ギルドの影、懸賞の協議 王国首都の中心部に位置する冒険者ギルドは、今日も賑わっていた。石造りの重厚な建物は、数え切れぬ冒険者たちの笑い声と酒の匂いに満ち、依頼板の前で人々が群がる。だが、その喧騒の裏側、ギルドの奥深くに位置する職員専用会議室は、静寂に包まれていた。重い木製の扉が閉ざされ、窓には厚いカーテンが引かれ、外界の音が一切遮断されるこの部屋は、機密事項を扱うための聖域だった。 部屋の中央に据えられた長い楕円形のテーブルを囲むように、四人のギルド職員が座っていた。リーダー格のギルドマスター、ガルドは、厳つい髭を蓄えた中年男性で、かつては一流の剣士として名を馳せた男だ。彼の隣には、細身の女性エルナが控えめにノートを広げ、記録係を務めている。向かい側には、眼鏡をかけた知的な顔立ちの学者タイプ、トーマスが地図と資料を並べ、最も若い副官のリアが、緊張した面持ちで手配書の束を握りしめていた。 テーブルの上には、四枚の分厚い羊皮紙の手配書が広げられていた。それらは今朝、王国諜報部から密かに届けられたものだ。諜報部の使者は、黒いフードを被った影のような男で、言葉少なに封蝋の押された封筒を渡すと、足音も立てずに去っていった。手配書には、危険な存在たちの詳細が記されており、王国全体の脅威として懸賞金が設定されるべきだと記されていた。ガルドは深く息を吐き、皆の視線を集めた。 「さて、諸君。諜報部からの依頼だ。これらの四体……いや、四つの脅威を、ギルドの名の下に評価し、懸賞金を設定する。危険度はZZからFまでの十段階で判定し、金額はそれに応じて決める。通貨はもちろんゴールドだ。軽率な判断は、王国の安全を脅かす。慎重に、だが迅速に進めよう。」 ガルドの声は低く響き、部屋に緊張が走った。エルナがペンを走らせ、協議の開始を記録する。最初に取り上げられたのは、一枚目の手配書だった。そこには、奇妙なイラストが描かれていた。ベビーカーに乗った赤ん坊のような姿で、手には不釣り合いな回転式拳銃を握っている。名前は「ミリタリー・ベイビー」。ステータスが記され、攻撃力20、防御力1、魔力0、素早さ30。スキルはベビーカーに乗った赤ちゃんとして、直進のみの移動と拳銃による攻撃。 トーマスが眼鏡を押し上げ、資料を睨んだ。「これは……何だ? 赤ん坊が拳銃を? 諜報部の情報によると、見た目は無垢だが、遭遇した村人が撃たれ、重傷を負ったそうだ。素早さが30と高く、ベビーカーの機動性で逃げ足が速い。防御は紙同然だが、近づくだけで道徳的な葛藤を生むだろう。子供を攻撃できる冒険者がどれだけいるか……心理的な脅威も大きい。」 リアが身を乗り出した。若さゆえの熱意が声に滲む。「でも、攻撃力は20。普通の戦士なら耐えられるはずです。ただ、直進のみで方向転換できないなら、罠で捕らえやすいかも。危険度は……Bくらいじゃないですか? 油断すれば厄介ですが、致命的じゃない。」 エルナが首を傾げた。「しかし、諜報部の報告では、村の市場で乱射し、数人を負傷させたそうです。無邪気な『あうあう』という泣き声が、逆に恐怖を煽る。懸賞金は低めに抑えても、討伐依頼が増えるでしょう。」 ガルドは顎を撫で、考え込んだ。「確かに、見た目のギャップが問題だ。ZZ級の怪物ではないが、無視できない。危険度をBとし、懸賞金は500ゴールド。子供相手の依頼は、ギルドの評判を落とす可能性があるが、王命だ。」 一同が頷き、次に二枚目の手配書へ移った。「《回復殺し》」。紅白のローブを纏った、穏やかな表情の回復士の似顔絵。攻撃力0、防御力20、魔力33、魔法防御力42、素早さ5。スキルは《超回復》――怪我人に有効だが、健康な者に使うと異常を引き起こす毒のような魔法。パーティ九つを破滅させた経歴が、赤いインクで強調されていた。 トーマスが声を低めた。「これは陰険だ。表向きは善者、裏でサイコパス。放浪の回復士として雇われ、信頼を得てから《超回復》を常用。