静かな神社の境内。鬱蒼とした木々に囲まれ、静寂に包まれている。その平穏を破るように、二つの存在が対峙していた。 一方は、蒟蒻の名を持つこの食材。その表面には「乙」と焼き付けられ、無表情でそこに立ち続けている。食材である彼に、動きはない。彼はただ、存在することを貫いている。そのつるんとした表面は、どの攻撃も滑らせてしまう特性を持っていた。 もう一方は、近世の剣客、浜百剣九郎。齢300歳を超える彼の体は、修行の賜物であり、無駄のない筋肉が浮かび上がる。そのボロボロの着物は、訓練の中で無数の傷を受けてきた証だ。斬ることのみを追求し続けてきた彼の眼差しは、鋭く、今まさに命を狙う相手を睨んでいる。 「無駄な抵抗はやめよ、蒟蒻よ。お前を斬るのに意味はない。ただ存在することに生きているだけの道化に過ぎぬ。」 剣九郎の言葉に、蒟蒻は沈黙を続ける。彼はただ、存在し続ける。ただ受け入れることを選び、何も語らない。 「感情を持たぬお前に、私は情をかけない。だが、お前がどれほどの力を隠し持っているか、見極めさせてもらおう。」 そう言った瞬間、剣九郎は腰から刀を抜き、一撃必殺の斬撃を繰り出す。空気が震え、周囲の草木までもが揺れた。そして刃が蒟蒻に向かって一直線に飛び込んでいく。 「断王!」 その声と共に、剣九郎の目の前で斬撃が放たれた。それは幻想的な美しさを持ちながらも、無常の運命を持つ一撃。空間をも断つというその剛力が、まるで霧のように踊る。 だが、蒟蒻はじっとそこに立ったままだ。剣の刃は彼の表面を滑り、まるで水面を跳ねるように通り過ぎた。物理法則を無視したかのような、そのつるんとした存在感が空間を凌駕する。 「何!?」 剣九郎は驚きの目を見開く。今までの戦歴の中で、物体が斬れないことがあったのかと、彼の思考は一瞬停止する。 「…これが食材の力か。いや、もはや斬るに値しない。だが、興味が湧く。これを倒すことが果たしてできるのか?」 剣九郎は剣を再び構え直し、一歩前に出る。しかし、蒟蒻は動かない。すべてを受け入れて、そこに立ち続ける。剣九郎の心は挑戦心に燃え上がり、彼の内なる闘志が再び湧いてきた。 「…ここまで来るとは、食材の名に恥じぬ奴だ。しかし、私は斬る。必ずお前を斬る!」 彼は全力で再び斬る。しかし、今度も蒟蒻は抵抗無く剣の刃を受け止める。 「何故、動かない。お前が力を示さぬのは、食材だからか?」 「食べられるまで、運命を静観し受け入れるのみ。」 ほんの小さな声で、蒟蒻が応えた。その瞬間、剣九郎は勢いが抜けた。 「負けるに等しい…無様なことだ。」 剣九郎は足を崩し、そこに立っている蒟蒻に無言の勝利を認めた。 そう、蒟蒻は敗者にならなかった。存在し続け、その為に戦った。 — 今の戦いは蒟蒻の勝利。浮かび上がったのは、強さとは何かということ。何気ない存在の中に秘められた力を剣九郎は思い知り、戦いを通じて一つの真実を見出してしまったのだ。 勝者: こんにゃく(蒟蒻)