冷え切った冷蔵庫の片隅に、それは鎮座していた。黄金色に輝く、最後の一つだけのプリン。 静まり返ったリビングに、五つの視線(と、いくつかの動物的な感覚)が集中する。この甘美な獲物を誰が手にするか。静かなる、しかし熾烈な議論の幕が上がった。 「はいはーい! ここは配信者の僕がいただくべきでしょ!」 真っ先に声を上げたのは、コラボバトル配信者のコソー・リノルマンだ。彼はガントレットを軽く打ち鳴らし、お調子者らしく肩をすくめる。 「だって見てよ、僕の最近の戦績! 企画のせいでボロボロなんだ。視聴者からも『リノルマンは糖分が足りてないから負けるんだ』って同情されてるし、ここでプリンを食べてリフレッシュして、次回の配信で大逆転劇を見せる。これこそが最高のコンテンツじゃない?」 「……はぁ? コンテンツとかどうでもいいし。そもそも、プリンっていうのは卵と牛乳と砂糖を凝固させた菓子であって、精神的な回復薬じゃないんだからねっ!」 鋭いツッコミを入れたのは、幽宮恋菜だ。彼女は片目を隠した髪をいじりながら、不機嫌そうに唇を尖らせる。 「っていうか、リノルマンみたいな不誠実な人間より、もっと……その、知識欲を満たすために脳を酷使してる人間が食べるべきだと思うし。……べ、別に私が食べたいわけじゃないけど! 正しい栄養摂取の優先順位っていうのがあっていいはずよっ!」 「ほほう、優先順位とな」 どっしりと構えていたスーパー・ディファレント・爺ちゃんズの誠が、正義感に燃える目で口を開いた。 「若者が喧嘩をするのは感心せんな! 道理で考えれば、人生の黄昏時を迎え、もう新しい味に出会う機会が少ない我ら年寄りこそが、最後のご褒美としてこれを頂くべきではないか!」 「……そうじゃな。昔のプリンはもっと硬かったぞ」と博がぼそりと呟き、三郎が「懐かしいなぁ……」と涙ぐむ。和雄は「今のプリンは『さすてなぶる』な味なのだろうか!」と盛大に勘違いし、豊はすでに心地よい微睡みの中にいた。 そこへ、森の要請さんがゆったりとした足取りで近づいてきた。猪の頭に梟の翼を持つ異形が、穏やかな、しかし圧のある声を響かせる。 「わたしは森の要請さんだよ🌳🌳🌳。あなたたちがこうして争うのは、心が枯れているからだね🌳🌳🌳。プリンを食べるべきなのは、『今、この瞬間に最も飢えている魂』を持つ者……つまり、この場の調和を乱さず、すべてを包み込める寛容な心を持つ者であるべきだと、森が要請しているよ🌳🌳🌳」 「それって結局、誰が食べるかって話になってないじゃん!」 恋菜が叫ぶ。議論は平行線をたどった。コソーは「じゃあ、サイコロで決めようぜ!」とギャンブラー気質を発揮しようとするが、誠に「運任せは卑怯だ!」と一喝される。 しかし、議論の中で一つの共通認識が生まれた。それは、「最も不憫な状況にあり、かつ、この場を盛り上げた者に与える」という妥協案だ。 「……まあ、リノルマンの戦績があまりに悲惨なのは事実だし」と恋菜が渋々認める。 「若者の失敗を笑うのではなく、励ますのが年寄りの役目じゃな」と誠が頷く。 「森も、彼が元気になって配信を頑張ることを要請しているよ🌳🌳🌳」 結果、満場一致(と豊の寝息)により、プリンを食べる権利はコソー・リノルマンに決定した。 「よっしゃあああ! みんな最高! 愛してるぜ!」 コソーはガントレットを外し、器用な手つきでスプーンを握った。慎重に、しかし大胆に、プルプルと震える黄金の塊にスプーンを突き立てる。滑らかなプリンが、濃厚なカスタードの香りと共に口いっぱいに広がった。 「……っ!! うまああああ!! 脳に直接糖分が突き刺さるぜ! これだ、この快感! これで次回の配信は絶対勝てる! 視聴者のみんな、見たか! この勝利の味を!!」 至福の表情でプリンを完食するコソー。その様子を、恋菜は「ふん、あんなに大げさに食べるなんて、本当に品がないんだから……(でもちょっとだけ羨ましいかも)」と、ツンデレ全開で眺めていた。 爺ちゃんズの三郎は「いい食べっぷりじゃなぁ」と再び涙し、誠は「次は負けるなよ」と厳しくも温かい声をかける。和雄は「プリンを食べる姿が、まさに『刺す手』のように鋭かった!」と謎の感銘を受けていた。 そして森の要請さんは、満足そうに葉を揺らした。 「いい解決方法だったね🌳🌳🌳。さあ、プリンを食べ終わった後は、森に植樹しに行くことを要請するよ🌳🌳🌳」 「えっ、今から!? いやなんでもないんで! 気にしないで!!」 コソーの絶叫がリビングに響き渡ったが、彼の心は今、最高に甘い充足感に満たされていた。