王都の喧騒から離れた場所に位置する冒険者ギルド。その最深部にある職員専用会議室は、重厚なオーク材のテーブルと、壁一面を埋め尽くす古地図や魔物図鑑に囲まれていた。 現在、この部屋には四名のギルド職員が集まっている。彼らの目的は、王国諜報部から極秘に届けられた四枚の手配書を査定し、それぞれにふさわしい「危険度」と「懸賞金」を設定することだ。諜報部からの伝令は、これらの個体が「既存の生態系や戦術概念を根底から覆す異質な存在である」と警鐘を鳴らしていた。 テーブルを囲むのは、査定のスペシャリストたちである。 一人目は、司会進行を務める【ゼノス】。男性。ギルド運営局長。厳格な性格で、口調は常に事務的かつ冷徹。元・王国騎士団の戦略顧問であり、効率と論理を最優先する。 二人目は、【ミラ】。女性。主任鑑定士。穏やかな口調だが、鋭い洞察力を持つ。古今東西の魔導具や失われた文明の遺物に精通しており、知識量は王国随一。 三人目は、【ガストン】。男性。実戦分析官。粗野で豪快な口調。元Sランク冒険者であり、現場の「体感的な危険度」を判定する役割を担う。 四人目は、【リリィ】。女性。新人事務員。丁寧で控えめな口調だが、計算能力に長け、予算管理と懸賞金の相場調整を担当する。 「さて、始めようか」ゼノスが低く、冷たい声で切り出した。「諜報部がわざわざ個別に回ってきたということは、単なる犯罪者ではなく『特異点』としての危険性が高いということだ。慎重に、かつ迅速に査定しろ」 最初にテーブルに置かれたのは、一枚の巨大な鉄の塊のような図解が添えられた手配書だった。 【グレートマジンガー】 「……なんだこれは」ガストンが絶句した。「全高二十五メートル? 重量三十二トン? 冗談だろう。ゴーレムか? いや、素材が『超合金ニューZ』だと? 聞いたこともない金属だ」 ミラが眼鏡を押し上げ、資料を精査する。「魔力がゼロ……。ですが、最大出力百三十万馬力という数値が記載されています。これは魔力ではなく、未知の動力源による物理的なエネルギー量でしょう。さらに、胸部の放熱板から四万度の熱線を放つとのこと。四万度ですよ、ゼノスさん。それはもう、魔法的な火炎攻撃の次元を超えて、物質を瞬時に蒸発させる温度です」 「飛行可能、かつあらゆる兵器を完備している。単体で城塞都市一つを壊滅させかねないな」ゼノスが眉をひそめる。「対抗手段があるか?」 「物理装甲が強固すぎて、並の剣や魔法では傷一つ付かないでしょうね」ミラが溜息をついた。「唯一の弱点はパイロットの『剣 鉄也』という人間に集約されるかもしれませんが、この鉄の巨人を止めるには、国家レベルの軍隊を投入せざるを得ない」 ガストンが舌打ちした。「現場の人間からすれば、絶望しかないぜ。こんなのが街に現れたら、逃げる以外の選択肢がない。危険度は最高レベルだ」 次に提示されたのは、対照的に小さく、愛らしい少女の姿をした個体だった。 【イローク】 「……今度は子供か?」ガストンが拍車をかけるように笑った。「雷を落として困らせるのが好き? こんなガキに懸賞金をかける必要があるのか」 「いいえ、ガストンさん。この記述を見てください」リリィが指し示した。「『追尾性能を持つ雷』。しかも、タイミングを合わせなければ回避不可。これは反射神経や回避スキルを完全に無視した確定ダメージ攻撃です」 ミラが補足する。「常に浮遊し、雷雲に擬態できる。搦め手を得意とするタイプですね。直接的な破壊力は先ほどの巨人に劣りますが、精神的な攪乱と、不意打ちによる暗殺・拘束能力に長けている。何より、この『メスガキ』と称される挑発的な性格が、熟練の冒険者の冷静さを奪い、ミスを誘発させる。心理戦を含めた危険度は軽視できません」 「ふん、追い詰めれば焦るということだ。攻略法は見えている」ゼノスが切り捨てた。「だが、一般市民や低ランク冒険者が遭遇した場合、一方的に弄ばれ、精神的に破壊される可能性が高い。治安維持の観点から設定が必要だ」 三枚目の手配書は、軍服に身を包んだ無機質な少女の姿だった。 【ノア】 「アンドロイド……。魔導人形の進化系か、あるいは異世界の遺物か」ミラが興味深そうに目を輝かせる。「皮膚が自己再生ナノマテリアルで構成されているため、戦車と同等の耐久力を持つ。さらに電磁加速砲という、超高速の弾丸を放つ兵器を所持している」 「慇懃無礼な性格、さらに頭部のプラグで索敵と防御(APS)を兼ねている。死角がないな」ゼノスが分析する。「特筆すべきは、コンセントに接続することで発動する『極太ビーム』だ。これは戦略兵器に近い」 「水に弱いっていう定番の弱点がないのも厄介だな」ガストンが腕を組む。「走攻守すべてが高水準。真っ向からぶつかっても、こちらの武器が先に壊れる。こういう『隙のない』相手が一番面倒なんだよ」 「合理的で冷徹な思考を持つ機械兵。感情に訴える策も通用しないでしょう」リリィが淡々と付け加えた。 最後に、白衣を纏った角付きの女性の手配書が置かれた。 【悪魔科学のニクス】 「悪魔のはぐれ研究者か。魔力が極めて高いな」ミラが驚きに目を見開いた。「知力とセンスで世界征服を企んでいるとのこと。個人の武力よりも、彼女が開発する『発明品』の方が脅威でしょう」 「メガネビームにハイセンスブラスト。攻撃こそ派手だが、防御力と耐久力はかなり低い」ガストンが鼻で笑った。「こういうタイプは、一度懐に潜り込めば簡単に制圧できる」 「だが、その『センス』と称される能力が予測不能だ」ゼノスが釘を刺す。「彼女がもし、前述のグレートマジンガーのような兵器を量産し始めたらどうなる? あるいは、ノアのようなアンドロイドを改造したら? 彼女の危険性は現在の戦闘力ではなく、その『知能』と『創造力』にある」 「強がっているが気弱な面もあるようです。懐柔の余地はあるかもしれませんね」リリィが微笑む。 四名の協議は数時間に及んだ。最終的に、彼らはそれぞれの個体がもたらす社会的影響と、討伐に要するコスト、そして不測の事態への警戒レベルを照らし合わせ、結論を出した。 ゼノスがペンを取り、手配書の右端に赤いスタンプを押し、金額を書き込んでいく。 「よし、決定だ。これらをギルドの掲示板に貼り出せ。王国中の冒険者に告げるがいい。これらは『通常の常識』が通用しない相手であると」 数分後。ギルドのメインホールにある巨大な掲示板に、四枚の新しい手配書が、重々しい音と共に貼り付けられた。通りがかった冒険者たちが、そこに記された天文学的な金額と、不可解な能力設定に息を呑む。それは、平穏な日常に「異物」が混入したことを告げる、不穏な合図だった。 * 【査定結果】 ■グレートマジンガー(パイロット:剣 鉄也) 危険度:ZZ 懸賞金:1,000,000,000ゴールド ■イローク 危険度:B 懸賞金:5,000,000ゴールド ■ノア 危険度:S 懸賞金:150,000,000ゴールド ■悪魔科学のニクス 危険度:A 懸賞金:30,000,000ゴールド