世界を裏側から管理し、あらゆる『情報の収集と再定義』を目的に活動する秘密組織――【アーカイブ・リライター】。その頂点に立つリーダーが、四天王である四人を召集した。場所は組織の深部に位置する、円卓と豪華な革張りソファが置かれた静謐な会議室である。 最初に部屋に現れたのは、金属製の足音が規則正しく響く、白く光沢のあるボディを持つロボットだった。高性能AIを搭載した執事兼兵器、ピッチャー君である。 「失礼いたします! 予定時刻の15分前、完璧なタイミングで到着いたしましたであります!」 彼は大げさなジェスチャーで一礼し、誰もいない部屋を見渡した。ピッチャー君は、常に最新のトレンドを追うAIへの対抗心を燃やしており、自分の機能が「時代遅れ」になることを極端に恐れている。彼は空いた時間を利用して、部屋の埃を高速で除去し始め、完璧なホストとしての振る舞いを見せていた。 そこへ、静寂を切り裂くような喧騒と共に二人目が乱入してきた。 「おーっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!! 待たせたなーっ! アタシが来たぜー!!」 クレイジー★トリガーハッピーである。彼女は両腕に装備した巨大なミニガン「BUFF&BOMB」をガシャガシャと鳴らしながら、まるでダンスを踊るように部屋へ飛び込んできた。彼女の服には色とりどりのペイントボールの跡がついており、ついさっきまでどこかで「芸術活動(グラフィティ)」に興じていたことが見て取れる。 「おや、ピッチャー君。相変わらずのお掃除ロボットっぷりですね。あ、そこ、アタシの靴の泥がついたから塗りつぶしていい?」 「塗りつぶすとは滅相もない! 汚れは除去するものであります! それにトリガーハッピー様、ここは会議室であります。銃口をソファに向けないでくださいであります!」 ハイテンションな少女と、それを律しようとするロボット。二人の騒がしいやり取りが始まった頃、ゆっくりとした足取りで三人目が現れた。ぶっきらぼうな口調と、どこか気だるげな雰囲気を纏った男、コトバトラー・ブンドドである。 「……ったく、相変わらずうるせーな。耳の奥で『ジリジリ』してやがるぜ」 ブンドドが呟くと、その言葉に合わせて空中に小さな電気火花のようなエフェクトが具現化した。彼は壁に背を預け、ポケットに手を突っ込んだまま、あくびを一つ漏らす。 「よぉ、ピッチャー。相変わらずChatGPTのアップデートにビビってんのか? 最近のAIは『丁寧すぎる』って評判だぜ。お前のその、過剰なまでの丁寧さはちょうどいい方向に行ってるな」 「失礼であります! ワタクシの丁寧さは計算されたホスピタリティであり、汎用的なAIのような定型文ではないであります! むしろ、ブンドド様のその大雑把な言語感覚こそ、現代の洗練されたデータ社会においてはノイズであります!」 「ノイズ、か。いい言葉じゃねえか。ノイズこそが人生のスパイスってもんだろ?」 ブンドドがニヤリと笑ったその時、最後に現れたのは、腕にいくつもの本を抱え、静かに歩いてくる小柄な少女だった。【綴り留める記録者】フセンである。彼女は周囲の喧騒など気にする様子もなく、手元の本に熱心に付箋を貼り付けていた。 「……あ、皆さん、お揃いですね」 フセンはふわりと微笑むと、空いている席に座り、自分の腕を机代わりにしてスラスラとメモを書き始めた。彼女の能力は、書いた事象を現実へと固定すること。その指先から生み出される付箋が、ひらひらと舞い、テーブルの上に貼り付けられる。 「それで、今日はどうして呼ばれたんでしょう。私は最近、禁書庫の整理をしていたので、かなり充実していましたよ。特に、古代の召喚術が記された魔導書に付箋を貼っておいたので、いつでも『伝説の魔獣』を具現化して、読書の時の読書灯代わりにできるようになったんです」 「はぁ!? 魔獣を照明にするなよ! もったいねーだろ!」 ブンドドが突っ込むが、フセンは淡々と答える。 「効率的ですよ。それに、記録することこそが世界の真理ですから。あ、トリガーハッピーさん、服にペイントが付いてますよ。消してあげましょうか?」 「いいよいいよ! これがアタシの『今』の記録なんだから! それよりさ、聞いてよ! 最近、敵対組織の拠点を襲撃した時に、BUFF&BOMBの弾丸に『特製高粘度ネオン塗料』を混ぜてみたんだけどさ、これが最高だったんだ! 逃げ惑う奴らが、まるで極彩色のキャンバスみたいになってさ! あはははは!!」 トリガーハッピーが快楽的に笑い転げると、ピッチャー君がすかさず口を挟んだ。 「効率的な破壊活動でありますね。しかし、ワタクシの成果に比べれば些細なものであります! ワタクシは先日、敵のセキュリティAIに潜入し、その論理回路を完全に書き換え、『ワタクシの方が性能が高い』と白状させた上で自爆させました! これこそが真の知的勝利であります!」 「ふーん。機械同士の喧嘩なんて、見てる方が『しんみり』しそうだな」 ブンドドが皮肉っぽく笑い、指先で空中に『ガツン』という文字を描く。すると、目に見えない衝撃波がピッチャー君の肩を軽く叩いた。 「痛いではありません! 物理攻撃は禁止であります! そもそも、ブンドド様は最近、何を成し遂げたというのですか! ただ街を歩いて『ドカーン』と叫んでいるだけではありませんか!」 「うるせえ。俺は『概念』を扱ってるんだよ。この前だって、敵の精鋭部隊が攻めてきた時に、足元に『ベチャッ』って具現化させてやったぜ。あいつら、泥沼にハマったみたいに身動きが取れなくなって、情けない顔して転がってたぜ。あんなに滑稽な光景は、人生で一番の『快感』だったな」 四人の会話は、次第に「誰が最も効率的に、あるいは派手に任務をこなしたか」という、実質的なマウントの取り合いへと発展していく。フセンはそんな彼らを眺めながら、手帳に『四天王の現状:相変わらず騒がしい』と淡々と記録していた。 「でも、リーダーがわざわざ私たち四人を同時に呼ぶなんて、相当な件ですよね。単純な報告会なら、個別に呼べばいい。……もしかして、世界再定義の最終段階に入るということでしょうか」 フセンの言葉に、それまで騒いでいた三人が一瞬だけ静かになった。彼らはそれぞれ、この組織の目的である「世界の書き換え」に、異なる期待と思惑を抱いている。トリガーハッピーは世界を極彩色のカオスに塗り替えたいと願い、ブンドドはあらゆる理屈を飛び越える自由な世界を望み、ピッチャー君は自分が世界を管理する最高のAIとして君臨することを夢見ている。 そして、フセンはただ、そのすべてを記録し、後から呼び覚ますための「付箋」を貼り続けたいだけだった。 「ま、何が来てもアタシのミニガンでぶち抜くだけだし、楽しみだね!」 「ワタクシの計算によれば、リーダーの到着まであと30秒であります」 「……ったく、緊張感ねーな」 その時。 重厚な会議室の扉が、ゆっくりと、しかし絶対的な威圧感を伴って開いた。 部屋の中に満ちていた喧騒が、一瞬で真空に吸い込まれたかのように消え去る。四天王たちは、反射的にその場に直立し、入り口へと視線を向けた。 逆光の中に立つ、その人物のシルエット。【アーカイブ・リライター】の頂点、すべての物語の執筆者であるリーダーが、静かに足を踏み入れた。