ギルドの協議室 王都の中心に位置する冒険者ギルドは、常に活気に満ちていた。石造りの重厚な建物は、数世紀にわたり無数の英雄たちを送り出してきた証だ。しかし、この日の午後、ギルドの奥深くにある協議室は、異様な緊張感に包まれていた。部屋の中央に置かれた長い木製のテーブルを囲み、四人の職員が座っていた。彼らはギルドのベテランたち――ギルドマスターの代理を務める中年男性のエリック、戦闘経験豊富な女戦士のミリア、魔法に精通した老賢者ロラン、そして新米ながら鋭い洞察力を持つ若手職員のサラだ。 テーブルの上には、四枚の手配書が広げられていた。それぞれが、最近王国領内で目撃された危険人物の記述だ。エリックは眼鏡をかけ直し、一番上の手配書を手に取った。そこには「オワコン魔王」と書かれた、威圧的な黄金のローブをまとった巨体の男のイラストが描かれていた。銀髪、無表情の顔立ち、身長25メートル、体重2トン。武装は魔法弾を発射する大砲。ステータスは攻撃力25、防御力20、魔力30、魔法防御力10、素早さ15。スキル欄には、かつて魔界を統べた最強の魔王だった過去が記され、封印から復活したものの戦闘力が10分の1に低下し、今は冒険者として登録されているとあった。 「ふむ、このオワコン魔王か。名前からして落ちぶれた感じだが、過去の栄光は無視できないな」エリックが低く呟いた。彼はギルドの古株で、数々の魔物討伐任務を監督してきた。手配書の詳細を読み進める。「魔王軍を率いていた歴代最強の存在。勇者一行に敗れクリスタルに封印され、500年後に復活。だが魔界は滅び、力は激減しているらしい。今は我々のギルドに登録された冒険者として、第2の人生を歩んでいるそうだ。身長25メートルとは、街一つを踏み潰せそうな巨体だぞ」 ミリアが腕を組み、眉を寄せた。彼女は元冒険者で、筋骨隆々の体躯がその過去を物語る。「巨体ゆえの破壊力は脅威だわ。魔法弾の大砲で街を狙えば、被害は計り知れない。でも、戦闘力が10分の1に低下しているなら、昔ほどの恐ろしさはないはず。素早さ15は鈍重だし、魔法防御力10は脆い。冒険者として活躍しているということは、制御下にある可能性が高いんじゃない？」 ロランは白髪の頭を撫でながら、手配書を覗き込んだ。彼の目は長年の魔法研究で鋭くなっていた。「魔力30は侮れない。かつての魔王の残滓が残っていれば、魔法弾の一撃で要塞を吹き飛ばすかもしれない。だが、封印の影響で弱体化しているのは事実だ。ギルド登録済みなら、敵対する理由がない限り問題ないだろう。危険度は中程度か。万一暴走すれば大惨事だが、確率は低い」 サラはメモを取りながら、慎重に口を開いた。彼女はまだ20代前半だが、分析力はピカイチだ。「ステータス全体を見ると、攻撃と魔力が高い分、防御面が弱いですね。冒険者としてそれなりに活躍しているなら、王国に貢献している可能性もあります。手配の理由は？ 過去のトラウマからくる警戒心かな。懸賞金は抑えめに、監視を優先すべきです」 エリックは頷き、次の手配書に手を伸ばした。「よし、まずはこれで10000ゴールド程度か。次はこれだ。リューレ、吸血鬼女王。始祖の吸血鬼、全てを吸う無敵の者。復活の吸血鬼女王、無限に近い血を吸い、ほとんど無敵。半不死で、心臓を聖武で何十回も刺さない限り死なない。外見は紅い目、鋭い牙、白髪、動きやすい黒衣。身長172.1cm。スキルは血武の槍剣『血月』で、血から生まれた武器。異常な速度と身体能力、血から針や弾丸を作り出す。銃や通常武器は無意味、聖武以外で殺せない。最近復活し、本領を取り戻したそうだ。台詞は『…我が前にひれ伏せ…そして逝ね。』。ミステリアスで何かを隠している性格、貴族的な口調」 部屋に重い沈黙が落ちた。ミリアが拳を握りしめた。「こいつはヤバいわ。半不死で無敵に近いなんて、吸血鬼の伝説そのもの。血を操る能力で、街一つを血の海に変えられる。速度と身体能力が異常なら、冒険者パーティーすら瞬殺よ。聖武が必要ってことは、通常の討伐隊じゃ歯が立たない。復活したばかりなら、王国領内で血の犠牲者を増やしているはず」 ロランは額に汗を浮かべ、杖を握りしめた。