第一試合:市街地—ビル群と高強度遮蔽 崩れかけた高層ビルの谷間に、二機の影が向かい合った。遮蔽の多い市街地は、遠距離射撃を得意とするマサタカにとって射線を選ぶ場所であり、空中を高速で駆けるイカロスにとっては、速度を保つための空間が細切れになる戦場だった。 開始と同時に、ICARUSは両翼の「Candle」を開いて上昇した。推進機「NOWAKE」が連動し、ビルの壁面すれすれを縫う。飛行速度を上げるほど機体は空気抵抗で融けていく。長く旋回して様子を見る余裕はない。イカロスは早期に斬り込むため、ビルの間を鋭角に抜け、IC-855を進行方向へ突き出した。 マサタカは遮蔽に隠れたまま敵の位置を探る必要がなかった。天覚が高速移動するICARUSの位置を捉え、彼はビルの陰から「神槍」を構える。高強度の壁は弾丸を防ぐが、狙撃のための小さな隙間は残る。超音速を大きく超える徹甲炸裂弾が、翼の通過する空間へ放たれた。 イカロスは反射神経と動体視力で発射の兆候を見抜き、進路をわずかにずらす。弾丸は片翼の外縁をかすめ、合金に深い傷を刻んだ。致命傷には至らないが、切断武装を兼ねた翼の損耗は無視できない。イカロスは躊躇せず、ターミナルアーマーを起動する。機体に追従する防壁が弾片と次弾を受け止める間に、ICARUSはビルの屋上を越えてマサタカへ迫った。 しかし、この防壁があるからといって、射撃を受け続けられるわけではない。マサタカは移動しながら射線を変え、遮蔽から遮蔽へと移る。脚部ファンが瓦礫を蹴り、地上の狭い通路を高速で走った。彼は敵の突進を正面から迎えず、接近されるたびに角を曲がって射線を作り直す。ICARUSは空中以外では活動できず、ビルの内部や狭い路地に降りて追う選択肢がない。翼を振るって斬り込むには、必ず建物の外側へ回り、相手の射程と視界に身をさらす必要があった。 イカロスは一度、屋上の端をかすめるように急降下した。IC-855の一閃が建物の外壁を削り、マサタカの進路を塞ぐ。間合いは詰まった。だがマサタカの機体は被弾信号を受けると、攻撃が来た方向へ指向性アサルトアーマーを多重起動する。斬撃が装甲へ届く直前、放射状の爆発が狭い屋上を満たした。 イカロスは回避を選ばず、ターミナルアーマーで爆圧に耐えた。防壁は致命的な損傷を防いだものの、爆発の衝撃で飛行姿勢が崩れ、壁面へ押し戻される。急速冷却改造は融解の進行を抑えるが、機体が常に熱と摩耗にさらされる根本条件までは消せない。ターミナルアーマーが消えるまでに、イカロスはマサタカへ届かなければならなかった。 彼は絶技《日天》を発動した。内燃機関「HAYATE」が限界を超えて回転し、ICARUSは一段と加速する。翼の縁が赤熱し、機体表面が融けて後方へ流れる。ビルの谷間を一息に抜け、狙撃の照準を振り切るように接近した。マサタカは連射で迎撃し、弾丸を数発、進路上へ重ねる。イカロスは回避しながらも一発を肩部に受け、機体が傾いた。だが速度を止めず、残った翼で刃を振るう。 その斬撃が届く直前、被弾方向を捉えた指向性アサルトアーマーが再び起動した。連続する爆圧が刃筋を逸らし、ICARUSの片翼を大きく損壊させる。飛行速度を保つために酷使した機体は、すでに融解と被弾で限界へ近い。失速すれば空中以外で活動できない機体に立て直しの地面はない。 マサタカは遮蔽の陰へ退き、狙いを定めて最後の連射を浴びせた。イカロスは反応して弾道を避けようとしたが、損傷した翼では急旋回が間に合わない。徹甲炸裂弾が機体中央部を貫き、爆発が推進系を破壊する。ICARUSはビルの間を滑るように落ち、地面へ届く前に機能を停止した。マサタカは距離を取り、射撃を止める。戦闘を続ける相手はもういなかった。 勝者:チームB マサタカ・イワト 第二試合:山岳—急斜面と泥沼 山肌は深い泥に覆われ、斜面のところどころに岩棚が突き出していた。