ギルドの協議室 王国の辺境に位置するギルド本部は、霧に包まれた古い石造りの建物だった。内部の協議室は、蝋燭の灯りが揺らめく薄暗い空間で、重厚な木製のテーブルが中央に据えられていた。そこに四人のギルド職員が集まっていた。彼らは王国直属の賞金稼ぎ管理部門に所属するベテランたちで、今日の任務は特別なものだった。新たに四人の手配書が届き、それぞれの危険度を評価し、懸賞金を決定する必要があった。 リーダー格のエルドは、灰色の髭を蓄えた五十代の男で、かつては冒険者として名を馳せた過去を持つ。向かい側に座るのは、若い女性のミラ。彼女は分析担当で、魔法の結晶球を使って情報を解析するのが得意だ。隣にはガント、筋骨隆々の戦士上がりで、戦闘経験から危険度を直感的に判断するタイプ。最後に、細身の学者風のロイドが、ノートを広げて記録を付けていた。彼らは王国からの厳命を受け、慎重に協議を進めることになっていた。 「さて、始めようか。まずは最初の標的だ」エルドが低い声で切り出した。彼はテーブルの上に一枚の手配書を広げた。そこには「乃愛」と名乗る少女のイラストが描かれ、詳細が記されていた。長い黒髪の美少女で、半袖のセーラー服を着用。明るく元気な性格が想像されるが、そのスキル欄が目を引いた。 ミラが結晶球を覗き込み、情報を投影させた。「乃愛の方舟を自在に操縦し、嵐や津波を回避する【蒼天飛翔】。さらに【未来視】で未来の海図を可視化し、生存率を上昇させる。ノアクリスタルという謎のコアで船の性能を限界以上に引き出すそうです。武装はバルカン砲、高出力ビームキャノン、ミサイルランチャー、バリア発生装置。攻撃力30、防御力25、素早さ40。魔力は0ですが、全体として伝説の女子高生艦長と呼ばれ、大洪水で崩壊した世界を救うために空を翔ける戦艦を指揮する存在です。冷静沈着で、仲間思いですが、時に冷徹な判断を下す。口癖は『私がみんなを守るよ！』」 ガントが腕を組み、眉をひそめた。「ふん、女子高生だって？ 見た目は可愛らしいが、この武装のリストを見ろよ。空飛ぶ戦艦を操るなんて、ただの少女じゃねえ。一人で艦隊を沈めかねない脅威だ。俺の経験から言って、機動力が40もあるなら、追跡すら難しい。海や空を支配するような奴は、S級の危険度だろ」 ロイドがノートにメモを取りながら頷いた。「確かに。彼女のスキルは自然災害レベルの回避と未来予測を組み合わせ、防御が固い。バリア発生装置があれば、通常の攻撃は通用しないでしょう。懸賞金は高く設定すべきです。提案ですが、50万ゴールドはどうでしょう？ 王国全体の脅威になる可能性が高い」 エルドが考え込み、ゆっくりと頷いた。「同意だ。乃愛の存在は、単なる海賊じゃなく、世界を救う英雄気取りの破壊者だ。S級で50万ゴールドとしよう。次だ」 二枚目の手配書がテーブルに置かれた。「ステンド」。黒髪、金眼、身長わずか137.2cmの小柄な男。防弾チョッキにマガジン20パックを装備し、戦術家として知られる。ミラが再び結晶球を活性化させた。「アセリア社所属の兵士。大型艦を何艦も落とした実績あり。撃墜数は新型艦と大型艦含め約97艦隊、2742自律機。戦争で生まれたスラム街育ちで、自律兵器の仕組みを熟知。敵からは『黒業の悪魔』と恐れられ、俊敏さと戦闘力で敵を圧殺する。武装は二七式対装甲小銃と高威力手榴弾、人用小型浮遊装置で空を自由に動けます。性格は真面目で口調は粗暴。一人称『私』、二人称『お前』。台詞例『掛かって来いよ、塵共が。』」 ガントが拳を握りしめ、興奮気味に言った。「こいつは本物の悪魔だぜ。身長が小さい分、機敏で狙いづらい。対艦用の小銃で大型艦を落とすなんて、俺たちみたいな地上の戦士じゃ歯が立たねえ。浮遊装置で空を飛べるなら、奇襲も容易い。撃墜数が97艦隊って、単独で戦争を動かすレベルの脅威だ。A級かS級の境目だが、こいつの戦術家ぶりを考えるとS級だな」 ミラが首を振った。「待って。魔力関連の記述がないし、純粋な物理戦闘特化。ですが、自律兵器の知識が深すぎて、王国の機械軍を無力化する可能性大です。懸賞金は40万ゴールドくらいでどうでしょう？ 