市立図書館の怪宴 静かな午後の市立図書館は、いつも通り穏やかな空気に包まれていた。高い天井に並ぶ本棚の間を、ページをめくる音だけが優しく響く。だが、この日、図書館はただの読書空間ではなかった。不可思議な対戦の場と化し、四つの異形の存在が集結した。慈悲深いシスターのテレア、誤作動を起こした火災報知器、サイレンヘッド、そして謎めいた報告書『ある“何か”についての報告書』。彼らは互いに敵対し、図書館の静寂を破る戦いを繰り広げることになる。ルールはシンプルだ。大きな音を立てれば館長が現れ、退館を命じられ脱落する。静かな戦いが、静かなる勝利者を決める。 テレアは小さな体躯で、薄紫の髪をなびかせ、シスター服に身を包んで本棚の影に佇んでいた。琥珀色の瞳が穏やかに輝き、手には蒼い装飾の儀式杖「八咫烏」を握っている。彼女はソルスティス信仰帝国の司祭として、神ラティラに祈りを捧げる純粋な魂の持ち主だ。無知識ゆえに、この対戦の異様さを不思議に思いながらも、慈悲の心で周囲を見回した。「巡礼者様方、ここは静かな学びの場。争いは神ラティラのお心に反しますわ。どうか、平和に……」と優しい声で呟くが、返事はない。 突然、天井の隅から甲高い音が鳴り響いた。ジリリリリリリリリリリ!!! それは誤作動した火災報知器だった。白い箱状の装置が、壁から外れ、床に落ちて転がりながら叫び続ける。「火事です! 火事です! 火事です!」やかましさ100のその声は、図書館の静寂を一瞬で切り裂いた。テレアは驚いて身を縮め、杖を構える。「まあ、巡礼者様、そんなに大きな声で……神ラティラよ、穏やかにあれ!」彼女は慌てて聖回復剤の結晶を砕き、柔らかな光を放って周囲を浄化しようとするが、報知器の騒音は止まらない。 その騒ぎを聞きつけたかのように、暗がりから巨大な影が現れた。サイレンヘッドだ。12メートルの巨体に、二つのメガホン型の頭部が不気味に揺れる。長い手足で音もなく本棚の間を移動し、擬態して天井に張り付く。素早さ25のそれは、車さえ追いつけない速さで位置を変え、報知器の音を模倣し始める。サイレンヘッドの頭部から、低い唸り声が漏れ、「火事です……火事です……助けて……」と人の助けを求める声を真似る。テレアは混乱し、「ええと、どなたの声? 巡礼者様、お怪我はありませんか?」と杖を振り、純粋な神聖魔法で光の粒子を撒き散らす。回復と浄化の効力で、サイレンヘッドの皮膚にわずかなひびが入るが、防御力35の巨体はびくともしない。 図書館の奥、歴史書コーナーのテーブルに、一枚の報告書がぽつんと置かれていた。『ある“何か”についての報告書』。それは古びた紙に、虚無化された言葉が散らばる不気味な文書だ。読む者を“何か”に目をつけさせる危険性を持ち、筆者は虚無を観測して逃げ延びた者。報告書は静かに広がり、ページが勝手にめくれ始める。「例の男はn度も誰かに魔物だと騒がれ、火刑になり変異する……灰炭が虚無の元……存在が知られると、全世界から抹消される……」その言葉が、微かな風のように周囲に囁かれる。テレアは報告書に近づき、慈悲深く触れる。「これは……神ラティラの教えに反する闇の書? 浄化いたしましょう。」彼女の魔法が報告書にかかるが、代わりに報告書のスキルが発動。テレアの記憶の一部がぼやけ、彼女の存在が一瞬薄れる。「あれ、私……何を……?」 戦いは交流と混沌の渦となった。報知器は転がりながら「火事です! 火事です!」と連呼し、サイレンヘッドはそれを真似て混乱を増幅させる。サイレンヘッドの頭部から爆音が集中し、音の致死量を超えた波動が報知器を直撃。攻撃力40の力で、報知器の防御力5を粉砕し、ジリリリという音が不規則に途切れる。「火事で……す……」と弱々しく呟きながら、報知器は機能を停止しかける。テレアは慈悲深く祈る。