深い霧に包まれた東南アジアの未開のジャングル。湿った土の匂いと、絶え間なく鳴り響く虫の声が、不気味な静寂を際立たせていた。 ジョン・ランボーは、潜伏していた。周囲の緑に溶け込むように身を潜め、鋭い眼光で前方の道を監視している。彼はある目的を持ってこの地に赴いていたが、不運にも道中で武装した傭兵集団の襲撃を受けた。しかし、彼にとってそれは「日常」に過ぎない。ランボーは音もなく背後に回り込み、サバイバルナイフで一人、また一人と静かに沈めていった。血に染まったナイフを拭い、次なる獲物を定めたその時だ。 乾いた銃声が森に響き渡った。 「どけ! 邪魔だ、そこにいるのは分かっているぞ!」 怒鳴り声と共に現れたのは、この環境にはおよそ不釣り合いな格好の男だった。淡いブルーのシャツに黒のレザージャケットを羽織り、ネクタイをせずラフにボタンを開けた男――ピーター・ストラム。FBIの捜査官である彼は、ジグソウ事件の追跡という目的でこの地に足を踏み入れていたが、道中の傭兵たちに苛立っていた。ストラムは手にした拳銃を乱射し、残った襲撃者たちを強引に排除していた。 ランボーは瞬時に身を隠し、弓を構えた。相手が敵か味方か、今の状況では判断できない。一方のストラムも、直感的に「誰かが潜んでいる」ことを察知していた。彼は鋭い洞察力で、茂みのわずかな揺れを見逃さなかった。 「おい、そこに隠れているネズミ。出てこい。FBIだ。抵抗すればその頭に穴を開けるぞ」 ストラムの高圧的な口調が森に響く。ランボーはゆっくりと姿を現した。赤いバンダナを巻き、鍛え上げられた肉体を茶色のシャツに包んだ男。その眼光は冷徹で、戦いの中にしか居場所を見いだせない獣のような圧があった。 「……FBIか」 ランボーの声は低く、地を這うようだった。ストラムは彼を一瞥し、鼻で笑った。 「見たところ、ただの野蛮な傭兵か、あるいは迷い込んだ狂犬か。状況を説明しろ。お前は何者だ。誰に雇われてここで何をしている?」 ストラムの問い詰め方は、対話ではなく尋問だった。ランボーは答えず、ただ静かに相手を観察していた。この男の目は、単なる法執行官のそれではない。異常なまでの執念と、鋭すぎる知能。だが、同時に余裕のなさと短気さが同居している。 「俺が誰かは重要じゃない。お前がここに来た目的こそが問題だ」 「あぁ? 命令するな。俺が聞いているんだ。答えろ!」 ストラムが拳銃をランボーの眉間に向けた瞬間、地響きのような咆哮が森全体を震わせた。 ――ドォォォォォン!! 衝撃波と共に、巨大な樹木がなぎ倒され、二人の間に「それ」が現れた。 身長は3メートルを超え、全身が硬質な黒い外殻に覆われた異形の怪物。かつての軍事実験によって生み出された、生物兵器の成れの果てである。皮膚は弾丸を弾くほどに硬く、腕には鋭い鎌のような爪、そして眼球のない頭部からは熱線のような光が漏れていた。この怪物が、ランボーが追っていた「標的」であり、ストラムが追う事件の背後にある「鍵」を握る存在だった。 怪物が咆哮し、凄まじい速度で突撃してくる。ストラムは反射的に拳銃を連射した。タタタタッ! と激しい銃声が鳴り響くが、弾丸は怪物の外殻に当たり、火花を散らして弾かれた。 「チッ! 硬すぎるか!」 「弾丸だけでは通用しない。奴の皮膚には節がある」 ランボーが冷静に分析し、ストラムの肩を突き飛ばして回避させた。直後、怪物の爪がストラムがいた場所を深く切り裂き、大地を盛り上げた。 「なっ……! 勝手に触るな!」 「死にたいなら好きにしろ。今は、力を合わせるだけだ」 ランボーの言葉に、ストラムは舌打ちをした。だが、彼の超人的な洞察力は理解していた。目の前の男は、自分とは正反対のタイプだが、生存能力と戦闘技術において絶対的な信頼がおけることを。 「……いいだろう。だが勘違いするな。お前を信用したわけじゃない。効率的にこの化け物を片付けるだけだ!」 戦いの火蓋が切られた。 ランボーは即座に周囲の環境を利用した。あらかじめ仕掛けていた爆薬の起爆スイッチを押し、怪物の足元で大爆発を起こさせる。ドガァァァン! という爆音と共に怪物が体勢を崩した瞬間、ランボーは背負っていたM60機関銃を乱射した。 ガガガガガガガガッ!! 