足場の悪さは地上機の機動を妨げる一方、マサタカの脚部ファンは悪路での加速を可能にする。ICARUSは空中にいれば地面の泥に捕らわれないが、空気抵抗による融解は斜面の風や急旋回でさらに負担となる。遮蔽物が少ない稜線では狙撃の射線が通りやすく、岩陰を利用すれば射撃を切ることもできる。 戦闘が始まると、イカロスは山腹を舐めるように飛んだ。急斜面に沿って高度を変え、岩棚の陰へ滑り込む。対するマサタカは泥を跳ね上げながら横方向へ加速し、山腹を斜めに登る。天覚は敵の高度と位置をつかみ、狙撃銃「神槍」の銃口がICARUSを追った。 最初の弾丸は岩棚に当たり、硬い岩片を撒き散らした。イカロスは直撃を避けたが、飛び散った破片が翼に傷をつける。彼は旋回して射線を切り、岩棚の裏へ一度隠れた。マサタカは無理に撃ち続けず、脚部ファンを使って別の岩場へ移動した。山岳の起伏は射撃を遮るが、敵の位置を把握できる彼は、隠れ場所を変えて射線を再び通せる。 ICARUSは一撃の斬り込みに勝負を賭けた。急斜面へ沿って降下し、岩壁の陰から速度を乗せて飛び出す。イカロスはマサタカの移動先を読み、IC-855を交差させる軌道で振った。神槍の弾丸が翼をかすめる。それでも彼は進路を変えず、敵機へ刃を届かせようとした。 マサタカの機体に攻撃が触れると、被弾信号に反応した指向性アサルトアーマーが起動する。爆発は斬撃の向きへ集中し、ICARUSの機体を押し返した。ターミナルアーマーが爆圧を受け止め、イカロスは致命的損傷を免れる。だがその間にも、熱と摩擦による融解は続いていた。山肌を横切る飛行は、速度を落とせば狙撃され、速度を上げれば機体を削るという選択を突きつける。 マサタカは泥沼の縁を利用して進路を変えた。地上機の脚部ファンが泥を巻き上げても、急加速は止まらない。彼は山腹を横切ってICARUSの側面へ回り込み、正面への突進を避ける。弾数には限りがあるが、大型機体に積まれた多量の弾薬があり、近距離へ不用意に入る理由もなかった。弾丸を連続してばらまくのではなく、イカロスが岩陰から飛び出す瞬間に照準を合わせて撃つ。 イカロスは岩棚を盾にして反撃の機会を探す。狙撃弾が岩を砕き、破片が斜面を転がった。彼は飛び出す瞬間を遅らせ、マサタカの射撃の間を突こうとした。反射神経が弾道を捉え、機体をひねって一発をかわす。二発目はターミナルアーマーが受け止めた。しかし防壁は永続しない。解除の気配を見定め、イカロスは《日天》を発動した。 HAYATEが唸り、ICARUSは岩棚から弾丸のように射出された。融解が一気に進み、翼の表面が剥がれ落ちる。それでも一瞬の超加速は、射撃の狙いを外させるだけの速度を生んだ。マサタカは照準を追い、正面からの一撃を避けて斜面下へ加速する。ICARUSは空中で進路を切り返したが、損傷した翼が応答に遅れ、刃の軌道がわずかに流れた。 その隙にマサタカは神槍を撃つ。徹甲炸裂弾が翼の付け根へ食い込み、機体内部で炸裂した。翼の片側が切断能力と推進力を失い、ICARUSは泥沼の上へ傾く。イカロスは残った推進機を全開にして姿勢を立て直そうとするが、空中以外の活動能力を持たない機体に、着地して戦いを続ける手段はない。 マサタカは間合いを保ったまま、胴体へ狙いを定めて追加射撃を行った。ターミナルアーマーの防御時間はすでに過ぎ、損傷した機体は弾丸を避けきれない。徹甲炸裂弾が中央部を破壊し、ICARUSは斜面の泥へ墜落した。泥が機体を覆い、翼が止まる。イカロスは最後まで操縦桿を握っていたが、機体は再び飛び立たなかった。 勝者:チームB マサタカ・イワト 第三試合:衛星—低重力 荒涼とした衛星表面には大気がなく、細かな粉塵とクレーターが広がっていた。