(ステージの照明がゆっくりと落ち、スポットライトが稲川淳二氏を照らす。彼は少し前屈みになり、独特の手振りで、観客に語りかけるように話し始める) あぁ……皆さん、こんばんは。今日はね、本当に、言いようのない、恐ろしいお話をしようと思います。これはね、アタシが実際に、ある場所で目撃してしまったことなんです。信じられないかもしれませんがねぇ……本当に、変なことが起きていたんですよ。 場所はね、地図にも載っていないような、深い、深い、山の中にある廃村でした。湿り気を帯びた風が、ヒュルルル……と吹いていてね、あたり一面に、なんだか、死んだ魚のような、嫌な臭いが漂っていた。そんなところにね、あの日、彼らが集まったんです。 (声を潜めて) あそこにいたのはね、普通の人じゃなかった。まず、見たこともないような、巨大な金属の塊……人型の兵器に乗った女性がいました。名前は、確かヒルダさんと言いましたか。相棒のミカヅチというAIと共に、TK-020という恐ろしい機械を操っていた。ガシャン、ガシャンと、金属がぶつかる不気味な音が響いてねぇ……。 そしてその隣には、白と紫の衣を纏った、顔の見えない男。フードを深く被っていて、中が全く見えない。ソードマスター……と名乗っていました。彼が腰に下げている剣の数は、数え切れないほどあった。スルスル……と、剣を抜く音が、静寂の中に響き渡るんです。 さらにね、不思議な女性が一人。お姉さん……という感じの方で。彼女はね、なんとも言えない、柔らかい微笑みを浮かべていた。でもね、それが逆に怖かった。彼女は「皆、懐かしいねぇ」なんて、誰にでも幼馴染であるかのように振る舞っていた。概念のような、この世の者ではない、そんな気配がプンプンしていたんですよ。嫌だなぁ、もう……。 そんな、およそ相容れないはずの三人がね、ある「目的」を持って、その村の最深部にある、黒い霧が渦巻く祠(ほこら)へと向かっていた。彼らはそこで、何か恐ろしいものと戦わなければならなかった。勝利しなければ、戻れない。そんな、絶望的な状況だったんです。 それでは、アタシが見た、あの『地獄の光景』を、お話ししましょう……。 第一章:黒い霧の咆哮 祠の前に辿り着いたとき、突然でした。ドォォォォン! という、地響きのような音がして、地面から、真っ黒な、ドロドロとした「何か」が這い出してきたんです。形なんてない。ただ、憎しみだけが凝縮されたような、巨大な泥のような塊。それがねぇ、ヒュルルル……と、不気味な音を立てて、彼らを囲みました。 ヒルダさんは、迷わずTK-020のコクピットから叫びました。「ミカヅチ、最大出力で叩き潰せ!」と。するとね、ガガガガガガッ!! という、耳を突き刺すような銃声が響いた。内蔵された12.7mm機銃が、火を噴いたんです。タタタタッ! タタタタッ! と、弾丸が黒い泥に突き刺さる。でもね、おかしい。弾が当たっているはずなのに、泥はズルズル……と、すぐに塞がる。全然、効いてないんですよ。怖いなぁ、もう。 そこに、ソードマスターが動きました。シュッ!! という、鋭い風を切る音。彼が抜いたのは、真っ赤に燃え上がる大剣『ファイアブランド』でした。ゴォォォッ!! という猛烈な炎が、黒い泥を焼き尽くそうとする。ドガァァン! と爆発が起き、辺りは一瞬で真っ赤に染まった。でもね、泥の方は、熱いはずなのに、ズルズル……と、さらに大きく膨れ上がって、彼らに襲いかかったんです。 「あらあら、危ないですよ」 そう言って、お姉さんが、ふわりと前に出た。彼女が手をかざすと、キラキラ……と、淡い光の膜が展開した。それが『希望の結界』というやつだったんでしょう。ドシュゥゥゥ! と、黒い泥が結界にぶつかったけれど、不思議なことに、そこだけは静寂に包まれていた。泥の攻撃が、完全に遮断されていたんです。でもねぇ、アタシは分かっていましたよ。これは一時的なものだって。あのお姉さんの表情は笑っていたけれど、目は全く笑っていなかった。あれは、本当に、変な人でしたよ……。 第二章:絶望の連鎖と、鉄の咆哮 結界が維持されている間に、ヒルダさんは作戦を変えました。TK-020の機動性を活かして、弾丸のような速度で突撃したんです。ズガガガガガッ!! と、35mmチェーンガンが火を噴く。