第1試合:市街地――ビルと高強度遮蔽 崩れかけたビルが通りを挟んで立ち並び、コンクリートの壁や柱が射線を何度も分断していた。見通しの利かない市街地は、遠距離射撃の利点を削る一方、重量兵器が振るえる空間も限っている。魔弾の射手と『時化』は、互いを視認できない距離から戦闘を始めた。 最初に響いたのは、建物の向こうから走る鎖の擦過音だった。ロバーツはアンカーを伸ばし、鎖を壁面へ絡めながら機体を前進させる。巨大な錨をただ投げるのではなく、建物を支点にして軌道を曲げ、遮蔽の裏側へ回り込ませる。アンカーが角を回って壁を砕いた瞬間、魔弾の射手はすでにその場を離れていた。 黒霧が街路に広がる。光速ブースタの加速で射線を外しながら、射手は煙幕の縁から魔弾を放った。磁場反発を帯びた弾丸は、瓦礫と金属骨組みの間で不規則に跳ね、正面の遮蔽物を避けるように『時化』へ迫る。ロバーツは鎖を手繰り、錨を機体前面へ引き戻して盾のように構えた。弾丸は錨の縁をかすめて装甲に食い込む。大型機の動きが一瞬鈍ったものの、損傷は致命的ではない。 射手は射撃を重ねようとしたが、弾数は無限ではない。即時装填機構は次弾を素早く用意できても、魔弾鋳造機関の負担を消すものではなかった。そこで射手は、狙いをつけるための短い静止すら避け、機動と射撃を交互に行う。跳弾は壁を抜け、足元や側面から『時化』を襲った。ロバーツは回避に固執せず、鎖を建物へ巻きつけ、強引に機体を引き寄せることで弾道をずらす。さらにアンカーを低く振り、通りに散らばる瓦礫をまとめて跳ね上げた。 破片が黒霧を乱し、射手の視界を塞ぐ。だが射手には空間把握と回避の直感がある。鎖の張力、瓦礫の崩れ方、錨が空気を裂く気配から、次の攻撃が来る位置を読み、最小限の動きで退いた。錨は直前まで射手がいた路面を粉砕する。ロバーツは攻撃の空振りを承知で鎖を巻き戻し、次の一撃へ移る。その切り替えは、巨大な質量兵器を扱う者として並外れていた。 射手は再び魔弾を放つ。今度はアンカーの鎖そのものを狙い、磁場を乱して跳弾の角度を変えた。鎖の一部に弾丸が当たり、環が歪む。アンカーの操作がわずかに乱れた隙を見て、射手は側道へ抜けた。だがロバーツは鎖を切り離さない。歪んだ環を別の鎖へ巻き込み、錨の重量を利用して引きちぎるように振り回した。金属音とともに、通り沿いの壁が連続して崩れ、射手の逃走経路が狭まる。 射手は黒霧を濃くし、離脱用ブースタで上方へ跳ぶ。高強度の建物を蹴って方向を変え、錨の軌道を避けながら、残る弾丸を短く撃ち込んだ。いくつかは『時化』の肩部や脚部に命中し、重装甲を穿つ。しかし大型機は倒れない。ロバーツは壁面へ錨を打ち込み、その反動で機体を引き上げた。射手が空中で向きを変えるより早く、鎖が上階の梁を巻き、錨が斜め下から振り上がる。 直撃すれば戦闘は終わる。射手は回避の直感に従い、機体をひねって衝突を避けたが、錨の風圧と鎖の側面が機体を打つ。装甲が割れ、推進器の一基が不調になる。なおも射手は近距離から反撃し、魔弾をアンカーの接合部へ撃ち込んだ。命中はした。だがロバーツはすでに鎖を引き、錨を軌道の終端から巻き戻していた。接合部の損傷で操作は重くなるものの、止めるには至らない。 射手には最後の賭けがあった。『絶望の弾丸』なら、予想外の弾道で一瞬の隙を射抜ける。