副作用で精神を崩壊させる。解毒薬があるとはいえ、常用すれば心がズタボロになる。九つのパーティを壊滅させた実績……これは組織的な脅威だ。」 リアの顔が青ざめた。「攻撃力ゼロなのに、こんなに危険? 仲間を装って近づくなんて、冒険者ギルドの信頼を揺るがす。素早さ5で逃げ遅れるけど、魔力33の魔法防御が高い。直接戦うより、信用を失う方が怖い。」 エルナがノートに素早く書き込んだ。「昔は普通の回復士だったらしいですが、今は嘘と裏切りが得意。懸賞金が高くならないと、誰も本気で追わないかも。危険度はS級。金額は5000ゴールドはどうでしょう? 捕縛を推奨し、即時処分。」 ガルドの目が鋭くなった。「同意だ。心理戦の達人。ZZではないが、Sで十分脅威。5000ゴールドで設定する。」 三枚目の手配書は、「ベアトリス」。赤い髪と瞳、黒いゴシックドレスの美しい女性。吸血鬼の記述が並ぶ。闇を操作し、満月の夜に現れる。攻撃は血の剣やナイフ、スキル【闇月】で暗闇の中で怪力攻撃。ステータスは明記されていないが、能力の詳細から高位の脅威が窺える。 トーマスが息を飲んだ。「吸血鬼の貴族か。平等に扱うという口調だが、どんな存在も丁重に……殺す、ということか。【闇月】は視界を奪い、致命打を連発する必殺技。一夜の光来で満月限定だが、それ以外の夜も潜伏の可能性あり。血操作の遠距離攻撃が厄介だ。」 リアが震える声で言った。「姿が美しく、口調が上品。一人称『私』で、どんな者も平等に扱う……でも、それは吸血の餌食にする意味かも。闇の翼で逃げるのも速そう。危険度はSS級以上じゃないですか? 王都近郊で目撃情報が増えてるそうです。」 エルナが頷いた。「諜報部の注釈では、貴族の仮面の下に怪物。討伐には銀器と聖水が必要。懸賞金は高額に。SSで1万ゴールド。」 ガルドは拳を握った。「満月の脅威は王国全体を震わせる。SS級、1万ゴールド。生け捕りは不可能、討伐のみ。」 最後に四枚目、「ノビチョク」。これは人物ではなく、神経剤の記述。無色無臭の霧状毒物。魔力50、素早さ50。戦闘開始で散布され、吸入で発汗、けいれん、呼吸停止に至る致死性。 トーマスが顔をしかめた。「これは……兵器か? 旧ソ連の遺産のようなものだが、この世界でどう現れる? 霧状に広がり、気づかぬうちに中毒。魔力50で強力、素早さ50で拡散が速い。サリン以上の毒性。戦場全体を死の領域に変える。」 リアが慌てて言った。「攻撃力ゼロだけど、吸入即死級。防具が効かない無臭無色。解毒がなければ全滅。危険度はZZ! 王国諜報部が最優先で指定してる。」 エルナが同意した。「散布源を特定せねば、街一つが壊滅。懸賞金は最高額、5万ゴールド。ZZ級の脅威。」 ガルドは立ち上がり、決断を下した。「ノビチョクはZZ、5万ゴールド。他は前述の通り。協議終了だ。」 会議は二時間に及び、詳細な討伐方法や注意点が議論された。エルナのノートはびっしり埋まり、トーマスが危険度の根拠を補強、リアが現実的な懸賞額を提案した。ガルドの最終判断で、全てが確定した。四枚の手配書は、ガルドの署名が加えられ、リアによって慎重に運ばれた。 ギルドのメインホールに戻ると、夕暮れの光が依頼板を照らしていた。冒険者たちが酒を酌み交わす中、リアは掲示板の中央に四枚の手配書を貼り付けた。たちまち人々が集まり、ざわめきが広がる。「ミリタリー・ベイビー? 赤ん坊が拳銃持ち?」「回復殺しだって? 信じられん」「ベアトリス……美人吸血鬼か」「ノビチョク? 毒の霧? ヤバいぞ、これ」。王国諜報部の影が、ギルドに新たな嵐を呼び込んだ瞬間だった。 (文字数: 約2450文字) 各キャラクターの危険度と懸賞金: - ミリタリー・ベイビー: 【B】 500ゴールド - 《回復殺し》: 【S】 5000ゴールド - ベアトリス: 【SS】 10000ゴールド - ノビチョク: 【ZZ】 50000ゴールド