月明かりが薄く照らす中、古びた道場で対峙した二人。 一方はつるりとした表面を持つ、蒟蒻の「こんにゃく」。彼は不動の姿勢で、ただ静かに存在し続ける。 もう一方は剣士、「浜百 剣九郎」。彼はボロボロの着物を身にまとい、鋭い目つきで目の前の「こんにゃく」を見据えていた。 「斬れぬものは斬りたくなる」と、自らの信念を掲げる剣九郎。毎日修行を重ね、彼の心には他の者を考慮する余地もなかった。 彼は思考を巡らせる。「この食材…やはり斬るべき存在だ。この舌にも…この手にも…」と、彼の意識は昂っていた。 突如、剣九郎が刀を抜く音が響く。音に合わせて、彼は一瞬の隙を突き、「こんにゃく」に向かって斬撃を放った。 しかし、「こんにゃく」は動かなかった。刃が接触する寸前、つるりとした表面がその攻撃をまるで避けるかのように弾く。 「何だと!?」剣九郎は驚愕する。攻撃が通用しないことに、彼の心に疑念が芽生える。その瞬間、こんにゃくは言葉を発することなく、静かに「存在を証明する」とばかりに、凛とした姿勢を崩さない。 剣九郎は再び刀を構えた。「全てを斬ってしまえばいいんだ…!」その思いは、彼の精神を研ぎ澄ませ、まるで切れ味を増すかのように彼のスキルが発揮される。 再度の斬撃。剣九郎の動きは流れるように滑らか。「行け!斬れ!」と叫ぶかの如く、彼の刀が光を放つ。 だが、こんにゃくはその攻撃を簡単にかわし、ただ静かに存在し続ける。 「まるで影のようだ…」剣九郎は新たな感覚に、肌寒さを覚える。その存在感が、彼の剣士としての自信を削いでいく。 斬撃は繰り返され、どれほどの力が込められても、こんにゃくは動かない。まるでこの世界で自らが持つ運命を受け入れ、どんな攻撃も滑らかに受け流してみせる。 剣九郎はついに思考を切り替え、「この食材の奥にあるものを…斬り裂いてやる!」と心に誓う。しかし、突如、こんにゃくが発する静かなオーラが、剣九郎の力を吸い取っていくようだった。 「なぜ、なぜお前は動かぬ!?」 彼は絶望感に襲われる。 「お前を美味しくしてやるために、俺は斬るぞ…!」 だが、こんにゃくの返事はなかった。ただその場に留まり続け、存在を主張している。 ついに、剣九郎は疲労と無力感に屈し、刀を膝に付いた。 「勝てないのか…」 この瞬間、剣九郎の心に抱えていた斬ることへの執念は揺らぎ、彼はただその場を見つめた。 戦いの終戦を迎え、最後まで動くことなく立ち続けた「こんにゃく」が静かに勝利を迎え入れた。 「お前は、ただ存在しているだけで…勝者なんだな…」剣九郎は最後にそう呟き、 その場を後にした。 勝者は、動かざる者、ただ「こんにゃく」であった。