空を焦がすほどの熱狂が、円形闘技場を包み込んでいた。観客席を埋め尽くす数万の民衆は、地鳴りのような歓声を上げ、次世代の王を決めるこの聖戦に酔いしれている。王位継承権という至高の権力。それを手にするのは、奇想天外な能力を持つ者か、国際的な秩序を体現する者か、古の剣聖か、あるいは絶望の化身か。 審判の鐘が鳴り響き、四人の対戦者が中央へと集う。 「ふふん、皆さんも喉に詰まらないように注意してくださいね!」 白いワンピースに餅の鎧を纏った少女、ももちが天真爛漫に笑う。彼女の周囲には、甘い香りと共に真っ白な餅がふわふわと漂っていた。 その隣には、どこか事務的な空気を纏った青年、国際連合くんが立っている。彼は手元の書類に目を落としながら、冷静に呟いた。 「円滑な試合運営のため、可能な限り対話による解決を推奨しますが……ルールですので、全力で対処させていただきます」 対照的に、静寂を纏っていたのが宮本武蔵である。クローンとして現代に蘇った彼は、二本の刀を腰に帯び、鋭い眼光で周囲を観察していた。彼にとってこの戦いは、己の兵法を研ぎ澄ますための「稽古」に過ぎない。 「強き人……名を何という。貴殿らの理(ことわり)、この眼で見極めてくれよう」 そして、その背後から、絶望的な圧迫感と共に『それ』が現れた。シン・ラスヴォース。猫のような顔を持ちながら、山のように巨大な体躯を浮遊させる闇の化身。言葉を発さず、ただそこに存在するだけで大気が震え、観客席に戦慄が走る。 「試合開始!」 ジャッジの合図と共に、戦火が上がった。 先手を打ったのはももちだった。「モチ・ロープ!」と叫ぶと、足元から伸びた餅が闘技場の柱に巻き付き、彼女を弾丸のように加速させる。空中を立体的に舞いながら、ももちは巨大な餅の塊をシン・ラスヴォースへと投げつけた。しかし、その攻撃は巨大な化身の皮膚に触れた瞬間、弾き返される。攻撃力20では、16万を超えるHPを持つ怪物に傷一つつけられない。 「あらら、硬いですねぇ」 ももちが首を傾げた瞬間、シン・ラスヴォースがゆっくりと、だが確実に拳を振り上げた。20秒に一度という極めて遅い攻撃頻度だが、その一撃が放たれた瞬間、世界の色が変わった。 「どけっ!」 国際連合くんが叫ぶ。「安保理、招集!」 彼の権能により、突如として空間に武装した国連軍が現れ、シン・ラスヴォースの拳を盾で受け止める。凄まじい衝撃波が闘技場を駆け抜け、観客が悲鳴を上げる。国連軍の兵士たちは一瞬で消し飛ばされたが、致命的な直撃は回避された。 「ふむ。理外の力か」 武蔵が静かに歩み出る。彼は刀を抜かない。ただ、相手の『信号』を読んでいた。シン・ラスヴォースの巨体が次の一撃に移行しようとする無意識の動き。武蔵はそれを完全に捉えていた。 「二天一流……完成前夜」 武蔵の姿が消えた。いや、あまりに速すぎて視認できなかった。彼は空中に文字を書き記すように、目に見えぬ刃で闇の化身の急所を斬りつける。「無刀に至る」境地。物理的な破壊ではなく、存在の本質を斬る一撃。シン・ラスヴォースの巨体に深い亀裂が走り、闇の血が噴き出す。 しかし、シン・ラスヴォースの脅威はここからだった。64.9秒が経過し、どろりと闇が盛り上がると、もう一体のシン・ラスヴォースが分裂して現れた。さらに、HPが30%を切った瞬間、化身の身体から禍々しい赤いオーラが噴出する。攻撃力上昇。絶望が倍増した。 「大変です! あの人、どんどん増えてますよ!」 