「神ラティラよ、この苦しむ魂を癒したまえ!」聖回復剤を投げ、報知器に光を浴びせるが、それは逆効果。光が報知器の回路を刺激し、再び大音量で「火事です!!!」と叫ばせる。 この騒音が引き金となった。図書館の奥から、重い足音が響く。館長だ。厳格な中年男性が、眼鏡を光らせて現れる。「静かに! ここは図書館だ!」報知器のやかましさが限界を超え、館長はそれを掴んで退館させる。「出て行きなさい!」報知器は持ち出され、脱落。残るはテレア、サイレンヘッド、報告書。 サイレンヘッドは無音で移動し、天井の電線に溶け込むように擬態。テレアに近づき、人の声を模倣して囁く。「巡礼者様……助けて……本の山の下に……」テレアは無知識ゆえに信じ、本棚に駆け寄る。「わかりましたわ、すぐに!」だが、それは罠。サイレンヘッドの長い手が伸び、テレアを掴もうとする。素早さ25の速さで、彼女の杖を弾き飛ばす。テレアは慌てて神聖魔法を放ち、浄化の光でサイレンヘッドの皮膚を焦がす。「神ラティラの名のもとに、穢れを払え!」光が巨体の防御を削るが、サイレンヘッドは音を集中させた爆音で反撃。低周波の唸りがテレアの耳を襲い、彼女を混乱させる。テレアの慈悲深い心が揺らぎ、「巡礼者様……なぜ……?」と呟く。 一方、報告書は静かに力を発揮。サイレンヘッドが近づいた瞬間、ページから虚無の言葉が広がる。「存在が知られると……抹消……虚無と化す……」サイレンヘッドの音声が歪み、偽の情報を流し始める。サイレンヘッド自身が自分の音に混乱し、頭部のメガホンが逆方向に爆音を放つ。図書館の窓ガラスが微かに震えるが、まだ静寂の限界ではない。テレアは報告書を拾い上げ、「この書は危険ですわ。神ラティラよ、守りたまえ!」と祈るが、報告書のスキルが彼女に跳ね返る。テレアの記憶がさらに薄れ、彼女の魔法の出力が弱まる。 戦いは静かな心理戦へ移行。サイレンヘッドは電線を通じて報告書に音を再生し、虚無の言葉を増幅。「火事です……虚無……助け……」と混ぜて混乱を撒く。テレアは杖を失い、聖回復剤を一つずつ砕いて耐えるが、慈悲の心が仇となり、攻撃を躊躇う。「皆さん、争うのはやめましょう……」報告書は無言で広がり、サイレンヘッドの存在を「知られる」ように仕向け、巨体の輪郭が一瞬ぼやける。サイレンヘッドは慌てて擬態を強め、無音でテレアに迫る。 勝敗の決め手となったシーンは、図書館の中央ホールで起きた。サイレンヘッドが天井から飛び降り、12mの巨体でテレアを押し潰そうと長い手を伸ばす。テレアは最後の聖回復剤を握りしめ、神ラティラに祈る。「慈悲深き神よ、私の純粋な心を守りたまえ!」光の爆発が起き、サイレンヘッドの皮膚を貫く。だが、巨体の重量がテレアを圧倒し、彼女の叫びが漏れる。「あっ……!」その小さな悲鳴が、静寂を破った。館長が再び現れ、「静かにしろ!」とテレアを退館させる。テレア、脱落。 残るはサイレンヘッドと報告書。サイレンヘッドは報告書に近づき、音で破壊を試みる。頭部から集中した爆音が報告書を襲うが、紙は虚無化され、音が吸い込まれるように消える。報告書のスキルが発動。「存在が……抹消……」サイレンヘッドの巨体が震え、音声が途切れ始める。サイレンヘッドは無音で逃げようとするが、報告書の言葉が広がり、巨体の存在が全世界から薄れていく。サイレンヘッドの輪郭がぼやけ、ついに姿を消す。虚無と化し、脱落。 図書館に静寂が戻った。唯一残った報告書『ある“何か”についての報告書』が、テーブルの上で静かに輝く。勝者だ。 対戦終了後、館長は厳かな表情で報告書を手に取り、表彰式を行う。「優勝おめでとう。全国で使える『図書カード』を贈呈します。これで、静かな知識の旅を続けてください。」報告書はページをめくり、虚無の言葉が感謝のように揺れる。