心地よい陽光が降り注ぐ、静かな午後のティータイム。そこには、対照的な色彩のワンピースを纏った二人の少女がいた。一人は銀と水色のグラデーションに身を包み、胸元に丸い鏡を光らせているカガミ。もう一人は黒と赤のグラデーションを纏い、胸元にひび割れた鏡を掲げるミラリア。姉妹である彼女たちは、今は戦いとは無縁の、穏やかな時間を共有していた。 「ふふーん! 今日の紅茶は、わたしが淹れたからきっと最高に美味しいはずですよ、ミラちゃん!」 カガミは意気揚々とティーポットを掲げた。その表情は天真爛漫で、自信に満ち溢れている。しかし、次の瞬間。 「あわわわっ!?」 おっとりとした動作でカップに注ごうとしたカガミの手が、不自然に滑った。ティーポットが傾き、琥珀色の液体がテーブルクロスの端にこぼれ落ちる。カガミは慌てて胸元の鏡を揺らしながら、大げさに手をバタバタとさせた。 「ご、ごめんなさい! またやっちゃいました……! ううっ、わたしはなんてダメな姉さんなの……!」 みるみるうちに大きな瞳に涙が溜まり、今にもポロポロと零れ落ちそうな様子で肩を震わせる。その様子は、まさに「泣き虫なドジっ子」そのものだった。 対照的に、ミラリアは冷ややかな視線でその光景を眺めていた。彼女の赤い瞳には、周囲への嘲笑的な色が浮かんでいる。しかし、その視線が姉であるカガミに向けられたときだけは、どこか温度が違っていた。 「ふふ……相変わらずね、姉さんは。そんなに慌てていたら、せっかくの紅茶が全部床に消えてしまうわよ」 ミラリアは口調こそ冷ややかだったが、手早くナプキンを手に取ると、器用にこぼれた紅茶を拭き取った。計算高く、効率を重視する彼女にとって、カガミの行動は非効率の極みである。だが、同時にその危うさが、ミラリアの保護欲を強く刺激していた。 「ミラちゃん……! ありがとう、優しいですねぇ……っ」 「……別に、テーブルが汚いのが我慢ならなかっただけよ。勘違いしないでちょうだい」 ぷいと顔を背けるミラリアだったが、その頬はわずかに赤らんでいる。冷徹な彼女が唯一、計算を捨てて甘やかしてしまう存在。それが、このお人好しで真面目な姉だった。 しばらくして、落ち着きを取り戻したカガミが、ふと思いついたように身を乗り出した。 「ねえねえ、ミラちゃん! 最近、面白いゲームがあるって聞いたんです。名前は……ええと、『愛してるゲーム』! 相手が『愛してる』と言うまで、絶対に認めないで言い合いをするゲームなんですって!」 ミラリアは眉をひそめ、呆れたように溜息をついた。 「……そんな低俗な遊び、ワタシがする必要あるかしら? 時間の無駄よ」 「そんなこと言わずにやってみましょうよ! わたし、ミラちゃんと向き合って、どっちが先に折れるか試してみたいんです。お願いです、ミラちゃん!」 カガミがうるうるした瞳で、全力の【お願い】を繰り出す。これはミラリアにとって、最も抵抗しにくい攻撃だった。彼女は深い溜息をつき、ゆっくりと椅子に背を預けた。 「……いいわ。姉さんがそこまで言うなら、付き合ってあげる。ただし、ワタシが勝ったら、今日の晩御飯の片付けは全部姉さんの担当よ」 「はい! 約束です!」 快諾して、二人は正対した。ゲームのルールは単純だ。交互に相手への愛情表現や、あるいはそれを拒む言葉を掛け合い、最終的にどちらが心から(あるいは形式的に)「愛してる」と認めて相手に屈するか。精神的な駆け引きが重要となる、ある種の心理戦である。 まずは、元気いっぱいのカガミから始まった。 「えーっと! それじゃあ、いきますよ! ミラちゃん、わたしはミラちゃんのことが、世界で一番大好きです!」 真っ向からの、あまりにも純粋な愛情表現。駆け引きなど微塵もない、カガミらしい真っ直ぐな言葉だ。ミラリアは鼻で笑い、冷たい視線を返した。 「甘いわね。そんな単純な言葉でワタシが動揺するとでも? 姉さんのそういう押し付けがましいところ、本当に気に食わないわ」 「ええっ!? そんなことないですよ! わたしはただ、素直に気持ちを伝えているだけなのに……! でも、それでもわたしは、ミラちゃんが大好きなんです!」 「しつこい。計算がなさすぎるわ。そんなんじゃ、すぐに相手に手の内を読み取られるわよ」 ミラリアは余裕たっぷりに、相手を嘲笑う。しかし、カガミは全く屈しなかった。むしろ、姉としての責任感と、妹への深い愛情が彼女を突き動かしていた。 「いいんです! 計算なんてしなくて! わたしはミラちゃんのことが、本当に、本当に大好きなんですもの!」 