第一試合:市街地 崩れかけた高層ビルが並ぶ市街地は、黒鋼刃にもἈποκάλυψιςにも都合のよい遮蔽物を与えていた。見通しは短く、交差する路地と瓦礫の影が無数にある。だが遮蔽は安全を保証しない。『熾天使』の両腕から放たれる高温火炎は、壁を焼き、金属を熱し、姿を隠した相手の進路まで狭める。対するジュリアとハイネは、遮蔽物の切れ目を縫って接近しなければならなかった。 熾天使は熱源と機体の反応を捉え、ビルの角へ火炎を流し込んだ。黒鋼刃は正面から受けず、L-1の推進で路地を横切る。炎が壁面を覆い、窓枠が赤熱して崩れた。ジュリアは危険を察して進路を変え、ハイネはその回避を次の斬撃へつなげる。二人の判断は矛盾せず、危険域を避けながら距離を詰めた。 四機の剣型ビット「解」が左右と上方へ散る。熾天使はビットを火炎で追い払い、近づくものを溶かそうとする。しかし、解は高推力で軌道を変え、物理的な耐久性も高い。炎を浴びた刃は表面を熱せられながらも、短い突入と離脱を繰り返して腕の照準を乱した。火炎放射器は継続して危険だが、広く散った高速目標を同時に捉え続けるには限界がある。 熾天使は多翼状ターミナルアーマーを展開した。機体に追従する防壁が、黒鋼刃の初撃を受け止める。ハイネは「鐡」と「解」を合体させた「嵌」で、重い一撃を防壁へ打ち込んだ。衝撃がビルの外壁を揺らし、瓦礫が路上へ降る。防壁は即座に破れない。ジュリアは追撃を焦らず、推進力を保って側面へ回り込む。ハイネは合体剣を解き、四基のビットと鐡による連撃へ切り替えた。 熾天使は機体を回しながら火炎を噴き、近接を許さない。黒鋼刃の装甲と武装には熱が蓄積し、鐡の刀身にも赤みが差した。だが両人格の連携は、熱が危険域へ達する前に攻撃を中断し、離脱と再突入を繰り返す。火炎が路地を塞げば、ビットが別角度から腕を狙う。熾天使は防壁で斬撃を防ぐ一方、攻撃のたびに熱源を向け直す必要があり、黒鋼刃を一か所へ押し留められない。 熾天使の防壁が時間とともに弱まり始める。黒鋼刃はビルの柱を蹴り、L-1の音速推進で一気に懐へ入った。熾天使が火炎を集中させる瞬間、ジュリアの慎重な判断が機体をわずかにずらし、ハイネの剣筋がその隙間へ重なる。鐡の斬撃が片腕の火炎放射器を断ち、解がもう一方の腕へ連続して食い込む。防壁は一度だけ攻撃を受け止めたが、重撃と多方向の連撃を同時には抑えきれなかった。 熾天使はなお残る火炎で反撃し、黒鋼刃の肩部を焼き崩す。ジュリアは撤退を選ばず、危険を承知でアサルトアーマーを起動した。機体中心から広がる多段拡散炸裂が、接近していた熾天使を包む。敵弾を消し、至近距離の装甲を破砕する爆発により、残存防壁が砕け、装甲の層が裂けた。黒鋼刃も損傷したが、熾天使の機体は戦闘能力を失い、瓦礫の間へ沈黙した。 第一試合の勝者:チームA 第二試合:山岳 急斜面の山岳地帯には、岩棚と泥沼が入り混じっていた。足場は悪く、機体の重心を崩す一歩が致命的な隙になる。黒鋼刃のL-1は安定性と堅牢性に優れるものの、斜面を音速で駆けるには進路の選択が欠かせない。Ἀποκάλυψιςは燃料供給に不安がなく、火炎を抑制出力で長く使える。熾天使は地形を利用して相手を追い込む戦いを選んだ。 機先を制するのは火炎だった。熾天使は尾根から谷へ炎を流し、黒鋼刃が通れる岩棚を順に焼く。濡れた泥は蒸気を上げ、露出した岩は熱でひび割れる。正面から突進すれば、黒鋼刃は熱と足場の双方に妨げられる。ジュリアは危険を読み、進路を一度引き返す。ハイネは迂回をただの後退にせず、ビットを左右の崖へ放って熾天使の照準を分散させた。 熾天使は複数の熱源へ腕を振り、崖面を焼く。解は岩壁をかすめながら急旋回し、火炎の合間を突く。斬撃は装甲を切り裂くほどではないが、腕の向きをそらし、燃焼の集中を妨げた。黒鋼刃はそのわずかな間に、L-1で泥沼の縁を越える。姿勢を安定させたまま斜面を横切る機動力は、足場の悪さを完全には消さないものの、転倒を避けて距離を縮める助けとなった。 熾天使はターミナルアーマーを展開し、岩棚の狭い通路で迎え撃つ。黒鋼刃は「嵌」による重撃を防壁へ叩きつけるが、山の斜面では助走距離が短く、ビットの推進力を加えても一撃で防壁を崩せない。熾天使はその間に火炎を浴びせ、黒鋼刃の腕部と鐡を熱する。ジュリアは斬り合いを続ける危険を察し、後方へ機体を引く。ハイネも無理な追撃を抑え、分離したビットで熾天使の攻撃方向を限定した。 戦場の高低差は、熾天使に有利に働いた。上方からの火炎は逃げ道を塞ぎ、泥沼は一気の突進を許さない。黒鋼刃の装甲は熱の蓄積に耐えきれず、外板の一部が変形し始める。ビットも強い熱を受け、攻撃のたびに引き離さなければならない。