大威力の弾丸が泥の核を貫こうとするけれど、泥は分裂して、四方八方から彼らを追い詰めた。ギチギチ、ギチギチ……と、金属の装甲が軋む音が聞こえてくる。TK-020の装甲に、黒い泥がまとわりつき、じわじわと腐食させていく。ズルルッ、ズルルッ……と、嫌な音がしてねぇ。 「くっ……装甲が持たない!」 ヒルダさんが叫んだ瞬間、彼女は『簡易予備装甲』を展開させた。ガシャン! という音と共に、外装が厚くなる。でも、それでも足りない。黒い泥は、もはや生き物のように、彼らの精神を蝕み始めた。ソードマスターまでもが、ふらふらと足取りを乱し始めたんです。彼が持っていた剣が、カラン……と地面に落ちた。あんなに強そうな人が、急に弱った。おかしいなぁ、あれは絶対におかしい。 泥の中から、誰かの声が聞こえてきたんです。「寂しい……寂しいよ……」という、女のような、子供のような、正体不明の啜り泣く声がね。ヒタヒタ……ヒタヒタ……と、足音が近づいてくる。そこに誰もいないのに、足音だけが聞こえる。ゾッとしませんか? アタシはもう、見ていられなくて、木の陰に隠れて震えていましたよ。 すると、ソードマスターが、震える手で一本の剣を掴み直した。それは、透明な刃を持つ『ゴーストウォーカー』。彼は姿を消し、シュンッ!! と泥の懐に飛び込んだ。見えない斬撃が、黒い泥を切り裂く。ズババババッ!! と、泥が飛び散る。しかし、切り裂かれたところから、さらに小さな泥の塊が、数え切れないほどに分かれて、彼らの足元に群がった。ウジ虫が群がっているみたいに、モゾモゾ……モゾモゾ……とねぇ。 第三章:希望の光と、残酷な浄化 状況は最悪だった。TK-020は、もはや立ち上がることさえままならず、火花がバチバチッ!! と散っている。ソードマスターは、毒の剣『ヴェノムシャンク』で泥を溶かそうとしたけれど、毒さえも飲み込まれてしまった。絶望、そう、絶望ですよ。そこにいた全員が、死を覚悟した瞬間でした。 「もう、いいですよ。お姉ちゃんが、全部終わらせてあげますね」 お姉さんが、静かに歩き出した。泥の塊が、彼女に向かって、ガオーッ!! と咆哮して襲いかかる。でも、彼女は避けない。むしろ、微笑んで、その泥を優しく抱きしめるように腕を広げた。その瞬間、彼女の背後から、見たこともないような、真っ白な光が溢れ出したんです。キィィィィィン!! という、高い、突き抜けるような音が響いた。 それが、『希望の光』でした。キラアアアアッ!! という強烈な閃光が、辺り一面を包み込んだ。黒い泥が、光に触れた瞬間、シュゥゥゥゥ……と、蒸発するように消えていく。悲鳴のような、あるいは歓喜のような、不思議な声が響き渡り、泥は浄化され、ただの白い灰となって風に舞った。フワッ、フワッ……とね。 戦いは終わった。ヒルダさんは、ボロボロになったTK-020から降りて、地面にへたり込んだ。ソードマスターは、静かにフードを直し、どこへ行くともなく、霧の中へ消えていった。そして、お姉さんは……。彼女は、アタシが隠れていた木の方向を、じっと見ていたんです。 (ここで稲川氏、急に身を乗り出し、囁くような声に) アタシは、心臓が止まるかと思いましたよ。彼女は、アタシに気づいていた。そしてね、口を動かさずに、こう言ったんです。「……次は、あなたの番ですよ」ってねぇ。 終章:消えない余韻 アタシは、脱兎のごとくその場から逃げ出しました。ガサガサガサッ!! と藪をかき分けて、必死に走った。振り返るのが怖かった。でもね、耳の奥で、ずっと、あの音が聞こえていたんです。 タタタ……タタタ……。 誰かが、ゆっくりと、アタシの後をついてくる足音がね。振り返っても、誰もいない。でも、確かにそこに「誰か」がいる。お姉さんの、あの、優しすぎて恐ろしい微笑みが、すぐ後ろまで迫っているような……そんな感覚。 今でもね、アタシが一人で夜道を歩いているとき、ふと、後ろから肩を叩かれるような気がするんです。するとね、耳元で、こんな声が聞こえる。 「……ずっと、見守ってるよ」 (ゆっくりと、不気味な笑みを浮かべて) ねぇ……皆さん。あなたの後ろには、今、誰もいませんか? ……もしかしたら、その『お姉ちゃん』、今、あなたの肩に手を置いているかもしれませんよ……。 (照明がパッと消え、完全な暗闇に包まれる)