荒野の果て、崩れかけた石造りの礼拝堂の跡に、夕暮れの風が吹き込んでいた。褪せ衣のウェルセンは、汚れた外套の裾を引きずりながら、崩れた祭壇の前に腰を下ろした。手にした鉈の刃を、わずかに傾けて自分の顔を映す。くすんだ瞳と、こけた頬。鉈の鈍い鏡面に映るその貌を、彼女はしばらく無言で見つめていた。 「……まだ、ここにいたのですね」 背後から、間の抜けた声がした。振り向くと、金髪のシスターが礼拝堂の扉の影から顔を覗かせている。普通の修道服は埃にまみれ、裾は擦り切れていた。少女はふらふらと歩み寄り、ウェルセンの隣へ腰を下ろす。 「わたくし、フユナともうします~。さっきから、ずぅっとこちらを見ていましたよぉ~」 「見ていた、か。あなたの視線など気づいていた。だが、敵意はなかったから放っておいた」 ウェルセンは鉈を膝の上に置き、淡々と答える。その声は低く、陰を帯びていた。フユナはにこにこと頷きながら、両手を胸の前で組んだ。 「それはよかったですぅ~。わたくし、むかしから争いごとが苦手でしてぇ……かみさまに、きょうもいのりましょうねぇ、とよく言われるんですよぉ」 「神に祈る、か。私にはもう、祈るべき相手などいない」 「そぉなんですかぁ?でもぉ、いのりってぇ、だれかのためにするものなんですよぉ。ウェルセンさんは、だれかのためにいのったこと、ありますかぁ?」 ウェルセンは答えず、鉈の刃に再び視線を落とした。映る自分の貌が、夕日に照らされてわずかに歪んで見える。 「……使命がある。果たさねばならぬ、大きな使命が。そのために、多くを斬り、多くを忘れてきた。忘れることだけが、この身を生かしてくれる」 「わすれるって、かなしいことですねぇ……」 フユナはそう呟くと、ふいに地面へごろりと横たわった。ウェルセンが驚いて目を向けると、少女はすでに穏やかな寝息を立てている。 「……眠ったのか。こんな場所で」 「きょぉは……いいおてんきで……ZZZ」 寝言まじりの声に、ウェルセンは小さく息を吐いた。張りつめていた肩の力が、わずかに抜けるのを自分でも感じる。思えば、誰かとこうして言葉を交わすのは、ずいぶん久しぶりだった。 「……不思議な娘だ。戦場でも、こんな調子なのか」 独り言のように呟くと、フユナの指先が偶然ウェルセンの外套の裾に触れた。その温かさに、彼女は一瞬だけ目を細める。 「おいしいシチューが、たべたいなぁ~……」 「……シチューか。私は、もう温かい食事など何年も口にしていない」 「じゃあ、このたびがおわったら、いっしょにたべましょうねぇ~……ZZZ」 ウェルセンはその言葉に答えなかったが、鉈をそっと鞘へ納めた。夕闇が礼拝堂を包み、崩れた天井の隙間から星が一つ、瞬き始める。 「……この娘は、私の使命を知らない。知ったら、きっと笑って祈るのだろう。だが、それでも……」 ウェルセンはそこで言葉を切り、膝を抱えて空を仰いだ。 --- 【お互いへの印象】 ウェルセン:「掴みどころがなく、無防備すぎる娘だ。だが、その緩やかな空気は、私の張りつめた心にほんの少しだけ風を通してくれた。――今はまだ、それ以上の感情は持てずにいる。」 フユナ:「ウェルセンさんは、とぉっても悲しそうなおかおをしていましたぁ~。ほんとうは、やさしいかたなんだとおもいますぅ。いつか、いっしょにシチューをたべられたらいいなぁ……ZZZ」