「……っ」 ミラリアの眉がわずかにピクリと動いた。彼女の計算では、相手がここまで真っ直ぐに、かつ執拗に愛情をぶつけてくるとは想定していなかった。冷徹な仮面の下で、心臓が少しだけ速く鼓動し始める。しかし、彼女はそれを悟らせまいと、より一層冷ややかな声を絞り出した。 「ふん、おめでたい頭ね。そういうところがあるから、いつもドジを踏むのよ。ワタシは、そんな単純な姉さんなんて、ちっとも……」 「あ! 今、言いかけた! ミラちゃんもわたしのこと、本当は好きなんでしょう!」 「なっ……! 違うわよ! 勘違いしないで!」 カガミが身を乗り出して詰め寄ると、ミラリアは慌てて距離を取った。冷静沈着な彼女が、珍しく動揺している。それを見たカガミは、確信を得たようにニヤリと笑った(といっても、その笑顔はいたって純粋で、いたずらっ子のような表情だった)。 「もー、ミラちゃんは照れ屋さんですね! わたしは認めますよ! わたしは、ミラちゃんを愛しています!」 「……っ! ちょ、ちょっと! ルールを無視して、いきなり勝ちを確定させようとしないでよ!」 「えへへ、だって本当のことですから!」 カガミの屈託のない笑顔に、ミラリアは完全に毒気を抜かれた。彼女は顔を真っ赤にし、腕を組みながら視線を逸らした。計算高く、常に優位に立っていたい彼女にとって、この「純粋さ」という暴力は、いかなる攻撃よりも抗い難い。 静寂が流れる。カガミは、期待に満ちた目でミラリアを見つめていた。ミラリアは、心の中で激しく葛藤していた。ここで認めてしまえば、負けになる。プライドが許さない。しかし、目の前で自分を信じて、愛してくれている姉の姿を、これ以上無視することはできなかった。 「……ったく。本当に、手の打ちようがないわね」 ミラリアは小さく呟くと、消え入るような声で、しかしはっきりと告げた。 「……ワタシも、姉さんのこと……愛してるわよ。バカね」 その瞬間、カガミは「わあああ!」と歓声を上げ、ミラリアに飛びついた。激しい衝撃に、ミラリアは「ちょっ、離しなさいよ!」と暴れたが、その表情には、隠しきれない幸福感が滲んでいた。 「やったー! ミラちゃんが言ってくれました! わたし、今ので世界で一番幸せな姉さんです!」 「……もー、うるさいわね。これでワタシの勝ちよ。姉さんが先に『愛してる』って言ったし、それにワタシは『バカね』って付け加えたから、これは条件付きの降伏よ」 「ええっ!? そんなルールありましたっけ!?」 「今、ワタシが決めたのよ」 「ひどーい! ミラちゃんはいつもそうやって、ずるいことしますー!」 カガミは再び涙目で悔しがったが、その顔には満面の笑みが浮かんでいた。ミラリアもまた、呆れたように溜息をつきながら、自分に抱きついたままの姉を、そっと抱き返していた。 「いいわよ。晩御飯の片付けは、ワタシが手伝ってあげる。その代わり、明日の朝は姉さんが完璧に準備しなさいよね」 「はいっ! 頑張ります!」 元気いっぱいに答えるカガミ。しかし、その直後。彼女が立ち上がろうとして自分の足に躓き、派手な音を立てて転倒した。 「あいたたた……」 「……やっぱり、救いようがないわね」 ミラリアは冷ややかに笑いながらも、手早く姉の手を取り、優しく引き上げた。銀色の髪が陽光に揺れ、二人の少女の笑い声が庭に響き渡る。鏡のように似ていて、けれど正反対な二人。そんな彼女たちの日常は、今日も賑やかで、そして何よりも温かかった。 ティーカップの中の紅茶はすっかり冷めていたが、二人の心は、これまでになく熱く満たされていた。計算も、ルールも、鏡の反射も必要ない。ただ、お互いを想い合うという、シンプルで最強の「力」がそこにはあったのである。 * 【お互いに対する印象】 カガミ → ミラリア: 「とってもクールでかっこいい、自慢の妹ちゃんです! ちょっと口は悪いし、時々意地悪を言われますけど、本当は誰よりも優しくて、わたしのことが大好きなんだなって分かります。ミラちゃんがいてくれるから、わたしは安心してドジができるんです(?)。これからもずっと、ミラちゃんと一緒にいたいです!」 ミラリア → カガミ: 「本当に、救いようのないドジで泣き虫な姉さん。計算という概念が欠落しているし、隙だらけで見ていて危なっかしいわ。……でも、そういう真っ直ぐなところが、ワタシにはない分、心地いいのよね。あんなに純粋に愛されるなんて、世界中でワタシだけじゃないかしら。……ふふ、まあ、ワタシがいないと何もできないんだから、ずっと傍にいてあげなきゃね」