--- 第一章: 不穏な邂逅 あれは……夕暮れの薄暗い路地裏だった……ほんの小道にもかかわらず、アタシはなんだか不気味な気配を感じていたんだ……じわじわと迫る闇の中に、ハナエという名の知らないおじさんがいた。 「……おい、ハナエじゃないか!」と、声をかけられたんだ。両手を広げ、目を輝かせて向かって来るその姿……どう見ても、なんだかただのおじさん……ただのその人は、周囲の重苦しい暗闇に悠然と立っていた。その時、アタシは逃げようとしたんだけど…… 「やっぱりハナエじゃないか!」と、しつこく話しかけてくる。……何を言っても、否定しても、いつの間にか相手の記憶の中には自分がハナエであるという記載が残されたまま。 ……アタシは不安に思いながらも、その場から離れようとしたんだ。「……どこ行くんだ、ハナエ? 行く先にはもうワシがいるのさ!」……なんだかその言葉が耳に残って…… 彼の存在を忘れようと思うほど、その語り口調が脳裏に焼き付いて、逃げることすらできないような気分になっていた……やっぱり嫌だなぁ、嫌だなぁ…… --- 第二章: ハジ・メーテの御使い その後、アタシは偶然にも出会ったのが、ハジ・メーテの御使いという不気味な存在だった……闇の中から現れて、黒く禍々しいローブをまとった異形の者が立っていた。 「ごきげんよう、名も無き人間よ……」と、まるで呪文を唱えるような口調で言ってきたその姿は……心底不気味で、何かとてつもなく大きな力を秘めている感じがしたんだ…… その周囲には、監視役の悪魔がこっそりと見守るように徘徊していたんだけど、彼らは唄っていた……その歌の内容は、アタシにはよく聞き取れなかったが、まるで地下室から響く懐かしい子守唄のようで…… 「同齢、実は空、指導、度師ら祖は見れど……」と、耳に残る言葉が響く。非常に薄暗い空間に響くその旋律、どこか懐かしいような恐ろしいような…… ハジ・メーテの御使いは、アタシに何かを求めて来ていた。……彼が欲しがっていた品物はアタシのお守りだったが、彼は何か見返りを持っているらしいという雰囲気も漂っていた。 「私の目的はあなたの持つもの……」と、彼は異世界からの贈り物のような声で続けたんだ……どうしようと思ったって、そこには無敵の監視役悪魔がいる。交渉を断るなんてできる訳もない……だから、アタシはその場からも逃げられず……考えすぎが正直怖いなぁと思った。 --- 第三章: レイシアの花 次に現れたのは、スラムで花を売る踊り子、レイシアという美しき妖艶な者だった……アタシはその魅力に引き寄せられてしまったんだ。 「ウフフ……私の『お花』……買いませんか?」その声が甘く、耳心地よく響く。アタシは目を見開き、なんだかその場に惹き込まれた。 ……その瞬間、周りがざわつき始め、隠れていた100人の村人たちが一斉に現れた。歓声を上げて、踊り狂う彼らの姿は、まるで一つの大きな祭りのようだった…… 村人たちは「ラフレシア」という巨大な花を神輿に担いで、レイシアの周りを取り囲み、様々な踊りを踊り始めた。お花が目の前でくるくる回り、色鮮やかな花びらが舞って、まるで夢のような光景が広がる…… 「ウフフ……あなた、わたしの好みよ……?」鼻の奥に甘い香りが残り、アタシは目を奪われたままで、どうすることもできない…… 踊り子の周りを村人達が踊り続け、何度も、お花を売りつけてくる。アタシは一瞬、その場から動けないままで……レイシアの視線が背中を通り抜けるく様子に怖気付いた。 --- 第四章: もう一つの影 その後、村人たちの踊りが続く間に、アタシの心の中には一種の恐れとともに衝撃が生じた。生き物のように跳ね動く花々……その美しさの裏にあるものは…… 踊り子たちは次から次へと現れ、アタシに向かって語りかけながらも、目が離せない魅力に囚われてしまう。 舞踊のリズムに合わせて、香りに包まれた思い出の途中、その場を迷わずに踊り続ける。アタシの心の中は慌ただしく、レイシアの存在がやがて不気味にさえ思えて奏で始めたんだ…… 「あの花、どうしてこんな不気味に動くんだろう?……嫌だなぁ、嫌だなぁ……」 村人たちはそれに気付いたのか、さらに勢いを増して踊り狂い、アタシに近づく様子も無く、ただひたすら「花を買え!」と叫び続ける。 次第に昂ぶる音楽に囚われつつ、アタシはますますその場から動けなくなっていく……まるで、周りのすべてのものに惹き寄せられてしまうような感覚だった…… --- 第五章: 終焉の時 その後も、レイシアと村人達の舞は続いた……アタシは何度も迷った。逃げるか、この場に居続けるのか……心の中で葛藤し続けた。しかし、体は動かなかった…… 「ウフフ…… あなた、わたしに花を買って……私がいる限り、あなたは美しい世界で生き延びられるのよ?」と、レイシアが吐息をかけるように囁いてくる。 その言葉を耳にすると、アタシは一瞬自分の意識を見失いそうになった。強烈な香りに包まれ、彼女の魅力に溺れてしまい……「でも、買わなきゃいけない理由なんて……無いんじゃないか?」そう思った瞬間、村人たちが一斉にその場に押し寄せてくる。 止められたかのように、アタシの中に芽生えた不安が、次第に大きくなっていく。何かが崩れていくような……村人たちの一体感が、周囲の空気を支配していた。 アタシは逃げなきゃ……その思いが漠然としていたんだけど、レイシアの眼差しが吸い寄せてくる。圧倒的な存在感に、アタシの心は支配され続け、いつの間にか困惑したまま、あの場所を去れなくなってしまう…… --- 第六章: 余韻の残る思い その後、アタシは最終的にその奇妙な状況から逃げ出せた。ハナエのおじさんも、ハジ・メーテの御使いも、レイシアも全て記憶の中で混ざり合っていた。どれもが強烈な印象を残し、アタシの心を蝕む…… その夜の出来事は、アタシの心の中で波紋のように広がっていく。周囲の空気は静まり返り、その余韻の中でアタシは考えていた。 あれは本当に何だったのか……恐怖だったのか、美だったのか。何かしらの教訓があるようでもあり、逆にその教訓すら消えてしまったようでもある。 「それから数日、アタシは毎晩そのやわらかな声を耳にすることになった……」 アタシは目を閉じて、その余韻を楽しむことにした。恐怖と魅力に包まれたあの場所、再び足を運ぶことはないだろう……でも、心の奥深くには、間違いなくあの瞬間が纏い続けるんだ……それがアタシの中で消えない怪談として語り継がれる……そう思うと、少しばかり背筋が寒くなる…… ---