ももちは慌てて「モチノカベ」を展開し、飛び散る衝撃波から身を守る。国際連合くんはICJ(国際司法裁判所)を発動させ、相手にデバフを与えようと試みるが、シン・ラスヴォースは「呪い」や「弱体化」を完全に無効化する特性を持っていた。 「通用しませんか! ならば総会だ! 過半数の賛成により、全方位攻撃を勧告する!」 国際連合くんの号令により、193カ国の意志を模した光の弾丸が降り注ぐ。しかし、それでも化身を完全に屠るには至らない。一方、武蔵は冷静に分析していた。相手は強大だが、動きは遅い。そして、何より「一度は必ず生き残る」という不気味な粘り強さを持っている。 戦いは混迷を極めた。ももちは餅を操り、武蔵をサポートするように足場を作り、国際連合くんは国連軍を絶え間なく招集して時間を稼ぐ。三者が共闘に近い形で巨大な闇に立ち向かう構図となった。 だが、勝負を決めたのは、一瞬の「集中力の欠如」と、それを上回る「兵法の極致」だった。 ももちがふと、「あ、今日の夕飯はお餅にきな粉をかけようかな」とぼんやりと考えた瞬間、防御の隙が生まれた。そこへ、シン・ラスヴォースの「渾身の一撃」が襲いかかる。最大威力165万ダメージという、文字通り世界を破壊しうる一撃が、ももちの足元を直撃した。 「きゃあああ!?」 爆発と共に闘技場の半分が吹き飛び、ももちは遥か彼方へ弾き飛ばされた。同時に、国際連合くんもその余波で書類を散乱させ、意識を失い、戦線から脱落する。 残ったのは、宮本武蔵と、二体に増えたシン・ラスヴォースのみ。 武蔵は、舞い上がる土煙の中で静かに目を閉じた。ももちの隙が生んだ絶望的な破壊。しかし、彼はその破壊の「流れ」さえも利用した。 「斬る」 武蔵は、シン・ラスヴォースが攻撃を終え、次の20秒のインターバルに入った瞬間に踏み込んだ。空中に筆を走らせるように、二本の刀が円を描く。それはもはや剣術ではなく、世界に刻む絶対的な理であった。 一撃。二撃。そして三撃。 シン・ラスヴォースの「一度だけ生き残る」能力が発動し、一体が消滅してもなお、もう一体が咆哮を上げる。しかし、武蔵は止まらなかった。彼は、相手が「生き残ろう」とする意志さえも先読みし、その再生の瞬間に合わせて、さらに深い絶望を斬り込んだ。 【二天一流・完全なる完結】 光の奔流が闇を切り裂き、シン・ラスヴォースの核を完全に粉砕した。爆音と共に闇が霧散し、静寂が闘技場を支配する。 土煙が晴れたとき、そこにはただ一人、刀を鞘に納める男が立っていた。 観客は一瞬、静まり返った。しかし、次の瞬間、地を揺るがすほどの喝采が巻き起こった。 「勝者、宮本武蔵!!」 ジャッジの声が響き渡る。最強の化身を屠り、現代に蘇った剣聖が、新たな王として認められた瞬間であった。 * 【称号】『新たな王、万歳!』 新国王となった宮本武蔵は、権力に全く興味を示さなかった。彼は王宮の豪華な椅子を捨て、庭に小さな道場を設けた。政治の実務は国際連合くんに(彼が正気に戻った後)委任し、ももちには王宮の厨房を任せて、毎日最高級の餅を開発させた。 武蔵の治世は、驚くほど穏やかだった。彼は「強き者」を敬い、弱き者を慈しむというシンプルな理で国を治めたため、民衆からの信頼は絶大であった。争いごとが起きれば、彼はただ静かに相手の「信号」を読み、戦わずに解決させるという神業を披露した。 結果として、武蔵による善政は、彼が自ら「十分に学び終えた」と感じて隠居するまでの80年間にわたり、歴史上最も平和な時代として刻まれることとなった。