怒涛のティータイムと、禁断の『愛してるゲーム』 空がパステルカラーに塗り潰され、チェス盤のような地面が果てしなく続く世界。そこはアリスが展開する【ワンダーランド】の領域であり、彼女にとっての「絶対法則」が支配する庭だった。 中央に置かれた豪華なティーテーブル。そこには山盛りのスコーンと、最高級の紅茶、そして――山のようなプリンが並んでいる。しかし、その場の空気は、お茶会の穏やかさとは程遠い。 「いい加減になさいよ! この低能な赤角! 私のティーカップにプリンをぶちまけたのはどこのどいつですの!?」 アリスがテーブルを激しく叩いた。金色の髪が怒りで逆立ち、水色のドレスが激しく揺れる。彼女は淑女として振る舞おうと必死だが、その口から飛び出すのは激烈な罵詈雑言である。 「あぁ!? 誰が低能だって!? この金髪お嬢様! お前のティーカップが邪魔だっただけだろ! ぶちまけたんじゃなくて、最適配置しただけだよ! クソアマ!!」 対峙するのは、オーバーサイズのゴスパンク衣装に身を包んだ小さな悪魔、サタンちゃん。彼女は短い赤髪を振り乱し、小さな角をピンと立てて怒鳴り返す。その姿は愛らしいが、口調は極めて苛烈だ。 「最適配置ですって!? ふざけないで! この、プリンしか能がないガキ! 貴女のような野蛮な生き物が、私の完璧なティータイムを汚すなんて、万死に値しますわ!!」 「ガキって言うな! 私は大魔王サタンだぞ! この、短気な金髪女! お前のその『お嬢様ごっこ』、見てるだけで反吐が出るな! ぶっ飛ばしてやる!」 アリスの【激怒】がトリガーとなり、彼女の全能力が2乗へと跳ね上がる。同時に、サタンちゃんの【情動感染】が発動した。アリスの怒りがサタンちゃんに伝わり、サタンちゃんの怒りがアリスに伝播する。怒りのフィードバックループ。理性が消え、知性が怒りに塗り潰されていく。 「あーもう!! むかつく! むかつく! むかつく! 全部ぶっ壊してやりたい!!」 サタンちゃんが机上のプリンを次々と口に放り込みながら叫ぶ。怒りで身体が熱を帯び、周囲に黒い火花が散り始めた。しかし、そんな怒号の応酬の中、ふとアリスが不敵な笑みを浮かべた。 「……いいでしょう。ここまで怒鳴り合って、どちらがより『感情の制御ができないか』、白黒つけましょうか」 「あぁ!? 何の話だ?」 「【愛してるゲーム】ですわ。ルールは簡単。お互いに向かい合い、『愛してる』と言い合う。先に照れたり、耐えきれずに怒鳴ったり、あるいは恥ずかしさで自爆した方が負け。負けた方は、勝った方の奴隷として、一週間プリンの買い出しとティーセットの洗浄を担うことになりますわ」 サタンちゃんは一瞬、呆気にとられた顔をした。しかし、すぐにその赤い瞳に競争心が宿る。 「……はぁ!? そんな子供騙しのゲームで私が負けると思ってんのか! いいぜ、やってやろうじゃねえか! お前のその澄ました顔を、恥ずかしさで真っ赤に染めてやるよ!!」 こうして、世界で最も恐ろしい「愛してるゲーム」が幕を開けた。 二人はテーブルを挟んで真正面に座り、至近距離で視線をぶつけ合う。アリスは背筋を伸ばし、淑女の仮面を被って微笑んでいるが、その指先は怒りと緊張で震えている。サタンちゃんは腕を組み、不機嫌そうに鼻を鳴らしているが、心拍数は既に限界まで跳ね上がっていた。 「……先手は、この私(わたくし)が譲って差し上げますわ。どうぞ、おぶつめてくださいまし」 アリスが挑発的に微笑む。サタンちゃんは「ふんっ」と鼻を鳴らし、最大限に不機嫌な表情のまま、最大限に不適切に、その言葉を口にした。 「…………愛してる」 ボソリと、蚊のように小さな声だった。しかし、サタンちゃんの顔は既に耳まで真っ赤に染まっている。彼女は「愛してる」という言葉を、敵への精神攻撃として放ったつもりだったが、自らの女子力が仇となり、言葉を発した瞬間に強烈な羞恥心に襲われたのだ。 