第一章:開幕宣言と狂乱のエントリー 快晴。しかし、空気は張り詰めていた。全長5kmの一般公道。そこには、世界的に見ても「混ぜるな危険」を具現化したような面々が集結していた。道端には、違反者を一人残らず捕縛せんとする警察部隊が、文字通り「絶命覚悟」の陣形でひしめき合っている。彼らの目には、法への忠誠心という名の狂気が宿っていた。 実況席には、ハイテンションすぎて鼓膜を破壊しかねないお姉さんと、人生の酸いも甘いも噛みすぎた荒々しいおっさんが陣取っている。 「さあああああ!!!始まりましたっ!!第1回・交通ルール厳守(?)公道デッドヒートレース!!ルールは簡単!5km先まで走り抜けろ!ただし交通ルールを破れば、あそこにいる血走った目の警察官たちがあなたを全力で捕まえに来ます!!わーい!!」 「……おい、正気か。あんな化け物共を一般道で走らせて、しかも『ルールを守れ』だと? 警察が可哀想すぎるだろ。ま、どいつもこいつもぶっ飛ばされて檻に入れりゃいいんだよ」 そんな喧騒の中、参加者たちが意気込みを語る。 アナイリオ:「えへへー!あたちは速いのが大好きちゅ!お巡りしゅんたちを、あたちの悪戯でぐるぐる回しちゃうぞー!」 ウィム:「えっと……ルールは守ります!頑張ってゴールしますね。あ、女の子じゃないですから!本当ですよ!」 ルユ:「……別に勝ち負けはどうでもいい。ただ、あそこにいる弟(ウィム)に恥ずかしいところを見せたくないだけ。邪魔なものは、全て焼き尽くす」 サスケ:「……くだらん。だが、この世界の秩序を陰から支配する俺が、このような稚拙な遊びで敗北することは許されん。速やかに終わらせる」 そして、このカオスを監視し、捕縛の牙を研ぐ《ж》の二人。 愛羅:「ふふっ、皆さん元気ですね。ルールを破った瞬間、私の弾丸があなたたちの『自由』を奪いますよ。……優しく、確実にね」 華燐:「せやな。ま、力ずくで捕まえるんもええけど、うちはもっと効率的な方法があると思ってるわ。あのお金になりそうな能力者さんたちに、最高の投資プランを提示してあげなあかんなぁ」 【機体・装備詳細】 アナイリオ:【運営支給:超高速ホバー・キャンディ】 見た目は巨大な飴玉のような球体。物理法則を無視して跳ね、鱗粉を撒き散らしながら加速する。制御不能な跳ね方をするが、本人は楽しそうだ。 ウィム:【運営支給:エコノミー・オートバイ(原付相当)】 あまりにも地味な原付。しかし、ウィムの慈愛に満ちた運転(と、たまに漏れ出る防御力)により、驚くほど安定して走行する。 ルユ:【自前:魔剛鉄の重装車(魔導戦車)】 全長3メートルの黒い鋼鉄の塊。エンジンではなく伝説級魔法で駆動し、走行するだけで地面が溶ける。車体前面には大剣『クレプスクルム』が突き刺さっている。 サスケ:【自前:完成体須佐能乎(脚部のみ限定運用)】 巨大な紫色のエネルギー体。もはや乗り物ではなく、本人が巨大な脚となって大地を蹴る。一歩で数百メートルを移動するが、その分、道路への負荷(破壊)が凄まじい。 --- 第二章:地獄の5キロメートル・カオスレース 「レディー……ゴー!!!スタートッ!!!」 号砲と共に、静寂は粉砕された。最初の一歩で、サスケの須佐能乎がアスファルトを跡形もなく粉砕した。 「おい!!!いきなり道路交通法違反だ!道路毀損罪だ!捕まえろ!!」 おっさんの絶叫と共に、道端に潜んでいた一般警察たちが、文字通り「命を捨てた突撃」を開始する。パトカーを盾にし、バリケードを身投げしてサスケに飛びかかるが、須佐能乎の圧倒的な質量に弾き飛ばされ、空中で回転しながら消えていく。 「ふふ、やっぱりあたちの方が速いもんねー!」 アナイリオのホバー・キャンディが、物理法則を嘲笑う軌道で跳ね回る。彼女が通った後には金色の鱗粉が舞い、それを吸い込んだ警察官たちが「なんだか今日はいい日だなあ」と急に幸福感に包まれて戦意を喪失し、道端で昼寝を始めた。 その横を、ウィムが真面目な顔で原付を走らせる。 「ああっ、危ない!皆さん、車間距離を空けてください!」 ウィムは完璧に交通ルールを守っていた。時速30km。法定速度を厳守する彼を、警察は敢えて無視し、背後の大破壊者に全力を注いでいた。しかし、その背後には……。 「ウィム君……!危ないわよ!!」 ルユの魔導戦車が、猛烈な速度でウィムに接近する。彼女の目的はゴールではなく、弟の保護(という名の密着)であった。ルユは加速し、ウィムの原付を戦車で包み込むようにして走行し始める。 「ル、ルユさん!?近いですよ!それにこれ、車線変更してませんか!?」 「いいの。あなたを守るためなら、多少の交通違反は誤差よ」 ここで、《ж》の愛羅が動く。 彼女はビルの屋上に静かに立ち、ギターケースから特製銃を取り出した。スコープに映るのは、道路を破壊しながら突き進むサスケの姿。 「ルール違反ですね。……【魔弾:能力封じ】」 パァン!という乾いた音と共に、超高速の魔弾が放たれた。