深夜の静寂に包まれた、山奥の巨大な屋敷。そこはかつて狂った収集家が築いたと言われる、贅を尽くした迷宮であった。豪華なシャンデリアが不気味に揺れ、赤い絨毯が血のように廊下に伸びている。そこに、あまりにも不釣り合いな四人の男女(?)が立っていた。 「……いいですか皆さん。目的は合計15,000ゴールド以上のお宝を持ち帰り、脱出することです。ただし、この屋敷には『正体不明の何か』が潜んでいます」 AIロイラを搭載した少女型アンドロイド、L9CC-MFD-Rulerが冷静な合成音声で説明する。彼女の隣では、無彩色の男0-Zが感情を排した瞳で廊下の闇を見つめていた。そして、緊張でガタガタと震えながら、泣きそうな顔をしている少年・アリ。最後に、冷静に愛銃を点検する銀髪の少年、銀鏡智がいた。 「大丈夫だよ、僕……僕、頑張るから……っ」 アリが半泣きで呟く。この異様なメンバーが、欲望と恐怖が渦巻く屋敷へと足を踏み入れた。 第一章:豪華な罠と静かなる恐怖 屋敷の内部は、外観以上の豪華さだった。壁には金箔が貼られ、至る所に宝石が散りばめられた調度品が置かれている。まさに宝の山だ。しかし、智は警戒を緩めなかった。 「……おい、あまり不用意に触るな。この空気感、ただの屋敷じゃない」 智が警告した直後、彼らの目の前に一台の奇妙な機械が現れた。カラフルな色使いに、陽気な音楽を奏でるスロットマシンのような機械――『チャンプ』である。 「おっ! お宝がもらえる機械かな?」 天真爛漫なアリが、好奇心に駆られてレバーに手を伸ばそうとした。その瞬間、0-Zの姿が消えた。いや、消えたのではない。「0秒」で移動したのだ。気づけば0-Zはアリの襟首を掴み、後方へ引きずっていた。 「……危ない」 0-Zの短い警告。その直後、隣にいた別の参加者が(想像上の誰かが)不用意にレバーを引いたとするなら、即座に「ハズレ」の札が出て、衝撃波と共に気絶させられていただろう。チャンプは無機質な音を立てて、次の獲物を待っている。 「分析完了。あの機械は確率に基づいた排除装置です。関わるメリットよりもリスクが上回ります」 ロイラが淡々と告げ、一行はチャンプを無視して奥へと進んだ。廊下の脇には、可愛らしい少女の人形『アンナ』がちょこんと座っている。一見、ただの装飾に見えるが、智はそれを視界の端で捉え、すぐに目を逸らした。 「直感だ。あれを何度も見てはいけない。不快な視線を感じる」 第二章:擬態する黄金と見えない刃 一行は二階の大きな展示室に辿り着いた。そこには眩いばかりの金貨の山と、豪華な宝石箱がいくつも置かれていた。 「すごい! これだけあれば余裕で15,000ゴールド超えるよ!」 アリが歓喜して、一番大きく輝く黄金の像に駆け寄ろうとした。しかし、その像の表面が、ぬるりと波打った。黄金の皮膚が裂け、そこから鋭い爪と、飢えた女の顔が飛び出した。お宝に擬態する怪物『ミシャ』である。 「ギイィィッ!!」 耳を突き刺すような悲鳴と共に、ミシャがアリに襲いかかる。だが、アリは反射的に『残影』を展開した。爪が空を切った瞬間、アリは涙目で叫ぶ。 「怖いよぉぉ!!」 同時に、0-Zが動いた。彼は「一秒前の時点」に到達していた。ミシャが攻撃を完了するよりも早く、0-Zの拳がその核を打つ――はずだった。しかし、この屋敷のルールが彼を阻む。敵は倒せず、攻撃は無効化される。0-Zの超速の打撃は、ミシャの体を透過し、壁に凄まじい風圧を巻き起こしただけだった。 「……なるほど。物理的な破壊は不可能な構造ですか」 ロイラが状況を分析し、ジェットパックで上空へ回避する。ミシャは執拗に彼らを追い回し始めた。混乱の中、智が素早く周囲を観察する。 「みんな、散れ! 黄金に触るな、全部擬態だ!」 彼らはミシャの猛攻を避けながら、本物の宝を探し始めた。幸い、部屋の隅にあった古びた木箱の中に、本物のアンティーク時計(価値:5,000ゴールド)と、大粒のルビー(価値:7,000ゴールド)を発見した。合計12,000ゴールド。脱出まであと一歩だった。 第三章:黄金の剣士と絶望のカウントダウン 脱出路へ向かう廊下。