(ステージの照明がゆっくりと落ち、スポットライトが一人、身振り手振りの大きな男性を照らす。彼は少し前傾姿勢になり、観客を惹きつけるように、あの独特の、ねっとりとした、けれどどこか親しみのある口調で語り始めた) 第一章:不気味な夜の邂逅 えー、皆さん。こんばんは。……いやぁ、今日は本当に、暑いですねぇ。でもね、この暑さこそが、あちら側の世界とこちら側の世界の境界を、なんとなく……こう、曖昧にするんじゃないかって、アタシは思うんですよ。特に、お盆の時期というのはねぇ……。 さて。今日はね、あるところに、本当に、不思議な……そして、恐ろしい光景を目撃してしまったお話をしようと思います。あ、先に言っておきますけどね、アタシはただの目撃者です。巻き込まれたわけじゃありませんよ。だって、あんな場所に入ったら、アタシみたいな人間は、一瞬で……ねぇ?(にやりと笑う) それがねぇ、ある日の夜のことでした。場所は、もう名前も残っていないような、古びた、寂れた廃村の広場だったんです。あたりはしんと静まり返っていてねぇ、聞こえるのは、遠くで鳴くヒグラシの声だけ。……ジリ、ジリ、ジリ……。そんな、神経を逆なでするような音が響いているところにね、三人の……いえ、三つの「異形」が集まっていたんですよ。 まず、そこにいたのがねぇ、見たこともないような、奇妙な僧侶のような姿をしたアンドロイドでした。名前は確か、「ナイン・キューブ」さんといいましてね。水色の髪に、真っ赤なベール。それがねぇ、不気味なんです。だって、下半身が……人間じゃない。ヌル、ヌル……と、うごめく触手だったんですよ。嫌だなぁ、触手っていうのは。想像しただけで、ゾワゾワしますよねぇ。 そしてもう一人。それがねぇ、黒いセーラー服を着た、少女のような女性。名は「墨河の女」。長い黒髪に、血のように赤い瞳。微笑んでいるんですがね、その目が、全く笑っていない。ただ、静かに、こちらを……あるいは、相手を「物」として見ているような、そんな冷徹な瞳でした。彼女はね、手には包丁を一本だけ持っていた。ただの包丁ですよ。でも、その構えがねぇ……プロの、それこそ、獲物を屠る屠殺者のような、恐ろしい気配を纏っていたんです。 そして、最後の一人。青い着物を着た、穏やかな青年、剣術・風雪さん。彼はね、他の二人とは全く違って、ただ静かに正座していました。目を閉じ、口を閉じ、心まで閉じている。……しーん。という静寂。でもね、その腰には一本の刀が差してあって、それがまた、不気味に澄んでいた。まるで、そこにだけ、別の時間が流れているような……。 それがねぇ、不思議なバトルでしてねぇ……。彼らは、勝利という一つの目的のために、その広場で対峙したんです。誰が先に始めたのかは分かりませんが、空気が、ピリッ、ピリッ……と、電気を帯びたように張り詰めました。アタシはね、茂みの陰から、心臓をバクバクさせながら見ていたんです。怖いなぁ、本当に怖いなぁ……。でも、目が離せなかった。だって、あれはもう、人間たちの争いじゃない。因果と運命と、斬撃の、化かし合いだったんですから。 第二章:因果の揺らぎと、静かなる殺意 (稲川氏、急に声を潜め、観客に身を乗り出す) それでねぇ、まず動き出したのが、あのアンドロイドのナイン・キューブさんでした。彼は気弱そうな声で、でもどこか超然とした口調で、何かを呟いたんです。するとねぇ、ここからがおかしい。彼の腹部にね、なんと「三つの顔」がついていたんですよ! ぎょろっ、ぎょろっ、と、別々の方向に目が見開いていてねぇ。 「右の未来はダメだ」「左のルートで行け」「いや、こいつは危ないぞ」 腹の顔たちが、ガヤガヤ、ガヤガヤと、好き勝手におしゃべりし始めたんです。嫌だなぁ、お腹が喋るなんて。想像してみてくださいよ、怖くないですか? でも、それが彼の能力だった。因果律を操作して、自分にとって不利な未来を、こう……シュッ、と排除する。