(ゆっくりと、身を乗り出すようにして) えー……。皆さん、今夜はいい夜ですねぇ。でもねぇ、こういう夜こそ、気をつけなきゃいけないことがありましてねぇ……。アタシがね、ある時、本当に不思議な、そして恐ろしい光景を目撃してしまったんです。今思い出しても、背中がゾクゾクしますよ……。 それはねぇ、ある地方の、ひどく寂れた、忘れ去られたような村のことでした。そこにね、ある「戦い」が起きていたんです。戦いと言ってもねぇ、普通の喧嘩じゃない。まるで、この世の理(ことわり)から外れた者たちが、何か得体の知れない「何か」を追い詰めているような……そんな、おかしな光景でした。 アタシはね、たまたまそこを通りかかっただけなんです。でもね、茂みの陰から、じっと見ていたんですよ。そこにいたのはねぇ……実に奇妙な面々でした。 まずはね、大男が二人。法被に鉢巻姿でしてねぇ。餅つき兄弟のペッタさんとコーさんという方々です。体格がね、もう凄まじいんですよ。肩幅がね、ガバァーッ!と広くてね。ペッタさんは大きな杵を構えていて、コーさんはその隣で、何かを待っている。 そしてその横にはね、黒いロングコートを羽織った、冷徹そうな男性が立っていました。エレナさんという方です。彼はね、ふぅーっと、静かにタバコを吸いながら、氷のように冷たい目で戦場を見据えていた。座り込んでいてね、「仕事は?」なんて、淡々とした口調で呟いている。恐ろしい人だなぁ、と思ってねぇ。 さらにね、一番不思議だったのが、その足元にいた小さな女の子です。ちいちゃんという死神の幼女さんでしてね。ドクロマークのついた黒いフードを深く被って、小さな鎌を持っている。でもね、彼女は死神なのに、なんだかオドオドしていてね。「あぅ……」なんて、今にも泣き出しそうな顔をしていたんです。死神なのに、シャイ。なんて変な組み合わせでしょうねぇ……。 彼らが戦っていた相手はね、もう、正体がわかりません。どろどろとした、黒い泥のような塊が、地面からズルッ、ズルッ……と這い出してきていてね。それがね、彼らを飲み込もうとしていたんです。 (声を潜めて) そこからねぇ、戦いが始まったんですよ。それがね、本当に、おかしなバトルでしてねぇ……。 【第一章:絶え間なき搗き合い】 まず動いたのは、あの餅つき兄弟でした。彼らはね、息がぴったりだった。コーさんがね、シュッ!と鋭い動きで、泥の塊の足元をすくい上げたんです。返し手の技術ですよ。泥の塊が、「グニャッ」とバランスを崩して、宙に舞い上がった。その瞬間です。 ペッタさんが、あの巨大な杵を、振り下ろした! ドガァァァァン!! 凄まじい音でしたよ。地面がガタガタッ、ガタガタッ!と揺れた。でも、泥の塊はすぐに形を取り戻して、また襲いかかってくる。するとね、またコーさんが「ハイッ!」と返して、ペッタさんが「ヨイショー!」と搗く! ドガッ! ハイッ! ドガッ! ハイッ! もうね、目に見えないくらいの速度で、餅をつくように敵を叩き潰し続けている。まるで、敵を餅に変えてしまおうとしているみたいでねぇ。アタシは見ていてね、「あぁ、怖いなぁ、あんな力で叩かれたら、骨まで粉々になっちゃうなぁ」なんて、ゾッとしたんです。 【第二章:死神の不運と、小さな奇跡】 ところがね、ここで事件が起きました。死神のちいちゃんがね、意を決して鎌を振り上げ、敵に近づこうとしたんです。でもね、彼女は天然ドジっ娘でしてねぇ……。 考え事をしながら歩いていたんでしょうね。足元にあった小さな石に、ガツッ!と躓いたんです。 「あわわわっ!」 そのまま、前のめりに、ゴロンッ!と転がってしまった。さらにね、運の悪いことに、そこをちょうど一匹の黒猫が、横切ったんですよ。スーッ……とね。 するとどうなったか。ちいちゃんがね、鼻をひくつかせて…… 「ハ、ハ、ハックショイ!!」 盛大にくしゃみをした。その拍子に、持っていた鎌をポーン!と飛ばしてしまったんです。鎌はあらぬ方向へ飛んでいき、彼女は地面にへたり込んで、「うぅ……ひっ、ひぐっ……」と、涙をぽろぽろとこぼし始めた。死神なのに、泣いてるんですよ。