しかしそれは自機を貫く自傷の一撃であり、損傷した機体で近距離のアンカーを受け止める代償はあまりに大きい。射手は発射姿勢へ入る寸前、錨が振り下ろされるのを見た。直撃を避けるため機体を投げ出すように横へ飛ぶが、破壊された壁と鎖に挟まれ、退路を失う。 ロバーツは鎖を引いて錨の軌道を絞り、壁際で動きを封じた射手へ最後の一撃を叩き込む。機体は瓦礫の中へ崩れ、魔弾の射手は戦闘不能となった。市街地では射手の跳弾と機動が何度もアンカーをかわし、ロバーツの機体にも損傷を与えた。しかし遮蔽を支点に変えるロバーツの捕鯨戦法が、狭い空間を利用して最終的に射手の退路を潰した。 第1試合の勝者:チームB(ロバーツ) 第2試合:衛星――低重力 灰色の地表には影だけが長く伸び、地平線の向こうまで遮るものはなかった。低重力のため、ひとたび動けば機体は大きく滑り、跳躍や投擲の軌道も地上とは異なる。魔弾の射手は機動力と射撃を活かせる一方、アンカーを振るうロバーツにとっても、錨の慣性を遠くまで伝えられる環境だった。 二機は互いを見つけると、距離を保ったまま動き始めた。射手が先に撃つ。磁場反発による魔弾は、直線的に飛ぶだけでなく、低重力下の金属片や機体の磁場に影響されて軌道を乱す。ロバーツは錨を前方へ投げ、鎖を繰り出して機体を引いた。大質量の錨は射手へ迫りながら、鎖の張力を通じて『時化』を加速させる。 射手はブースタで横へ滑り、弾丸を連続して放つ。初弾は錨の側面を跳ね、次弾は鎖の環へ食い込んだ。命中のたびにアンカーの動きがわずかに歪む。射手はその変化を読み、次の跳弾を機体本体へ導こうとした。ロバーツは鎖を手繰る力を緩めて軌道を大きく変える。錨は射手の予測を外れ、長い弧を描いて背後から回り込んだ。 射手は空間把握でその動きを察知し、機体を反転させる。錨はかすめて通り過ぎたが、鎖が推進器の外装を叩いた。姿勢が崩れる前に射手は推進を噴かし、距離を取る。ロバーツは一撃に賭けず、アンカーを伸ばしたり縮めたりしながら射手の逃げ道を限定していく。低重力では錨を大きく振るための空間が十分にあり、投擲の後も鎖を巻き戻して攻撃を続けられる。 射手は同じ軌道を二度使わず、緩急をつけて移動した。正面へ出て撃つと見せ、急加速して側方へ抜ける。魔弾は磁場を乱し、錨の軌道を微妙に逸らした。だがその射撃は、巨大なアンカーを止めるほどの力を持たない。ロバーツは逸れた錨を鎖の反動で引き戻し、射手の機動方向へ滑らせる。空中で姿勢を変える射手に、地面へ足をつけたときのような急停止はできない。回避は成功しても、次の位置が制限される。 射手は狙いをアンカーの鎖と機体関節へ切り替えた。跳弾が鎖の複数の環に当たり、いくつかを歪ませる。さらに一発が『時化』の膝部装甲を貫き、巨体が一瞬傾いた。ロバーツは損傷した脚で踏ん張らず、アンカーを地面へ打ち込み、その反作用で機体を支える。すぐさま鎖を巻きつけ、錨を横薙ぎに振った。射手は上へ逃げたが、アンカーは低重力の大きな弧を描いて追従する。 弾薬の残りは少なくなっていた。即時装填機構で射撃を続けられても、魔弾の鋳造には限界がある。射手は距離を取って狙い撃つだけでは決着しないと判断し、黒霧を展開しながら接近した。衛星の薄い環境に煙幕がどれほど留まるかは限られるが、短い視界の乱れと離脱ブースタの加速を組み合わせ、錨の内側へ潜り込む狙いだった。 