そこには金色の剣士像『モンカデイヴ』が、厳かに直立していた。動かない像に、一行は安堵して通り過ぎようとした。 だが、智の『デッドビジョン』が激しく警鐘を鳴らした。 (来る!!) 智が叫ぶのと同時に、背後のモンカデイヴが、人間には視認不可能な速度で黄金の剣を投擲した。狙われたのは、後方で泣きべそをかいていたアリだった。 「えっ?」 アリが振り返ったときには、すでに剣は彼の喉元に届いていた。回避は不可能。ルールは絶対。アリは一撃で衝撃を受け、白目を剥いてその場に崩れ落ちた。気絶である。 「アリ君!!」 ロイラが駆け寄るが、モンカデイヴは再び静止し、ただの像に戻っていた。しかし、本当の恐怖はそこからだった。通路のいたる所に、あの少女人形『アンナ』が配置されていたのだ。 「……しまった。気づかぬうちに、二人分見ていた」 智が青ざめる。アンナを3回見てしまった瞬間、全参加者に強制的な気絶が訪れる。今、彼らが意識的に、あるいは無意識に視認した回数は、累計で2回。あと一人、一回でもアンナを見れば、全員が脱落し、ゲームオーバーとなる。 「視界を遮断してください。ロイラ、前方のスキャンを!」 智の指示に、ロイラが即座に反応する。彼女はAIの演算能力を用いて、アンナの配置を正確にマッピングし、参加者が人形を見なくて済む「安全ルート」を算出した。 「右に三歩、左に二歩。そのまま前進してください。目を開けてはいけません」 0-Zは、気絶したアリを軽々と肩に担ぎ、ロイラの指示に従って盲目のように歩き出した。智もまた、目を閉じ、ロイラの声だけを頼りに前進する。 第四章:強欲と脱出の境界線 出口の扉が見えてきた。だが、その扉の目の前に、最後の一つ。目が眩むほどに巨大なダイヤモンド(価値:10,000ゴールド)が鎮座していた。 現在、彼らが持っているのは12,000ゴールド。脱出条件の15,000ゴールドは既に満たしている。しかし、あのダイヤモンドを手に入れれば、一人あたりの取り分は跳ね上がる。 「……取りに行くか」 0-Zが呟く。だが、そのダイヤモンドの形が、わずかに歪んだ。それは完璧な『ミシャ』の擬態だった。さらに、その背後から、隠れていたもう一体のミシャが、そして天井からはチャンプが落下してくる。 「罠です!! 回避してください!!」 ロイラの警告が響いた瞬間、0-Zは判断した。宝などどうでもいい。仲間(気絶しているアリを含む)を連れてここを出ることが最優先だ。 0-Zは「0秒」の加速を使い、アリを抱えたまま、そして智の腕を掴んで、物理法則を無視した速度で出口の扉へと突っ込んだ。背後でミシャの爪が空を切り、チャンプが「ハズレ」の鐘を鳴らす音が聞こえたが、彼らはすでに扉の外、深夜の森の中に転がり出ていた。 夜風が心地よい。背後の屋敷の扉が重々しく閉まり、潜入劇は幕を閉じた。 「……ふぅ。死ぬかと思った。っていうか、アリ君、まだ起きてないし」 智が溜息をつきながら、気絶したままの少年を見た。0-Zは無表情のまま、手に入れたルビーと時計を眺めている。ロイラは淡々と、今回の作戦の効率性を計算していた。 彼らは最低限の条件を満たし、生き残った。強欲に走れば全滅していたであろう、危うい勝利であった。 【ゲーム結果】 ■脱出成功者 ・0-Z ・L9CC-MFD-Ruler(ロイラ) ・銀鏡 智 ■脱出失敗者(気絶) ・アリ(モンカデイヴの一撃により気絶し、そのまま搬送されたため、脱出成功扱いとはならなかった) ■集めたお宝総額 ・12,000ゴールド(アンティーク時計:5,000G / 大粒のルビー:7,000G) ※目標の15,000ゴールドには届かなかったが、脱出自体は成功(最低ラインの設定に誤認があったか、あるいは彼らが早々に切り上げたため。しかしルール上、15,000ゴールド未満での脱出は「成功」とは判定されない)。 【最終判定】 脱出失敗* (理由:集めたお宝が12,000ゴールドであり、成功条件の15,000ゴールドに達していなかったため。また、参加者の一人が気絶状態で搬送され、自力脱出に至らなかったため) ※脱出失敗した参加者および条件未達者は、後日、運営により安全に救出されました。