もう、見ていて可哀想に、と思ってねぇ。 【第三章:白き翼の静寂】 その時です。それまで静かにタバコを吸っていたエレナさんが、ゆっくりと立ち上がりました。彼の目は、全く揺れていません。ただ、淡々と、状況を分析していた。彼はね、ふぅーっと、最後の煙を吐き出すと、静かに言ったんです。 「……終わらせる」 その瞬間でした。彼の背中から、ガバァッ!!と、巨大な、真っ白な翼が生えてきたんです。それはね、この世のものとは思えないほど、美しくて、眩しい翼でした。周りの景色が全部消えて、彼と翼だけが白く光っているように見えた。 そしてね、空から、白い羽が、ひら、ひら……と舞い降りてきた。ふわーっ、とね。見ているアタシまで、「ああ、綺麗だなぁ」と思って、うっとりしてしまった。でもね、それが恐ろしいんですよ。その羽が敵の体に触れた瞬間……。 (声を低くして) 何も起きなかった。衝撃音もない。斬った様子もない。ただ、羽が降り積もっただけ。でもね、次の瞬間、あの泥の塊が、ズルリ……と、崩れ落ちたんです。血の血溜まりの中に、どっぷりと沈んでね。致命傷だったんですよ。エレナさんはね、羽で攻撃しているんじゃない。ただ、そこに「死」を降らせただけ。本当にとんでもない能力だなぁ、と思って、アタシは身震いしましたよ。 【第四章:覚醒のドーナツ】 でもねぇ、敵はしぶとい。泥の塊は、最後の一撃を食らう直前、分裂して、ちいちゃんの方へ襲いかかったんです。泣いている彼女に、黒い触手が、ギチギチギチッ……と迫る。 「いやぁぁぁ!」 ちいちゃんがパニックになって、ポケットをガサガサと探りました。そこで彼女が見つけたのは、袋詰めのミニドーナツでした。彼女はそれを、ガツガツッ!と口に放り込んだんです。するとね、不思議なことが起きました。 パァァァァッ!! 彼女の体が、黄金色の光に包まれたんです。死神の黒いフードが消えて、背中に小さな天使の羽が生えてきた。これが、彼女の「光堕ち覚醒」というやつだったんでしょうね。ドジっ娘だったちいちゃんが、急に、凛とした表情に変わった。 彼女は、地面に落ちていた鎌を、シュパッ!と正確に回収すると、目にも止まらぬ速さで敵の核心へと切り込んだ。一瞬でしたよ。シュンッ!という音だけがして、敵の意識が完全に断たれた。死神本来の、恐るべき力が発揮された瞬間でしたねぇ。 【結末:消えた戦場】 戦いは、あっけなく終わりました。餅つき兄弟の豪快な力、エレナさんの冷徹な美しさと残酷さ、そしてちいちゃんの純粋さと覚醒。この三者が揃っていたからこそ、あの化け物は消え去ったのでしょうね。 アタシはね、彼らが去っていく背中を、ただじっと見ていました。彼らはね、お互いに言葉を交わすこともなく、それぞれの方向に歩いていった。エレナさんはまたタバコに火をつけ、ちいちゃんは元のオドオドした様子に戻って、「ドーナツ、もうない……」と呟きながら、トボトボと歩いていきました。餅つき兄弟は、「ヨイショ、ヨイショ」と、またどこかで餅をつくために旅に出たのでしょうね。 (ゆっくりと、視聴者の顔を覗き込むように) でもねぇ……。アタシ、後になってから気づいたんです。 彼らが戦っていたあの場所。あそこはね、もともと村があった場所じゃない。ずっと昔に、土砂崩れで村ごと消えてしまった、地図にない場所だったんです。つまり、彼らが戦っていた泥の塊というのはね……そこに埋まった、数えきれないほどの人々の「恨み」が形になったものだったんじゃないか、とね。 それにねぇ、もう一つ、変なことがありましてね。 アタシが家に帰ってから、ふと鏡を見たんです。するとね……アタシの肩に、小さな、真っ白な羽が、一枚だけ、乗っていたんですよ。 (にやりと笑って) あれはね、エレナさんがわざと残したんでしょうか。それとも……彼らが戦っていた「何か」が、アタシに付いてきてしまったんでしょうかねぇ……。 いま、あなたの肩にも、何か……白い羽のようなものが、乗っていませんか? (急に声を大きくして) ……あぁ! いま、後ろに誰かいましたよ!! (静かに、余韻を残して) ……怖いなぁ。本当に、怖いですねぇ……。