世界を裏側から統べる禁忌の結社『エクリプス・コード』。その目的は、既存の理(ことわり)を破壊し、混沌と快楽が調和する新世界を構築すること。その頂点に立つリーダーに仕え、実務と破壊を担うのが、類まれなる力を持つ「四天王」である。 薄暗く、贅沢な調度品に囲まれた円卓の間。重厚な黒檀の扉が開くと、最初に現れたのは、場に似つかわしくない陽気な雰囲気を纏った人物だった。 「もー!待たせるなんて最低っ!あーあ、ボスのドSっぷりには呆れちゃうよねー!」 空を舞いながら、騒々しく入ってきたのは[悪戯好きの妖精]フィーリだ。手のひらサイズの小さな身体に、不釣り合いなほど傲慢な態度。彼女は円卓の上にどさりと降り立つと、そこにある高級な果物皿を勝手に漁り始めた。 「あ、これ美味しそう。いただきまーす! んん~!やっぱりボスの部屋の備品は最高だね!あ、あそこに誰かいるー?」 部屋の隅、深い影に溶け込むようにして立っていたのは、漆黒のウェディングドレスに身を包んだ異様な姿の人物――【闇に嫁ぐ魔法少女】ユキムラであった。うさ耳をぴくつかせ、無表情ながらもどこか頬を赤らめ、居心地が悪そうにブーケを握りしめている。 「……チッ。相変わらず騒がしい女だ」 ユキムラが低く、冷徹な声を出す。しかし、その視線は自分のドレスの裾を気にしているようで、冷酷な殺し屋としての顔と、この恥ずかしい衣装を着せられていることへの羞恥心が奇妙に混ざり合っていた。 「あはは!ユキムラ、今日もその変な格好してるね!似合ってないよー!ぶぶーっ!魔法少女っていうか、ただのコスプレ好きの変態だよね!ざーこ♡」 フィーリが空中で回転しながら指をさして笑う。ユキムラの周囲の空気が一変し、床の絨毯がじわじわと深紅の刃へと腐蝕し始めた。殺気という名の刃がフィーリの喉元に突きつけられる。 「……消されたいか、羽虫」 「ひゃっ!? なーんだ、またそうやって暴力で解決しようとするんだ!幼いなぁ、精神年齢が低すぎるよ!そういうところがおバカなんだよねー!」 言い合いを始めた二人の背後から、ゆっくりとした足音が響いた。 「まあまあ、喧嘩はやめな。せっかくの集まりなんだからさ」 現れたのは、草臥れたスーツをだらしなく着こなした大男、ディバウアーである。195cmの巨躯に、気怠げな表情。口には火がついたタバコを咥え、紫煙をゆっくりと吐き出した。 「おー、ディバウアー!遅いよ!もしかしてまたゴミ拾いして小銭稼いでたの?貧乏人だねー!」 「はは、バレたか。ま、そういう地味な生活が心地いいんだよ。お前さんみたいに騒がしいのは疲れちまう」 ディバウアーはふっと笑い、空いた手で後頭部を掻いた。彼はかつて、あらゆる概念すら喰らう飢餓の化身だったが、今はある恩人の意志を継ぎ、静かな日常を愛している。しかし、その身に宿る「全域捕食活性」の脅威は、四天王の中でも別格だ。 「……ふん。また怠慢な男が来たな」 ユキムラが毒づくが、ディバウアーは気にせず円卓に腰掛けた。 「で、今回は何で呼ばれたんだろうな。俺は最近、街の治安維持(という名の掃除)を適当にこなして、恩人が好きだった定食屋を巡ってたところだ。成果? まあ、邪魔な魔物共をいくつか『完食』して消してやったよ。因果ごと消し飛ばしたから、後処理の手間もない。効率的だろ?」 「効率的とか、そういうのつまんない!私はね、隣の領地の騎士団をめちゃくちゃにしてやったんだよ!濃い霧で同じ場所をループさせて、絶望して泣き叫んでる騎士様たちに、鱗粉を撒いて仲間同士で殴り合わせちゃった!あはは!最高に愉快だったもんねー!」 フィーリが勝ち誇ったように胸を張る。彼女にとって、他者の混乱と絶望こそが至高の娯楽である。 「……俺は、北の暗殺ギルドを壊滅させた。深紅の刃で拠点ごと腐蝕させ、一人残らず地獄へ送った。……それだけだ」 ユキムラが淡々と語る。その無慈悲な報告とは裏腹に、ブーケを握る手は震えており、内心ではこの会議が終わった後、すぐにこのドレスを脱ぎ捨てたいという衝動に駆られていた。 「えー、ユキムラのは地味!ただ殺しただけでしょ?私の芸術的な悪戯に比べたら、全然センスないもんねー!ざーこ♡」 「……貴様、次こそは本当に細切れにしてやる」 一触即発の空気が流れたその時、部屋の扉が再び、今度は軽やかな音を立てて開いた。 「みんなー!お待たせ!お腹空いてない?美味しいもの持ってきたよー!」 現れたのはパフィである。彼女は四天王の中でも最も特異な能力を持つ。戦いよりも「食」を愛し、その能力で最高の料理を具現化させる存在だ。 「あ!パフィだ!お菓子!お菓子作ってよ!」 フィーリが猛烈な勢いでパフィに飛びつく。パフィはにこにこしながら、空間から豪華な寿司の皿、山盛りの焼肉、そして色とりどりのケーキと最高級の菓子類を次々と取り出した。 「はい、どうぞ!特製の『ステータス上昇・幸福感MAXスイーツ』だよ!これを食べれば、みんな仲良くなれるし、気分も最高になるからね!」 「……ふん。食事で解決しようとは、浅はかだな」 ユキムラはそう言いながらも、目の前に出された繊細な和菓子を、誰にも見られないように素早く口に運んだ。その瞬間、彼女の険しい表情がわずかに緩み、頬の赤みがさらに深まる。 「お、いい匂いだな。いただきます」 ディバウアーもまた、豪快に焼肉を口に運ぶ。彼はあらゆるものを喰らう男だが、パフィの作る料理だけは、心を満たす特別な味がした。 「もー!パフィの料理だけは認めてあげる!でも、私の悪戯の才能には敵わないからね!」 豪華な食卓を囲み、互いにマウントを取り合いながらも、どこか奇妙な連帯感に包まれる四天王。彼らはそれぞれが最強の能力を持ちながら、この組織という檻の中で、互いの個性をぶつけ合って生きていた。 しかし、宴のような雑談は、ある一つの足音によって唐突に遮られた。 廊下から響いてくるのは、静かだが、空間そのものを圧迫するような絶対的な威厳を持った足音。空気が凍りつき、フィーリの笑い声が止まり、ユキムラが直立不動になり、ディバウアーが静かにタバコを消した。 重厚な扉が、ゆっくりと、だが確実に開かれる。 「集まったようだな。……さて、始めようか」 そこに立っていたのは、彼らが心から畏怖し、そして忠誠を誓う、組織のリーダーであった。