熾天使のターミナルアーマーは、時間差で展開する翼状の防壁を重ね、黒鋼刃の連撃をしのいでいた。 ジュリアは斜面上部の崩れた岩盤に気づいた。ハイネはその情報を受け、解を分散させて岩壁へ攻撃させる。熾天使はビットの狙いを止めようと火炎を向けるが、岩盤に刻まれた亀裂が広がり、泥と石が斜面を滑り落ちた。熾天使は防壁を維持したまま退こうとする。しかし、狭い棚道では大きな機体を素早く横へ逃がせない。崩落は機体を押し流すほどではなかったものの、足場を奪い、姿勢を崩させた。 黒鋼刃はその瞬間に「嵌」を構えた。ビットの推進力を機動補助に使い、斜面を低く滑りながら重撃を叩き込む。ターミナルアーマーは衝撃を受け止めるが、岩棚の狭さで逃げ場を失った熾天使の機体が後退し、装甲翼の展開が岩へ引っかかる。ハイネは合体剣を解き、四方から解を突入させる。防壁の一部が遅れて開く隙を、鐡の連撃が捉えた。 熾天使は最後に火炎を至近距離で噴き、黒鋼刃の胸部を焼く。ジュリアは残る機能を保つため、相手の腕が完全に向く前にアサルトアーマーを起動した。炸裂は狭い岩棚で熾天使へ集中し、時間差防壁の残りを破壊する。装甲と火炎放射器が砕け、熾天使の機体は斜面に固定されたまま停止した。黒鋼刃も深刻な損傷を受けたが、勝敗を決する機能は残った。 第二試合の勝者:チームA 第三試合:衛星・低重力 衛星の荒れた地表には、遮蔽物となるものがほとんどなかった。低重力のため、どちらの機体も一度加速すれば長く移動し、急停止や方向転換には推力の使い方が問われる。海上や砂丘と異なり風はないが、視界を遮る地形も乏しい。距離を保つ火炎放射器には好都合であり、接近を狙う黒鋼刃には、相手の射線を切る手段が限られていた。 熾天使は初めから出力を抑えた火炎を連続的に放った。燃料供給は安定し、無理に一撃で倒す必要はない。熱が装甲に蓄積すれば、黒鋼刃は近接戦に入る前から性能を落とす。黒鋼刃はL-1の推進で左右へ大きく弧を描くが、低重力では一度の噴射が長い移動につながる。熾天使は軌道を読み、火炎の帯を進路の先へ敷いていく。 ジュリアは危険を認め、直線的な突進を避けた。ハイネは四機の解を一斉に放ち、熾天使の腕と視界を攻める。ビットは高速で接近し、物理耐性を頼みに火炎をかいくぐるが、極高温の炎は防御の代わりにはならない。刃の表面に熱が蓄積し、熾天使はビットを追い払うように腕を振った。解は機動力で逃れ、再び別角度から迫る。熾天使は攻撃を受けるほどではないものの、火炎を黒鋼刃一機へ集中できなくなった。 黒鋼刃が「嵌」を構えて進入する。ビットの推力を加えた重撃は低重力でも威力を保ち、熾天使のターミナルアーマーを強く揺らした。しかし、押し込んだ反動で黒鋼刃自身も後方へ流れる。熾天使はその距離を利用し、両腕の火炎を交差させた。防壁が前面を守る一方で、火炎は防壁の外側から周囲を焼き、黒鋼刃の装甲を熱する。接近と離脱を繰り返す間にも、熱の蓄積は確実に進んでいた。 ハイネはビットを一方向へ集めた後、突然散開させ、熾天使の照準を分ける。ジュリアはその隙に低い軌道で回り込む。しかし遮蔽物がないため、動きは隠せない。熾天使は冷静に照準を修正し、火炎を黒鋼刃の正面へ浴びせ続けた。鐡の刀身が熱を帯び、外装の一部が変形する。黒鋼刃の連撃は鋭さを保っているが、攻撃を続ければ自身の武装が溶融崩壊する危険があった。 ターミナルアーマーが時間差で大きく展開し、熾天使を包む。黒鋼刃はビットを盾のように先行させて突入するが、翼状防壁が順に攻撃を受け止めた。アサルトアーマーなら防壁と機体へ大きな損傷を与えられる。しかし、起動後の爆発範囲へ踏み込むまでに、黒鋼刃は熾天使の火炎を避けながら距離を詰める必要がある。低重力の慣性は進入を助ける反面、射線を外す軌道変更を難しくしていた。 ジュリアは急激な回避で火炎の中心を外すが、左脚部の装甲が溶けて推進が鈍る。ハイネは最後の突入を試み、残った解を熾天使の腕へ向けた。ビットは片腕を一時的に逸らすことに成功する。黒鋼刃はその機会を逃さず、「鐡」を振り下ろす。刃はターミナルアーマーに阻まれ、完全には届かない。熾天使は反対側の火炎放射器を至近距離で作動させた。 熱は黒鋼刃の胸部と腕部へ広がり、武装の接合部を崩す。ジュリアはアサルトアーマーを起動し、機体中心から炸裂を放つ。爆発は近距離の火炎を打ち消し、熾天使の防壁を大きく損耗させた。だが黒鋼刃もすでに熱で機体各所が劣化し、爆発の後に姿勢を保てなかった。熾天使の装甲は深く傷つき、片腕の火炎放射器を失ったものの、残る機能で火炎を浴びせ続ける。黒鋼刃は再起動を試みたが、損傷した推進機構と溶融した接合部が応じず、地表へ落ちて停止した。 第三試合の勝者:チームB 総合結果 チームAが二勝、チームBが一勝。 総合勝者:チームA