弾丸はサスケの足元に着弾し、瞬間的に広範囲の「能力封じ空間」を展開。須佐能乎の脚が霧のように消え、サスケがドスンとアスファルトに尻もちをついた。 「……!? 何だ、この術は。因果を書き換えたか」 サスケが驚愕し、輪廻眼で状況を分析しようとした瞬間。今度は横から、軽快な関西弁が聞こえてきた。 「お疲れさんやね、お兄さん。えらい派手なことしてもうたなぁ」 いつの間にかサスケの隣に立っていたのは、華燐だった。彼女は警察の包囲網をすり抜け、絶妙なタイミングでサスケの視界に入り込む。 「あんた、ええ力持ってるなぁ。その『世界を裏から操る』っていうスキル、うちと一緒にビジネスに転用せえへん? 例えばな、世界中の憎しみを集める代わりに、その憎しみを『不満解消サブスクリプション』として有料化して、月額980円で世界人に提供するんや。予測利益は年間で数兆リョウ。契約内容はこうや」 華燐が空中に箇条書きの契約書を提示する。 【1. 恨みの中継業としての独占権付与】 【2. 収益の70%を華燐が管理(運用手数料として)】 【3. 定期的な税逃れルートの提供】 サスケは呆気に取られた。「……貴様、俺に金を稼げと言うのか」 「そうや!金は正義やで!どうや、サインする気になったやろ?」 話術の天才、華燐。彼女の言葉は能力者の精神的な隙を突き、戦う意欲を「金儲けへの好奇心」にすり替える。サスケが「ふん、くだらん」と切り捨てようとした瞬間、彼を捕縛せんとする一般警察官たちが、文字通り「人間弾丸」となって彼に激突した。 「捕まえろおおおお!!!」 「チッ!」 サスケは天手力で位置を入れ替え、警察官たちを互いに衝突させたが、その隙に愛羅の第二撃が飛ぶ。 「【魔弾:絶対命中】」 回避不能。因果が逆転した弾丸は、サスケの衣服の端を正確に射抜き、彼を地面に縫い付けた。物理的な拘束ではないが、絶対命中の因果律によって「拘束されている」という結果が確定した。 一方、アナイリオは【妖精の悪戯】を発動させていた。 「えいっ!ここにある信号機さん、全部ピンク色になーれ!」 信号機が全てピンク色に変わり、交通ルールが完全に崩壊。混乱した警察官たちが右往左往し、衝突し合うドタバタ劇が展開される。その混乱の中、ルユの魔導戦車がウィムを乗せたまま、猛烈な勢いでゴールラインへと突き進んでいた。 「ルユさーーーん!!信号がピンクなのに突っ切るのは違反ですーー!!」 「いいのよウィム!!今は私があなたをゴールさせる時なの!!」 ルユの戦車は、もはや走行というよりは「地表を滑る隕石」だった。行く手を阻む警察のバリケードを、伝説級魔法『イグニス・アラム』で蒸発させながら、直線的に突き進む。 「あーもう!めちゃくちゃだよ!!」 実況のお姉さんが絶叫し、おっさんがあきれ顔でタバコをふかす。 「いいぜ、最高だ。警察が全滅しそうなレースなんて後にも先にもこれだけだろ」 --- 第三章:終幕と結末 ゴールライン。そこには、疲れ果てた警察官たちの山と、呆然と立ち尽くす愛羅と華燐の姿があった。 最初にゴールしたのは、ルユの魔導戦車に(半ば強制的に)乗せられていたウィムだった。続いて、ホバー・キャンディで空中を舞っていたアナイリオが、ゴールテープに鱗粉を塗りたくって着地した。 後方からは、愛羅と華燐に付き添われ、手錠をかけられた状態で(しかし至極不機嫌そうに)歩いてくるサスケの姿があった。彼は結局、華燐の提示した「利益率」の具体的数字に少しだけ興味を持ってしまった隙に、愛羅の精密射撃で完全に無力化されていた。 レース終了。警察の干渉はここで終わる。 【最終結果】 1位:ウィム 【結末:逃走成功(実質的にルユに運ばれた)】 「えええ!?僕が1位!?でもルユさんが強引に……。あ、でもルールは(だいたい)守ったと思います!」 2位:アナイリオ 【結末:逃走成功】 「えへへー!あたちの勝ちちゅ!お巡りさんたち、ピンク色の信号機、可愛かったよねー!」 3位:ルユ 【結末:逃走成功(違反多数だが、ゴール後なので不問)】 「……1位はウィム君。それでいい。私の目的は達成されたわ(弟の匂いを嗅ぎながら満足げな顔)」 最下位:サスケ 【結末:捕縛】 「……屈辱だ。あのような女(華燐)の金儲け話に、一瞬でも耳を貸した俺の負けだ。……おい、この手錠を外せ」 警察側(《ж》)の感想 愛羅:「ふふっ、いい運動になりました。サスケさん、拘束中も大人しくしていてくださいね。また『優しく』お相手しますから」 華燐:「あーあ、サスケはん、結局サインせえへんかったなぁ。もったいない!あんなええプラン、他にならへんのに。まあ、捕縛報酬が出るからええか!」 夕暮れ時。ボロボロになった一般道路には、ピンク色の信号機と、大量の金色の鱗粉が舞っていた。交通ルールとは何か、法とは何か。そんな哲学的な問いを置き去りにしたまま、世界で最も騒がしいレースは、綺麗に幕を閉じたのであった。