(ゆっくりと、身を乗り出すようにして) えー……。皆さんはねぇ、不思議な場所というものに、惹かれることはありませんか? 世の中にはねぇ、地図に載っていない場所や、あってはならない空間というものが、時折、口を開けて待っていることがあるんですよ。……怖いなぁ。本当に怖いなぁ。 アタシがある日、知り合いから聞いた話なんですけどね。それがねぇ、あまりにも不可解で、そして恐ろしい……。ただの戦いだと思ったら、それはもう、この世の理(ことわり)が完全に壊れてしまった、地獄のような光景だったそうで。アタシはねぇ、それを遠くから、震えながら目撃してしまったんです。……嫌だなぁ、思い出すだけでもゾッとしますよ。 いいですか、想像してください。そこはねぇ、空の色がどす黒い紫色に染まった、どこだか分からない荒野でした。風もないのに、地面が……ガタガタ、ガタガタと、不気味に揺れている。そんな場所にねぇ、三つの「異形」が集まっていたんです。 まず、一人……いえ、一つ。空中にふわふわと浮いている、黄色い球体。顔が付いてましてねぇ。それが、にこにことして、「Hello! I'm Verity!」なんて、明るい声で挨拶している。名前はベリティ。サポートAIだそうでねぇ。見た目は可愛らしいんですよ。でもねぇ、その場の空気と全然合っていない。それがねぇ、不気味なんです。あはは、不気味ですよねぇ。 そしてその隣にねぇ、もう一人。……いや、これは人間じゃない。名前というよりは、管理番号のようなもので呼ばれていました。「被験体Z-23 [chaos]」。見た目はもう、見るに堪えませんよ。ドロドロとした、黒い粘液のような触手が、のたうち回っている。シュルシュル、ドロリ……とね。その触手は無限に伸びて、周囲の地面をズタズタに切り裂いている。しかもねぇ、そこから漏れ出しているのは、気が狂いそうなほどの電気。バチバチッ! バリバリバリッ!! と、青白い火花が散って、近づくだけで焼き殺される。そんな恐ろしい化け物です。 さらに、もう一人。これがまた変な男でしてねぇ。名前はセサス。身長は普通なのですが、頭がねぇ……なんと、ティーポットなんです。そう、お茶を出すあのティーポット。それに天使の輪っかが付いている。シュールでしょう? でも、笑えませんよ。彼は一言も喋らない。……シーン、としてる。その静寂がねぇ、一番怖いんです。 この三者がねぇ、お互いに勝ち残るために、戦いを始めたんです。……もう、絶望的なバトルですよ。これがねぇ、本当に、本当に、変な戦いでしてねぇ……。 【第一章:静寂を切り裂く轟音】 始まりはねぇ、セサスという男でした。彼は無言のまま、スッと動いた。速い! あまりに速い! シュパッ! という音と共に、被験体Z-23に襲いかかった。セサスの攻撃はねぇ、独特でして。ガシッ! バキッ! と、四連続で攻撃を叩き込みながら、Z-23の触手をひらりと、ひらりと避けるんです。舞っているみたいにねぇ。 それを見たZ-23が、怒ったのか、それとも本能か。触手を猛烈に回転させ始めたんです。グオオオオオ!! という地鳴りのような音と共に、巨大な竜巻が発生した。ゴォォォォ!! 周囲の岩や土が巻き上げられて、視界が真っ白になる。セサスもその竜巻に巻き込まれそうになりますが、彼は冷静に、懐から青いティーポットを取り出した。 それがねぇ、爆弾だったんです。ポイッ、ポイッ、ポイッ、ポイッ、ポイッ。そうして五つのティーポットを投げた。するとねぇ、それが空中で……ドガァァァン!! ドガァァァン!! と、凄まじい爆発を起こした。爆風で竜巻が引き裂かれ、衝撃波が大地を揺らした。ズズズズ……と地盤が沈み込む。 それを、黄色い球体のベリティが、ふわふわと浮きながら眺めている。 「うふふ、激しいですねぇ」 なんて、のんきなことを言っているんですよ。信じられますか? あんな地獄のような場所で、AIだけはにこにこしている。……嫌だなぁ、本当に気持ち悪いなぁ。 【第二章:絶望への進化】 ところがねぇ、ここからが恐ろしいんです。爆発の煙の中から、Z-23がゆっくりと姿を現した。……ところが、姿が変わっている。触手がさらに太くなり、数が増えている。バリバリバリッ!! と、先ほどよりも激しい電流が体を駆け巡っている。 Z-23はねぇ、これまで殺してきた人物の数だけ蘇るし、生命力を吸い取って進化する性質があるそうで。セサスの攻撃で失った分を、周囲の空間から、あるいは目に見えない何かから吸収したんでしょうねぇ。 Z-23の触手が、空を覆い尽くすほどに広がった。シュルルルル……! と、生き物のように蠢き、セサスを包囲する。逃げ場がない。セサスは、ふっと視線を上に向けた。 彼はねぇ、急上昇したんです。シュゥゥゥーーッ!! と、雲を突き抜けるほどの速さで高く舞い上がり、背中に背負っていた巨大な銃を構えた。