ロバーツは黒霧へ無理に突っ込まず、アンカーを長く伸ばして周囲を薙いだ。錨の軌道が煙幕を切り裂き、射手はその乱流と鎖の位置を空間把握で読む。攻撃線を抜けた射手は『時化』の胸部へ近づき、残弾を撃ち込む。完璧な命中精度を示す射撃が装甲の同じ箇所を穿ち、巨体の上半身が揺れた。 ロバーツは倒れまいと踏みとどまり、鎖を自機の周囲へ巻きつけて短く持ち替えた。長射程の投擲から、近距離での取り回しへ切り替えたのだ。射手は密着寸前で身をひねり、錨の第一撃を避ける。しかし低重力では、強烈な近距離の振りを受けた機体が大きく弾き飛ばされる。鎖が横から機体を打ち、射手は回転しながら距離を失った。 射手は機体の姿勢を立て直し、最後の魔弾を用意する。自傷を伴う絶望の弾丸なら、アンカーの予測外から急所を撃ち抜ける可能性がある。射手は被弾を承知で発射姿勢を作り、弾丸を放った。機体を貫いて飛び出した魔弾は、錨の軌道を磁場ごと乱し、ロバーツの胸部へ向かう。ロバーツは避けず、鎖を引いて錨をその間へ滑り込ませた。弾丸は錨の外縁で逸れたものの、衝撃で鎖が震え、操縦の一瞬が乱れる。 射手はその一瞬を逃さず接近した。しかし自機を貫いた損傷は推進力を奪い、追撃の動きが鈍い。ロバーツは乱れた鎖をすぐに立て直し、錨を短い振り幅で射手の進路へ叩きつける。射手は直感で避けようとしたが、推進器の出力不足で完全には離脱できなかった。錨が機体の胴を捉え、装甲を潰す。射手は地表へ叩きつけられ、機体は動きを止めた。 衛星の開けた戦場では射手が遮蔽物に頼れず、弾道の変化と高い命中精度でアンカーへ損傷を与え続けた。それでもロバーツは投擲の慣性、鎖の張力、低重力の長い軌道を組み合わせ、射手の逃げ場を徐々に狭めた。決定的な自傷弾すら錨を挟んで受け流し、最後は近距離の質量で押し切った。 第2試合の勝者:チームB(ロバーツ) 第3試合:山岳――急斜面と泥沼 岩壁が迫る山腹には、急斜面と泥沼が不規則に入り混じっていた。平坦な場所は少なく、足を取られれば大型機でも姿勢を崩す。高い機動性を持つ魔弾の射手は斜面を使った回避ができる一方、巨大なアンカーを扱うロバーツには、地形そのものを支点として利用できる。 開戦直後、射手は斜面を横切りながら魔弾を放った。弾丸は岩肌を跳ね、磁場の乱れによって不規則に進路を変える。ロバーツはアンカーを斜面上方へ投げ、錨を岩へ噛ませた。鎖を巻き取ると『時化』の巨体が泥沼から引き抜かれ、斜面を一気に押し上がる。弾丸は肩部を傷つけたが、ロバーツは進撃を止めなかった。 射手は黒霧を斜面の低い位置へ広げ、ブースタで泥沼の上を飛び越える。アンカーの長い射程から離れようとするが、ロバーツは鎖を岩に巻きつけ、投げた錨を別方向から引き戻した。斜面に沿って弧を描く錨は、射手のいる高さへ迫る。射手は空間把握で鎖の張りを察知し、岩棚から跳び退いた。錨が岩を砕き、破片が泥沼へ落ちる。 射手は破片の隙間から連射した。魔弾はアンカーの環や機体の関節を狙い、いくつかを正確に射抜く。鎖の一部が歪み、錨の軌道が不安定になった。ロバーツは損傷した箇所を無理に使わず、鎖の持ち方を変え、錨を短く扱う。近距離の攻防へ持ち込めば、機動性の差を質量で覆せると見ていた。 