火力が高いM60の弾丸が、怪物の視覚器官と思われる部位を集中攻撃する。完全な破壊には至らないが、怪物は激しく悶え、方向感覚を失った。 「今だ! その隙を突け!」 ランボーの指示に、ストラムが動いた。彼は弾切れのない拳銃を構えながら、超高速の思考で怪物の「弱点」を導き出した。怪物の外殻がわずかに開く呼吸口。そこだけが、内部の柔らかい組織に繋がっている。 「そこか! くだらない構造だ!」 ストラムは迷いなく突撃した。怪物が腕を振り下ろすが、ストラムは紙一枚の差でそれを回避し、懐に潜り込む。そのまま、ガード崩しの鋭い突きを怪物の腹部に叩き込んだ。身体能力を極限まで高めた打撃が、外殻の隙間から内部へ衝撃を伝える。 「グアァァッ!!」 怪物がのけぞる。そこへ、ランボーが仕掛けた罠が作動した。上空から吊るされていた巨大な倒木が、ワイヤーの切断と共に怪物の背中へ直撃した。凄まじい衝撃で怪物は地面に叩きつけられる。 「ふん、いい連携じゃないか。おい、次だ! 追い詰めるぞ!」 ストラムが吼える。彼はもはや怒りに任せて戦っているのではなく、冷徹な計算に基づいた攻撃を繰り返していた。ランボーは静かに弓を構え、爆薬を仕込んだ特殊な矢を放った。矢は正確に怪物の口内に突き刺さり、内部で爆発。怪物の頭部から血と粘液が噴き出した。 しかし、敵はまだ死んでいなかった。生物兵器としての再生能力が働き、傷口が急速に塞がり始める。怪物は激昂し、周囲の木々をなぎ倒しながら、猛烈な速度でランボーとストラムの両方を押し潰そうと突進してきた。 「クソッ! しぶといな!」 「……終わりにする」 ランボーはM60を捨て、腰に差した巨大なサバイバルナイフを抜いた。彼は低く構え、怪物の突進に合わせてタイミングを計る。一方のストラムも、拳銃をホルスターに収め、拳を固く握りしめた。 「いいか、野蛮人! 俺が意識を逸らす。お前は心臓を貫け!」 「言われなくても分かっている」 ストラムが正面から飛び出した。彼はわざと大きな声を出し、挑発的な態度で怪物の注意を引く。怪物が怒りに任せて爪を振り下ろした瞬間、ストラムは超人的な反射神経でそれをかわし、同時に怪物の足首を鋭い蹴りで攻撃。わずかにバランスを崩させた。 その一瞬の隙。 ランボーが影のように舞った。怪物の死角から跳躍し、鍛え上げられた肉体から繰り出される全重量を乗せて、サバイバルナイフを怪物の首の付け根――外殻が最も薄く、中枢神経が集まる一点に深く突き立てた。 ズブッ!! 「……これで終わりだ」 ランボーがナイフをひねり、深く切り裂く。同時に、ストラムが背後から怪物の後頭部に、全力の拳撃を叩き込んだ。衝撃波が怪物の脳を揺らし、内部から破壊する。 「死ねッ!!」 二人の同時攻撃により、怪物の動きが完全に停止した。巨体はゆっくりと、崩れるように地面に横たわり、やがて静寂が戻ってきた。 激しい呼吸を繰り返す二人の男。ランボーは血に汚れたナイフを静かに拭い、鞘に収めた。ストラムは乱れたレザージャケットを整え、胸ポケットから銀のボールペンを取り出すと、手帳に何かを書き込んだ。 「ふん。まあ、及第点の働きだったな。お前のような荒くれ者が、意外と役に立つとはな」 ストラムは相変わらずの高圧的な態度で言い放ったが、その目にはわずかな敬意が宿っていた。ランボーは何も答えず、ただ静かに森の奥を見つめていた。彼にとって、戦いは終わったが、孤独な旅はまだ続く。 「……FBI。お前のやり方は効率的だが、騒がしすぎる」 「あぁ? 何だと! 俺の推理と行動に一点の曇りもないわ!」 言い合いになりそうな空気が流れたが、ランボーはふっと口角をわずかに上げ、背を向けて歩き出した。 「行け。お前の居場所は、ここじゃない」 「待て! まだ話は終わってな……!」 ストラムが叫んだが、ランボーの姿はすでに深い緑の森に溶け込み、消えていた。まるで最初からそこにいなかったかのように。 ストラムは呆れたようにため息をつき、ボイスレコーダーに記録を残した。 「……ターゲット排除。協力者は正体不明の軍人。能力は極めて高く、性格は最悪だ。以上」 彼は一度だけ、ランボーが消えた方向を振り返り、不機嫌そうに、しかしどこか満足げな表情で歩き出した。