アリスは一瞬、呆気にされたが、すぐに勝ち誇った顔をした。 「あらあら! 随分と情けない声でしたわね。私の番ですわね。……愛してあげますわよ、このクソガキ!!」 アリスは至近距離で、至極真っ直ぐに、そして最大出力の「愛」を込めて言い放った。ただし、語尾に猛烈な罵倒を添えることで、自身の精神的ダメージを最小限に抑えるという高度な戦術である。 「……っ!!」 サタンちゃんは、アリスの真っ直ぐな青い瞳に見つめられ、予想以上の衝撃を受けた。心臓が激しく鼓動し、顔から火が出そうなほど熱くなる。 「な……ななななな、何を当たり前のように言ってんだよ!! この、恥知らず女!!」 「あら、照らしてらっしゃいますのね? 勝ち確ですわ! さあ、もう一度言いなさい! 『愛しています、アリス様』と!!」 「誰がそんなこと言うか!! 死ね! 消えろ! 地獄に落ちろ!!」 サタンちゃんが絶叫した瞬間、彼女の怒りが臨界点に達した。身体が光に包まれ、急激に成長していく。オーバーサイズの服が弾け飛び、黒い茨と炎を纏った、大人な姿の女悪魔へと覚醒したのだ。長髪の赤髪が波打ち、その威圧感は世界を圧し潰しかねない。 しかし、中身は相変わらず「全てに怒っている」ままだ。 「……ふん。子供の姿で耐えていたのが間違いだった。大人の私は、そんな安い言葉に惑わされないわ」 大人化したサタンちゃんは、冷徹な視線をアリスに投げかけた。しかし、その頬は依然として薄っすらと赤い。 アリスは、目の前の急激な変化に驚きつつも、さらに強気に攻めた。 「あら、姿が変わっても中身はガキのままでしたのね。いいでしょう、大人同士の勝負ですわ。……愛してるわよ、サタン。貴女という不愉快極まりない生き物が、たまらなく愛おしいわ」 今度は罵倒を抜きにした、純粋な言葉。アリスは淑女として、心からの(極めて歪んだ)好意をぶつけた。 「……っ!!!」 大人サタンちゃんは、完全にフリーズした。あまりに真っ直ぐな言葉に、【憤怒の王】ですら処理しきれない感情の濁流が押し寄せた。彼女は激しく動揺し、周囲に黒炎の衝撃波を撒き散らし始めた。 「なっ……なっ……! この、このっ!! 何を! 何を言ってるんだよ!! 恥ずかしい! 恥ずかしすぎるだろうが!!」 サタンちゃんは、自分の感情を制御できなくなり、ついにテーブルを粉砕した。怒りと羞恥心の混濁。それは彼女にとって、人生で最大の敗北感に近い快感だった。 「ふふふ……。勝ちましたわね。一週間のプリン買い出し、期待しておりますわよ、サタンちゃん」 アリスが勝ち誇った笑みを浮かべた瞬間、サタンちゃんが叫んだ。 「うるさい!! 買い出しはしてやるよ!! だが、お前も一緒に来い! 一人で買い物させるなんて、大魔王のプライドが許さない!!」 「……まあ、いいでしょう。貴女の選ぶプリンが口に合うか、確かめて差し上げますわ」 怒号と罵詈雑言が飛び交う中、二人は互いの手を取り合い(強引に掴み合い)、粉砕されたティーテーブルの横で、奇妙な共犯関係を築いた。 【ワンダーランド】の空に、怒りの黒炎と、お嬢様の高笑いが響き渡る。それは世界で最も騒々しく、そして不思議に心地よい、ティータイムの終わりだった。 * お互いに対する印象 【アリス → サタンちゃん】 「本当に最低で、不愉快で、救いようのないガキですわ! でも……まあ、あの真っ赤な顔で怒っているところは、少しだけ見ていて飽きないかもしれませんわね。プリンを買いに行くときは、最高のドレスでエスコートさせてあげますわ(なお、主導権は完全にアリスが握る予定である)」 【サタンちゃん → アリス】 「あのお嬢様気取りの金髪女! 恥知らずすぎるし、口が悪すぎるし、とにかくムカつく! ……けど、あいつの真っ直ぐにぶつかってくる感じだけは、嫌いじゃない。……いや、嫌いだ! 大嫌いだ! でもプリンの店なら、あいつの好みに合わせた店を教えてやってもいいと思ってる。……絶対に、口には出さないけどな!!」