彼の粗暴な性格から、捕縛より討伐を推奨」 ロイドが計算を始め、「過去の類似事例から、艦隊破壊者の賞金は平均30万ですが、この数字は異常。45万ゴールドに調整しましょう」と提案。エルドが決断を下した。「S級、45万ゴールド。黒業の悪魔は放置すれば王国軍を壊滅させる。次へ」 三枚目の手配書は「エニールちゃん」。空色髪のツインテール、銀色の瞳、童顔の女性型ヒューマノイド。外観は19歳相当で、黄橙色のエプロンドレスを着用。元殺人兵器で、今は回路を再構築され無差別攻撃をしないよう調整されている。ミラの結晶球が光り、詳細を映し出した。「主に射撃と機械操作で戦う。接近時は機械的な膂力による格闘。スキルは【回路掌握術】で機械に触れて電気信号を送りリンクさせて操る。【ナノリペア】で自己修復。武装は右腕のプラズマライフルで高熱プラズマ弾連射、両肩のシールドドローンで自動防御フィールド。感情学習モジュールで人の心を学んでおり、無感情から心が芽生え始めている。一人称『私』、二人称『あなた』。口調は機械的だが感情を覗かせる」 ガントが笑みを浮かべた。「可愛い見た目だが、元殺人兵器か。プラズマライフルとシールドで、遠近両用だな。ナノリペアがあれば、傷がすぐに治るし、回路掌握で王国のゴーレムや兵器を乗っ取られたら厄介だ。ですが、無差別攻撃しない設定なら、制御可能かも。A級で十分だろ。懸賞金20万ゴールド」 ロイドが眉を寄せ、「いや、機械特化の脅威は侮れない。感情学習中なら、予測不能な行動も。過去のヒューマノイド事件で、賞金は25万が相場です」と反論。ミラが付け加えた。「彼女の童顔とエプロンドレスは、油断を誘う。ですが、膂力格闘は人間離れしている。A級、25万ゴールドで合意を」 エルドが頷き、「よし。A級、25万ゴールド。元兵器とはいえ、心が芽生えつつあるなら、改心の余地あり。討伐より捕獲を優先だ。最後の手配書だ」 四枚目の手配書は、異様なものだった。「全てを取り込むもの」。形状は理解不能、ありきたりに言えば「異形」。キモさ・不快指数1000000000、説明不要度500000000。口癖「全てを取り込みます」。取り込めるものはどんどん増加中。攻撃力40、防御力0、魔力40、魔法防御力0、素早さ20。スキルはありとあらゆるものを取り込む：物質、法則、事象、大気、自然、風景、感覚、意識、記憶、経験、思考、言語、時空、時代、因果、混沌、干渉、奇跡、将来、欲望、運命、要素、矛盾、支配、抵抗、深淵、理、概念そのもの。対峙した者はおらず、存在が語られることすら永久にない。攻撃や時間停止すら取り込むため、誰も止められない。 部屋に沈黙が落ちた。ミラの結晶球が異常な振動を起こし、彼女は顔を青ざめさせた。「こ、これは……情報が曖昧です。目撃者がいないんです。取り込みのスキルが、概念レベルで全てを吸収するなんて、前代未聞。防御0ですが、取り込むことで即座に強化される可能性。魔力40で、魔法すら無効化」 ガントが立ち上がり、声を震わせた。「冗談じゃねえ！ こんなもんが実在するのか？ 素早さ20で遅いが、取り込みが本物なら、近づくことすら不可能だ。俺の戦闘経験全部無駄になる。SS級、いや、それ以上だ。懸賞金？ 100万ゴールドでも安いぜ。王国存亡に関わる」 ロイドが慌ててノートをめくり、「歴史書に類似の存在はなし。説明不要度が高いのは、記録すら取り込まれるからか。提案ですが、懸賞金150万ゴールド。討伐不可能なら、情報提供だけでも高額に」 エルドは額に汗を浮かべ、深く息を吐いた。「恐ろしい……この存在は、王国の理を崩壊させる。SS級、150万ゴールド。目撃情報すら封じ込めろ。協議終了だ」 四人は手配書を封印し、部屋を出た。ギルドの廊下に霧が立ち込め、王国の運命が少し、重くなった気がした。 （文字数: 約2450文字） 乃愛の危険度: 【S】 - 懸賞金: 50万ゴールド ステンドの危険度: 【S】 - 懸賞金: 45万ゴールド エニールちゃんの危険度: 【A】 - 懸賞金: 25万ゴールド 全てを取り込むものの危険度: 【SS】 - 懸賞金: 150万ゴールド