射手は正面衝突を避け、斜面を縫うように移動しながら攻撃する。泥沼の縁を利用して『時化』の足元を狙い、魔弾を脚部へ集中させた。大型機の片脚が泥へ沈み、体勢が傾く。ロバーツは倒れ込む前にアンカーを岩壁へ打ち込み、鎖を支えにして体を引き上げた。錨は地形に固定され、巨体の転倒を防ぐ支柱となる。ロバーツはそのまま鎖を振り回し、周囲の岩棚を崩して射手の移動路を塞いだ。 射手は崩落を察して離脱するが、斜面は泥と岩屑で滑りやすくなっていた。ブースタで浮き上がれば錨の射線に入る。地表を走れば足場を失う。射手は一瞬だけ動きを止め、周囲の位置関係を測った。冷静さと不屈の精神は、劣勢でも判断を曇らせない。射手は岩壁を蹴り、狭い裂け目へ滑り込んだ。アンカーは巨体を通せない隙間を狙えないが、ロバーツは錨を裂け目の入口へ打ち込み、壁を崩して追い出そうとする。 射手は岩壁の粉塵に紛れて飛び出し、近距離から機銃を撃った。磁光速の弾丸が『時化』の装甲を削り、関節の一つをさらに損傷させる。ロバーツは被弾しながらも鎖を手繰り、錨を機体の横へ引き戻した。射手は錨の内側へ入り込むように動き、振り回しの死角を突く。ロバーツは即座にアンカーを投げず、鎖を短く持ったまま錨の柄を回し、接近した機体を押し返す。巨大な質量を細かく制御する武器運用の巧みさが、射手の読みを崩した。 射手は至近距離で魔弾を放ち、錨の接合部を撃ち抜こうとする。弾丸は命中し、接合部に大きな損傷を刻んだ。しかし錨は鎖から外れない。ロバーツは損傷した部分を握り込むように鎖を引き、錨を横へ振った。射手は回避したが、錨が泥沼を掘り起こし、泥と石が機体にまとわりつく。推進器の吸気部が塞がり、機動力が目に見えて落ちた。 射手は黒霧を再び展開し、離脱用ブースタを最大出力で使う。斜面を下る勢いを加え、アンカーの射程から抜けようとする。ロバーツは追いすがらず、錨を山腹へ打ち込んだ。鎖は岩棚を巻き込み、巨大な岩塊を射手の進路へ引きずり落とす。射手は崩落を避けるため、上方向へ進路を変更した。そこへロバーツが鎖を巻き戻し、錨を岩塊の陰から振り上げる。 射手は絶望の弾丸を放つ決断をした。自機を貫いて弾道を隠し、わずかな隙を射抜く最後の手段である。弾丸は射手の機体を貫通し、斜面とアンカーの金属環に反射しながら、予測しにくい角度でロバーツへ向かった。ロバーツは弾道を完全には見切れない。胸部装甲の一部に魔弾が突き刺さり、機体が大きく揺れる。だが射手自身も自傷の損傷を受け、推進器の出力を失った。 ロバーツは片脚を泥に取られながらも、錨を岩壁へ打ち込んで機体を支えた。胸部を傷つけられたまま鎖を引き、射手へ向けてアンカーを振り下ろす。射手は回避を試みたが、自機の損傷と泥の付着で動きが追いつかない。錨は機体の側面を捉え、斜面へ押しつけた。射手はなお反撃しようとしたものの、武装と機体は戦闘を継続できる状態ではなく、山腹の泥の中で停止した。 この試合では射手の精密射撃がアンカーと機体に深い損傷を与え、ロバーツ自身も決して無傷ではなかった。しかし山岳地形は、岩を支点にして鎖を操るロバーツにとって攻撃と姿勢制御の両方に利用できた。射手の回避経路を崩落と泥沼で限定し、最後は自傷弾の代償で鈍った機体を捕らえた。 第3試合の勝者:チームB(ロバーツ) 総合勝者:チームB(ロバーツ)――3勝0敗