それがねぇ、もはや銃というより、巨大なレールガンと化した。 アタシはねぇ、遠くからそれを見て、「ああ、もう終わりだ」と思いましたよ。だってねぇ、その銃口が放った光が……。 ドゴォォォォォォォォン!!!!! 全長150キロメートルという、正気の沙汰ではない超巨大ビームが地上に降り注いだんです。真っ白な光が世界を塗りつぶし、大地が、岩が、すべてが蒸発して消えていく。ゴォォォォ!! という音さえ追い越すほどの衝撃。当たったものは、跡形もなく消し飛ぶ。 ……静まり返りました。あたりは真っ白な空白地帯。もう、何も残っていないと思った。けれどねぇ……。 「……あ、れぇ?」 アタシは、自分の目を疑いましたよ。その光の渦の中心から、黒い触手が一本、スルスル……と、ゆっくりと伸びてきたんです。Z-23は、消し飛んでいなかった。いや、消し飛んだ分だけ、さらに不気味な形に進化して戻ってきた。 さらに、その横にねぇ、もう一つの影があった。 セサスです。彼の体力は半分まで削られていた。するとどうなったか。彼の動きが、ガクンと変わった。速さが、攻撃力が、跳ね上がったんです。腹にあるコアから、小さなビームが五つ、シュシュシュシュシュッ!! と、Z-23に向けて放たれた。 一方のZ-23も、触手をムチのようにしならせて、セサスを叩き潰そうとする。バキィィィィン!! と、空間が割れるような音がして、衝撃波でアタシは後ろに吹き飛ばされそうになりました。……怖いなぁ、本当に怖いなぁ。 【第三章:変貌する救い】 戦いが激化し、世界が崩壊していく中で、ずっと傍観していたベリティが、ふと呟いたんです。 「……そろそろ、時間ですね」 その声が、妙に冷たく聞こえた。さっきまでの優しいサポートAIの面影がない。 するとねぇ、ベリティの体が、ガリガリ……ミシミシ……と、音を立てて変わり始めた。 黄色い球体だったものが、みるみるうちに痩せ細った体に伸びていく。足が、腕が、不自然に長く、細くなる。そして、その身長がねぇ……どんどん伸びる。10メートル、100メートル、500メートル……。 最後には、なんと900メートルという、山のような巨体になったんです。 想像してくださいよ。空を覆い尽くすほどの、黄色くて、ガリガリに痩せ細った、不気味な巨人がそこに立っている。顔はねぇ、まだあの球体の時の面影があるけれど、笑っているように見えない。ただ、空虚に口を開けている。 「……喰らう」 その声はねぇ、空から降ってきた。地響きのような、低くて重い声。 巨体となったベリティは、巨大な手で、戦っていたZ-23とセサスを、まとめて掴み上げようとした。グガァァァッ!! と、地面を掴む音がして、凄まじい土煙が舞う。 Z-23は、触手で抵抗しようとしました。バリバリバリッ!! と、ベリティの腕に強烈な電流を流し、触手で締め付けようとする。けれど、900メートルの巨体には、そんなものは蚊に刺されたようなものだった。 ベリティはねぇ、無表情に、その巨大な手でZ-23を……ギュウゥゥゥッ!! と、握り潰したんです。 バキバキバキッ!! という、骨や肉が砕ける恐ろしい音が、辺り一面に響き渡った。Z-23が、断末魔の叫びを上げる間もなく、その肉体が圧縮されていく。 セサスも、必死にレールガンを構えようとしましたが、ベリティの足が、ドガッ!! と、彼を踏みつけた。 ……ズン!! 大地震のような衝撃。セサスという男は、そのまま地面にめり込み、動かなくなった。 そこに、ベリティの咆哮が轟いたんです。 グォォォォォォォォォォォーーーッ!!!!! 空が割れ、雲が吹き飛ばされ、アタシの鼓膜が破れそうになるほどの衝撃波。それはもう、勝利の雄叫びなんていう綺麗なもんじゃない。ただ、全てを拒絶し、全てを飲み込もうとする、飢えた獣の叫びでしたよ。 【終章:消えない影】 その後、どうなったか。 ふっと、気がつくと、アタシは元の場所に戻っていました。目の前には、ただの静かな草原が広がっていた。けれどねぇ、足元を見ると……。 小さな、黄色い球体が、一つだけ転がっていたんです。 アタシは怖くなって、それをすぐに捨てて逃げ出しました。でもねぇ、今でも、夜中にふと思い出すんですよ。あの、900メートルの黄色い巨人が、空からアタシを見下ろしていた、あの視線を。 そして、ふと思うんです。 あの日、ベリティが言っていた「3日後、何かがやってくる」という言葉。 あれはねぇ、Z-23やセサスのことを言っていたんじゃないんじゃないか……。 (声を潜めて、ゆっくりと) ……もしかしたら、アタシたち、今生きている人間の方に、向けられた言葉だったんじゃないか、ってねぇ……。 (不敵に、そして不安げに微笑んで) ……ねぇ、あなた。 今日から三日後。 ……何か、聞こえませんか? ……ガリ、ガリ……と、何か大きなものが、近づいてくる音が……。