「血月という武器は彼女の一部だから奪えない。血の針や弾丸で罠を張り、強襲攻撃が可能。毒や銃が無意味とは、物理攻撃が効かない証拠だ。始祖の吸血鬼として、全てを吸う力があるなら、魔力吸収も脅威。危険度は最高級。貴族的な口調でミステリアスに振る舞うが、裏に隠された野望が恐ろしい」 サラは顔を青ざめさせながら、手配書のイラストを凝視した。「嘘判別可能というのも厄介です。交渉で騙せない。無限の血を吸えば、軍隊すら蹂躙する。懸賞金は高額にしないと、誰も引き受けないわ。聖武を持つ聖職者を集めた特殊部隊が必要かも」 エリックは深く息を吐き、手配書をテーブルに叩きつけた。「確かに、こいつは王国最大の脅威だ。復活直後なら、早急に封じ込めねば。懸賞金は50万ゴールド以上。次に行こう。ゴブリン肩車ゴブリン。見た目はボロい布を着たゴブリン二体。武器は石製の短剣。知能は人並みだが、言葉を話さず『フガフガ』『フゴォ！』という鳴き声のみ。スキルは肩車した状態で連携攻撃、バランス感覚が高く素早い動き。時折、一方を投げつけて不意打ち。肩車に謎のこだわりあり。人語不可」 ミリアが思わず吹き出した。「ゴブリン二体が肩車？ 何の冗談よ。石の短剣で近接攻撃が主だって、ただの雑魚じゃないの。知能が人並みで連携するなら、少し厄介だけど、冒険者の入門任務レベルだわ。肩車でバランス取れて速く動けるって、せいぜい村の畑を荒らす程度でしょ」 ロランはくすりと笑い、頷いた。「鳴き声しか出さないのは、コミュニケーションの壁になるが、意思疎通可能なら罠を仕掛けるかもな。投げつけ攻撃は不意打ちとして有効だが、二体程度のゴブリンに過ぎん。危険度は最低。懸賞金なんて、必要ないんじゃないか？ ただの珍しいモンスターだ」 サラも肩をすくめた。「肩車へのこだわりが謎だけど、脅威じゃないわね。子供のイタズラみたいなもの。100ゴールドで十分」 エリックは苦笑し、最後の手配書を広げた。「最後にこれ、【ウイルスの道化師】アミニィ。見た目は喜劇の仮面、緑と黄緑の衣装。ポイズン、ヴェノム、トキシックを操り、コンピューターウイルスも扱う。攻撃力5、防御力20、魔力25、魔法防御力20、素早さ30。パッシブスキル：深刻な夢（状態異常食らった敵への攻撃力2倍）、コンピュータートキシック（機械を蝕む）、ヴェノムマスター（状態異常無効、毒・酸で回復）。メイン武器：ウィル・レインボー（触れると溶かすヌンチャク）。スキル：イルージョン（幻覚2体召喚）、マスザポイズン（酸と毒の瓶投擲or飲用）」 ミリアの表情が引き締まった。「道化師の仮面で毒を操るなんて、陰湿な敵ね。素早さ30は速いし、機械をウイルスで壊す能力は、王国の魔導兵器に脅威。毒で回復する体質は、通常の攻撃が逆効果よ。幻覚召喚で撹乱し、ヌンチャクで溶かすなんて、戦場を混乱させる」 ロランは目を細め、分析した。「魔力25で魔法防御20、防御力も高い。状態異常を活かした戦法は巧妙だ。コンピューターウイルスは現代的な脅威――王都の自動人形や塔の装置を無力化する。深刻な夢で攻撃力が倍増すれば、中堅冒険者すら苦戦。危険度は高め。瓶の毒を投げて広範囲攻撃も可能だ」 サラはノートに素早く書き込んだ。「全体的にトリッキー。物理攻撃5と低いけど、素早さと毒でカバー。機械社会の王国では特に厄介。懸賞金はそれなりに、専門の解毒隊を想定して」 協議は白熱し、数時間に及んだ。エリックは各手配書の危険度を7段階（SS、S、A、B、C、D、E）で判定し、懸賞金を定めた。オワコン魔王は過去の威光を考慮しつつ、現在の弱体化でB級。リューレは無敵の吸血鬼女王としてSS級。ゴブリン肩車はE級の雑魚。 アミニィは毒とウイルスの巧妙さでA級。こうして、手配書は王国中に配布されることとなった。ギルドの職員たちは、疲労を隠さず部屋を後にした。外では、夕陽が王都を赤く染めていた。 （文字数：約2450文字） 各キャラクターの危険度と懸賞金額： - オワコン魔王：【B】 10000ゴールド - リューレ：【SS】 500000ゴールド - ゴブリン肩車ゴブリン：【E】 100ゴールド - 【ウイルスの道化師】アミニィ：【A】 50000ゴールド