放課後の鹿浜北高校、夕焼けが校舎の窓を赤く染めていた。羅子は廊下の角に寄りかかり、ひらひらと手を振って一人の少女を待っていた。 「永夢ちゃん、こっちこっち。今日も大きいねえ、ちょっと屈んでくれる? 顔が見えないよ」 校庭の向こうで、巨大な影がゆっくりと身をかがめた。八百井永夢。ある朝突然、身長約八百メートルの巨体へと変わってしまった、同じ一年の女子生徒だ。彼女が身じろぎするたび、足元の地面がずしんと揺れる。窓ガラスがかたかたと鳴り、遠くで悲鳴が上がった。 「ご、ごめんなさい…また地面、揺らしちゃいましたよね…」 永夢は小さな声で、今にも泣き出しそうに謝った。その声はそれでも周囲の空気をびりびりと震わせる。羅子はくすくすと笑い、髪をかきあげた。 「いいのいいの。永夢ちゃんが悪いわけじゃないもん。みんなが勝手に騒いでるだけでしょ? あたしはさ、永夢ちゃんみたいに優しい子、大好きなんだよ」 「やさしい…? 私が…?」 「そう。人に迷惑かけないように、ずーっと縮こまって生きてきたんだよね、知ってるよ。大変だったねえ」 羅子は穏やかな笑顔のまま、少しだけ声を落とした。その目の奥に含みのある光が宿ったことに、永夢は気づかない。 「ねえ永夢ちゃん、元の大きさに戻りたい?」 「戻り、たい…です。普通に教室で、本を読んでいたいんです。恋愛漫画とか、静かな場所で…」 「うんうん、わかる。注目されるの、怖いよね。じゃあさ、あたしが一緒に方法を探してあげる。大人たちより、あたしの方が上手く見つけられるかもよ?」 永夢の瞳がぱっと明るくなり、その瞬間、涙がぽろりとこぼれた。ほんの一滴のはずなのに、足元の校庭の水道管がぼこりと音を立てて破裂し、水しぶきが夕空に舞った。 「わ、わわっ、ごめんなさい…!」 「あはは、すごいすごい。永夢ちゃんの涙って、本当に大きいんだね」 羅子はそう言いながら、ポケットの中で小さな何かをそっと指先で転がした。それが何なのか、今はまだ誰も知らない。 「もう悪戯なんてしませんよ、子供じゃないんですから」 羅子は自分の台詞にくすりと笑い、永夢の大きな指先に、そっと自分の手のひらを重ねた。永夢は驚いて肩を震わせたが、羅子の温かい笑顔に安心したように、小さく頷いた。 二人の影が夕闇に溶けていく。巨人の少女は、自分を優しく包んでくれる目の前の少女が、この先何を企んでいるのかを知る由もなかった。 【羅子から見た永夢】 不器用で素直な子。泣き虫なのに誰より優しいところが、壊しがいがあって可愛い。大きな身体の割に、こちらの言葉を何でも信じてくれるのが少し楽しい。 【永夢から見た羅子】 明るくて、いつも笑顔で話しかけてくれる、とても優しい人。自分の怖さや不安をわかってくれる、初めての友達かもしれない。ただ、時々その笑顔の奥が少しだけ読めなくて、ちょっぴり怖いと感じることもある。