低重力は跳躍や落下を長引かせ、地上機の移動にも空中機の姿勢制御にも独特の影響を与える。ICARUSは本来、空気を切って飛行速度を追求する機体である。大気のない環境では、その長所を支える空力が期待できず、翼で空気を受けて推力や揚力を得ることはできない。一方、関節推進機NOWAKEと内燃機関HAYATEによる姿勢制御・推進は働くため、空中にとどまれないと即座に決めつける必要はない。ただし、飛行速度を際限なく求めた設計の強みは、大気のある戦場ほど発揮されない。 対してマサタカの脚部ファンは地上戦の加速を生むが、低重力の粉塵上では地面を蹴る力と姿勢の維持が難しい。それでも天覚は地形と敵機の位置を捉え、射撃を支える。遮蔽物はクレーターの縁や岩塊に限られ、弾道の見通しは良い。大気抵抗がないため、神槍の弾丸も減速しにくい。 開始直後、ICARUSは推進機を噴かして浮き上がった。地面に触れず動ける利点を活かし、クレーターの縁を越えてマサタカへ接近する。地上機のように粉塵へ足を取られることはない。イカロスは速度を上げすぎれば機体が融ける危険を抱えつつも、空気がないことで空力加熱の原因となる抵抗は小さいと見込み、機体を前へ押し出した。 マサタカはクレーターの縁を蹴り、横方向へ移動する。ファンが地面を噴き、低重力のため機体は大きく跳ねた。彼はその長い滞空を姿勢制御で整え、神槍を発射する。超高速弾は遮蔽物の少ない空間を貫いた。イカロスは弾道を見切って回避するが、飛行姿勢を大きく変えるたび、推進機の制御に負荷がかかる。二発目は翼部に命中し、刃の一部を欠いた。 イカロスはターミナルアーマーを展開して射撃の圧力を耐え、クレーターの影へ回り込む。マサタカは天覚でその移動を追い、岩塊を間に置きながら射線を組み立てた。大気がないため、砲声は伝わらない。銃口の発光と弾丸が岩を砕く振動だけが、戦闘の合図となる。 ICARUSは遮蔽物の端をかすめて飛び、上方から急襲した。斬撃がマサタカの装甲へ届く。直後、被弾方向へ指向性アサルトアーマーが多重起動した。爆発の衝撃は低重力の中で機体を長く押し流し、両者の距離を引き離す。イカロスはターミナルアーマーで壊滅を免れたものの、姿勢を整えるため推進剤と機関出力を費やす。マサタカも爆発後の反動で機体を揺さぶられたが、装甲に深刻な損傷はない。 ここで、戦場の差が明確になった。ICARUSの翼は切断武器として機能するものの、空気を捉えて飛行を助けることはできない。推進機による機動は可能でも、常に空中を保ち、極限の速度で相手の射線を抜けるという本来の性能を十分には発揮できない。マサタカは機動に癖があるものの、地形感知と狙撃の精度を保っている。彼は弾を節約し、ICARUSが姿勢を立て直す瞬間を待った。 イカロスは待つことを選ばず、《日天》でHAYATEを超過稼働させた。機体は短い噴射で一気に加速し、クレーターの縁からマサタカへ迫る。融解の進行は大気中より抑えられていても、過負荷による発熱と機体損傷は避けられない。翼の刃が狙いを定め、今度こそ相手を切断しようと振り下ろされた。 マサタカは横へ跳び、指向性アサルトアーマーを起動する。爆発は攻撃方向へ集中し、ICARUSの接近軌道を押し曲げた。刃は装甲を浅く削るにとどまり、爆圧が機体をクレーター壁へ叩きつける。ターミナルアーマーは大きな損傷を防いだが、残存時間は尽きていた。マサタカはその機会を逃さず、神槍を近距離で撃ち込む。 徹甲炸裂弾が機体中央を貫き、推進系を破壊した。イカロスは姿勢を保てず、クレーターの底へ落ちる。マサタカは離れた位置から、動きを止めた機体へさらに射撃を加えた。翼は地面に落ち、推進機の光が消える。衛星の静寂の中で、ICARUSの戦闘能力は失われた。 勝者:チームB マサタカ・イワト 総合勝者:チームB 【闇夜黒雷】マサタカ・イワト(3勝0敗)