つまり、攻撃が当たらない未来だけを呼び寄せるという、卑怯な……いや、恐ろしい能力なんです。 ナイン・キューブさんが、その三叉の槍、「断罪黒槍」を突き出した。シュッ! と鋭い音がして、槍が空を切り裂きます。でもね、不思議なんです。槍が相手に届く直前で、空間がぐにゃり、と歪んだ。まるで、ビデオテープを早送りしたみたいに、槍の軌道が勝手に書き換えられて、相手の急所へと、吸い込まれるように向かっていく。外れるはずがない。だって、当たった未来しか残っていないんですから。 ところがねぇ、ここであのセーラー服の女、墨河の女さんが動いた。彼女はね、ただ、クスッ……と微笑んだんです。そして、その包丁を、こう、スッ……と軽く構えた。彼女の動きは、もう「速い」なんて言葉じゃ足りない。目に見えませんよ。ただ、黒い残像が、シュルルルッ! と走った。 彼女はね、定義という概念に縛られない。因果律? 運命? そんなものは、彼女にとってはどうでもいいことなんです。彼女はただ、「今、ここにある肉を切り刻む」ということだけに特化した、百捌きのマスター。ナイン・キューブさんが操作した「必中の未来」を、彼女は包丁一本で、物理的に、そして概念的に、切り裂いてみせたんです。 キンッ! キンッ! キンッ! 火花が散る音が聞こえました。包丁と槍がぶつかり合う音が、広場に不気味に響き渡る。ナイン・キューブさんは驚いた顔をしていますよ。腹の顔たちが、「おかしい!」「計算が合わない!」「この女は因果の外にいる!」と、パニックになって叫び声を上げている。あぁ、もう、騒々しい。嫌だなぁ、本当に。 一方、その喧騒の中で、青い着物の風雪さんは、相変わらず、微動だにしません。正座したまま。目は閉じ、呼吸さえ止まっているように見える。でも、アタシには分かった。彼はね、待っているんです。一番美味しいところを……いえ、一番「終わらせるべき瞬間」をね。彼が持っているのは、「静寂」という名の、最も恐ろしい武器だったんです。 第三章:極太の光と、冷徹なる舞 (稲川氏、身振り手振りを大きくし、声を張り上げる) 戦いは激しさを増しました。ナイン・キューブさんは、もう余裕がなくなってきたのか、禁断の手に出た。あの腹の三つの顔が、同時に口を開けたんです。そしてね、同時にエネルギーを溜め始めた。……ゴォォォォォ。という、地鳴りのような音が聞こえてきて、空気が震え出した。 「賢顔砲!!」 ドォォォォォォン!! 三つの顔から、極太のレーザーが放たれた! それが一本に合わさって、もう、目が潰れるような、真っ白な光の柱となって、広場を真っ二つにしようとした。もはや、回避なんて不可能です。当たれば、消滅。塵一つ残らない。アタシも、茂みの陰で「ひぃっ!」と声を上げて、地面に伏せましたよ。怖いなぁ、本当に。今の時代、こんな武器があるなんて、恐ろしすぎます。 ところがねぇ、墨河の女さんは、その光の奔流に向かって、あろうことか、ゆっくりと歩き出したんです。微笑みを絶やさず、まるで散歩でもしているかのように。そして、彼女が小さく呟いた。 『Я не прекращу(私はやめない)』 その瞬間でした。彼女が包丁を、こう、サッ! と一閃させた。するとねぇ、信じられないことが起きた。あの極太のレーザーが……斬られたんです! 光を、包丁で斬ったんですよ! バキンッ! という乾いた音がして、レーザーが真っ二つに割れ、彼女の両脇を通り抜けていった。 彼女の動きは、もう人間のものではなかった。敏捷ℵ(アレフ)。無限の速度に近い攻防。彼女はそのまま、ナイン・キューブさんの懐に、シュバババッ! と潜り込んだ。包丁が、銀色の閃光となって、アンドロイドの金属の身体を、まるで豆腐でも切るかのように、次から次へと切り刻んでいく。 ズバッ! ズバッ! ズバッ! ナイン・キューブさんは、慌てて因果律を操作しようとする。