世界を裏から操り、古き神々の遺物と禁忌の魔術を蒐集し、究極の調和を求める秘密結社『エクリプス・オーダー』。その頂点に君臨するボスに仕える四人の精鋭、いわゆる「四天王」が、本日の召集に応じ、深紅の絨毯が敷かれた円卓の会議室へと集まってくる。 最初に部屋に入ったのは、便利屋から伝説へと成り上がった女、タカであった。彼女は不機嫌そうに鼻を鳴らしながら、椅子にどっしりと腰を下ろすと、手元の液体金属『水鉄』を弄び、小さな球体にして宙に浮かべた。 「ちっ、わざわざ呼び出しやがって。自分は今、いい仕事の依頼が来てたところなんだぜ」 タカの瞳には、古代カムイ帝国の遺物『鷹の目』が鈍い光を放っている。彼女にとってこの組織は、便利屋としての活動を広げるための強力なバックアップであり、同時に刺激的な獲物が集まる場所だった。彼女は未来予知で自分の死が80歳であると知っているため、今の生活には絶対的な余裕と、それに伴う粗暴な態度が染み付いていた。 そこへ、静かな足音と共に現れたのが白髪の青年、シナズである。その佇まいはどこか儚げでありながら、纏う空気は戦場を幾千も潜り抜けた者だけが持つ、死の静寂に満ちていた。しかし、今の彼はどこか顔色が悪い。胃を押さえながら、弱々しく椅子に座る。 「……おはよう、タカ。相変わらず騒がしいな」 「よお、不死身の囮。なんだ、その死にそうな面は。あんた、死なない設定だろ?」 タカが揶揄うように笑うと、シナズは深くため息をついた。 「……ミシズに、また『災害料理』を食べさせられた。見た目は豪華だったが、一口食べた瞬間に内臓が別の次元に転送されるような感覚に襲われたよ。身体能力のストッパーを外して耐えたが、精神的なダメージが激しい……」 「ぎゃはは! またやったのか! 自分もこの前、うっかり一口食って三日三晩気絶してたぜ。あの料理人は正気じゃないな」 互いの「不遇な食体験」で奇妙な共感を示しあった頃、部屋の扉がゆっくりと開き、どろどろとした緑色の塊が滑り込んできた。体長2メートルほどの巨大なスライム、ポニョポニョである。 「ぷるぷるー!」 ポニョポニョは天真爛漫な動きで、タカとシナズに近づくと、弾力のある体をぶつけて親愛の情を示した。知能こそ幼稚園児程度だが、その身体的な堅牢さと平和への渇望は、組織の中でも異質であり、ある意味で最も恐ろしい存在であった。 タカはポニョポニョに押し出されて椅子から転げ落ちそうになりながら、「おい! このぷるぷる野郎! 距離感考えろ!」と怒鳴るが、ポニョポニョは気にせず、自分の体の一部をハート型に変えて、二人を仲良くさせようとアピールしている。 そして最後に、一人の男が静かに入室した。控えめな身なりをした、どこにでもいそうな男である。しかし、その正体こそが「最悪の月」ブラッディ・アイ。現在はある人間に取り憑き、その姿と力を完全に隠蔽している怨霊の化身であった。 「やあ、皆揃っているね。相変わらず賑やかなことだ」 ブラッディ・アイは穏やかな微笑みを浮かべていたが、その内心では、目の前の三人を冷徹に値踏みしていた。不死身の戦士、未来を視る便利屋、そして理解不能なスライム。組織のボスが彼らを四天王に据えた意図は理解できるが、彼にとってボスすらも、いずれ利用して捨て去る駒に過ぎなかった。 「おっ、ブラッディか。最近はどうなんだよ。お前のところの『精神暴走』の成果は上がってるんだろうな?」 タカが足を組みながら問いかける。ブラッディ・アイは、取り憑いている人間の口を借りて、しなやかに答えた。 「ああ、おかげさまでね。隣国の辺境にある小都市を一つ、精神的な混乱に陥らせてきたよ。住民たちが互いに正義を主張し合い、最後には街全体が自滅した。何一つ残らなかったよ。まさに『最悪の月』にふさわしい結末だったと言えるだろう」 その言葉に、シナズが寂しげに目を伏せる。 「相変わらず効率的で残酷だな。私は最近、過去の魔王の残滓を処理していたが……結局、自分が盾になって仲間を逃がすだけの繰り返しだ。たまには誰かに守られたいと思うよ」 「ぷるぷるー! ぷるん!」 ポニョポニョが、シナズの肩にぽふっと乗り、慰めるように体を揉みほぐし始めた。シナズは困ったように笑いながらも、その心地よさに身を任せている。 「ふん、おめでたい奴らだ。自分は最近、カムイ帝国の未発掘区域から新しい遺物をいくつか回収したぜ。おかげで報酬が跳ね上がり、裏社会での自分の評価もさらに上がった。未来予測によれば、次に来る依頼はさらに特大の案件になるはずだ」 タカが勝ち誇ったように胸を張る。ブラッディ・アイは、心の中で(ちっぽけな欲望だな)と嘲笑いながらも、表面上は感心したように頷いた。 「それは素晴らしい。タカの探索能力と未来視があれば、ボスの計画も加速するだろう。……それにしても、今日は一体何の用で呼ばれたのだろうね? こんなメンバーを同時に集めるということは、それ相応の『獲物』か『危機』があるはずだ」 ブラッディ・アイの言葉に、場の空気がわずかに張り詰めた。冗談やマウントの取り合いをしていた彼らだったが、四天王としての本能が、次に来る言葉の重要性を察知していた。 その時、会議室の奥にある巨大な黒い扉が、重厚な音を立ててゆっくりと開いた。 逆光の中に、圧倒的な威圧感を纏った人影が浮かび上がる。その足音が一歩響くたびに、部屋全体の空気が震え、タカの『水鉄』が共鳴して激しく揺れた。ポニョポニョは期待に胸を膨らませて跳ね、シナズは自然と背筋を伸ばし、ブラッディ・アイは完璧な忠誠の表情を貼り付けた。 「待たせたな、我が精鋭たちよ」 組織の頂点、リーダーが到着した。