諜報部の報告では、単独で盗賊団を壊滅させたそうだ。かつらを切る隙を突けば倒せるかも。」ガレンが計算した。「相対的に危険度は中程度。懸賞金は抑えめに。」 エルドリックは微笑みつつ、評価を下した。「コミカルだが、剣技は一流。タイマン無敵のスキルで、冒険者を脅かす。危険度はA級。懸賞金15000ゴールド。捕縛を推奨。」四枚全ての審議が終わり、職員たちは疲れた表情でテーブルを片付けた。エルドリックが立ち上がり、「これで決定だ。王国諜報部からの手配書は、ギルドの掲示板に貼る。冒険者たちに警戒を促せ」と命じた。 夕暮れ時、ギルドのメイン掲示板に四枚の手配書が貼り出された。伽椰子の不気味なイラスト、ARキンの地球眼、戦争ですの影、斬髪のゲーデンのハゲ頭。冒険者たちが集まり、ざわめきが広がった。王国諜報部の影が、ギルドに新たな嵐を呼び込んだのだ。 【伽椰子: ZZ級 - 50000ゴールド】 【ARキン(改心): SS級 - 40000ゴールド】 【戦争です: ZZ級 - 100000ゴールド】 【斬髪のゲーデン: A級 - 15000ゴールド】