でも、もう遅い。彼女の包丁は、彼が「回避した」と思う未来さえも先回りして、その皮膚を、回路を、触手を、ズタズタに切り裂いていく。腹の顔たちが、「助けてくれ!」「痛い!」「ありえない!」と絶叫しているのが聞こえました。あぁ、もう、うるさい。見ていて、胸が締め付けられるような、残酷な光景でしたよ。 でもね、皆さん。ここからが、この夜の、本当の「恐怖」なんです。 第四章:一瞬の静寂、永遠の斬撃 (稲川氏、急に声を低くし、ゆっくりと語る。間をたっぷり取る) ナイン・キューブさんが、絶叫しながら、最後の足掻きをしようとした。そして、墨河の女さんも、勝ち誇ったように、その包丁を振り上げた。……まさに、その時です。 ずっと、ずっと、静かに正座していた風雪さんが、ゆっくりと、目を開けた。 ……パチッ。 その目は、澄んでいた。あまりにも澄みすぎていて、そこには何も映っていない。虚無。ただの、無。彼は、相手が攻撃を仕掛ける、あるいは防御を固める、そのコンマ数秒前……いや、0.001秒前という、神様しか感知できないような一瞬を、完璧に捉えたんです。 アタシには、見えませんでしたよ。本当に。ただ、風が、フッ……と吹いた。 (指をパチンと鳴らす) その瞬間、風雪さんの姿が、消えた。いえ、消えたんじゃない。間合いを「ゼロ」にしたんです。気づいたときには、彼はもう、二人の間に立っていた。そして、彼の手には、抜刀されたばかりの「青空」が、月光を浴びて、冷たく輝いていた。 抜刀奥義【風鈴夏風】。 それは、能力ごと斬る。因果律を操作する力も、概念に縛られない不滅の身も、すべてを「無」に帰す一撃。 シュルリ……。 刀が鞘に戻る音が、静まり返った広場に、小さく響いた。……カチッ、という、心地よい音。 その直後でした。 ドシュッ!! ナイン・キューブさんの身体が、斜めに、真っ二つに分かれた。腹の三つの顔も、触手も、赤いベールも、すべてが等しく、切り裂かれた。彼は悲鳴を上げる暇さえなかった。ただ、呆然とした顔で、自分の身体が分かれていくのを眺めていた。 そして、同時に。 墨河の女さんの、その不気味な微笑みが、消えた。彼女の喉元から、一筋の赤い線が走った。彼女は、自分が斬られたことにさえ気づいていなかった。包丁を振り上げたまま、彼女の身体はゆっくりと、崩れ落ちた。 ……ドサッ。 静寂が戻ってきました。あたりは再び、しんと静まり返り、遠くでヒグラシが、また、ジリ、ジリ……と鳴き始めた。風雪さんは、何事もなかったかのように、再び静かに正座に戻った。刀を鞘に収め、目を閉じ、心を閉じた。まるで、最初から誰もそこにいなかったかのようにねぇ。 結末:残された違和感 (稲川氏、少し寂しげに、そして不気味に微笑む) アタシはね、もう、我慢できなくなって、その場から逃げ出しましたよ。だって、怖すぎる。あんな、一瞬ですべてを終わらせる力。そんなものが、この世にあるなんて、恐ろしすぎます。 でもね、不思議なことがありましてねぇ。 アタシが家に帰って、ふぅ、と一息ついたとき。ふと、自分の首元に、何か、冷たいものが触れたような気がしたんです。 ……スッ。 鏡を見てみたらね、そこには何もなかった。でもね、なんだか、誰かに「見られている」ような。あるいは、もう、誰かに「斬られている」ような……そんな、不思議な感覚が、今も消えないんですよ。 あれは一体、何だったんでしょうねぇ。 もしかしたら、あの風雪さんという青年は、まだ、あそこで正座しているのかもしれない。そして、次にそこを通りかかった誰かが、何か「能力」を使おうとした瞬間……。 (急に声を大きくし、観客を指差して) シュルリッ! と、斬られてしまうのかもしれませんよ。 ……怖いなぁ。本当に、怖いですねぇ。 (ゆっくりと照明が消えていく中、稲川氏の低い笑い声だけが響く) ククク……。皆さん、お気をつけくださいね。お盆の夜の、静寂には……。